No.2 知られた衝突
俺の名前は、釘橋優雅。太田井町藤立川高校3年1組だ。俺の隣にいるのが、赤流薊、俺のただの女友達だ。
そして、目の前でサンドイッチを食ってんのが佐山海。
俺たち3人はフジスリーって呼ばれてる。
恐らく藤立川高校の危ない3人で、今風に略されたんだろう。正直どうでもいい。
ちなみにフジスリーはこの街の3大勢力の1つと言われている。
他には度を超えたチンピラ共の集まり''FAIR''と本格的にやばいヤツら''裏柳組''がある。
それなはまだしも先日、裏柳組とFAIRの抗争があったのだが、黒装束の姿をしたやつが1人で抗争をおさまらせたらしい。
最近、黒装束の噂が絶えない。
その噂のひとつによると、月額1万円で入会できるサイトに登録すると困った時に黒装束が助けてくれるというものがあった。
この噂は本当らしい。この街では有名な探偵事務所がある。その探偵事務所は割と情報通らしい。そしてその伊川探偵事務所ホームページに例のサイトが乗せられていた。
なんの都合かは知らねぇが1日で消されたらしい。
黒装束の正体は誰も知らない、それにまともに話したことあるやつなんていない。
だから尚更噂が広まっている。ニュースでも取り上げられている。
本当にこの街は壊れている。
この街では得体の知れないものや、イかれてるやつが大勢いる。
なんて考えている俺らは今、屋上にいる。
理由は1つ、臨内葉流斗との再開だ。
「ねぇねぇ、今から来る1年生とどういう関係なの?ねぇねぇねぇ」
「お前には関係ない。」
「仲良しな友達でしょう、教えてよ、ねぇねぇ」
赤流、正直こいつは変わり者だ。
常人には理解できない趣味を持っているが
その趣味についてはまたいつか話すとしよう。
それにフジスリーにはもう1人
「優雅。理由はどうでもいいが、準備は万端だぜぇ?」
佐山、こいつはただの暴力馬鹿。
フジスリーが危ないと言われてるのはきっとこの暴力馬鹿のせいだ。
「勘違いするな。ただ話があるだけだ」
「はー?つまんねぇの、俺に呼びに行かせといてそりゃねーぜ」
もうそろそろその呼ばれた1年、臨内葉流斗がこの屋上に来るはずだ。
どんな形であろうと俺と臨内は5年前に死んだ仲間だ。今はこうやって生きているが、必ず俺ら二人はあの時に死んでいた。だが生きている。その理由はまだわからない。これからもわかることはないだろう。
「ねぇねぇねぇ、遅くない?ねぇねぇねぇ、切っちゃいそう」
「まぁ待て、もうすぐ来るはずさ。」
ガチャン
ドアが開いた。そこに立っていたのは、少し震えた至って普通な高校生だ。
「あのそのあの、えーと、そのこんにちわ、えっと、な、なぜ僕は呼ばれたのですか?あ、えーと」
「ねぇねぇ?遅すぎるよ?」
「赤流、お前は下がってろ。」
その時、その平凡な高校生、臨内と目があった。
「臨内、久しぶりだな」
「あのどなたですか?」
どうやら覚えていないらしい。いやきっと覚えているんだろうけど慌てているのだろう、そりゃ入学してすぐに先輩に呼ばれるのは怖いはずだ。
「あの、もう僕帰ってもいいですか?なぜここに呼ばれたかはわからないのですが、あなたと話す必要性がなさそうなので。」
俺は少し驚いた。さっきまでおどおどしていた少年が一瞬で変わったのだ。
「はぁー?お前誰に口聞いてるの?俺らさ、そんな優しいヤツらじゃねーからよ」
「佐山、やめろ。お前ら、ちょっと臨内と二人にさせてくれ。」
二人で話したかった。二人きりで。あの時のことを…
「ねぇねぇ優雅?私、怒っちゃった」
「薊も言ってんだろ?俺もキレちゃったよ」
こいつらが怒り出したらなかなか止めることが出来ない。
