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廃墟の少女  作者: 赤間末広
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第一章 第四部

 六月に入り、大学際の準備がいよいよ本格化してきた。回収出来た入学式の写真の代金だけでは、写真部の活動資金は、夏の撮影旅行を敢行すると、底を尽きるのが判明し、焼き鳥の模擬店で春までの活動資金を確保することになった。

 模擬店は、学生寮の長老と言う渾名を頂戴している留年組の先輩方が、指図と協力をしてくれるので、実行委員会に提出する出店のための申請書類や出店場所希望届は遅滞無く提出することが出来た。店の看板等は、去年のものを手直しして使うので、肉を入れておく保冷容器、木炭、コンロの調達することになった。コンロと保冷容器は写真部のOBが勤めている精肉店で貸してもらえることになった。肉は、OBのいる精肉店から、ほぼ原価で売って貰えることになり、木炭と容器を買うだけで済むところまで準備が済み、模擬店の準備からは一時解放された。

 お陰て、展示会で展示する写真の準備をサボっていた連中が、焼き付けるためのフィルム現像や印画紙への焼き付けるために大挙して、暗室と部室は満員になってしまった。

 暗室があくまで、暇つぶしでお邪魔になっている美術部に入り浸ることが多くなった。美術部は、日頃から少しずつ準備しているのか、どたばたしている部員が居らず、余裕があるようである。

「大島先輩、あの子のスカートは完成したのですか?」

と、大島先輩に聞いてみた。

「あっ、最上君。うん、完成したよ」

「約束していた写真ですけど、撮って良いですか?」

「一寸待ってて」

「その間に、カメラを部室に取りに行ってきます」

と、言って、部室に戻った。

 部室に戻ると、美術部に暗室が空くまで暇をつぶしに行った時と変らず、現像をサボっていて、必死に現像タンクを振っている一年や先輩、現像は済んでいるが、焼き付けるネガを選ぶのに、四苦八苦している三年以上の先輩が居た。

 展示会の写真の準備が終わっていない面々を、尻目にカメラをロッカーから取り出し、フィルムを装てんした。フィルムは、奮発してカラーリバーサルフィルムにした。大島先輩の力作を取るのに、白黒フィルムでは何だかもったいないと思ったからである。カメラとストロボ、念のために露出計を持って、美術部の部室に戻った。

 美術部の部室に戻ると、壁に一枚板のテーブルを寄せ、テーブルを床に見立てて、撮影する場所を整えた。人形は、少し青みを帯びたブラウス、前のチェック柄よりピッチが細かいチェック柄のロングスカートを穿いていた。椅子に座っている球体関節人形を、どの構図で撮ろうかなと考えながら写真部から持ってきた露出計で、露出を確かめた。光量が足りないので、ストロボをバウンズさせて光量を確かめてみると、適正露出を得られたので、撮影を開始した。

 最初は、椅子に座った状態で横や正面から撮り始めた。色々ポーズをとらせたいのが本音であったが、撮らせてもらっている身分なので、お願いするのもあれなので、座っている状態で、撮影位置や向きを変えるだけにとどめた。

 逆光で背景に露出をあわせて、シルエットを撮るのも良いなと、窓際に移動させてもらい、逆光で撮ることにした。シルエットにしても画になるので、人形の出来に度肝を抜かれた。せっかく窓際に移動させたのだからと、失敗するのも勉強と腹を括って、日中シンクロで撮ることにした。静物写真の撮影で、色々な撮影技法を試したくなるほ心躍るものは久しぶりだった。

 一通り撮りたい構図を、撮り終え、フィルムも撮りきったので、撮影をやめた。

「大島先輩、ありがとうございました」 

と、お礼を言った。

「また撮りたくなったら、知らせてね。都合がつけば撮らせてあげからね」

「本当ですか?ありがとうございます」

「撮りたくなったら、連絡します」

と、挨拶していると、写真部の一年の上村が、

「最上、暗室が空いたぞ」

と、知らせに来てくれた。

「暗室が空いたんだよな?」

「空いたぞ」

「わっかた、ありがとう」

「最上君、写真部に戻るの?」

「はい、暗室が空いたので、引き伸ばしをしないといけないので、失礼します。大島先輩、撮影させて頂、ありがとうございました」

と、大島先輩に挨拶した。

 呼びに来た上村にも手伝ってもらい、一枚板のテーブルを、美術部の部室の定位置に戻して、テーブルクロスを掛けた。撮影の後片付けも済んだので、美術部の部室を辞すことにした。

