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後詰

今後も本作を宜しくお願い致します。

ダンジョン・第一階層


ユーティリアと彼女と共にダンジョンへと突入して来たクーリア率いる女戦士アマゾネス傭兵隊を庇護したアイリスはその場にて下級将校達と合流した獣人傭兵隊に夜襲をしかけるフィリアス戦闘団の状況の確認に入り、襲撃態勢が整っている事を確認した後に使い魔から送られて来た獣人傭兵隊の魔画像を示しながらクーリアに問いかけた。

「……この連中について何か知っている事は無いかしら?」

「ハッ!この連中は犬族の獣人傭兵隊で指揮しているのはオットルス・クメッツでありますっ!」

アイリスの問いかけを受けたクーリアは直立不動の体勢(後方では他の女戦士達が同じ体勢で待機)で素早く返答し、アイリスはその反応に苦笑しながら言葉を続けた。

「……指揮官がどう言う人物か分かるかしら?敵の指揮官がどう言う人物か知る事は大きなアドバンテージになるわ」

「ハイッ仕事は出来る部類には入りますがやや積極性に欠ける面があります、状況の判断に迷った場合は撤退を選択する事も珍しくありません」

アイリスの更なる問いかけを受けたクーリアは即座に獣人傭兵隊を指揮するクメッツの特徴を告げ、それを聞いたアイリスは小さく頷いた後に彼我の状況が記された地図の魔画像を見詰めて暫く思案した後に野営する傭兵捜索集団本隊を指差しながら再びクーリアに問いかけた。

「傭兵達の本隊を指揮しているスコットはどんな奴なの?」

「……それなりの能力はありますが屑です、そして自分の能力を過信して突っ込んで来る奴です」

アイリスの更なる問いを受けたクーリアは暫し思案した後に捜索集団を率いるスコットの特徴を告げ、それを聞いたアイリスは頷いた後に不敵な笑みと共に呟いた。

「だとしたら獣人の傭兵隊が襲撃されたら無理してでも救援に向かいそうね、後詰を出す必要がありそうね」

「……行くのか?」

アイリスの呟きを聞いたミリアリアは表情を引き締めながら問いかけ、アイリスは頷く事で応じた後に皆を見渡しながら言葉を続けた。

「第一死霊連隊の留守部隊に火力支援大隊のワイト中隊を加えた部隊にブラッディスケアクロウと狂機獣を加えた部隊を後詰として出撃させるわ、指揮はあたしが直接執るわ、ヴァイスブルク伯国亡命政権及びリステバルス皇国亡命政権は数名を要員として派遣して頂戴」

「……アイリス様、我等女戦士も末席に御加え下さい、我等の忠節、我等の槍働きにて証明致しますっ!!」

アイリスの指示を受けたマリーカとアイリーンが表情を引き締めながら頷いていると女戦士達を代表してクーリアが鋭い表情と共にアイリスに声をかけ、アイリスが頷く事でその願いを聞き入れているとユーティリアも表情を引き締めながら口を開いた。

「……私も参加させて下さい、屑どもより受けた数々の屈辱を雪ぐ機会、御与え下さい」

ユーティリアの願いを受けたアイリスはマリーカに視線を向け、マリーカが力強く頷いたのを確認した後にクーリアとユーティリアを交互に見ながら言葉を続けた。

「……貴女達の事を皆に紹介しなきゃならないのよ、戦闘になった場合は1人も欠ける事無く生還する事、それが参加の条件よ」

「「ありがとうございますっ!アイリス様!」」

アイリスの了承の言葉を受けたクーリアとユーティリアは即座に叩頭しながら返答し、アイリスが穏やかな表情で頷いていると死霊騎士、クノーベルスドルフが姿を現して跪いた後に口を開いた。

……アイリス様、我ガ第二死霊連隊カラモ戦力ノ抽出ヲ願イマス……

「……そうね、スケルトン1個大隊と骸骨軽騎兵中隊を派遣しなさい、その後は予備隊として第二死霊連隊の残部隊と火力支援大隊のボーンビショップ隊を併せて指揮しつつ待機しなさい」

……御意……

クノーベルスドルフの具申を受けたアイリスは即座にそれを承諾し、クノーベルスドルフが叩頭してそれに応じた後に掻き消える様に姿を消したのを確認するとミリアリアに視線を向けて言葉を続ける。