「あの、フジスリーでしたっけ?そんなことより釘橋優雅、あなたがここでのうのうと生きていることが僕は気に食いません。」
やはり嫌われている。嫌われていてもおかしくない。俺の家族が臨内の両親を殺したのも同然だ。しかも死体は焼けてしまって骨もボロボロになったのか、見つかりもしなかったらしい。
そんなことを考えていた時、俺の横を何かが駆け抜けた。
「ねぇねぇねぇねぇ、優雅に対してなんでそんな口聞いてるの?ねぇねぇ。もしかして私たちなめられてる?」
臨内と赤流の距離は一瞬で迫っていた。
「逃げられねぇからな?ドアの前にはこの俺様がいるからなぁ?」
正直、絶体絶命レベルで今やばいことになってる。そんな時だった
「痛い。痛い痛い痛い痛い、ねぇねぇねぇ痛い!!」
赤流の腹にボールペンが刺さっていた。
「争われては困ります。あなたたちフジスリーは私の中でも警戒レベルが高いのです。新入生を呼び出したなんて情報が入ったので私はあなたたちが争いを起こさないように見張っていました。」
新入生らしき、色素の薄い少女が赤流に刺さっていたボールペンを取ったと同時に一瞬にして、壁際まで追い詰めた。
「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ、あんた誰よ?」
「誰?そんなことは今関係の無いことのはずです。」
「おいそこの女、なめてんのか?」
佐山の拳が少女の腹をめがけて直撃、すると思っていた。だが違った。
ドンッッ
「そのようなパンチングでは私はやられません。フジスリー、そんなに強くないのですね。」
佐山のパンチは受け止められ、腹に蹴りをあびせられていた。
「し、白石さん…?どうしてここへ?というより、なんで…?」
「その喋り方だと相当驚いている様子だろうけど、私はあなたを助けるというよりもこの街の3大勢力、フジスリーが争いを起こすことに問題ありだと思いここに来ただけですよ。」
「3大勢力…?」
俺は何もすることが出来なかった。いや逆にどうすれば良かったのか。考えても答えは出ない。でも白石さんという新入生に赤流と佐山を止めて貰えたことは感謝している。
「白石ってやつ、お前何者だか知らねぇが、フジスリーに喧嘩売ったってことだけは忘れるなよ。」
「ふふ、なにもしてないあなたがそんなこと言ってもなにも怖くないんですよ。まぁ、フジスリーで一番強いって言われてるのは、釘橋優雅、あなたらしいですね。心の片隅にその言葉置いておきますわ」
そう言ってそいつは立ち去った。
あまりの出来事の速さに驚きを超えた感情が湧き上がってくる。
「ねぇ、ねぇねぇ、私、あの子とっても好きだわ。絶対に切り刻んでやる。」
赤流に火がついたのは久しぶりだ。
「釘橋優雅。あなたは僕に何を話そうとしていたかわからない。でもこれだけは言わせてください。」
臨内がその空気をさらに悪化させるような口調で話し始めた。
「なんだ」
「僕が変わってしまったのはあなたとあなた家族のせいだ。絶対に許さない。」
その目には闇しかなかった。
フジスリーNo.1のこの俺が立ちすくんだ。
いつかその闇に染まった目の少年、臨内葉流斗をぶん殴る。それが俺の目標となった。
フジスリーのトップの俺が殴れないヤツは臨内ただ1人だ。死んだ親が顔に浮かぶ。どうしてもどうしても殴れない。
「臨内。お前のことはよくわかった。そして言わせてもらう。フジスリーに喧嘩売ったのは、お前も同じだ。覚えておけ。」
「あーら、優雅が怒っちまった。ま、怒ってんのは優雅だけじゃねーけどな」
俺らはそう言い残して屋上をあとにした。