「失礼しました」

「最上が、いつもお世話になって、すいません」

と、挨拶を済ませ、写真部に戻った。

 写真部に戻ると、フィルムを巻き戻し、フィルムを取り出して、カメラをロッカーに戻した。引き伸ばすネガを保管しているフォルダーを棚から取り出し、暗室に向かった。

 暗室は、水洗の水、現像液、停止液、定着液が準備されているので、直ぐに引き伸ばし作業に取り掛かれた。引き伸ばすのはポプラ並木、銀杏並木、メムの三種類で、ポプラ並木は、例の小動物をトリミングして引き伸ばすことにした。銀杏並木は全紙サイズに、ポプラ並木本体は四切サイズに、メムの一部は半切で残りは四切サイズで引き伸ばすことにした。

 かなり大きく引き伸ばすことになった銀杏並木は、焼き付けレンズの絞り、露光時間を調整するために、一秒毎の覆い焼きを改めて作ることにした。適正露光時間の見当がついたので、印画紙に焼き始めた。銀杏並木は三枚焼いた。

 ポプラ並木は、例の小動物のトリミングの構図に難儀した。不自然な構図にならないように、トリミングするのはなかなか難しく、引き伸ばし率を下げて、左右上下に区間を空けることにした。

 メムの写真は、濃淡が綺麗に出るように、焼き付け時間を部分的に短くしたい部分を、覆い焼きをして、調整した。焼き付けて、現像、停止、定着が済んだ印画紙を水洗をする流しに入れて、水洗が終了するまで、部室に戻ることにした。

 部室に戻ると、藤田先輩に展示会の最低展示枚数の写真を焼き付けた事を報告した。

「藤田先輩、展示会の最低展示枚数の写真の焼き付けが終わりました。あとは水洗と乾燥だけです」

「そうか、わかった。暗室は空いてるか?」

 暗室の利用予約表を見ながら、

「予約は入っていないので、飛び込みで使っているのがいなければ、空いてますね」

と、答えた。

「うじゃ、焼き付けをするか」

と言って、フィルムを綴じたバインダーを持って暗室に向かった。

 することも無くなったので、帰る準備を進めていると、上村が唐突に、

「最上って、車の免許を持ってたっけ?」

「まだ持ってないけど、何で急に?」

「いや、免許を持っているのなら、夏にレンタカーを借りて肝試しにでもと……」

「肝試し?」

「車じゃないといけない場所で……」

「場所じゃなくて、肝試しのことを聞いてるんだけど?」

「高校の時に先輩から聞いたんだけど、弓張に肝試しスポットがあるんだ。ここだけの話だが、どうも本物らしいんだ」

「で、その幽霊屋敷だかお化け屋敷に連れて行って欲しいと。何で自分で行かない?自分で行きたいと言いながら、怖いから、一人で行くのはイヤだとか言わないよな?」

と、問いただすと、上村は沈黙してしまった。数分の沈黙のあと、上村が、

「今の話は忘れてくれ……」

と、言い出したので、呆れて、

「自分で言い出しおいて、それはないべ。もう用が無いなら、帰るぞ」

と、上村に言ってやった。そして、

「お先に、失礼します」

と、部室にいる先輩や他の一年に挨拶して家路についた。

 家に帰ると、珍しく父が既に帰ってきていた。直ぐに食事になり、食事の最中、母に上村が言っていたうわさを聞いてみた。

「母さん、部活の帰り際に、弓張に幽霊屋敷だかお化け屋敷があるらしいと言う噂を聞いたけど、知ってる?」

「知らないわね」

と、母は知らないようなので、弓張に父が勤めている銀行の支店があるので、噂が無いか訊いてみたが、

「弓張支店から異動して来た同僚の人とか上司の人から、聞いたことはない?」

「聞いたことがないな。今年の春に、弓張から異動して来た若いのに聞いて見るか?」

「いや、そこまでする必要はないよ」

と、父に言った。母は、急に妙な事を言い出したので心配になったのか、

「寛幸、何で急に、幽霊屋敷なんて?」

と、聞いてきたので、

「一寸、気になっただけだから」

と、答えると、

「そうか」

と、深く追求することはしなかった。

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