「……ミリアも出撃するのよね」

「……ああ、アイリスも出撃するんだ、私も共に出撃する、アイリスの気持ちは嬉しいが私は騎士なのだから」

アイリスの言葉を受けたミリアリアは決意の表情と共に返答し、アイリスはそんなミリアリアを愛しげに見詰めながら頷いた。

その後、ヴァイスブルク伯国亡命政権からミスティアとティリアーナ、リステバルス皇国亡命政権からイストリアとメルクリアスが派遣される事が決まり、アイリスはリリアーナとマリーカ、アイリーンに留守を託した後にミリアリア達やクーリア率いる女戦士達と共に転位魔法でダンジョンの外へと転位した。


ダンジョン前・獣人傭兵隊


アイリスがフィリアス戦闘団の後詰として出撃した頃、既にフィリアス戦闘団に遠巻きに包囲されているロジナの下級将校達とクメッツ率いる獣人傭兵隊は自分達が虎口に捉えられ様としている等とは夢にも思わずに野営の準備を整えていた。

既に夜の帳が周囲を包んでいた事と翌日には捜索集団本隊が合流する為野営地はテントと簡単な木柵のみという簡易的な物となっており、獣人の傭兵達はその中で焚火を囲みながら遅めの夕食の準備に取りかかっていた。

「漸く食事だな」

「……ああ、全くだ……うん?」

焚火にかけたスープ鍋の様子を見ながらぼやく様に会話をしていた傭兵達だったがその内の1人が怪訝そうな面持ち暗い木立に視線を向け、それに気付いた同僚が首を傾げながら声をかける。

「……どうした?」

「……いや、何でもない、何か音が聞こえた様な気がしたが気のせいだった様だ」

同僚の問いかけを受けた傭兵は苦笑しながら言葉を返し、それを聞いた同僚は肩を竦めた後にスープ鍋に視線を戻した。

迫り来る災厄に気付く事無く長閑に時を過ごす獣人の傭兵達、彼等の周囲を囲む木立の奥では災厄の元凶達が静かに動き出していた。

暗い木々の合間を縫う様にして大量のボーンウォーリアー達が攻撃発起点に向けて粛々と前進を続け、指揮官のフィリアスはラーナディアやアントーネ、リリーネと共にその光景を見詰めていた。

……現在、ボーンウォーリアー3個中隊ガ攻撃配置二向ケテ移動中デス、残ル1個中隊ハ骸骨軽騎兵隊及ビボーンマジシャン隊ト共二コノ地ニテ射撃支援ヲ実施シマス……

「了解しました。宜しくお願いします」

……了解シマシタ、私ハボーンウォーリアー隊ヲ指揮シマス、コノ地ノ部隊ノ指揮ヲ宜シク願イマス……

マントイフェルから状況の説明を受けたフィリアスの返答を受けたマントイフェルはこの地に残るボーンウォーリアー、骸骨軽騎兵、ボーンマジシャンの指揮をフィリアスに託した後にボーンウォーリアー隊の攻撃を督戦する為にフィリアス達の前を辞し、フィリアスはそれを見送った後に改めて周囲を見渡した。

暗い木々の合間には大量のボーンウォーリアー、骸骨軽騎兵、ボーンマジシャンが展開しており、フィリアスが畏怖と感嘆が入り雑じった複雑な表情でその様子を見詰めていると同じ様な表情を浮かべたラーナディアが声をかけてきた。

「……凄まじいな、アイリス様の御力は」

「……ええ、しかもこの光景でさえアイリス様の御力のほんの一部に過ぎない」

ラーナディアの言葉を受けたフィリアスは自分達が救出された際や規格外の規模と構造のダンジョンの事を思い出しながら感嘆の呟きをもらし、2人のやり取りを聞いていたアントーネとリリーネも大きく頷きつつ口を開いた。

「……未だ詳しく伝えられてはおりませんがアイリス様が御造りになられたダンジョンは余りに規格外過ぎです」

「……そしてこの異形の軍勢だけに留まらず現在フィリアスさんに預けられているあの異形のモンスターが収められたカプセル、余りに規格外過ぎて驚きを通り越して却って冷静になってしまう程です」

アントーネとリリーネの言葉を受けたフィリアスは同意する様に頷いた後にアイリスから託された珊瑚龍の収められたカプセルを手に取り、圧倒的とさえ言える火力でロジナ候国軍を蹴散らしていたその姿を思い出して感嘆の溜め息をもらしているとミリアリアを従えたアイリスが転位魔法でフィリアス達の前に姿を現した。

「敬礼!」

アイリスとミリアリアの姿を目にしたフィリアスは慌てて押し殺した声で号令を発しながらラーナディア達と共に敬礼し、アイリスは以前に比べるとかなりスムーズな動きで答礼した後にフィリアスに話しかけた。

