惨劇・陣営再建部隊残党編・饗宴
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ダンジョン周辺・残党再建部隊残党第二集団
ダンジョンに突入した第一集団が喰らい尽くされ、救援部隊との連絡を企図して派遣された伝令が護衛隊ごと闇神官リリアーナ率いる部隊によって抹殺されてから数刻、ダンジョン周辺で待機する第二集団は急変する状況に気付かぬまま無為に時を過ごしていたが太陽が中天を過ぎた頃になると戸惑いが生じ始めていた。
「……遅い、幾ら何でも遅過ぎる」
指揮官の騎士はそう言うとスキャニングによって作製されたダンジョンの地図を見ながら渋面を作って呟き、軽装歩兵隊を指揮する小隊長はそれを聞くと同じ様な表情で頷きつつ口を開いた。
「……楽しんでいるかとも思いましたが少々時間がかかり過ぎですね、如何致しますか?」
「……もう少し様子を見よう、それで出て来なければ突入する、部隊を待機させておけ」
小隊長の問いかけを受けた騎士は暫し思案した後にその様に告げ、小隊長は頷いた後に軽装歩兵達と魔導士達に待機を命じた。
待機を命じられた軽装歩兵達と魔導士達が集合してから暫く時が経過したものの、ダンジョン入口から第一集団が出てくる気配は無く、騎士は渋面のまま号令を発した。
「今に至るまで第一集団から連絡は無い、我々は只今よりダンジョンに突入して第一集団の捜索を実施する各員警戒を怠るな」
騎士の号令を受けた軽装歩兵達と魔導士達は緊張を漂わせた表情で頷き、それを確認した騎士は第二集団にダンジョンへの突入を命じた。
突入を命じられた第二集団は軽装歩兵10名と魔導士1名からなる尖兵集団が突入してダンジョン入口周辺を確保し、それに続いて残りの者達が騎士に率いられてダンジョン内に突入した。
突入した第二集団は尖兵集団を先頭にダンジョン内を進んでいたが、第一集団の将兵にも迎撃に出てくる筈のモンスターも遭遇する事は無く、小隊長は周囲に視線を巡らせながら傍らを進む騎士に声をかける。
「……何も、いませんね」
「……どうやら第一集団の連中が片付けた様だな……見た所順調に攻略を進めていた様に見えるのだが」
小隊長の言葉を受けた騎士が戸惑いの表情で呟いていると前方を進む尖兵集団の足が止まり、それに気付いて足を止めた騎士と小隊長の所に伝令が駆け寄り口を開いた。
「……報告しますっ!前方に三叉路の分岐点が存在しておりますっ!」
「馬鹿なっ!?分岐点だとっ!?」
伝令の予想外の報告を受けた騎士は驚愕の声をあげ、伝令は頷いた後に表情を明るくさせながら報告を続けた。
「そして三叉路の中央にて第一集団を発見しましたっ!!取得した宝箱を集積し祝宴を行っている様です、宝箱は10を超えていますっ!!」
「そうかっ!」
「……恐らく予想以上に広大なダンジョンだったので踏破に時間がかかったのでしょう、碌な探索が出来なかった魔導士達に教育していて夢中になってしまったのでは?」
伝令から第一集団の無事を知らされた騎士が弾んだ声をあげたのに続いて小隊長が肩を竦めながら声をかけ、騎士は頷く事で同意した後に苦笑しながら言葉を続けた。
「……行為自体は誉められた物では無いが……まあ、無事な様だし良しとするか、尖兵集団は待機せよ、我々が合流した後に第一集団と合流する」
騎士は苦笑しながら呟いた後に伝令に指示を伝え、それを受けた伝令が敬礼の後に駆け出したのを確認した後に第二集団に前進を命じた。
命令を受けた第二集団は前進を開始し、本来存在する筈の無い三叉路の分岐点直前で待機する尖兵集団と合流した。
尖兵集団と合流した騎士が尖兵集団を指揮していた軍曹の指差す先に目をやると、大量の宝箱を集積して車座になっている第一集団の姿があり、それを目にした騎士は苦笑して肩を竦めた後に第一集団との合流を命じた。
騎士の命を受けた第二集団が分岐点を通り過ぎて車座になって祝宴を楽しんでいる第一集団の所に到着すると、車座になった彼等の中央で下着だけの姿にさせられて第二集団に背を向けた形で立たされているイリリアスとリスティアの姿があり、それを目にして足を止めた騎士は粘いた視線でイリリアスとリスティアの臀部を一瞥した後に声をかけた。
「随分と楽しんでいる様だな、だが、少々羽目を外し過ぎだな」
指揮官である騎士の言葉を受けた第一集団だったが車座に座る彼等も立たされているイリリアスとリスティアもピクリとも動かず、その反応を目にした騎士は不快に顔を歪めながら言葉を続けた。
