邂逅・女戦士(アマゾネス)傭兵隊編・分岐点
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ダンジョン・第一階層・分岐点
一見順調に見えるダンジョン攻略の進捗状況に疑念を燻らせながら女戦士達を前進させていたクーリア、彼女の抱いていた疑念は本来通常のダンジョンの第一階層には存在する筈の無い三叉路の分岐に到達した事により現実の物となった。
「……分岐点、だと」
困惑する尖兵集団の報告を受け後続集団と共に合流したクーリアは目の前に存在する三叉路の分岐点を目にして困惑の呟きをもらし、突入前にスキャニングでダンジョン捜索を実施したユーティリアは困惑と驚愕が入り交じった表情で呟きをもらす。
「……スキャニングの結果は間違い無く一本道だった」
ユーティリアが呟きに続きユーティリアと共にスキャニングを実施したダイナも同じ様な表情で頷き、その様子を目にしたクーリアは穏やかな表情で頷いた後に口を開いた。
「……安心してくれ、2人のスキャニングの成果を疑っている訳では無い、寧ろこの様な事態が生じた事でこのダンジョンが容易ならざるダンジョンだと確信する事が出来た」
クーリアはユーティリアとダイナにそう言うと暫し思案し、方針を決すると鋭い口調で命令を下した。
「……先ずはこの階層の詳細を把握する必要がある、ダイナッ!!バブスッ!!バルコンゲレードを実施せよっ!!」
「「ハッ!!」」
クーリアの命令を受けダイナともう1人の女戦士、バブスが鋭い声で応じながら皆の前に進んで分岐点の前に立ち、それを確認したクーリアは無言で右手を掲げてその指先を左右に振った。
クーリアの行動を目にした女戦士達は素早く展開してダイナとバブスを援護する態勢を取り、2人はその援護の下身構えて口を開いた。
「「バルコンゲレードッ!!」」
言霊を放ったダイナとバブスの身体が淡い輝きを放ち、数拍の間を置いた後に2人はクーリアの所に駆け戻って口を開いた。
「……確認しました三本の分岐は交わる事無く延びており、中央分岐の突き当たりの壁の奥に空洞が存在しているので中央分岐が正解のだと思われます」
「……左右の分岐点の突き当たり周辺の天井部に僅な隙間があり、壁の音響反応にも違和感があります。釣天井は確定的で他にも罠が存在している物と判断します」
ダイナとバブスは厳しい表情でバルコンゲレード、魔力を宿した音波を周囲に向けて放ちその反響によって周囲の状況を確認する特殊捜索魔法の結果をクーリアに伝え、クーリアは小さく舌打ちした後に厳しい表情で呟きをもらした。
「分岐点どころかトラップまであるとはな、これで発生1ヶ月未満のダンジョンだと言うのか」
「……隊長、如何致しますか?」
クーリアが呟いているとヴァルが周囲に油断無く目を配りながら今後の方針について問いかけ、それを受けたクーリアが思案しているとユーティリアが周囲を警戒しながら声をかけてきた。
「……クーリア殿、私の事は構わない、部隊を撤退させるべきだ、このダンジョンは、生半可なダンジョンでは無い、発生1ヶ月未満で第一階層が分岐やトラップまで備えている等聞いた事が無い、このまま進むのは余りに危険過ぎる」
ユーティリアの言葉を受けたクーリアは無意識の内に奥歯を噛み締めながらその言葉とダイナとバブスの告げたバルコンゲレードの捜索結果を吟味し、苦渋の表情で撤退を命じようとしたがそれを制する様にお飾りの支援要員であるロジナ候国軍の魔導士が侮蔑の表情を隠そうともせずに口を開いた。
「……たかが分岐とトラップが存在しているだけでおめおめと撤退するのか?勇猛苛烈な女戦士だ等と言われていても所詮はそんな程度だな、撤退は認めんっ!!どうしても撤退したいのならそこのエルフを我々の望むままに弄ばさせて貰うぞ」
「……ッ」
魔導士の言葉を受けたクーリアは激情を堪える為に奥歯が砕けてしまいそうな程に歯を食い縛り、その様子を目にしたユーティリアは気丈に微笑みかけながらクーリアに囁きかけた。
「……私は大丈夫だ、クーリア殿、既にこの身は奴等によって汚し尽くされている、このダンジョンは明らかにおかしい、この身1つで貴女達をこのダンジョンから逃れさせられるなら本望だ」
