惨劇・傭兵捜索集団編・夜襲
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ダンジョン周辺・フィリアス戦闘団
ダンジョン前で野営の準備を終えた獣人傭兵隊は三々五々に別れて遅めの夕食を始め、増援のブラッディマンティス隊の配置を終えたフィリアスは後詰のアイリス戦闘団が展開を終了したのを確認した後に攻撃開始を命じた。
フィリアスの命令と同時にボーンマジシャン小隊が野営地に向けて火球を放ち、放たれた多数の火球が野営地周辺に降り注いだ。
距離が離れていた為に放たれた火球の多くは野営地の周辺に着弾して爆煙と土塊を撒き散らしただけだったが何発かの火球は野営地内に着弾、炸裂して周囲にいた不運な傭兵達を吹き飛ばし、傭兵隊と合流したロジナの下級将校は泡を食ってスープの皿を放り投げながら狼狽えた声をあげた。
「な、何事だっ!?」
下級将校が狼狽えた声をあげているとそれが呼び水となった様に再び多数の火球が降り注ぎ、連続する爆発によって浮き足立ち食器類を放り投げて右往左往し始めた傭兵達に対して指揮官のクメッツが鋭い口調で号令を発した。
「狼狽えるなっ!!魔導兵は防御結界の展開と反撃を行い、残りの者を配置に着かせろっ!!急げっ!!」
クメッツの号令を受けた下級指揮官達は火球が降り注ぐ中狼狽える傭兵達を叱咤し始め、それを受けた傭兵達は漸く態勢を整え始めたがその動きを嘲笑う様に暗い木々の合間から大量のボーンウォーリアーが吐き出される様に姿を現して野営地目掛けて突き進んで来た。
「こ、こいつ等い、一体何処から湧き出て来たんだっ!!」
「くそっ!!魔導兵は防御結界を張りつつボーンウォーリアーどもを攻撃しろっ!!とにかく連中の数を減らせっ!!」
衝撃的な光景を目の当たりにした下級将校が悲鳴の様な叫び声をあげる中、クメッツは呪詛の声をあげつつ新な指示を送り、獣人の傭兵達は混乱しながらもそれに従い行動を開始した。
漸く態勢を整えた魔導兵達は防御結界を張り巡らして降り注ぐ火球を防ぎ、それに続いて他の魔導兵達が殺到するボーンウォーリアーの集団目掛けて火球を放った。
放たれた火球は接近するボーンウォーリアーの集団の只中に炸裂してボーンウォーリアーを吹き飛ばすが、近接戦闘が得意な獣人傭兵隊には所属している魔導兵が少ない上に防御結界を展開しなければならない為に攻撃魔法を放てる魔導兵の数は通常の半数程でしかなく、ボーンウォーリアー達は迫力の乏しい攻撃魔法による迎撃をアンデッド特有の無頓着さで歯牙にもかけず前進を続けた。
……2個中隊ヲ突撃サセタ、残ル中隊及ビブラッディマンティス隊ハ我ト共ニ伏撃態勢ニ入ッテイル……
「……了解、こちらも攻撃をしかけて連中を叩き出します」
2個小隊のボーンウォーリアーと骸骨軽騎兵小隊にブラッディマンティス6体(残る6体はマントイフェル隊に配置)からなる部隊を率いて混乱する野営地に接近していたフィリアスはマントイフェルから報されたボーンウォーリアー隊の攻撃情報を受け取ると返信した後に部隊を展開させ、ボーンマジシャンの射撃と殺到するボーンウォーリアー隊の迎撃に忙殺されている獣人傭兵隊の様子を見据えながら珊瑚龍のカプセルを手に取ると傍らに控えるラーナディア達に指示を送った。
