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滅びた刻印の執行者《アポカリプス》  作者: 斑鳩
Ⅰ章 アーストリア士官学校編
4/5

北欧より出でしは如何なる者なりて


 年季ねんきの入った木造もくぞうの空間に、静かだがおごそかな声がひびき渡る。 


「新入生諸君、まずはこの場にいることをたたえよう」


 その声のぬしはすぐにわかる。ここには大勢おおぜいの生徒がいるが、だれ一人ひとりとして言葉を発さず、ただ壇上だんじょうの存在を見上げ直立ちょくりつしている。


「だが、その力におぼれてはならぬ。良きさいみがかれなければ、その真価しんか発揮はっきされぬことを心にとどめておけ」


 壇上には、式典用しきてんようであろう豪華ごうか装甲そうこうを見にまとった刻印機甲ホムンクルスがこちらを威圧いあつするかのように見下ろしていた。


「諸君らはこれより十二年の歳月さいげつをこの学舎まなびやごし、同胞どうほうと共にその才を磨くのが、諸君らのつとめだ」


 その足元あしもとには、初老しょろうであろうと思われる男がたたずんでいる。


「今、この世界は『古の民』の愚行ぐこうによって生み出された忌々(いまいま)しいけもの――神旗軍しんきぐんによって支配しはいされ、民は恐怖きょうふおびえている。その民を、そして祖国そこくを守るたてとなり、神旗軍を打ち払うほことなるために諸君らはここにいる」


 彼の名は、レグエス=アルバ=アーストリア――アーストリア士官学園しかんがくえん学園長がくえんちょうだ。


「今ここに、諸君らの入学を歓迎かんげいする。ようこそアーストリア士官学園へ」




 ――アーストリア士官学園。『古の民』によって造られた、巨大きょだい人工海上浮遊島メガフロート《アルカナ》の上に建てられたこの学園は、七歳からの初等部しょとうぶから十八歳までの高等部こうとうぶまでの幅広はばひろ年齢ねんれいの学生達が通っている。

 海上かいじょうに建てられたこの街は二二もの区に分けられており、それぞれアルカナカードの名で呼ばれている。中央統括区ちゅうおうとうかつくである二一区《世界》、巨大な広場ひろばがある六区《恋人》、買い物客でにぎわう三区《女帝》……

 その中でも学生を多く見られるのが、島の東端とうたんに建てられた学園のある十区《運命の輪》だ。早朝や夕方には黒と赤を基調きちょうとした制服せいふくに身を包んだ生徒でごった返すだろう。

 だが、八十万平米(へいべい)という広大な敷地しきちに、商業施設しょうぎょうしせつ娯楽施設ごらくしせつなどもそろったこの島の学園へ入るのは、当然のことながら容易よういなことではない。毎年世界中から《天才》と呼ばれる搭乗者候補生パイロットこうほせいが何百人と落第らくだいしていく試験しけんを抜け切ったものだけがこの島へ足をみ入れることを許される。

 そんなあらふるいけられて生き残った猛者もさたちは、当然ながら強い。それだけの期待がもたれているからこそ、世界的な大貴族だいきぞく大商人だいしょうにん達がこぞって資金しきんをかけ始める。まさに地上最高ちじょうさいこう搭乗者パイロット育成機関いくせいきかんと言っても過言かごんではないだろう。



「えっと、最初の授業は……」 

 俺と羽美はここで十一年、花火は十年学んできた。だからこそれた感じで、初めの授業がある教室きょうしつ――今回の場合だと搭乗士科パイロットかⅡだった――へ向かうことができる。