「……順調みたいね」

「ハッ今の所気付かれた様子はありません、もっとも例え気付かれたとしてもこの戦力ならば押し切れると思われますが」

アイリスの言葉を受けたフィリアスは使い魔達から送られている獣人傭兵隊の様子を一瞥した後に返答し、アイリスは頷いた後に小さく指を鳴らした。

アイリスが指を鳴らすと10体程のブラッディマンティスが姿を現し、その光景を目にして唖然とした表情を浮かべたフィリアスに対して微笑みながら言葉を続けた。

「ブラッディマンティス12体を増援として送ったわ、襲撃に加えるなり敗走する連中の追撃及び掃討に使うなり自由に運用しなさい」

「……り、了解しました、度重なる増援感謝致します」

アイリスの言葉を受けたフィリアスの返答は見せつけられたアイリスの規格外の力の一端に思わず掠れ気味になってしまったが、アイリスはそれに頓着する事無く鷹揚に頷くと自身が後詰として控えるので後顧の憂い無く戦う様に伝え、フィリアス達が頷いたのを確認した後にミリアリアと共に転位魔法によって姿を消した。

「……あの2人、本当に何も気付いていないのかしら?」

「……何やかんやで忙しそうだからな、気付く暇が無いんだろう」

フィリアスが今までアイリスとミリアリアがいた場所を見ながらダンジョン内にて殊更に不協和音を引き起こそうとしている様に見えるメッサリーナとアグリッピーナの事を呟くと、それを耳にしたラーナディアは侮蔑の表情と共に呟き、フィリアスは同じ様な表情で頷いた後に新たに到着したブラッディマンティス隊を配置させる為に彼我の状況が記された地図の魔画像に視線を向けた。


アイリス戦闘団


フィリアス達への激励と増援派遣を行ったアイリスはミリアリアと共に後詰として展開する部隊、アイリス戦闘団の所へと転位魔法で戻った。

アイリスとミリアリアが戻るとミスティア、ティリアーナ、イストリア、メルクリアスにクーリアとユーティリアが敬礼によって出迎え、アイリスは答礼した後に口を開いた。

「フィリアス戦闘団は攻撃配置に向けて移動を始めたわ、あたし達は敵傭兵集団本隊の動向を睨みつつ待機よ」

アイリスの指示を受けた一同は頷いた後にもう一度敬礼を行い、アイリスはそれに答礼した後に配置に戻る一同の背中を見送りつつミリアリアに声をかけた。

「……あたし達も本隊の動向を把握しつつ休憩しましょ」

「……ああ、そうだな」

アイリスの言葉を受けたミリアリアが頷きながら返答すると、アイリスは近くの大木の根元に腰を降ろした後にニコニコしながら自分の隣を軽くポンポンと叩き、それを目にしたミリアリアは仄かに頬を赤らめさせて頷きつつアイリスの隣に腰を降ろした。

ミリアリアがアイリスの隣に腰を降ろすとアイリスは甘える様にミリアリアにもたれかかり、ミリアリアは鼻腔を妖しく擽るアイリスの甘い薫りに頬を更に鮮やかな朱に染めつつぎこちない手つきでアイリスの肩を抱いた。

アイリスはミリアリアの反応に頬を仄かに赤らめながら嬉しそうに微笑み、ミリアリアはアイリスのあどけない反応に笹穂耳まで赤くなりつつ口を開いた。

「……本当に何時も何時もすまない、アイリスには貰ってばかりだ」

「……気にしなくて良いわよ、あたしは目覚めた魔王として好き勝手にやってるだけよ、それに最近のミリアにはドキドキさせられ放しだからしっかり御礼は貰っているわよ」

「……ぐっ」

ミリアリアの言葉を受けたアイリスはミリアリアにもたれかかったまま穏やかな口調で返答し、それに対してミリアリアは思わず言葉に詰まってしまったもののアイリスの肩を抱く手に優しく力を籠める事で応じた。

アイリスはミリアリアの行動に嬉しそうに微笑みながら転位魔法を使ってジンベルヴォルフ6体と魔狼20匹を部隊に加え、その作業を終えるとミリアリアにもたれかかりながら使い魔から送られて来る彼我の状況に注視しながらフィリアス戦闘団の攻撃開始を待ち受けた。



ユーティリアと彼女を保護していたクーリア率いる女戦士傭兵隊を傘下に加える事に成功したアイリスはダンジョン外にて野営の準備を進めている獣人傭兵隊への攻撃を実施するフィリアス戦闘団への後詰の派遣を決し、自ら部隊、アイリス戦闘団を率いて出撃した。

夜の帳に包まれたヴァイスブルクの森にて新な惨劇の幕が開かれ様としていた……


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