「珊瑚龍の攻撃に続いて私達も攻撃魔法を放ち、その後にボーンウォーリアー隊を突撃させる、逃げた連中は骸骨軽騎兵隊とブラッディマンティス隊が追撃してマントイフェル隊の仕掛けた網の中に追い込むので我々は野営地を叩く事に専念しろ」
フィリアスの指示を受けたラーナディア達は頷く事で応じ、それを確認したフィリアスはボーンマジシャン隊の火球が防御結界によって防がれるのを確認しながら珊瑚龍が収められたカプセルを野営地に向けて投じた。
「……頼むぞっ!!」
投じられたカプセルはフィリアスの言葉に呼応する様に眩い閃光と共に爆ぜて珊瑚龍が姿を現して巨大な咆哮を轟かせ、突然の出現に狼狽する野営地に向けて大量の火弾を発射した。
発射された大量の火弾は展開されている防御結界に着弾して炸裂し、その火力によって展開されていた防御結界は文字通り粉砕されてしまう。
珊瑚龍の火弾が防御結界を粉砕すると同時にボーンマジシャン隊の放った火球が遮られる事無く野営地に降り注ぎ、その内の1発がまるで吸い込まれる様に防御結界を展開していた魔導兵達の只中で炸裂してしまう。
火球が炸裂すると巻き込まれた数名の魔導兵が吹き飛ばされ、魔導兵達が動揺する中珊瑚龍が第2波の火弾の弾幕射撃を浴びせかけて来た。
魔導兵達は慌てて防御結界を展開させたが火球の炸裂とそれに伴う動揺によって強度が低下した防御結界では珊瑚龍の弾幕射撃を食い止める事は出来ず、炸裂によって防御結界が叩き割られると同時に食い止めきれなかった火弾が噴煙を引き摺りながら野営地に降り注ぎ、野営地の其処彼処に着弾して炸裂した。
火弾の炸裂に巻き込まれたテントや傭兵達が次々に吹き飛ばされているとボーンウォーリアー隊の火球やフィリアス達が放った攻撃魔法までもが降り注ぎ、雨霰と降り注ぐ攻撃魔法に傭兵達が狼狽え浮足立つ中ボーンウォーリアーの集団の先頭が木柵に取り付き、その光景を目にした下級将校は泡を食って傍らのクメッツに喚きたてた。
「……ど、どうする気だっ!?は、早く、早く何とかしろっ!?今すぐにっ!?」
「……くそっ!!野営地を放棄するっ!!総員速やかに撤退せよっ!!遅れた者は捨ておけっ!!」
下級将校の喚き声を受けたクメッツは呪詛の言葉と共に野営地の放棄と撤退を命じたが、その命令と同時に簡易的な造りの木柵が薙ぎ倒され、抉じ開けられた突破口からボーンウォーリアーの集団が得物を掲げながら雪崩れ込んで来た。
雪崩れ込んで来たボーンウォーリアーは手近な所にいた傭兵達に襲いかかり、混乱から立ち直りきれていない傭兵達が断末魔の絶叫をあげながらボーンウォーリアー達が振るう刃の餌食となるのを目にしたクメッツは焦燥に駆られながら周囲に号令を下した。
「撤退するっ!!遅れた者は捨て置けっ!!」
クメッツの号令を受けて周囲にいた約2個小隊程の傭兵達は慌ただしく撤退を開始し、取り残された傭兵達の絶叫やボーンウォーリアー達が打ち鳴らす骨の音に追い立てられる様に襲撃が行われなかった方面に向けて移動を始めた。
下級将校と護衛達も撤退した獣人傭兵隊と行動を共にしようとしたがそれを遮る様に珊瑚龍の放った火弾が降り注いで炸裂し、その結界下級将校達は獣人傭兵隊から分断されてしまった。
「……ひぃぃっ!!く、来るなっ!来るなっ!!来るなあぁぁぁっ!!!」
下級将校は青ざめた顔で叫びながら護衛達と共にテントや木柵の残骸が燻る野営地内を逃げ惑ったがそれほど時が経過しない内多数のボーンウォーリアー達に取り囲まれてしまい、断末魔の絶叫を周囲に撒き散らしながら取り残された傭兵達と共にボーンウォーリアー達が振るう刃によって膾の様に切り刻まれてしまった。
