第1話
処女作です。衝動で書き始めたので、設定ガバガバ、御都合主義全開ですがお許しください。
#不死身の勇者の倒し方
第1話
気がつくと見知らぬ場所にいた。
しかし、そんな非常事態であっても俺の心象は穏やかなものであった。
須藤快斗、17歳、帰宅部。文系は学年トップクラスだけど理系はイマイチ。
そんな、平々凡々とした人間である俺だが、特筆すべき点があるとするならば、その並外れた度胸だろう。
なにせ中学1年生の時、高校生くらいの女の人に絡んでいる明らかにヤバそうな人に喧嘩を売り、ナイフを突きつけられているのにも動じず、そのナイフを弾き飛ばし、ヤクザと殴り合いの大喧嘩を立ち回るという逸話を持っている。
「頭のネジが何本か抜けちまってるんだろ」
と、親父に呆れられたのは仕方がないと思う。
兎に角、帰りのバスに乗ろうとバス乗り場で待っていた自分が、巨大な魔法陣やら羊的な動物の骨やらの置かれた石造りの大広間という、明らかにこの時代のものではないようなファンタジックな場所に転移(そう考えなければ説明がつかない)をしても
(これが俗に言う異世界転移って奴か?)
などとくだらないことを考えることができるくらいには落ち着いていた。
しかし、今の俺はダラダラと滝のような汗を流し、顔面を蒼白させ、恐怖で体を震わせていた。
「……っ!!」
俺は体の震えを抑えるのも忘れて、目の前を凝視し続けた。
そこに佇むのは、絶対に人間ではないと断言できる巨人。
目測だが、身長は3メートル以上。高校では185センチと比較的高身長だった俺の倍は確実にあるのだから4メートルも超えているかもしれない。
手足は大木と見紛うほど太く、胸や腹の筋肉はフルプレートメイルを彷彿とさせる。
おそらく自身の体に絶対の自信を持っているのだろう、マントと腰巻しか身につけない姿は、まさに覇王である。
ライオンの前のチワワもしくは、横綱と対峙した幼稚園児くらいの体格差はあるだろう。
それだけでも恐ろしいのに、頭には巨大なツノが生え、体は深い蒼。明らかに人間はおろか、同じ生命体とすら思えないような化け物であったのだ。
(俺死んだわ)
俺が諦めたその時だった。
大気が震えるような感覚を俺に与えながら、化け物が動き出す。
俺はガタガタとみっともなく震えていた体を必死に抑え込む。
(享年17歳。なかなか楽しい人生だったな。でも欲を言って仕舞えば童貞を卒業してから死にたかった)
そんな、震えを止めただ目の前の怪物を見つめる俺を見て、その怪物は何を思 ったのだろうか。
怪物はズシリズシリと歩みを進める。
逃げたいっと心から思ったが、背を向けた瞬間体はおろか魂諸共消しとばされてしまうのが容易に理解できてしまった。
「ふむ」
巨人は俺を吟味するように眺め、そして頷く。
「頼む!!我を助けてくれ!!」
「…………はい!?」
次に巨人がとったのは俺を殺すために拳を振り下ろすのでもなければ、捕食のために俺をとらえるのでもない。
なんと土下座であった。
「頼む!欲しいものはなんでもくれてやるし、聖痕も授けてやる!!だから、だから!!彼奴等をなんとかしてくれぇ!!」
何度も何度も地面に頭を打ち付けながら俺に懇願する巨人。
「は!?へ!?な、なにを!?」
流石の俺とて、それを瞬時に理解することなどできるわけもなかった。
「あの鬱陶しい勇者どもときたら、何度も何度も我が娘の邪魔をしおってぇええええええ!!!!」
「おい、落ち着いてくれ!!」
巨人の怒りの咆哮は、暴力的なまでもの強風を巻き起こす。
俺は、吹き飛ばされないように、必死で石畳の隙間に指を滑り込ませ、床にしがみつく。
「何度蘇生すら叶わぬようにしてやろうかとおもったことか!いや今からでも遅くはない!!」
「父様、落ち着いてくださいです!!」
俺の握力が限界に達し、吹き飛ばされる寸前になったその時、風鈴のように優雅で、それでいて可愛らしい声が、巨人の後ろから響く。
