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間諜

ブックマークが270を突破しました。今後も本作を宜しくお願いします。

大陸歴438年霧の月二十四日・ダンジョン・多目的ルーム


ダンジョンに突入した陣営再建部隊残党が異形のダンジョンに喰らい尽くされた翌日、マスタールームでアイリスと共に一夜を過ごしたミリアリアは一度自室に戻り軍装を整えた後にマスタールームに戻りアイリスと共に朝食を摂った後に救出した女エルフ達と狐人族の女達との顔合わせの為に合流したリリアーナと共に多目的ルームへと向かっていた。

アイリスは何時もと違い魔力を宿した片眼鏡サイクロプスを右目に装着しており、何時もと異なる姿に違和感を抱いていたミリアリアは多目的ルームに向かう道すがらにアイリスに問いかけた。

「……珍しいなそれを装着しているなんて」

「……フフ、ちょっとしたイメチェンよ、どうかしら?」

ミリアリアの問いを受けたアイリスは悪戯っぽく笑いながら応じた後にミリアリアを見詰めながら問いかけ、何時もと異なる片眼鏡姿のアイリスに新鮮味を感じていたミリアリアは頬を仄かに赤らめながら口を開いた。

「……い、良いと思うぞ、何時ものアイリスもとても綺麗だが、それを着けた姿も新鮮味があって良い」

「……フフ、嬉しいわ、だったらアクセサリー用に1つ作って時々かけようかしら」

ミリアリアの素直な感想を受けたアイリスは上機嫌な様子で呟き、相変わらずと言えば相変わらずなそのやり取りを目にしたリリアーナが微笑みを浮かべている間に一行は多目的ルームの前に到着した。

多目的ルームの前にはメイド服姿のイリリアスとリスティアが控えており、アイリス達が到着した事に気付いた2人がかなりぎこちない動きで一礼してアイリス達を迎えるとアイリスは鷹揚な笑みと共に口を開いた。

「御苦労様、メイド服はあたしの所有物であると言う証よだからそんなに鯱張る必要は無いわよ、肩肘張らずにやって慣れていけば良いわ」

アイリスの言葉を受けたイリリアスとリスティアは苦笑と共に頷き、アイリスはそれを確認した後に2人に多目的ルームへのドアを開けさせてミリアリアとリリアーナを伴って多目的ルームへ入室した。

アイリス達が多目的ルームに到着すると既に集合していたヴァイスブルク伯国亡命政権とリステバルス皇国亡命政権の面々に加えて陣営再建部隊襲撃の際に救出された女エルフ達と狐人族の女達がアイリス達を出迎えたが、女エルフ達の内2名は明白な不審の目でアイリスを見据え、アイリスが平然とその視線を受け流しながら皆の前に移動して一同と向き合うとカッツバッハとサララが号令を発した。

「「敬礼!!」」

カッツバッハとサララの号令と同時にマリーカとアイリーンが深く一礼して残る者達が一斉に敬礼し、救出された者達もそれに続いたが先程アイリスを不審の視線で見据えていた2人は渋々と言った様子が明らかであった。

「アイリス様、お助け頂き感謝致します。わたくしはエメラーダ・ド・トラジメーノと申します」

「私はイレーナ・ド・カンネー、エメラーダ様の護衛騎士をしておりました、エメラーダ様や皆を救って頂き、感謝の念に耐えません」

「リアンヌ・ド・ティベリウスと申します。エメラーダ様の侍女を致しておりました」

「オルテンシア・ド・ドミティアヌスですわ、リアンヌ様と共にエメラーダ様にお仕えさせて頂いておりました」

「ヒルデガント・ド・カスティリオーネです、リアンヌ様達と共にエメラーダ様にお仕えしておりました」

「レリーナ・ド・マントヴァです。エメラーダ様の侍女としてお仕えさせて頂いております」

「アントーネ・ヴェスパシアヌスです、リステバルス皇国第五騎士団に所属し、小隊長を拝命しておりました」

「リリーネ・ド・アウレリアヌスです。アントーネと同じく第五騎士団にて小隊長を拝命しておりました」

「アレッサ・ド・グラディウスです、第五騎士団に所属しておりました」

「リリサーナ・サリッサであります。アレッサと共に第五騎士団に所属しておりました」

「カーリア・ド・ゲルマニクスです、第五騎士団に所属していました」

「キュリアース・ド・ブリタニクスです、同じく第五騎士団に所属しておりました」

「リューシェンカ・イリリウムです、神殿騎士団に所属していました」

「カティアナ・ド・パンノニア、同じく神殿騎士団所属であります」

「ジェリアナ・モエシアであります、リューシェンカやカティアナと同じく神殿騎士団に所属しておりました」

「……神殿騎士団は王都の神殿を守護する騎士団です、リステバルスの女性騎士の大半は第五騎士団か神殿騎士団に所属しています、神殿騎士団には聖魔法や回復魔法に秀でた騎士が多く所属していました」