一方クメッツ率いる傭兵隊主力は珊瑚龍の火弾やボーンマジシャン隊の火球の攻撃による損害を出しながらも野営地を脱出して木々の合間へと消えて行き、それを確認したフィリアスはボーンウォーリアー隊と珊瑚龍に残敵を掃討させつつ骸骨軽騎兵隊とブラッディマンティス隊に傭兵隊主力の追撃を命じた。
追撃命令を受けた骸骨軽騎兵隊は激しい射撃を浴びて落伍していた分隊規模の獣人達に突撃を敢行して瞬く間に蹴散らしてしまい、ブラッディマンティス隊は木々の合間へ突入して逃げ込んだ傭兵隊主力を猛追した。
傭兵隊主力は背後から加速度的な勢いで迫ってくる下生えが揺れる音に追い立てられる様に撤退したが、後方から迫り来る音に意識を集中し過ぎる余り周辺への警戒が疎かになりがちになってしまい、その様な危うい状態のままマントイフェル率いるボーンウォーリアー隊とブラッディマンティス隊が仕掛けた網の中に自ら飛び込んでしまう。
……獲物ガ網ニカカッタナ、全軍突撃セヨ……
マントイフェルが突撃を下命すると木々の合間に埋伏していたボーンウォーリアー隊が一斉に傭兵隊目掛けて襲いかかり、冷静でいられたベテランの傭兵はその様を目撃して金切り声で警報を発したがほぼ完全に奇襲を受けた形となった傭兵隊主力の足並みは大きく乱れてしまい、混乱状態に陥った傭兵隊主力はボーンウォーリアーの集団に呑み込まれてしまう。
ボーンウォーリアーの集団に奇襲効果と数の暴力で身体能力に秀でた獣人の傭兵隊を次々に血祭りにあげていき、その光景に士気が崩壊寸前にまで低下してしまった傭兵達の後方と側面からブラッディマンティス隊までもが襲いかかる。
襲いかかったブラッディマンティスの内1体が躍起になって部隊を建て直そうとしていたクメッツを一撃で切り裂き、それによって傭兵隊の士気は完全に崩壊してしまう。
傭兵達は我先に逃げ始めたが周囲はボーンウォーリアーやブラッディマンティスによって十重二十重に包囲されており、傭兵隊を周囲に絶叫と血飛沫を撒き散らしながら骸に帰して行った。
こうしてフィリアス戦闘団の夜襲を受けた獣人傭兵隊は壊滅した。地獄の様な襲撃を生き延びた極僅かの生存者達は森の中をさ迷い歩いた末に救出されたが彼等は暗闇を異様なまでに恐れ、彼等を救出した者達を介してヴァイスブルク派遣軍に動揺が生まれる事となる。
一方夜襲を受けた獣人傭兵隊は悲鳴の様な勢いで捜索集団本隊に救援を要請し、それを受けたスコットは直ちに救援を送る事を決して野営地に1個中隊程の留守部隊を残した後に残る全部隊を率いて押っ取り刀で出撃した。
フィリアス戦闘団の夜襲によって引き起こされた凄惨な殺戮劇、そしてそれに誘われるかの様に新たな犠牲者が自らの意志で出立して行く、惨劇の夜はまだ始まったばかり……
再び開かれた惨劇の幕、その幕を開いたのはフィリアス戦闘団による獣人傭兵隊に対する夜襲だった。
フィリアス戦闘団の攻撃を受けた獣人傭兵隊は僅な抵抗の後に壊滅し、凄惨な殺戮劇が繰り広げられる。
一方、獣人傭兵隊から悲鳴の様な救援要請を受けたスコットは錯綜する状況を十分に把握せぬまま救援を決断すると留守部隊を残して出撃を命じ、惨劇の夜の犠牲者リストに自ら進んでサインをしてしまう……