「それじゃお兄ちゃん、羽美お姉ちゃん」

「ああ、また後でな」

「うん、わたしだけ違う教室なのはちょっとさびしいけど……」

「子供じゃないんだし、別に大丈夫だいじょうぶだろそれくらい。それに、いつも兄にべったりでも仕方ないしな」

「別に、べったりじゃありません」


 俺が頭を撫でながらそう言うと、花火はちょっとねたようにほおふくらませる。そんな顔も可愛らしい。


冗談じょうだんだ。今日も勉強頑張(がんば)れよ」

「うん、お兄ちゃんこそ授業中寝ないようにね。徹夜てつやしてるんだから」

 

 たぶん居眠いねむりはしてしまうと思うけど……

 

「それじゃ、そろそろ行くよ」

「うん、ばいばい」


 俺達は花火と別れ、教室へ向かった。



「おはよー、今日も朝から元気だね」

美火メイフォ!やっぱり今年も搭乗士パイロット科取ってたんだ」

「よお、リー

「うん、桜庭君もおはよー」


 教室に入るなり元気げんきな声が聞こえてきた。

 彼女の名は李美火リー・メイフォ中華ジョングオ帝国ていこく出身しゅっしんで、炎の民(ブレイジス・フレム)桜色さくらいろの髪を短く切った猫目ねこめのボーイッシュな雰囲気ふんいき少女しょうじょで、羽美とは中学の頃からの友人だ。


「って、桜庭君。目の下にちょっとくまが出来てるね。どうかしたの?」

「……そんなに分かり易いのか?」


 今朝、顔をあらう時にかがみを見た時はそれほどでもなかったと思うんだが……

 

「ええ、とても分かり易いですよ。あともう少しでパンダになれますね。隈だけに」

くまとパンダの間には1歩どころじゃない差があるような気がするが……」

「あっ、おはよーマリア」

「おはようございます、羽美」


 この横から急にあらわれた丁寧ていねい物腰ものごしの少女はマリア=ローゼだ。イニターリア共和国きょうわこく出身で、風の民(エルフ)若草色わかくさいろの髪を横にくくり、おとなしそうな表情をしている。同じく羽美とは中学からの友人だ。


「でも、本当にどうしたの?夜更かし?」

「それがね、純一ってばまた徹夜したみたいなの」

「いや、二時間ぐらいは寝たから徹夜じゃないぞ」

そだざかりの高校生は二時間じゃダメでしょ」

「ふむ……それで今日の純一は遅い登校だったわけか」


 と、そこでもう一人クラスメートが話に入ってくる。


「ラース、生きてたのか」

「当たり前だ。あのくらいで俺が死ぬわけないだろ」


 ラーシアッド=リフリンド。ルーシ連邦れんぽう出身しゅっしんで、月の民(ルナティア)のプラチナ色の髪をしたこの少年は、中学時代からの俺の悪友あくゆうで、よく俺とつるんではあたまの悪い遊びをやっている。

 ついこの前も、ちょっとした遺跡ネスト無断むだんもぐり――遺跡ネストに立ちいるには、専用の許可きょかがいる――探索たんさくしていたら、下級神旗軍かきゅうしんきぐんである蛇蚯蚓ワームの放った一撃いちげきが、近くに合った大量の擲弾グレネードやらクラスター爆弾ばくだんやら名称が()不明だ()がとに()かくや()ばそう()な物体()やら――もともと軍事基地ぐんじきちだったらしい――に当たり大爆発だいばくはつを起こした。

