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廃墟の少女  作者: 赤間末広
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第一章 第六部

 翌朝、七時には家を出て、大学に向かった。焼き鳥の肉やコンロ、保冷容器の受取、焼き鳥を焼く炭の火起こしをするために、八時前に集合するように言われていたからだ。上村は、乾燥させていた印画紙の余白を切り取り、額に入れる作業があるので、部室に向かった。

 精肉店に勤めているOBから、肉とコンロ、保冷容器を受け取ると、早速模擬店の開店準備を始めた。精肉店のOBが火起こしは大変だろうからと、ガスバーナーで炭に火をつけて行ってくれたので、今日は火起こしの苦労から解放された。

 火起こしが終わると、部室に焼き鳥を入れる容器と塩コショウを取りに向かった。それが模擬店に届き、開店準備が終わり、検査用保存食として提出する分の焼き鳥を焼いた。それを実行委員会に提出し終わると、開場と同時に買いに来そうな客の数を予想しながら、直ぐに売れるように、ある程度焼き始めた。

 客には、とりあえず全体を見て回ってから買おうと言うタイプと、最初からお目当てのものを決めていて、見つけ次第買うタイプが居るが、開場から十分もすると店先には行列が出来てしまった。両者の比率を見誤っていたのか、単に焼き鳥が人気なのか、焼き鳥を売っている模擬店が少ないのかは分からないが、焼くのが忙しくて、てんてこ舞いだった。

 午前中は、焼き鳥を焼いていたが、午後からは展示会場の警備と言うか、展示作品の説明要員として、展示会場に向かった。昼食として、仕入れ原価が焼き鳥を売ってもらい、道中で焼きそばを買った。説明要員の休憩スペースにいる午前中の当番に交代に来た旨を伝えて交代した。美術部の説明要員が誰かなと美術部の方を見に行くと、大島先輩と高根部長がいた。

 焼き鳥を、二十本も買い込んだので、

「大島先輩と高根部長、焼き鳥食べます?」 

と、誘ってみた。

「良いのか、最上?」

「最上君、良いの?」

と、二人が言った。

「良いですよ。二十本も買い込んだので」

と、二人に言った。

「写真部の焼き鳥屋は、繁盛してるか?」

と、高根部長が焼き鳥を食べながら聞いてきた。

「お陰様で、大繁盛です。午前中は修羅場でしたが……」

「美術部の模擬店は、フランクフルトと焼きソバなの」

と、大島先輩が、美術部の模擬店のことを教えてくれた。

「繁盛しているんですか?」

と、聞くと、大島先輩ではなく、

「ぼちぼちだな」

と、高根部長が代わりに答えた。

「ぼちぼちですか」

「写真部は、打ち上げとか懇親会とかと称する飲み会をやるのか?」

と、高根部長が聞いてきた。美術部の打ち上げもあるので、日程がブッキングしないかを確かめるためである。

「いえ、貧乏金無しで、今年はやらないそうです」

と、答えると、

「そんなに金が無いのか?」

と、聞いてきた。

「写真の売れ行きが芳しくなかったのと、焼き付け機のコントローラーが故障して、その修理でお金が掛かりまして……」

と、答えると、

「そうか、焼き付け機のコントローラーを修理したのか」

と、写真部の懐具合を察してくれた。後半辛気臭い話しになったが、展示会場に写真や美術部の作品を見に来たので、話を切り上げた。

 午後からも、展示の見に来る客が多く、大島先輩と話す暇は無く、閉場時間までてんてこ舞いだった。模擬店の方は、今日午前中に仕入れた分は昼までに売りつくし、午後から明日の分の一部を受け取りにいく程の大繁盛だった。

 翌日は、午前中は展示会場で写真の説明をすることになった。大島先輩も展示会場で説明と展示品の警備していた。開場直後は、昨日の午後ほど忙しくなかったので、大島先輩と話す時間が取れた。

 気になっていた人形のモデルについて、

「大島先輩、人形のモデルのことなんですけど」

と、聞いてみた。大島先輩は、覚悟を決めたのか、

「最上君は、あの子に御執心なんだね。誰にも言わないなら、教えてあげる」

と、言った。

「他の奴には教えません。ありがとうございます」

「あの子のモデルはね、私のお姉さんなの」

「お姉さんですか。だから大島先輩に似ているところがあるんですね。一卵性双生児なんですか?」

「双子じゃないよ。姉より三歳年が離れてるの」

「そうですか」

と、話していると、展示会場に観覧客が集まってきたので、説明をするのに会話を打ち切った。昼まで暇がないほど、観覧客が途切れなかった。美術部の展示会場も同じ状況だったので、大島先輩とこの日、話をすることはなかった。

 午後からは、焼き鳥を焼く当番で、焼き鳥を焼いていた。第四土曜日で小中学校や高校が休みで、家族連れや高校生と思われる集団が押し寄せて、午前中に今日一日分の焼き鳥が売り切ったので、明日の分を半分以上受取に行った。

 閉場時間の間際まで、焼いても焼いても追いつかないほどの大繁盛だった。当初は全部売り切れるか心配していたが、足りなくなる方を心配しないといけない状況になり、当初の一日分を緊急で追加注文するほどであった。