ユーティリアはクーリアにそう告げた後に魔導士達の所に歩きだそうとしたがそれを遮る様にヴァルやジュディ、ジルがユーティリアの前に進み出てその足を止めさせ、ヴァルは閃電の柄を軽く叩きながら沈黙するクーリアに声をかける。
「……我々女戦士は決して仲間を見捨てない、隊長、前進続行命令を、我々はただその命に従うのみです」
ヴァルの言葉に続いて女戦士達が力強く頷き、それを目にしたクーリアは大きく息を吐いた後にユーティリアに声をかけた。
「……そう言う訳だ、ダンジョン攻略を続行する」
「……承知、した」
クーリアの言葉を受けたユーティリアは瞳に涙の雫を溜めながら応じ、クーリアはそんなユーティリアを愛しげに一瞥した後に中央の分岐を見据えながら号令を発した。
「……中央分岐を進撃して守護獣の部屋を目指すっ!!警戒は厳重にしろっ!!」
「「了解!!」」
クーリアの号令を受けた女戦士達は鋭くそれに応じた後にジュディとジルを先頭に中央分岐を進み始め、魔導士達はその背中を見送りながら口を開いた。
「我々が退路を確保しておいてやるっ!!ありがたく思えよっ!!」
「……屑どもがっ」
「……構わん、足手纏いが居なくなっただけ幸いだ、あの連中の事を心配している余裕等無さそうだからな」
魔導士の身勝手な言葉を聞いたヴァルが呪詛の言葉を吐いているとクーリアが冷めた口調でヴァルに声をかけ、ヴァルは重々しく頷いた後に暗いダンジョンの先を見据えながら言葉を続けた。
「……鬼が出るか蛇が出るか、ですね」
「……全くだな」
ヴァルの言葉を受けたクーリアは小さく肩を竦めながら相槌を打ち、その後に前方を見据えながら進む傍らを進むユーティリアに声をかける。
「……すまないな、我々女戦士はこう言う連中なんだ」
「……指揮官の貴女が決した事だ、私はそれに従うだけだ……それと……ありがとう」
クーリアに声をかけられたユーティリアは返答した後に躊躇いがちに礼を告げ、クーリアは微かに頬を緩めながらダンジョンの奥に向けて前進を続けた。
マスタールーム
女戦士傭兵隊が分岐点に到達してから攻略を再開するに至る一連の流れはダンジョンルームでも確認されており、一連の流れを確認したアイリスは感心した面持ちで前進する女戦士達を見ながら口を開いた。
「ふーん、バルコンゲレードねえ、中々面白い魔法があるのねえ」
「バルコンゲレードは魔力を籠めた特殊な音波を放ちその反響から周囲の状況を把握する特殊な捜索魔法です。魔力音波と言うかなり特殊な力が必要でしかも捜索精度を確保する為に2人以上の魔導士が必要な上に現在いる階層の事しか把握出来ないと言う制約がありますが現在いる階層の解析能力はスキャニングを上回り設置型トラップの概略まで把握する事が出来ます」
アイリスがダイナとバブスの使用した特殊捜索魔法バルコンゲレードに対する感想を呟いているとマリーカがバルコンゲレードに関する説明を行い、それを聞いたアイリスは何度か頷きながら呟きを続けた。
「……こんな捜索魔法があるなら対策を施す必要があるわねえ、今回の件に対する対処が終わったら早速実施するわ」
((……やっぱり対策、あるんだ))
アイリスの呟きを聞いた一同がアイリスの規格外の能力を改めて確認して何とも言えない表情を浮かべる中、呟き終えたアイリスは不敵な笑みを浮かべて前進を続ける女戦士傭兵隊を見ながら言葉を続けた。
「……対策の前に彼女達と御対面をする必要があるわね、戦力としては申し分無さそうだから出来れば取り込めたら良いのだけれど」
「……そうだな」
アイリスの言葉を聞いたミリアリアは頷きながら相槌を打ち、その後に冷たい眼差しで分岐点で待機する魔導士と2人の軽装歩兵を見ながら問いかけた。
「……それで、こいつらはどうする気だ?」
「……言うまでも無いでしょ?御対面の準備を始めましょう」
ミリアリアの問いかけを受けたアイリスは事も無げな口調で応じながら立ち上がり、その様子を目にしたミリアリア達は魔導士達を冷たい眼差しで一瞥した後に立ち上がった。
第一階層・分岐点
ダンジョン攻略を再開して進撃を再開したクーリア達を見送った魔導士と軽装歩兵達は分岐点にて焚き火を焼べながら無聊を託ち、軽装歩兵を携行食の腸詰肉をかじりながらのんびりと呟いた。