 俺もラースも刻印機甲ホムンクルスに乗っていたから無事だったが、遺跡ネスト崩壊ほうかいしていた。


「え~、またなんかやらかしてきたの?この小悪党こあくとう

「まったく、本当はいけないことだって分かってるの、純一」

「危険だから無断立ち入りを禁止きんししているのに……あなた達みたいな人がいるから、死傷者ししょうしゃはいなくならないんですよ?」

「いいだろ別に、無事だったんだしさ」

「でも世界協定せかいきょうていぐらいは守らなきゃだめだよ。いくら校則こうそく命令めいれい違反いはんしたってさ」


 まったくひどい言われようだ。


「そう言えば羽美。こんな話は聞いてますか?今思い出したのですが、この学園に留学生りゅうがくせいが来るそうなんですよ。北欧ほくおうのスオミ共和国きょうわこくから」

「留学生?編入生へんにゅうせいじゃなくて?」


 搭乗士パイロット名門校めいもんこうともなれば編入生は少なくない。だが、留学生はめずらしかった。


「俺もそんな話は聞いたことは無いな……お前はどうだ、同郷どうきょう?」

「ルーシ連邦を北欧と言ったやつ法律ほうりつ死刑しけいと決まっているぞ。だが、俺もそんな話は聞いたことは無いな」

「その留学生、今度うちのりょうに来ることになったそうですよ」

「へぇ、それなら楽しみだな~」


 美火メイフォがそうつぶやいていた。確かに、自分たちの寮に留学生が来るというのは、ちょっとしたニュースだろう。


「でも、こんな学園じゃ、北欧人の珍しさなんて分かんないな」

「まあね、いろんな国の人や、種族しゅぞくの人がいるからね」


 俺の言葉に羽美が共感きょうかんする。

 ちなみに種族というのは髪の色で分けられているだけで、国境こっきょう関係かんけいない。――事実、おなじ大和皇国出身やまとおうこくしゅっしんの俺や花火や羽美は全員違う種族だ――種族についていて言うならば、遺伝子いでんしが関係していることと、種族によってある程度ていど刻印(こくいん)が決まるということぐらいだろう。実際、赤い髪をした炎の民(ブレイジス・フレム)の羽美や美火メイフォは、ほのおに関する刻印だし、白銀しろい髪をした月の民(ルナティア)の花火やラースは電撃でんげきに関する刻印だ。他にもみどりの髪をした風の民(エルフ)のマリアはあらしに関する刻印で、黒い髪をした影の民(シャドリス)の俺は闇に関する刻印だ。

 すると、周りがさわがしくなってくる。


「お、おい、ローゼ、その話はマジなのか!?」

「留学生……留学生!どんな人が来るのかな?格好良い人が来るのかな!?」

「私、素敵すてきな男の子だと思う。そして出会うなり、その人と私はこいに落ちるの!」

「いや、まだ男子だとは決まってないだろ、女子の可能性かのうせいだってあるぞ」

「まてまて、その中間ちゅうかんという可能性だって――」

「それは無い!」

「ですよね~……」


 声をそろえて否定されてしまった。……いや、俺も本気でその可能性があると思っているわけじゃないけど。

「桜庭、お前だって可愛い女の子の方がいいだろ?そう思うよな?な!?」

「それは……確かにな」


 こいつらじゃないけれど、可愛い女の子とお近づきに……俺だって、可愛い女の子とイチャイチャしてみたいしな。


「ふっ、お前には負けないからな、桜庭」

「当然だ、いつも可愛い女の子を周りにはべらせてるお前には、絶対ぜったいに負けん!!」


 と、ビシッとゆびを差してくる男子生徒二人。なんかこの前読んだ小説しょうせつで似たようなことを言っている大和人やまとじんを見た気がする。名前は確か……『吉留よしとめ かい』だったはずだ。


