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持久態勢

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大陸歴438年霧の月二十八日・ダンジョン・マスター階層・多目的ルーム


ヴァイスブルク城にてスティリア達が対策を進められリステバルス王国にもその話が及んでいた頃、ダンジョンでは長期戦に備えた準備が進められていた。

ミリアリア達はロジナ候国軍の活動が活発化するまでに少しでも多くの食糧を備蓄すべくダンジョン周辺で狩猟や採取に明け暮れ、一方ダンジョンではダンジョンが封鎖された場合に備えた施設が製作されようとしていた。

多目的ルームには陣営再建部隊襲撃の際に救出された者達(メッサリーナとアグリッピーナを除く)が集合し、整列した彼女達の前にはアイリスがリリアーナ、マリーカ、アイリーンと共に佇んでいた。

「今日から貴女達にも作業に参加してもらう事になるわ、宜しく頼むわね」

アイリスが整列した一同を見渡しながら声をかけると皆は頷く事でそれに応じ、それを確認したアイリスは頷いた後にフィリアスに視線を向けて口を開いた。

「ここにいない2人は元気にしているかしら?」

「……それは……元気か元気で無いかと言えば、元気、なのでは無いでしょうか?」

アイリスの問いかけを受けたフィリアスは複雑な表情と共に返答し、アイリスが意味深な笑みと共に頷いているとラーナディアが憮然とした表情で口を開いた。

「……窮状を救って頂いたにも関わらず平然とあの様な行動を取れる、正直な話として私には少々理解出来かねます」

「……ラナならそう言うだろうな、私としてもほぼ同意だが」

ラーナディアの辛辣な言葉を受けたフィリアスが苦笑しながら呟くと整列した一同は同意する様に大きく頷き、その様子を目にしたアイリスは楽し気に笑いながら言葉を続けた。

「元気そうだったら良いわ、それじゃあ今日から貴女達にも食糧備蓄の為の作業を手伝って貰う事にするわね……先ずは、ダンジョン・クリエイティブ」

アイリスは皆に告げた後に言霊を紡ぎながら右手の指を軽く鳴らし、その後に笑顔で皆を見渡しながら言霊を続けた。

「持久用設備として農業用エリアと生け簀用エリアを開設したわ、最初は生け簀用エリアに向かうから放流する為の稚魚を持って行って頂戴」

アイリスはそう言いながら多目的ルームの出入口近くに並べられた岩魚や虹鱒、鱒等の稚魚が入れられた木桶を示し、一同が頷いた後一度解散して木桶を手にしてもう一度集合すると頷きながら右手の指を軽く鳴らした。

アイリスが指を鳴らすと同時に皆の足元に五芒星の魔方陣が出現して淡い輝きを放ち、その光が収まると一同は多目的ルームから満々と水を湛えた生け簀が並ぶ生け簀用エリアへと転位していた。

「……ここが生け簀用エリアよ、桶に描いているマークに対応したマークの生け簀に魚を放流して頂戴」

アイリスは微笑しながら驚きの表情で周囲を見渡すフィリアス達とエメラーダ達に声をかけ、フィリアス達とエメラーダ達は物珍し気に周囲を見ながら手にした桶に描かれているマークと同じマークが描かれている生け簀に稚魚を放流していった。

稚魚を放流し終えた一同は空になった木桶を集積した後に再びアイリスの所に集まり、アイリスは皆を生け簀の脇にある管理棟に案内した。

管理棟に入った皆は先ず床に描かれたかなりの大きさの五芒星に迎えられ、アイリスはそれを示しながら口を開いた。

「この魔法陣は水の循環用の魔法陣になるわ、定期的に魔力を充填する事で常に新撰な水が生け簀に入り、古くなった水を排水される様になっているわ、生け簀用エリアでの仕事の第一はこの魔法陣への魔力充填よ、魔力が充填しきったら輝く様になっているわ、完全に充填したら1週間くらいは大丈夫だけど一応1日に1回充填して貰う事になるわ、ここの管理はヴァイスブルクの達にして貰うつもりだから貴女達に充填して貰うわね」

アイリスにそう言われたフィリアスは頷いた後にラーナディア達を促して魔法陣と相対すると魔法陣に向けて手を伸ばし、その後に瞳を閉ざして意識を集中させ始めた。

フィリアス達が意識を集中し始めて暫くすると魔法陣が淡い輝きを放ち、それを確認したアイリスは瞳を開けたフィリアスに向けて口を開いた。

「生け簀用エリアでの活動は魔法陣への魔力充填と清掃や魚への餌の準備、大きくなった魚の漁獲等をして貰う事になるわ、餌にはミミズや芋虫なんかの他に料理に使った食材の残りを脱臭、乾燥、粉砕して丸めた物を定期的に生け簀に投入して貰うわ」

