タイトル一文字。 同音異字から連想する物語、あいうえお順に書いてみた。
「を」
ゲシュタルト崩壊。
「を」という字を見続けていたら、バランスをとるかのように両手を横に伸ばして
何かに片足突っ込んでいる人にしか見えなくなってきた。
池か、水たまりか、なんか丸いものの一部。
いや、巨大なパンの側面。
何かに足を突っ込む、と言っても棺桶とかそういうんじゃなくて
なんかスキップしてながら、ぴょん、ってはまちゃった。的な軽快さを感じる。
を、ををををを
続けて打ったら、みんな楽しそうに踊ってるよ。
誰がこの文字を「を」と発音しようと決めたのだ。
を、を、を、
スマホで文章を打っていると時々、こんな脳内のシステムをエラーを起こす。
最近、彼の顔もゲシュタルト崩壊してきた。
あたしの好みの顔ってこんなんだったけ? なんで好きだったの?
この顔があたしのドストライク!って思ったあの気持ちはどこへ行ってしまったんだ。
一目ぼれに近かった。あの時は運命かと思った。
彼が、ふいにこちらを見て目が合った。
その顔が超タイプで、見入ってしまった。
見入っているのがバレたのか、得も言われぬ空気が流れて、世間話が始まった。
運命の再会をして交際が始まった。
周りはそうでもないというけど、あたしにはイケメンだった。
なのに、あたしの好きな顔に見えなくなってきた。
ときめかない。
一緒にいてもドキドキしなくなった。
そういう一見否定的な感情は、恋が愛へと変わっていく成熟だったりする場合もある。
そういうんじゃない。
出会ったころと全然違う容姿になってしまったわけじゃない。
全然変わってない。むしろ付き合うようになってあたしに合わせてくれているのか
服の趣味とか髪型とか前よりより素敵になった。
あたしの何かが変わってしまった。
あたしの視覚、脳がシステムエラー起こしてるんじゃんってぐらい、彼の顔を認識しない。
もう、へのへのもへじにしか見えない。
へのへのもへじの一番下の「へ」が数字の「3」になって近づいてきた時、本気で殴りたくなった。
これが恋の終わりというものか。
綺麗ごと抜きに、気持が冷めていく。興味がなくなっていく。
他に好きに対象が移ったわけでもなく。
その気持ちに正直でいたいから、あたしは別れを告げた。
多分、一方的に恋して始まったけど、お互いに育てていけなかったから。
一人遊びは、急につまらなくなる。
出会いや再会にドラマティックな運命を感じてしまい、
そこから始まる平凡すぎる日々に、ずっと見続けた同じ顔に、
あたしは飽きてしまったのかもしれない。
ごめんね。
「ヲタク」は「オタク」より、さらにひねくれているという自嘲的な意味合いがあるらしい。
あたしの恋は「ヲワリ」にするよ。
ごめんね。