エメラーダ以下15名が自己紹介を終えるとアイリスの傍らに控えたリリアーナが最後の3名が告げた所属部隊に関する補足説明を行い、アイリスが頷きながら女エルフ達に視線を転じると女エルフ達も自己紹介を始めた。

「フィリアス・フォン・ヴィトゲンシュタインです、第十騎士団で中隊長を拝命しておりました」

「ラーナディア・シュナウファー、同じく第十騎士団所属でフィリアス様の中隊で小隊長を勤めていました」

「イスティリス・フォン・バルクマンです。第九騎士団に所属していました」

「サリアナ・エルンスト、ティリスと同じく第九騎士団所属していました」

「ラスティア・フィッシャーです、第五騎士団に所属していました」

「ディリアーナ・フォン・コッセル、同じく第五騎士団所属になります」

フィリアス以下6名の女エルフ達は淀み無く自己紹介を終えたが、残る2名は不審の視線でアイリスを見据え、アイリスが平然とその視線を受け流していると暫しの沈黙を経た後に不承不承と言った様子で口を開いた。

「……メッサリーナ・ラグーサ、補充新兵」

「……アグリッピーナ・マルモン、同じく補充新兵」

最後の2人、メッサリーナとアグリッピーナは短く告げた後に貝の様に押し黙ってしまい、室内に微妙な空気が漂い始める中、アイリスが口を開いた。

「当ダンジョンにようこそ、あたしはこのダンジョンの主アイリスよ、このダンジョンは来る者拒まず去る者追わずが基本よ、取りあえず身体をゆっくりと休めてから身の振り方を決めると良いわ」

「……何が身の振り方を決めると良いわ、よ」

アイリスがそう告げた瞬間メッサリーナが吐き捨てる様な口調で呟き、マリーカはそれに対して方眉を吊り上げながら口を開きかけたのをアイリスが目配せを送って制しているとメッサリーナはアイリスを睨み付けながら言葉を続けた。

「あたし達に他の選択肢なんてある訳無いじゃないっ!!親切面なんかして宣わないで恩を着せて奴隷として扱うって本音を言ったらどうなのっ!!あたし、あんたみたいな善人ぶった女大嫌いなのよっ!!」

「……普通に考えておかしすぎる、いきなりこんな所を個人が用意出来る筈が無い、絶対になんらかの組織が関与している筈、貴女は所詮中間管理職程度、そんな程度の者しか出してこない連中を信じれる筈無い、それと、私もメッサリーナの意見に同意する、組織の力を過信している貴女は底が浅くて好みじゃない」

激昂してアイリスに対する暴言を告げたメッサリーナに続き、アグリッピーナが淡々とした口調でアイリスへの不審を告げ、2人の暴言の連発に周囲が固まる中、アイリスは平然とした様子でメッサリーナとアグリッピーナの頭で輝くアレキサンドライトの髪飾りに目をやりながら口を開いた。

「随分素敵な髪飾りをしているのねえ」

「……っ気安く見ないで頂戴!!他に選択肢が無いから仕方無くあんたに使えてやるけど、これだけは渡さないわっ!!」

「……そう、これはとても大事な物、あいつ等にも渡しはしなかった、貴女なんかには絶対に渡さない」

アイリスの言葉を受けたメッサリーナとアグリッピーナは嫌悪感を隠そうともせずにそれをはね除け、アイリスはそれに頓着せずに皆を見渡しながら言葉を続けた。

「……まあ、そう言う訳だから暫くはゆっくりとして頂戴、それ以外の者については定められた予定通りに狩猟や採取に向かって貰うわね」

アイリスの言葉にマリーカが固い表情を浮かべているとメッサリーナとアグリッピーナが殊更に大きな音をたてて立ち上がり、アイリスが視線を向けるとメッサリーナはアイリスを睨み付ける様に見ながら口を開いた。

「同情なんかいらないわよっあたしとアグリッピーナも狩猟と採取に向かうわ、ただし、あたし達だけで行かせて貰うわ」

「……貴女達、いいかげんに」

「構わないわ、それじゃあ宜しく頼むわね」

アイリスは余りに傍若無人に振る舞うメッサリーナとアグリッピーナに対してマリーカが怒りに震えながら声をあげかけるを制した後にメッサリーナとアグリッピーナに声をかけ、メッサリーナとアグリッピーナは無言でアイリスに背を向けた。

「……他に選択肢が無いからあんたにこき使われてやるわ、だけど覚えておきなさい、あたしは決してあんたを信じないし、あんたやあんたの上役に対して媚びへつらう気は無いわ」

