戦雲
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大陸歴438年霧の月三十日ヴァイスブルクの森・ロジナ候国軍傭兵集団
陣営再建部隊壊滅にともない実施された緊急軍議から2日が経過し、リステバルス王国から派遣される援軍が盛大な出陣式に見送られて出陣した霧の月三十日、援軍出陣の報告を受けたロジナ候国軍ヴァイスブルク派遣軍は新たな行動を開始した。
傭兵集団に所属している小、中隊規模の傭兵隊複数を統合した大隊相当の規模の捜索集団2個からなる部隊はヴァイスブルク男爵領国から派遣された道案内役に誘導されてヴァイスブルクの森に踏み込み、踏み込んだ傭兵集団はダンジョンに潜り込んだメッサリーナとアグリッピーナから伝えられたダンジョンの概略位置めがけて前進を続けていた。
前進を続けた一団は順調に進撃を続けていたがその途中で時折行き倒れになったロジナ候国軍の将兵の遺骸と遭遇しており、陣営再建部隊壊滅の噂を聞いていた傭兵達の一部に微かな動揺が生じ、大休止の最中にそれを報された第一集成捜索集団を率いるマスケラーノ・スコットはその報告を笑いとばしながら口を開いた。
「ふん、腑抜けきった正規軍の甘ちゃんどもだからこそ、こんな無様な姿を晒しているのだ、我々傭兵達にかかればヴァイスブルクの残党程度容易く葬り去る事が出来る!!この牝犬の様にな」
スコットがそう言いながら手にした魔力封じの鎖を引き上げるとスコットの足下に扇情的な下着のみを纏った姿で四つん這いにさせられていた道案内役、旧ヴァイスブルク伯国軍第十騎士団副団長のユーティリア・フォン・ヴェルガーの上体が強制的に引き上げられ、それを目にした各傭兵隊長が野卑た笑みを浮かべる中、スコットはユーティリアの銀糸のロングヘアを乱暴につかんで無理矢理顔を引き上げさせた後に殴打の後の痣が痛々しく刻みつけられたユーティリアに語りかけた。
「おい、牝犬、お前の御主人様は誰だ、しっかり言えたら御褒美をくれてやるよ」
スコットの言葉を受けたユーティリアは答えの代わりに唾を吐きかけける事で応じ、ユーティリアの唾を受けたスコットは嗜虐の笑みを浮かべながらユーティリアの鳩尾に膝頭を叩き込んだ。
「……ッガッ……ハッ」
「……やれやれ頭の悪い牝犬だなあ、おい、お前らこの気位ばかり高い駄犬にたっぷりお仕置きをしてやれっ!!」
スコットは膝蹴りを浴び苦悶の表情を浮かべて蹲るユーティリアの頭を足蹴にしながら楽し気に命じ、それを受けて立ち上がった数名の傭兵隊長に蹲るユーティリアを連れて行く様命じた。
数名の傭兵隊長はユーティリアを無理矢理立ち上がらせると近くの藪に連れて行こうとしたがそれを制する様に無言で目を閉じていた褐色の肌の野性味溢れる美女、女戦士小隊を率いる歴戦の女戦士、クーリア・タンクが無言で立ち上がって彼等の前に立ち、その様子を目にしたスコットは小さく舌打ちをした後にクーリアに声をかけた。
「クーリア、何のつもりだ」
「……この大休止が終了すれば我々の部隊は他の者達と共に散開前進してダンジョンを目指す、その為の道案内に彼女を貰いたい」
「……ふん、好きにするが良い、その牝犬が欲しいなら最初からそう言えば良い物を」
クーリアはスコットの問いかけに対して淡々とした口調で応じ、それを受けたスコットが鼻白んだ表情で返答するとクーリアは無言で一礼した後にユーティリアと彼女の周りに立つ3人の傭兵隊長の所に歩み寄った。
「……どけ」
歩み寄ったクーリアは低い声で3人の傭兵隊長達に声をかけ、傭兵隊長達がその声に気圧された様にユーティリアの鎖を手放しながらユーティリアから離れた。
支えを失ったユーティリアは膝から崩れ落ちそうになったが懸命にそれを堪えた後に自ら鎖を手にしてクーリアに差し出し、クーリアは躊躇う様な間を置いた後に差し出された鎖を受け取り、スコット達に小さく一礼した後にユーティリアを促して待機している自隊の所に向けて歩き始めた。
「……礼は言わない」
「……当然だ、私達にそれを求める資格等ハナから存在していない」
歩き始めて暫くした後にユーティリアは小さく呟き、それを聞いたクーリアは相槌を打った後にユーティリアの傍らに並びかけて痛々しい痣が刻み込まれながらもそれでも美しいユーティリアの美貌を見詰めながら言葉を続けた。