その瞬間、吹き荒れていた暴風は嘘のように止み、その見るものを恐怖させる悪魔のような顔も破顔する。
「おお、メアリア。今日もお前は愛らしいのぅ」
巨人の背後に立っていたのは、豪奢なドレスに身を包んだ少女。年齢は俺の1個か2個下くらい。
真っ黒で艶やかな黒い髪、それとは真反対にきめ細やかな真白な肌、そして透き通るように美しい蒼眼。
全てが美しく整っていて、地球のトップアイドルと比べても全く相手にならないような美少女であった。
「父様、いまはそんなことをしている場合はないです」
抱きついて頬擦りをしている巨人を冷たく遇らう。
「そんなぁ……我のこと、嫌いになったのか?」
ラブコメのヒロインよろしくそんなことを言っていた巨人を全く気にせず、俺の前まで歩いてくる。そして、ドレスの裾を摘み、優雅にお辞儀をした。
「はじめまして。私、メアリア・グリフィンベール・アーノルド、メアリアとお呼びください」
「これはご丁寧に。俺は須藤快斗。須藤が苗字で快斗が名前な」
「カイトさんですか、変わった響きですね。本当に異世界のお方なんですね」
メアリアはそう言って微笑む。
俺がその笑顔に見とれそうになった瞬間、巨人から凄まじい殺気が飛んできたので、努めて顔を引き締めた。
「そいえば、さっき異世界って言ったけどやっぱりここは地球じゃないのか?」
「チキュウというのは存じませんが、ここはマーザリアと呼ばれている星です」
「そこに、俺が召喚されたってことで大丈夫か?」
「はい、その通りです。カイトさんのお力を貸していただきたく思い、私の父様が召喚いたしました」
俺の質問に対して肯定の意を示したメアリアは、背後の父親を振り返る。
「早く父様もご挨拶をしてください」
「くそう、父親である我を無視して娘とああも仲睦まじく話すとは許せん!!」
「父様、私挨拶もできないような人が父親だと思われたくありません」
「よくきたな、異界の賢者よ。我が名はライガルド・グリフィンベール・アーノルド。人間どもには蒼炎の魔王と呼ばれておる」
キリッという効果音すら聞こえていそうなほど、巨人は威厳たっぷりに、そして高らかに名乗りを上げた。
しかし、愛娘に嫌われたくなくて、という事実が露呈してしまっているいま、威厳などは微塵もなく、寧ろ滑稽にさえ見える。
「……どうも、聞いていたかとは思いますが、須藤快斗です」
俺は少し前の恐怖を滲ませた顔とは打って変わり、今度は呆れを顔に滲ませて返答をするのが精一杯出会った。
一応の礼節を持って返答を返した俺を見て、魔王はまたも満足げに頷いた。
「ほう、今回の小僧はなかなか礼儀正しいようで何よりだ。馬鹿みたいに魔力を浪費したにも関わらず、また糞尿垂れ流すだけのカスが出てきたのではたまったもんではないからな」
「今回?」
俺は、魔王の口から出た言葉に思わず問い返してしまう。
そんな俺に疑問に、メアリアは苦い顔をしながら答えてくれた。
「はい、じつは異世界から人を呼ぶのはこれで二度目なんです。最初の人は精神力がアリンコよりも弱かったようで……」
「我を見た途端に糞尿やら涙やら兎に角垂れ流せる物は全部垂れ流して、訳の分からん叫びをあげながら、死におったわ」
そら、いきなり目の前に怪物が現れればショックで心臓麻痺とか起こしても不思議ではないと思う。
「そいつの……いや、やっぱりいいや」
遺体をどうしたのか聞こうと思ったが、みんなで美味しくいただきましたとか言われたら怖いので聞くのをやめた。
おそらく、俺の考えていることはわかりやすく顔に出ていたのだろう、メアリアが弁明をしてくれた。
「ご、誤解なさらないでいただきたいのですが、最初の人はちゃんと」
「失礼いたします、魔王様、メアリア様」
メアリアが言い終わる前に大広間にメイドが入ってきた。
俺はそのメイドの姿を見てまたも衝撃を受けるのだった。