 大学最終日の三日目は日曜日で、昨日以上に家族連れが来ることが予想されるので、焼き鳥を開場直後に売れる分より少し多めに焼いておくことにしたが、それすらあっという間に、売り尽くした。

 午前中から昨日の午後と同じように焼いても焼いても追いつかない状況だった。大学の近所に住んでいる写真部の部員が、昨日の午後の修羅場が午前中から起きるのではないかと、焼肉コンロと焼き網を持ってきていたが、焼き鳥の焼く作業が、注文に追い漬け菜状況は改善しなかった。

 コンロが増えたことと気温の高さも手伝い、焼き鳥を焼く作業をしている人間は、地獄だった。堪らず、藤田副部長が、

「おい、最上。自動販売機で飲み物を買ってきてくれ。暑くてたまらん」

と、言ってきた。炭火に張り付いて、焼き鳥を焼くのは暑くて大変で、当然の要求だった。

「わかりました」

「これで買ってきてくれ」

と、藤田福部長が小銭が入った財布を渡してくれた。

 模擬店の近くにある自動販売機は売り切れで、サークル棟の近所にある自動販売機まで買いに行った。サークル棟の自動販売機は、品切れしておらず、スポーツドリンク系の缶入り清涼飲料水を、模擬店で焼き鳥を焼いたり売っている十人分買った。模擬店から失敬してきた買い物袋に、缶ジュースを入れて、写真部の模擬店に向かった。十五分くらいで、写真部の模擬店に着いた。

「藤田先輩、買ってきましたよ」

と、財布と缶ジュースを渡した。

「ありがとう。飲み物が来たぞ。みんな、飲めよ」 

と、藤田福部長が言うと、部員は副部長にお礼を言って飲み始めた。

 午前中を何とか乗り切った。すで、今日の朝に仕入れた焼き鳥の三分の二を売り切っていた。閉場より前に売り切れるのが、ほぼ確実視された。午後からは、焼き鳥を焼く作業も展示会場での説明も割り当てられず、自由になった。

 午後は、他の部活や研究室の模擬店めぐりをした。運動部には、焼き肉屋をやっている部があった。美術部の模擬店に行き、フランクフルトと焼きソバを買い、昼食を取った。昼食を済ませると、展示会場に行った。先輩等の写真をじっくり観ていなかったので、時間もあることなので、観ておこうと思ったからだ。

 藤田副部長は、石狩川の三日月湖や石狩当別のため池の写真を展示していた。三日月湖は、大きすぎて一部しか取れていなかったが、巨大さが分かる構図で撮られていた。藤田副部長と高根部長を冷や冷やさせていた上村は、道庁と植物園の写真を展示していた。冷や冷やさせた分を埋め合わせるだけの写真かと言われると、正直微妙だった。

 美術部の展示も見直そうと美術部の展示会場に行くと、大島先輩がいた。大島先輩は、両親と思われる男女と話しており、声をかけるのはやめて、展示作品を見て回ることにした。松島池の水彩画、メムの油絵は何度観ても凄かった。水墨画は、松島池に来ていた水鳥を描いたものの様で、墨の濃淡だけで見事に表現されていた。

 色々見て回っているうちに閉場時間の三時半となり、会場の撤収作業をすることになった。レンタル品の保冷容器を洗ったり、コンロの火の始末しないといけないので模擬店の撤収にそれなりの人数を割かないといけないので、会場の撤収産業には設置作業の時より人が減り、撤収作業は設置作業より忙しかった。

 撤収作業は、設置作業より二倍近い時間が掛かり、終わったのは五時半だった。パーティーションから写真の額を外して、部室に移動させるのが、これが何よりしんどかった。一年から四年の部員二十人分、百枚以上の写真を、五人で撤収したのだから、しんどくて当たり前なのだが……

 パーティーションの片付けも済んだので、部室に戻ると、会計が三日間の売上を集計し、収支を求めていた。追加購入分は原価すれすれでの購入が出来なかったのと、三日目はレンタル品のレンタル費用の支払いもあり、出て行くお金が初日と二日目より多かった。三日間での純利益は十五万円出たそうだ。夏の撮影旅行を行っても、来年の春まで印画紙や薬品、フィルムを買うだけの資金が確保できた。

 藤田福部長が、客が異様に集まっていたので、実行委員会に焼き鳥を売っていた模擬店が他になかったか聞いたそうだが、今年に限って焼き鳥を売っていた模擬店は写真部だけだったそうだ。お陰で、客が殺到し、焼いても焼いても、追いつかなかったと言うわけだそうだ。

 金額を聞き、

「藤田先輩、印画紙や薬品、フィルムを買うのに困らないですね」

と、藤田副部長に言った。

「何も壊れなければな」

と、怖い事を言った。

「口は禍のもとって、言いますよ」

と、上村が言ったので、藤田福部長が、

「お前が言うと、本当になりそうで怖い」

と、上村を睨んだ。

「写真を額から出しますか」

と、気まずくなった雰囲気を変えようとした。

「写真を取り出すか」

と、藤田副部長も言い、額から写真を取り出し始めた。部員全でやったので、三十分もすると取り出し終わった。額の片付けや額に入れていた写真もしまい終り、片付け済み、家路に着いた。

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