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滅びた刻印の執行者《アポカリプス》  作者: 斑鳩
Ⅰ章 アーストリア士官学校編
2/5

とある日の朝

   ――星歴1815年。

「痛っ!?」

 背中を床に打ちつけ、あわいまどろみの中にあった意識が覚醒かくせいする。若干じゃっかん寝違ねちがえたような気のする首をさすりつつ、ベッドの上にい上がる。どうやらベッドから落ちたらしい。

 カーテンを閉めた窓から朝日がれ出しているのを見ると、朝のようだ。

「痛た……たくっ、何だったんだよ今の夢は……」

 確かに奇妙な夢だった。神旗軍しんきぐんになって殺される夢など普通は見ない。

 ――それに。

「なんで、神旗軍相手に刻印機甲ホムンクルスを使わなかったんだ?」

 ――刻印機甲ホムンクルス鋼鉄こうてつつるぎや銃の弾丸すら弾いてしまう神旗軍に対抗できる唯一ゆいいつの兵器であり、『いにしえたみ』達が残した最強さいきょう聖遺物アーティファクトだ。鋼鉄の骨格スチールスケルトン真銀の皮膚ミスリルスキンの体を持ち、真鍮の鎧オリハルコンアーマーを身につけたその巨人きょじん単純たんじゅんに言って素早くて、堅い。

 はるか昔にひそかに研究されていたという《魔術まじゅつ》によって動かされており、柔軟じゅうなんにしなる真銀ミスリルと堅牢な真鍮オリハルコンによって構成されたその身体からだは神旗軍の強烈きょうれつ一撃いちげきに耐え、魔術と真鍮オリハルコンの剣や弾丸によって、圧倒することができる。

 だが、『古の民』が刻印機甲ホムンクルスを持ってしても神旗軍に敗北した理由は大きく二つある。

 一つ目は上級じょうきゅうだ。神旗軍は、下級かきゅう中級ちゅうきゅう、上級、そしてオリジナル級の四種類に分かれている。一機の刻印機甲ホムンクルスが対抗できるのは精々(せいぜい)中級までで、それ以上となると遭遇率そうぐうりつも低いが、強力なものが多い。

 そして二つ目が《刻印こくいん》だ。刻印とは、人間が産まれた時にさずかる紋章もんしょうのことで、そこから《魔力マナ》を作り出す事ができる。この魔力マナ刻印機甲ホムンクルスを動かすためには必須なのだが、『古の民』にはこの刻印が存在しなかったため魔力マナを作れなかったらしい。「自分達が作った兵器を自分達が使えないなど滑稽こっけいな話である」というのが一般的いっぱんてきな意見なのだが、中には「刻印機甲ホムンクルスは自分たちに残した希望なのではないだろうか」という意見も出てきている。

 そう考えると夢に出てきた人たちは『古の民』なのではないかと思ってしまったが即座そくざに首をる、『古の民』など出会ったことも見たこともないのだから……

「お兄ちゃーん。起きてるのー?」

 すると、とびらの向こうから妹の花火はなびの声が聞こえてきた。

「起きてるぞー」

 と言おうとした瞬間しゅんかん俺は机の上に置いてあるものを見て、口をつぐまざるを得なくなった。

 ――しまった。

 机の上には昨夜、ドライバーやらペンチやら魔装干渉具まそうかんしょうぐやらが入ったピンクの工具箱こうぐばこが置いてあった。昨夜、技術者エンジニアでもある我が妹(花火)の部屋から無断むだんで持ち出したものだ。