「……ただ、惜しいと思っただけだ、気高く美しき戦士がクズどもに汚し壊されてしまうのがな……私単独であれば躊躇う事無くヴァイスブルク伯国に参加していた、等と言うのは狡過ぎるな」
「……ああ、狡過ぎだな、だが、副団長をしていれば部下を率いる者の苦悩はある程度察する事は出来る」
クーリアの言葉を受けたユーティリアは静かな口調で答え、その後に瞳に涙の雫を溜めながら言葉を続けた。
「……貴女は狡い女だ、だが、私も同じ位、いや、もっと狡い女だ……貴女のさっきの言葉を聞いただけで貴女にすがり付きたくなってしまった、私は狡くて、弱い女だ」
「……弱く等無い、私は女戦士だ、弱い者に声はかけない気高く美しきエルフの騎士よ」
涙を溜めながら弱々しく微笑むユーティリアに対してクーリアは迷い無き口調で応じながら痛々しい痣が刻み込まれたユーティリアの肢体を不器用ながらも優しく抱き締め、ユーティリアは泣き笑いの表情になりながら言葉を続けた。
「……貴女は、本当に狡い女だ、こんな事をされたら、依存してしまいそうだ」
「……依存してくれ、気高く美しきエルフの騎士よ、せめて私の側にいる間だけはお前を護りたい」
ユーティリアの泣き笑いの言葉を受けたクーリアはユーティリアを抱き締める手に更に力を込めながら囁きかけ、ユーティリアは躊躇いがちにクーリアの背中に手を廻してクーリアの身体を抱き締め返した。
戦いの結果勝者と敗者としてしか出逢う事が出来なかったユーティリアとクーリア、運命に歯噛みしながら互いを抱き締め合う2人の傍らの木の梢には1羽のナイチンゲールが止まっており、ナイチンゲールは静かに抱き合う2人を見詰めていた。
ダンジョン・マスタールーム
運命に歯噛みしながらも抱き合うユーティリアとクーリアの姿はナイチンゲールに擬態した使い魔によってマスタールームのアイリスの下に送られており、採取した山葡萄を搾ったジュースを飲みながらそれを見詰めていたアイリスは空になったコップをテーブルに置きながら呟きをもらす。
「ふーん、あの女戦士は結構面白そうねえ、傭兵だし雇ってみても面白いかもしれないわね、機会があればの話だけと」
(……アイリス様なら無理矢理にでも機会を作ってしまいそうですね)
アイリスの傍らでその呟きを聞いたリリアーナはそんな事を考えながら空になったアイリスのコップに新たな山葡萄のジュースを注ぎ、アイリスが頷いた後にコップを手に取っていると出入口のドアが軽くノックされ、続いてドア越しにミリアリアの声が聞こえて来た。
「アイリス、私だ」
「入って来てミリア」
ミリアリアの声を聞いたアイリスが表情を綻ばせながら言葉を返すと出入口のドアが自動的に開かれ、開かれた出入口から入って来たミリアリアは足早にアイリスとリリアーナがいるテーブルの近くに歩み寄ると表情を鋭くさせながら口を開いた。
「……ロジナの連中がまた動き出したとの事だがどうなっている?」
「現在2個大隊相当の傭兵の混成部隊みたいな連中がヴァイスブルクの森に侵入して進撃中よ、壊滅した陣営の跡地には目もくれずに此方に向けてまっしぐらに前進中だからあの2人からダンジョンの概略位置を報告されたと見て間違いなさそうね」
ミリアリアの言葉を受けたアイリスは進撃する敵性部隊の概略が記された地図の魔画像を表示させながら現在の状況を伝え、それを聞いたミリアリアはメッサリーナとアグリッピーナの今までの行動を思い出して顔をしかめながら言葉を続けた。
「……正に身中の虫だな、このまま泳がせ続けて大丈夫か?」
「……平気よ、こいつらが出現したから暫く狩猟や採取は中止してダンジョンに引き籠る事になるからあの2人は脱出出来なくなるし、何か仕掛けてきたら叩き潰せば良いだけよ、何をしてくるか大体の見当はついてるから対策も出来てるし」
アイリスはそう言いながら不敵な笑みを浮かべ、ミリアリアはメッサリーナやアグリッピーナとの顔合わせの後にアイリスから手渡され現在は居室にて保管している新たな使役獣のカプセルを脳裏に思い浮かべながら問いかけた。
「対策と言うのは私に渡された新たな使役獣のカプセルの事だよな?言われた通り私の居室に保管しているが携行しなくて大丈夫なのか?」
「ええ、問題無いわ、あの子はちょっと特殊な子だしあの2人が何かした時に出現する様にしてるからミリアの部屋で保管しておいて問題無いわ、無理言って申し訳無いけどもう暫く保管しといて頂戴」