アイリスの指示を受けたフィリアス達は頷く事でそれに応じ、それを確認したアイリスは頷くと部屋の片隅にある小振りの魔法陣を示しながら言葉を続けた。

「……あの魔法陣は転移用の魔法陣よ、あの魔法陣に移動して少量の魔力を注ぐと多目的ルームに戻れる様になっているわ、皆が戻ったら連絡するからそしたらその魔法陣を使って戻って来て頂戴」

「……了解しました」

アイリスの言葉を受けたフィリアスは整った設備に驚きながら返答し、アイリスは笑顔で頷いた後にエメラーダ達を集合させて転位魔法を発動させた。

一同が転位魔法によって転位させられたのは黒土の広大な広場と柵に囲まれた牧草地と畜舎によって構成される牧場が存在する広大なエリアであり、その光景を目にしたエメラーダ達が驚きの声をあげているとアイリスがエリアに関する説明を始めた。

「ここが農業用エリアになるわ、黒土の部分が小麦や野菜を生産する耕作地で、牧場では生け捕りにした鹿や猪なんかを育てる予定にしているわ、作業に関してはこの子達にしてもらう予定よ」

アイリスがそう言いながら指を小さく鳴らすと20体程の2メートル程度の大きさのロックゴーレムが姿を現し、その光景を目にしたエメラーダは苦笑を浮かべながらアイリーンに話しかける。

「……こう言う場面を続け様に見せられると、アイリス様が魔王なのだとつくづく実感致しますわ」

「……わたくしも最初の内は驚かされ通しでしたわ、エメラーダ様も直に馴れますわ」

エメラーダの言葉を受けたアイリーンは懐かしむ様な笑みと共に応じ、エメラーダが苦笑と共に頷いているとアイリスが畜舎の傍らに建てられている建物を指差しながら言葉を続けた。

「……あの建物が管理棟よ、基本的な作業はあそこでしてもらう事になっているわ」

アイリスはそう言うと皆を管理棟に案内し、室内に入室すると生け簀エリアの時と同じ様に巨大な五芒星の魔法陣が一同を迎えたがその大きさは生け簀エリアの魔法陣を一回り程上回っており、エメラーダは魔法陣を一瞥した後にアイリスに問いかけた。

「生け簀エリアの魔法陣よりも大きい物ですわね、農業用エリアだと散水や日照管理等が必要な為でしょうか?」

「……あら、だいぶ話が分かってるのね」

エメラーダの踏み込んだ質問を受けたアイリスは感心した様子で呟き、その会話を聞いていたアイリーンは微笑を浮かべながらアイリスに声をかけた。

「エメラーダ様は魔導学院時代に魔力農耕学を専攻されておりました、とても優秀な成績を修めていて、試験用魔力農耕プラントの製造運営プロジェクトも提唱されておりましたわ」

「あ、アイリーン様、わ、私は特に大した事はしておりませんわ、プロジェクトにしましても他の皆様と共に進めた上で私が旗頭として提唱させて頂いただけですし」

アイリーンの言葉を聞いたエメラーダは恥ずかしげに頬を赤らめながら抗議の声をあげ、そのやり取りを見ていたアイリスは穏やかな表情で口を開いた。

「基礎的な事が理解出来ているなら話は早いわ、この魔法陣は農業エリアで散水、日照管理、擬似的な昼夜変更、肥料の製造、作業用ゴーレムへの魔力供給等を行う為の物よ、このエリアでの仕事はこの魔法陣への魔力充填が第一になるわ生け簀エリアに比べて魔力の消費が激しいから魔力を充填しきっても3日程度で涸渇しちゃうわ、生け簀エリアと同じ様に1日に1回魔力を充填して貰う事になるわ」

「畏まりました、それでは早速魔力充填を開始致しますわ」

アイリスの言葉を受けたエメラーダはそう答えるとイレーナ達を促して魔王陣への魔力充填を開始した。

エメラーダ達が魔力充填を開始して暫くすると魔法陣が淡く輝いて充填が完了した事を告げ、それを確認したアイリスは頷いた後にエメラーダ達を見ながら言葉を続けた。

「後はゴーレム達の作業の確認が主な仕事になるわ、今の所は主食の小麦の生産に傾注するけど収納魔法で収納してた野菜の種も置いておくから興味がある人は育てても構わないわ、あの転位用の魔法陣を使えば多目的ルームに戻れる様になっているから夕方頃に帰って来ればいいわ」

「畏まりました、アイリス様」

アイリスの言葉を受けたエメラーダがそう言いながら頭を下げると、イレーナ達も同じ様に深々と頭を垂れ、アイリスは微笑して頷くと幾つかの野菜の種をエメラーダに渡した後にリリアーナ、アイリーン、マリーカと共に転位用の魔法陣を利用して多目的ルームへと戻った。