「ねぇねぇ、羽美は――別に興味きょうみ無いか」

「えっ、どうして?」

「でって、どんな素敵な男の子が来ても関係ないでしょ?」

「でも、羽美としては可愛い女の子だと気になるんじゃないの?ライバル出現しゅつげん!ってさ」

「なっ……へ、変なこと言わないでよ美火メイフォっ!別に……あたし、そんなの気にしてないし。まだ男の子の可能性だってあるわけだし……」

「だよね、男の子だったら絶対ぜったいにゲットして見せる!あぁ、待ってて私の王子様!」

「盛り上がってるところ悪いですが、来るのは女性ですよ」


 盛り上がる女子に冷や水を浴びせるように、マリアが笑いながらそう呟いた。


「羽美、女の子だってどうする?」

「べ、別に、どうもしないわよ。あたし純一を信じてるし……」

「おーおー、あせってる焦ってる。 頑張れ羽美!」

「も、もうっ、からかわないで!」

「そういえば、留学生について何か知ってるのか?」


 ふと思い立ち、俺はマリアにたずねる。


「名前と同い年だということは知ってますが……なんですか、気になるんですか?桜庭君も男の子だったんですねぇ」


 ぐっ、これは絶対ぜったい誤解(ごかい)を受けている……そういう目だ。


「いやれない土地とちで大変だなって思ってさ」


 せめて出身地でも分かれば多少たしょうのフォローは出来ると思う。

 

「おや、桜庭君の割には良いことを言うじゃありませんか。これでシスコンじゃなければもっとましな人間にもなれたでしょうに」

「……って、ちょ、待てローゼ!もしかして俺のことを言ってるのか?」

「ええ、そのままズバリ。反論はんろんがあれば聞きますが?」

「おれに妹趣味はない」

「え?」


 何故なぜかマリア以外から意外そうな声が聞こえてきた。


リーはともかく、羽美まで!?」

「ご、ごめん、でもさすがに……ねぇ?」

「桜庭君が言っても説得力せっとくりょくがないと言うか……」

「では、多数決たすうけつをとります。桜庭君がシスコンだと思う人」

「えっと……はい」

「は~い」


 あんじょうというか、羽美達はスッと手を挙げた。


「はい」

「は、はい」

「は~い」

「って、お前らもか!?」


 お前らは向こうで留学生の話をしていたはずだろ。


「どうですか桜庭君。これが現実げんじつです。降参こうさんしますか?」

「くっ」


 降参する?ふざけるな。これには俺の誇り(プライド)が掛かっているんだ。死んでも降参なんかするか。

 だがそこへ、おだやかな声が割り込む。


「は~い皆さ~ん。席についてくださ~い」


 教室に二十代半ばであろうと思われる女性――搭乗士パイロット科Ⅱの担当教師たんとうきょうしのミーラ=ライグリィだ。


「ほ、ほら、教師が来たんだし席に座らないとな。」


 俺は安堵あんどしながらそううながす。そしてミーラに感謝した。

 もっとも、そんな感謝が教師に伝わるわけもないが。


「さて、皆さん春休みで気が抜けてませんか?間違えても、勝手に遺跡ネストに入ったりしてませんか?」


 何人かからの視線が俺とラースを射抜いぬくが、気にしない。


「明日は新入生歓迎模擬戦しんにゅうせいかんげいもぎせんがありますから、出場しゅつじょうする予定よていの人は、早めにエントリーを済ませておいてくださいね」


 では、授業を始めます。と言ってミーラは授業を始める。だが、俺は窓の外を見ながら、誰にも聞こえないようにそっと呟く。


「こんな学園に留学するぐらいだ、精々楽しませてくれよ」


 自分の意思いしと関係なく沸々(ふつふつ)と強まってくる思いをしずめ、俺は授業に意識いしきを戻した。


どうも、斑鳩です。最近逆お気に入り登録されて喜んでおります。十条 楓様どうもありがとうございます。

さて、またロボットは出てきませんでしたね……(反省しています)ですがそれはそれ、今回も可愛い女の子がどんどん増えました。そうです、可愛いは正義なのですっ!

しかし、この作品を書いている時に前回の後書きを無視して純一君をシスコン設定にしようかなとふと思ったのも事実です。まあ、やりませんが。

長くなりましたが、謝辞を。

まず、『小説家になろう』様。毎度毎度こんなへっぽこ作品を掲載して下さって感謝の限りです。

次に、読者の皆さま。私の作品をクリックして下さって誠にありがとうございます。今回、投稿が大幅に遅れてすいませんでした。

それでは最後に、作中に出てきた『吉留 快』は架空の人物です。言ってみれば、序章の『キース』と同じ役割です。


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