「……メッサリーナの言う通り、私やメッサリーナは他の連中みたいに傷を舐めあったりしないし、奴隷として使役されたとしても心まで売り渡しはしない」

メッサリーナとアグリッピーナは一方的にそう告げると無言で退室し、アイリスは小さく肩を竦めた後に改めて皆に解散を告げた。


マスタールーム


解散を告げたアイリスは狩猟と採取に出発するミリアリア達を転位魔法でダンジョンの外へと送り出し、その後にリリアーナを従えてダンジョンルームへと向かった。

ダンジョンルームの前ではマリーカとアナスタシアにアイリーンとクラリスが立っており、それに気付いたアイリスは強張った表情のマリーカに向けて微笑みながら口を開いた。

「……さっきの事なら気にしなくて良いわよ」

アイリスの言葉を受けたマリーカは沈痛な面持ちで頷き、アイリスは慰める様にマリーカの肩を軽く叩いた後に皆を促してマスタールームに入室した。

「……それで、貴女達はどう思ったのかしら?」

アイリスは皆をソファーに座らせた後に皆を見渡しながら問いかけ、皆が唐突な問いかけに戸惑いの表情を浮かべる中アイリーンが小さく頷きながら口を開いた。

「……やはり、アイリス様もおかしいとお考えになった様ですわね」

アイリーンの言葉を聞いたマリーカ達はハッとした表情を浮かべ、アイリスは不敵な微笑を浮かべながら言葉を続けた。

「……ヴァイスブルク陥落の際の混乱を考えれば、補充新兵と名乗れば他の皆と面識が無くても不審に思われる可能性は低いわ、ラステンブルクの連中にちょっかいをかけたりしてたからロジナの連中も何らかの不審に感じたんでしょう、だから万一に備えてスパイを紛れ込ませたんじゃ無いかしら?陣営に連行されてた時もあの2人は他の捕虜達に比べるとだいぶ元気そうだったし、何よりおかしかったのはあのアレキサンドライトの髪飾りね」

アイリスはそう言いいながら装着していたサイクロプスを外し、その様子を目にしたアイリーンは得心の表情で頷きながら口を開く。

「その片眼鏡にはその意味があったのですね、ミリアリア様へのアピールだと思っておりましたわ」

「勿論それもあるわ、ミリアは良いって言ってくれたから、時々アクセサリーとして着けるのも良いわね」

アイリーンの言葉を受けたアイリスはミリアリアの称賛の言葉を思い出して相好を崩しながら返答し、その後に表情を改めつつ言葉を続けた。

「狐人族のお姫様すら娼奴隷に貶めて悦に入ってる連中よ、下っ端兵士が何れ程抵抗した所であんな如何にも値が張りそうな代物を取り上げ無い筈が無いわ、そして調べてみたら案の定の代物だったから対抗措置は用意させて貰ったわ」

アイリスはそう言いながら使役獣用のカプセルを掲げ、それを目にしたマリーカは弱冠ヒキ気味になりながら問いかけた。

「……あ、アイリス様、それは?」

「……フフフ、新しい使役獣よ、この子が万一の場合に備えた御守りと言う訳」

マリーカの問いかけを受けたアイリスは不敵な笑みと共に返答し、マリーカは頷いた後に真剣な表情で言葉を続けた。

「……と言う事はあの2人は暫く泳がせておくと言う事でしょうか?」

「あの2人、あたしに殺される為には何でもするみたいよね、本来あたしは犬がどれだけキャンキャン吠え様がどうもしないんだけど、あの2人はこのダンジョンに敵対する事を選んだ、つまりミリアに仇なす存在になっちゃったわ、だから遠慮無く潰させて貰うわ、あたしを侮りきったあいつらが何かをしかけてきたその瞬間に、吐き気を催すくらい徹底的にね……」

マリーカの問いかけを受けたアイリスは魔王に相応しい凄惨すてきな笑みと共に返答し、マリーカ達が深く一礼する事でその言葉を受け入れたのを確認すると皆を見渡しながら言葉を続けた。

「今後ロジナの連中はこのダンジョンやヴァイスブルク皇国亡命政権及びリステバルス皇国亡命政権の存在を認知した上で攻撃をしかけてくる筈よ、敵の動きが活発化する前に狩猟や採取を行い出来る限り食糧の備蓄に努めて頂戴、ダンジョンクリエイティブの能力で農作業用の階層を製作するから作業要員の選抜もお願いするわね」

アイリスの指示を受けたマリーカとアイリーンは真剣な表情で頷いた後にアナスタシア達やリリアーナと共に退室し、アイリスはそれを見送った後に小さく指を鳴らした。

アイリスが指を鳴らすと木陰に潜んで周囲を警戒するメッサリーナと何者かと魔法通信を行うアグリッピーナの様子が映し出された魔画像が虚空に浮かび、アイリスは魔王に相応しい凄絶な笑みと共にその様子を眺めていた。



ダンジョンに突入した陣営再建部隊残党壊滅の翌日、アイリスは救出した女エルフ達や狐人族の女達と顔合わせを行った。

過去の顔合わせと異なり女エルフ達の一部がアイリスへの不審と反感を示したがその者達は敵が紛れ込ませた間諜であり、それを看破したアイリスは彼女達を泳がせつつ新たな衝突に対する備えを進めた……


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