「……これで持久態勢もかなり整ったわね」

多目的ルームに戻ったアイリスは小さく伸びをしながら呟き、それを聞いて頷いたアイリーンに視線を向けると表情を改めながら言葉に続けた。

「……同盟者フェデラートゥスの魔龍が貴女の存在を告げたと言う事は今後リステバルス王国軍も介入して来る可能性があると言う事よ、大丈夫かしら?」

アイリスの言葉を受けたアイリーンは思案する様に暫しの間沈黙し、その後に凄味のある微笑を浮かべながら口を開いた。

「……御心配大変ありがたく恐縮致しますわアイリス様、ですが御懸念は無用ですわ、既にエメラーダ様も含めた皆と意見を交わし、我々の結論は出ております、私達はリステバルス皇国亡命政権、リステバルス王国なる国は知りませんし、その国の輩がアイリスの前に立ちはだかるなら徹底的に叩き潰すまでですわ、私達リステバルス皇国亡命政権の主はアイリス様ただ御一人ですわ」

アイリーンは凄味のある微笑を浮かべながら迷い無き口調でそう告げた後に典雅な動作で一礼し、それに続く様にマリーカがアイリーンと同じ様な凄味のある微笑と共に口を開いた。

「……ヴァイスブルク伯国亡命政権につきましても思いは同じですアイリス様、既に救出された者達を除いた一同と意見を交わし総意を得ております、今回紛れ込みし敵の間者に対する生殺与奪は全てアイリス様に御一任致します、間者は既に蠢動を始めておりますが今回救出された者達がその動きに唆された場合もその者の生殺与奪を御一任致します。無論我々の一部が唆された場合も同様です。我々ヴァイスブルク伯国亡命政権にとってもアイリス様はただ御一人の主です」

マリーカも迷い無き口調でそう宣言するとアイリーンと同じ様に深々と頭を垂れ、アイリスは苦笑を浮かべながら口を開いた。

「……もう、ホントに貴女達エルフや狐人族は義理堅いのね、取りあえず期待してるわよ、それじゃあ何時の様に現在の世界情勢を教えて貰おうかしら」

アイリスの言葉を受けたアイリーンとマリーカは頷く事でそれに応じ、リリアーナは微笑みながらその様子を見詰めていたが胸元のシャドウアメジストが淡く輝いたのに気付くと表情を改めつつアイリスに声をかけた。

「アイリス様、あの二人がまた動き始めました」

「……本当に仕事熱心な奴等ね、使い魔の映像を見せて頂戴」

リリアーナの報告を受けたアイリスは呆れた様に呟いた後にリリアーナに命じ、リリアーナはそれに従いアイリスの目の前に使い魔から送られて来た魔画像を具現化させた。

具現化された魔画像には射落とした雉を回収しているメッサリーナとアグリッピーナにイリナとリリナの姿が映し出され、アイリスが小さく指を鳴らして音声も聞き取れる様にするとメッサリーナの声が響き始めた。

「……納得出来ません、何故皆あんな得体の知れない蝙蝠女に媚び諂うんですか?あんな怪しい女に尻尾を振って名ばかりの地位を貰って喜ぶなんて、恥ずかしく無いんですか間違ってます絶対にっ!!」

「……話をするのは勝手だが、今は手を動かせ、こうして狩猟や採取が出来る日はもう多くは無いだろうからな」

メッサリーナからアイリスに対する不審の言葉を受けたイリナは取り付く島も無い口調で応じながら射落とした雉を袋に入れ、その傍らではアグリッピーナが射落とした山鳩を袋に入れながらリリナに話しかけていた。

「……私も不思議、何故皆はあんな女に従うのか疑問、あの女は所詮誰かの操り人形その誰かの思惑を探りもせずに盲信するなんて、危険」

「……私やイリナだけでなくマリーカ様をはじめとした他の皆を救ってくれた、それだけで十分よ」

アグリッピーナの言葉を受けたリリナは淡々とした返答でそれを斬り捨てながら弓を構えて梢から飛び出した雉を射落とし、それらの光景を目にしたアイリスは皮肉な笑みを浮かべて口を開いた。

「……あらあら、だいぶ苦労してるわねえ、まあ、でも1つだけ当たっているわね、だって今のあたしはミリアの為ならなんでもするミリアの操り人形だもの」

「……結果的にミリアリア様の方が翻弄されていますわよね、ヘタレ気味ですし……」

「……思いっきり尻に敷かれてますよね、無自覚の内に、多分ミリアリアは一生涯まともにアイリス様を操れないと思いますよ、ヘタレですから……」

「……宜しいのでは無いでしょうか?アイリス様はヘタレな所も含めてミリアリア様をお慕いしていらっしゃるので……」

アイリスが呟きの途中から始めたミリアリアへの惚気をアイリーン達は微笑みながら感想をもらし、その頃アイリーン達にヘタレ認定されてしまったミリアリアは泉に釣糸を垂れながら突然クシャミを連発していた。



ロジナ候国の要請を受けたリステバルス王国が動き始めていた頃、ダンジョンでは激化するであろう戦いに備えて持久態勢が整えられていた。

アイリスは農業用エリアと生け簀エリアを作製して食糧の自給自足態勢を整え、その一方で使い魔達を利用してダンジョンに潜り込んだ間者の動向を探っていた……


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