ミリアリアの問いかけを受けたアイリスが申し訳なさそうに言葉を返しているとリリアーナが山葡萄のジュースを満たしたコップを空いた席の所に置き、ミリアリアはその席に腰を降ろすとアイリスの申し訳なさそうな声に少し慌てながら言葉を返した。
「き、気にするなアイリス、あ、あんな小さなカプセル1つ保管する程度大した労力では無いからな、このダンジョンを作って貰ってからのアイリスの尽力に比べると比べるのすら烏滸がましくなる程些細な事だ」
「あら、尽力するのは当たり前よ、だってこのダンジョンはミリアを護る為に造ったダンジョンだもの」
「……っそ、それは……そのっ……そうかも知れないが」
アイリスの返答を受けたミリアリアは顔を赤らめながらゴニョゴニョと呟き、アイリスはそんなミリアリアを愛しげに見詰めながら言葉を続ける。
「あたしにとってはこれ位大した事は無いんだけど、もしミリアがそれじゃあ申し訳無いって思ってるなら何か御褒美を貰おうかしら?」
「……っぐ……ぜ、善処する」
「……フフフ、楽しみに待ってるわね」
(……フフフ、何時も通りのアイリス様とミリアリア様ですね)
アイリスが続けた言葉を受けたミリアリアは真っ赤な顔で返答し、傍らでそのやり取りを見ていたリリアーナが内心で頬を緩めているとアイリスが表情を改めながら歩き始めたユーティリアとクーリアの魔画像を示して言葉を続けた。
「……連中はそろそろ偵察隊を出発させるみたいなんだけどその中に彼女がいたの」
「……っ!?……第十騎士団副団長のユーティリア・フォン・ヴェルガー殿だっ!……彼女も虜囚の辱しめを受けていたのかっ!」
アイリスの言葉を受けたミリアリアは我に返るって魔画像に映るユーティリアの姿に歯軋りし、アイリスは頷いた後に彼女の傍らを進むクーリアを示しながら更に言葉を続けた。
「……副団長さんはもっと酷い目に合ってたんだけど彼女が道案内をさせるって言う名目で自分の部隊の所に連れて行き始めたの」
「……彼女は女戦士の傭兵だな、女戦士達は敵味方の区別無く戦いの巧者に敬意を抱いて接する者達が多い、ユーティリア殿は剣技と魔法を巧みに操る勇士だから好ましく思ったのだろう」
アイリスの説明を聞いたミリアリアはクーリアを見ながら言葉を返し、それを受けたアイリスは興味深げにクーリアを見詰めながら言葉を続ける。
「……ふーん、ますます興味が湧いたわね、彼女達なら雇ってあげても良いわ、ダンジョンに突入して来たらスカウトしてみるわね」
「……まあ、アイリスならそう言うだろうな、あの2人より遥かに信頼出来るから私も賛成だ」
アイリスの言葉を受けたミリアリアは穏やかな微笑みと共に言葉を返し、アイリスは誇らしげに微笑みながら頷いた。
黄昏・ダンジョン周辺・捜索集団女戦士傭兵隊
アイリスとミリアリアが接近する傭兵集団に対して意見を交わした数時間後、他の部隊と共に偵察の為本隊に先んじて前進していたクーリア率いる女戦士の傭兵隊が遂に目標とするダンジョンを発見した。
ダンジョンの入口は茜色の陽射しを浴びながら暗い口を開き、クーリアは木陰に女戦士達を散開させてダンジョンの様子を窺いながら傍らのユーティリアに声をかけた。
「……この森には他にダンジョンは無いんだな?」
「……ああ、ダンジョンが近隣に存在する場合はその地の魔力濃度が相当に濃い場合だが、そもそもヴァイスブルクの森の魔力濃度はダンジョンが自然発生する程高くは無いのでこのダンジョンが目標のダンジョンと見て間違い無いだろう、正直言うとこうしてダンジョンを目の当たりにしている今でさえ半信半疑と言うのが本音だ」
クーリアの問いかけを受けたユーティリアはダンジョンを見据えながら返答し、クーリアは頷いた後に散開する女戦士達に出入口の監視の継続を命じ様としたがそれを制する様に目付役として同行していたロジナ候国軍の下級将校が護衛の軽装歩兵分隊を引き連れて姿を現し、クーリアを見据えながら居丈高な口調で命令を発した。
「何をしているのだっ!!目標のダンジョンを見つけたのだろう?直ちにダンジョンに突入しヴァイスブルクの残党どもを一網打尽にするのだっ!!」
「……我々の受けた命令はダンジョンへの突入では無く捜索だ、ダンジョンを発見したならば監視を行いつつ本隊の到着を待つべきだ、そもそもダンジョンを発見した場合は封鎖監視を行いつつ増援を待つのが基本方針では無いのか?」
