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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある博士のアイの記録

作者: 茶釜な狸


俺は、ヒーローになりたい。

格好いい俺に相応しい、職業、だからなりたい。


ああ、またどんくさセシリアが虐められている。

今日はアダムズに蹴られてる。馬鹿だなぁ。逃げればいいのに。

仕方ない、かっこいい俺が助けてやろう。

だってヒーローは弱い奴を助けるからヒーローなんだし。

俺は村長の息子で、誰よりも格好良くて、強いんだから。




俺は、ヒーローになれなかった。

馬鹿な俺は、弱者を守ったつもりで、守られていたんだ。


セシリアは、帝都に行く。もう病気の進行は止められない。

今日は、走ろうとして転び、受け身が取れなかった。馬鹿なのも、病気のせいだった。脳を悪化させていく先天性の病だ。俺はそれを聞いて、逃げ出したくなった。

けれど、かっこ悪い俺は助けられていたから。

セシリアの病状は、日に日に悪くなっていく。育った村と離別し、死を、体を、医学に貢献する帰らぬ旅に出るセリシアは格好良すぎた。

俺は、小さなプライドを捨て、セシリアを守りに行くと決めた。





私は、医者になった。

セシリアの病気の進行を遅くするために。格好いい彼女みたいに誰かを守れるように。


セシリアは、帝都の再生学研究施設の被験体だ。現段階での最高の治療で進行を抑えているが、確実に蝕まれている。今日は故郷の村を忘れ思い出せなくなっていた。泣きたいくらい辛いが、本人も怖くて逃げ出したいねと言っていたので、泣き言は言えない。

戦争が始まる。ここで守られている限り、彼女は安全な筈だ。俺は前線に駆り出されることはないが、後方支援の命を受けている。沢山の命を繋ぎ止める格好いい話を、セシリアに聞かせる為に行く、それくらいのつもりなんだが、帝都から離れることになる。何も無ければいいのだが。





帝都は、勝った。

勝った。勝利したさ。ああ、素晴らしい話だ。

助けてくれ、いたいいたい、腕が無い、足が無い、無いのに痒いんだ、痛いよ、家族に伝えてくれ、帰りたいよ、死にたくない、お前は医者だろう、なぜ見捨てた、この人殺し!!!

そう、この戦争は、私を蝕んだ。死なせてしまった者たちが終わらない悪夢を私に囁き続けた。



そして、再会したセシリアも瀕死だった。




なぜなんだ、最高の医学が提供出来るからと彼女はその身を差し出したんだ。

なぜなんだ、戦争中の優先順位で薬の輸送を中断した理由は。

なぜなんだ、どうしてよりにもよって、セシリアが犠牲にならなければならないんだ。


俺は、どうして、彼女を、守れないんだ。




「なかないで、きみはかっこいいよ」



どうして、君は、格好良すぎるんだ



「なくのは、わたしのことでしょう?」


だって、守れなかった


「わたしはきみがわらってくれたらうれしいから」


そんなの、駄目だ


「わたしのためにがんばってるみんながいて」

「みんな、わたしのことたいせつにしてくれて」


違う、ここ連中は、君が死ぬのを待っている

だから生きなきゃ駄目なんだ


「ごめんね、よくわからない」


そうやって記録を取るのが目的で


「きみはいつもいてくれたのだけはわかるよ」


大事な時に俺は、居なかったのに


「きみはしあわせになってほしいな」


セシリア、きみは


「わたしはきみのこと、だいすきだよ」




私は、セシリアを、死なせるわけにはいかなかった。

死んだのなら、連れ戻すしかなかった。









私は、倫理から外れる事にした

セシリアの病状を緩和に導きつつあり、間接的に殺した再生学研究の連中を患者を故意に死なせたと糾弾し、解散へ導いた。

私自身が死にものぐるいで現場を指揮し、偶然という形であったが、帝国軍の幹部の息子を救ったという実績もあり、それなりに発言力を与えられたお陰だ。父にえらく感謝され正式に皇帝に進言したらしく、気がつけば、爵位を賜っていた。

破棄された施設をに関しても、帝国に貢献したイグニスの名前で黙らせ、確保できた。



そして、無残に解体されたセシリアを保存した。

臓器はほぼ死んでいて、身体が腐敗しようとしていた。



死んでいても、これはセシリアの、欠片だ。

なら、動かす何かがあれば、動くはずだ。



私は医学から再生学、魔術

全ての技術を、洗い出しセシリアを、戻す術を探した





「おっさん、その本読まねーなら、俺に寄越せ」


なんだこの無礼なクソガキは。


「俺が買うから」


図書館で何を言っているんだ?


「でいくらだせば、それ読ませてくれんの?」


不快だ、これだから子供は。愚かな少年時代の自分をみているようで視界にいれるのが嫌になる


「おっさん、医者?だったら、やりたいことがあるから雇ってやるよ」


子供の夢など、どうせ


「俺は命を、作ってみたいから」


改めて見た子供は爛々と輝く真っ直ぐな好奇心が印象的で

抱えている本は、興味深い内容だった



そうして、電子工学と魔術、医術が絡み合った。




しかし、セシリアは目覚めず




子供がバカをけしかけ、陵辱までされた


子供の躾がなってなかったようだ。



結果、セシリアですらなくなった

出来損ないと試作品だけが残された



セシリアの魂を閉じ込め

セシリアの体で踊り

セシリアの声で鳴き

セシリアの笑顔をこちらに向ける



「私は貴方に仕えるために生まれました」

「博士、貴方を愛しております」



セシリア、君は戻らないのか?


俺は、君を取り戻したい




君にまで責められたら私はもう終わりなんだ

私の悪夢は、まだ君を映していない。希望に縋り付いているから、なのだろうか。

君との思い出までが悪夢になったら、私は恐ろしい。

だから私が私である為に、君に再会しなければならない。


愛おしい、希望の象徴の君よ




やがて来る破滅すらどうでもいい。


私を狂わせた戦争の道具を作ることになってもいい。


もうとっくに私は正常ではないのだから。


君に執着する、それだけの化け物だ。






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