「……っ、まずい!?」

 足音を聞きつけ、咄嗟とっさに俺はそれ(工具箱)をベッドの中に入れ布団ふとんをかぶった。

「お兄ちゃん、起きてる?」

 ノックもせずに一人の女の子が入ってきた。 

「…………」

「お兄ちゃん?」

 無造作むぞうさにベッドに近づき、軽く首をかしげる。

「ん~……本当は起きてるでしょ。寝たふりしてたってわかるんだからね」

「…………」

「もうっ、早く起きないと遅刻ちこくしちゃうよ」

 花火の声が聞こえるが、俺はまだ目を開けない。

「お兄ちゃん、ほら早く~」

 すると、っぺたをツンツンと突っついてきた。少しくすぐったさを覚え、かすかに目を開けると。

「!?」

 瞬間、俺は硬直こうちょくしてしまう。

「あっ、目を開けた?おはよう、お兄ちゃん」

「…………」

「お兄ちゃん?」

 花火の顔が、それこそキスをしてしまうかのような間近まぢかにあった。しかも身体が密着みっちゃくし、意識した瞬間やわらかく温かな感触かんしょくが全身に広がっていく。

(何故俺のすぐとなりで、花火がころんと寝ころんでいるんだ……?)

「な、何してる、花火……」

「だって、お兄ちゃんが全然起きないんだもん」

 そう言い、当の妹――桜庭さくらば花火はなびは甘えるように擦り寄ってきた。

「おぉぉっ!?こ、こら花火っ」

 いくら妹とはいえ、寝起きにこれは反則はんそくだ!心臓しんぞうがドキドキして息苦しくなってきた……

だが、花火の方は平然とした表情をしている。

「お兄ちゃん、目は覚めた?」

「あ、ああ、さすがにこれは覚めた……」

 そうして、俺は花火の顔をじっと見つめる。同じ血のつながった妹なのに、どうしてこうも違うのだろうと感じてしまうほどの美少女だ。混血のため、黒髪こくはつの俺とは違う白銀色しろいろさらさらのを長く伸ばした髪に、天使てんし見紛みまがうかのような端整たんせいな顔立ちは年頃としごろの男子ならば誰もが見とれてしまうだろう。実際、学校での人気もすごいらしい。