下級将校の居丈高な命令を受けたクーリアはにべも無い口調で返答し、それを聞いた下級将校は見下す様な視線でクーリアを見ながら言い放った。
「ふんっ!あの命令は正規軍のみに通達された命令だ我々傭兵集団はあの命令に縛られる必要等無いっ!!さっさっとダンジョンに突入してヴァイスブルクの残党どもを一網打尽にするのだっ!!そうすれば下らぬ噂に怯える事も無い、恩賞は思いのままだぞっ!!兵は拙速を尊ぶとも言うでは無いかっ速やかなる無敵の進撃で敵を叩きのめすのだっ!!」
「……断る、我々の目的はあくまで本隊に先行してのダンジョンの捜索だ、このダンジョンがどの様な状況なのかも分からずに突入する等愚の骨頂だ」
自分に酔った様な口調で命じた下級将校に対してクーリアは淡々とした口調でそれをはね除け、下級将校は怒りに顔を赤黒くさせたが直ぐに余裕の笑みを浮かべてクーリアの傍らの女戦士の装束を着たユーティリアを見ながら言葉を続けた。
「……良いだろう、ならば、もう道案内役は不要だな、我々はこの捕虜の訊問を行うが構わんな?ダンジョンに行くと言うのなら連れて行っても構わんぞっんんっ?」
「……貴様」
「……クーリア殿、私の事には構うな、貴女は指揮官として部隊の安全を第一に考えろ」
下級将校の勝ち誇った宣言を受けたクーリアが顔をしかめながら小声で呟いていると、ユーティリアが気丈な笑みと共にクーリアに声をかけ、クーリアは返答する前に散開する女戦士達に視線を巡らせた。
クーリアの視線を受けた女戦士達は涼し気な笑みを浮かべながら頷き、それを確認したクーリアは傍らのユーティリアに視線を戻して口を開いた。
「……勘違いするなエルフの騎士よ、今はお前も我々の一員なのだ、女戦士は決して仲間を見捨てはしない」
「……っ」
クーリアの迷い無き言葉を受けたユーティリアは絶句してしまい、クーリアはそんなユーティリアに軽くウィンクした後に下級将校に向けて口を開いた。
「……良いだろう、ダンジョンに突入するとしよう」
「……ふん、最初から素直に従えば良いのだ、さっさと突入しろ」
クーリアの言葉を受けた下級将校は小さく鼻を鳴らしながらダンジョン突入を命じ、それを受けたクーリアはダンジョン突入の為に散開していた女戦士達に集結するよう命じた。
命令に押し切られダンジョン突入を目指す女戦士の傭兵達、歴戦の彼女達はまだ知らない、異形のダンジョンにて数奇な邂逅が待ち受けている事を、潜り込んだ間者の情報に従いダンジョンを目指す傭兵集団、勇む彼等はまだ知らない、自分の達を待ち受けるダンジョンの異様さと悪辣さを、そして女戦士達をダンジョンに突入させた張本人達哀れな彼等はまだ知らない、自分達の命日が今日この日だと言う事を……
大陸歴438年霧の月三十日、魔王アイリスの復活と度重なる襲撃により混迷を深める戦局に新たな動きが生じた。
ロジナ候国の傀儡国家リステバルス王国より派遣された援軍が盛大な出陣式に見送られて出征の途につく一方、ロジナ候国軍ヴァイスブルク派遣軍はヴァイスブルク男爵領国がダンジョンに潜り込ませた間者の報告したダンジョンを目指して傭兵集団を出撃させ、出撃した傭兵集団の先鋒部隊はダンジョンを発見し、同行していた目付役によって異形のダンジョンに突入する事を強いられた……
ミリアリア「今度の使役獣は中々出て来ないんだね」
アイリス「ええ、潜り込んでるネズミちゃん達が行動を開始した時のカウンタートラップとして用意したのよ、そうだわ、クイズでこの使役獣のモチーフが何か当てて貰おうかしら」
ミリアリア「いや無理だろそれ」
アイリス「勿論ノーヒントじゃ無理よ、だからヒントよ、この怪○は直接戦闘系では無くて特殊系や撹乱系に分類される怪獣よ、そして分かる人には分かるスペシャルヒント、結構これと縁があるわ」
ミリアリア「……大人の頭が入る位の大きさの青いポリバケツ……いや、おい、これで分かる読者ホントにいるのか?」
アイリス「もし分かった人がいたら作者にメッセージを送って頂戴、正解したら次の使役獣リクエスト権か、好きなカップルやキャラのサービスシーンリクエスト権の内希望するどちらかを進呈するわ、サービスシーンは正解者様にメッセージで直接送付するわ、締切は10月1日の24時までよ」
ミリアリア「……いや、これ、送ってくれる読者いるのか?」