「獣女どもはどの辺だろうなあ」
「……さあなあ、案外化物ども相手に盛ってたりしてなあ」
軽装歩兵の呟きを受けた同僚は皮袋の水で喉を潤した後に野卑た笑みと共に返答し、その会話を聞いていた魔導士はロッドを磨く手を止めて侮蔑の表情で呟きをもらした。
「……野蛮なケダモノどもなら有り得ない話では無いな、全く嘆かわしい限りだこんな辺鄙なダンジョンで過ごさなければならないとは」
魔導士の言葉を聞いた軽装歩兵達は肩を竦めながら頷く事で同意した後に食事を再開し、それを確認した魔導士が磨き終えたロッドを傍らに置いて携行食の腸詰肉に手を伸ばしていると鼓膜が奇妙な声に揺さぶられた。
……オ望ミナラ我々ガ遊ンデヤルゾ……
「……おい、気を抜き過ぎだぞ、ふざけた事を抜かすな」
その声を聞いた魔導士は顔をしかめながら軽装歩兵達に声をかけたが、軽装歩兵達は怪訝そうな面持ちで魔導士を見詰め返すのみであり、その反応を目にした魔導士が戸惑いの表情を浮かべていると一同の鼓膜が再び揺さぶられる。
……聞コエ無カッタノカ?遊ンデヤロウト言ッテイルノダ……
再び聞こえた声は地の底から聞こえて来たかの様に低く冷たく、その声を受けた魔導士と軽装歩兵達は背筋に悪寒を走らせながら得物を手に弾かれた様に立ち上がった。
「……だ、誰だっ!!姿を現せっ!!」
……ヨカロウ……
魔導士がロッドを構えながら虚勢の叫びをあげていると背後から声がかけられ、それを受けた魔導士達は恐る恐る背後に視線を向けて恐怖と驚愕に顔を歪めて絶句してしまった。
……ドウシタ?オ望ミ通リ姿ヲ現シテヤッタノダゾ……
絶句してしまった魔導士達の視線の先では死霊騎士、クノーベルスドルフが第二死霊連隊に所属する多数のスケルトン達やボーンマジシャン達と共に佇んで魔導士達を見据えており、異様な光景を目の当たりにした魔導士は恐怖に大きく目を見開きながら喘ぐように口を開いた。
「……ば、馬鹿な、い、いつの間に」
バタンッグシャッ
バタンッグシャッ
魔導士が喘ぐように呟いていると背後で何かの蓋が閉じる様な音と何かが潰れる様な音が立て続けに響き、その異様な音を耳にした魔導士がこれ以上無い程に目を見開きながら身体を硬直させていると更なる異音が鼓膜に入り込んで来た。
グチャッグチャッグチャッグチャッグチャッ……ゲェェェップ
グチャッグチャッグチャッグチャッグチャッ……ゲェェェップ
何かを噛み砕く様な湿り気を帯びた身の毛もよだつ音の連続した音に続いて放たれた大きなゲップの音と鼻孔を蝕む錆びた臭い、魔導士がそれらにガタガタと震えながら背後に視線を向けるとそこでは2つの宝箱、ミミックが巨大な舌で血糊と肉片を舐め取っている光景が繰り広げられており、それを目にした魔導士は声にならない悲鳴をあげながら腰を抜かして尻餅をついてしまった。
「……ひっ……ひっ……ひいぃっ」
声に鳴らない声をあげながらジタバタともがく魔導士の頭上からパラパラと小さな石片が降り注ぎ、魔導士は見いられた様に天井に視線を向けた。
天井では2体のブラッディマンティスが紅の大鎌を構えて魔導士を見詰めており、その複眼に捉えられた魔導士が恐怖の余り声を喪い金縛りにあった様に身体を硬直させる中、跳躍して襲いかかった。
ブラッディマンティスの影が魔導士の影に重なると同時に迸った血糊がダンジョンの壁に飛び散り、一拍の間を置いた後に変わり果てた姿となった魔導士の残骸がダンジョンの床に転がった。
クノーベルスドルフはその光景を淡々とした様子で一瞥した後に部隊を展開させて分岐点を封鎖し、クーリア率いる女戦士傭兵隊は退路が遮断されたままダンジョンの奥へと進む事を余儀無くされてしまった。
ダンジョンを進んだ末に到着した本来ある筈の無い分岐点、それを確認したクーリアはダンジョンの異様さを確信したが目付役の強制によりダンジョン攻略の続行を余儀無くされた。
一方アイリスは分岐点でのクーリア達の行動によりクーリア達との会談を決意してクーリア達にダンジョン攻略続行を強いた目付役達を抹殺し、女戦士達は退路を遮断された状態で魔王との邂逅に向けて前進する事を余儀無くされた……