「お兄ちゃん?なにかな、そんなにジッと見て。寝癖ねぐせでもついてる?」

「いや、花火は今日も可愛かわいいなって。」

 俺はそんなことを言いながら、優しく花火の頭をでる。

「んっ……やだ、お兄ちゃん。わたしのこと子供扱いしてぇ……」

「まだまだ子供みたいなものだろ」

 お兄ちゃんの布団に潜り込んでくる所なんて特に。

「違うもん、わたしだってちゃんとしたレディーなんだから」

 そう言いながら、花火はベッドから降りた。すると、何かに気づいたように花火は視線しせんを落とした。

「何かベッドからはみ出して……って、あーっ!その工具箱、わたしの部屋から勝手かってに持ち出したでしょ!?」

「はっ……し、しまった!」

 起き上がった拍子ひょうしに、隠していた工具箱顔をのぞかせていた。それを見て、花火はぷくーっとほおふくらましていく。

「また勝手に人の部屋に入って……もう、お兄ちゃんのえっち」

「どうしても直しておきたいものがあってな。それに、かってに部屋に入るのは花火も同じことだろ」

 今だってノックもせずに入って来たしな。

「それにまた徹夜てつやしたでしょ?わたしにはいつも、ちゃんと寝ろっていうのに」

「それは当然だ。父さんや母さんが死んだんだから、今は俺が花火の親代わりなんだからな。それに、俺だって二時間くらいは寝てるぞ」

「二時間じゃん……」

 何かがボソりと聞こえたが、俺は気にせずに続ける。

「親代わりとしては、年頃としごろの娘が夜更よふかしするなんて認められません!」

「友達は夜中に彼氏から来た手紙をこっそり読んだりしてるんだよ。うちのクラスだって、女の子はちゃんと恋愛してるんだよ」

「そんなことはないだろっ!花火はまだ中学生だぞっ!」

という心のさけびも当の花火には当然聞こえなく……

「わたしもこんな恋がしたいな……」

「……ちょっ、ちょっと待ちなさい、花火」

 夢を見るようにそう言う花火に、俺は慌てて待ったをかける。

「うん、なぁに?」

「その、なんだ……こ、恋がしたいって話だが、相手が誰か……いるのか?」

 もし花火に相手がいるなら……まずはそいつをたたるべきだろうか。俺の可愛い妹をたぶらかすような奴は、取りあえず制裁をせねば……

「そんな人いないよ。今の私は、お兄ちゃんの世話だけで精一杯せいいっぱいなんだもん。いくら寮母りょうぼさんがいないからって、お兄ちゃん掃除そうじとかしなさすぎ」

 俺たちの通う学校――アーストリア士官学園しかんがくえんには大小様々(さまざま)りょうがあり、俺たちの住んでいる《夜桜寮よざくらりょう》を含めた小型こがたの寮には寮母がいないこともめずしくない。それでは生徒達が堕落だらくするのではないかと言われるが、実際そうでもない。そういう寮は学園までの道がやたらと入り組んでいて、少しでも寝過ごそうものならたちまち遅刻してしまう。教師による定期哨戒ていきしょうかいち哨戒――士官学校のためか、生徒達の間で哨戒とよばれるようになった――があり、生徒は片時かたときも気をゆるめられない。さらに寮母がいないということは、炊事すいじを含めた家事全般を自分たちでしなければならないということもあり、寮母のいない寮は他の寮よりも人気が無かったりする。

 だが痛い所を突かれた。確かに、これまでも花火が掃除してくれなければ哨戒の時に危ういこともあった。

「うっ……それは、まあ……あれだ。花火の花嫁修業はなよめしゅぎょう的な……な?」

「料理を作らせてくれないのに?」

「料理は包丁を使ったり火を使ったりするんだぞ?危ないだろ」

「お兄ちゃん……どれだけ過保護かほごなの?もう……」

「まあ冗談じょうだんはともかく、羽美はみに作ってもらった方が美味おいしいんだから仕方しかたないさ」

 これは本音ほんねだ。いや、毎日羽美にお世話せわになるのも悪いとは思ってるんだが、すっかり餌付えづけされた身では断れないと言うか……

「羽美お姉ちゃんの作るご飯ってすごく美味しいよね。わたしも大好き。それでお兄ちゃん。その羽美お姉ちゃんが朝ご飯作って待ってるんだけど?」

「おっと、そうだった。腹も減ってるしすぐに準備する!」

「先に食堂しょくどうへ行ってるね。徹夜したからって二度寝しちゃダメだよ」

「大丈夫、脳殺のうさつされかけたおかげでお目々はぱっちりだ」

「ふふっ、それじゃあ今度から毎日こうやって起こそうかな」

勘弁かんべんして下さい……」

 そう答えた俺に微笑ほほえみかけ、花火は部屋を出て行こうとした時、ふと思い出したように立ち止り、口を開けた。

「そうそう、今日はわたしの高等部入学式こうとうぶにゅうがくしきだから親代わりならちゃんと覚えててくれてるよね?」

「あ、ああ、当たり前だ」

 完全かんぜんに忘れていた……

「ふふっ、それじゃあまた後でね」

 花火が忘れていたことに気づいているのかどうかは分からない。その笑顔えがおが喜びの微笑みなのか怒りの微笑みなのか俺には分からないからだ。

 花火が完全に部屋から出たのを確認し、俺はシャツのボタンをはずし始めた。

 一抹いちまつの不安を覚えながら……


どうも、斑鳩です。なかなかロボットが出てこなくてすいません。

滅びた刻印の執行者《アポカリプス》を読んで下さってありがとうございます。題名が中二病っぽいですよね(笑)

それでは謝辞を。(一度言ってみたかったんですよ)

まず、『小説家になろう』さん。こんな文才の欠片も無い作品を掲載して下さって誠に恐縮です。

そして読者のみなさま。いつも読んで下さって感謝のかぎりです。投稿後もちょくちょく修正してすいません。以後気をつけます。

まあ、このぐらいですかね。担当さんもイラストレーターさんもいませんし。

それでは最後に。この作品の一話目を読んでくれた友人に、『終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらってもいいですか?』に似てると言われ、読んでみたら本当に似ていたので驚きました。

枯野瑛先生すいません。これからもどんどん似ていくと思います。

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