「どうした?まさか指揮官の言葉を聞き忘れる程に羽目を外したのか?此方を向けっ!!」
指揮官の怒りの言葉を受けたイリリアスとリスティアがゆっくりと騎士の方を振り向き、2人に対して更に言いつのろうとした騎士は2人の顔を目にして言葉を喪ってしまった。
下着姿と言う魅惑的な姿のイリリアスとリスティアだったが振り向いた彼女達には瞳が存在せず代わりにポッカリと空いた眼窩のみが在り、彼女達の眼窩に見据えられた騎士や第二集団の軽装歩兵達や魔導士達が絶句したまま思わず数歩後退りしていると車座に座っていた第一集団の面々が無言で立ち上がって騎士や第二集団に対して顔を向けた。
第一集団の面々の顔にも瞳は存在せずに暗い眼窩のみが存在しており、多数の眼窩に見据えられてしまった小隊長は青ざめた顔で同じ様な表情を浮かべている騎士に震える声で話しかけた。
「……こ、これは、ど、どう言う事でしょうか?」
「……わ、分からん、だが、撤退した方が良さそうだな」
騎士が青ざめた顔で答えているとその言葉を嘲笑う様に後方から無数の軍靴の靴音が響きわたり、その響きを耳にした騎士や小隊長や第二集団の将兵は顔面蒼白になりつつ後方に視線を向けた。
彼等が視線を向けた先ではロジナ候国やラステンブルク伯国の軍装を纏ったボーンウォーリアーやスケルトンの集団が三叉路の左右の分岐から出現しており、退路が遮断されかけている状況を目の当たりにした騎士は慌てて号令を発した。
「そ、総員戦闘配置!!尖兵集団は殿となれっ!!急げっ!!」
騎士の命令を受けた軽装歩兵達と魔導士達は少なくない混乱を見せながらも何とか配置を整え、焦燥に駆られながらその様子を見守っていた騎士は配置が整えられたのを確認するともどかしげに号令を発した。
「総員、とつげ」
クケケケケケケケケッ
騎士が発しかけた号令を覆い尽くす様に耳障りな哄笑が左右から聞こえ、騎士達が青ざめた顔で左右に目をやると宝箱、ミミック達がけたたましい哄笑をあげていた。
「……な、何なのだ……このダンジョンは」
余りに異様な事態の連続に騎士が愕然とした表情で呟くとそれを合図とした様に左右のミミックが哄笑と共に第二集団に向けて飛びかかり、ミミックに捕まり生きたまま貪り喰われる軽装歩兵達が迸らせた身の毛がよだつ絶叫がダンジョンに木霊する中、ボーンウォーリアーの集団が混乱する第二集団に向けて雪崩れ込んだ。
ミミックとボーンウォーリアーの集団に雪崩れ込まれた第二集団がなす術無く蹂躙され始めると同時に瞳が存在していないイリリアスとリスティアと第一集団の将兵達がスケルトンへと変化し、正体を明かしたスケルトン達はカタカタと歯を鳴らしながら粗末な造りの剣を掲げて崩壊した第二集団目掛けて突入していった。
……何ト脆イ連中ダ、コレガ罠トモ見抜ケヌトハナ……
後詰めの骸骨軽騎兵隊とボーンマジシャン隊を指揮して分岐点に到着した死霊伯爵は侮蔑の呟きと共にミミックとアンデッド部隊によって阿鼻叫喚の地獄絵図の中に叩き込まれた第二集団を眺め、ダンジョン内には第二集団の将兵達があげた断末魔の絶叫とミミックの哄笑等が幾重にも木霊し続けていた。
マスタールーム
「「……う、うわぁ」」
メイド服に着替え終ってマスタールームに戻ったイリリアスとリスティアは、ミミックとアンデッド部隊によって蹂躙される第二集団の様相に思わずドン引きしながら乾いた声をあげ、アイリスはその様子を一瞥した後に満足気な笑みと共に口を開いた。
「……これで雑魚どもは一掃出来たわね」
「……ああ、その様だな」
アイリスの呟きを聞いたミリアリアは蹂躙される第二集団の様子に若干引き気味になりながら相槌を打ち、アイリスはダンジョンクリエイティブの能力を使ってイリリアスとリスティア用の2人部屋を製作した後に軽く身体を伸ばしながら言葉を続けた。
「それじゃあ今夜はゆっくりと休んで救出した捕虜達との顔合わせは明日の朝食の時にしましょう、あたしとミリアは今夜はここで夕食を摂るわ」
アイリスの言葉を受けた一同は頷く事で応じたがその際にマリーカとアナスタシアが目配せを交わし合い、それに気付いたアイリスが促す様にマリーカを見詰めるとマリーカは表情を改めながら口を開いた。
「……アイリス様、明日の顔合わせの際なのですが、御不快を被ってしまうかも知れません」
「……救出した捕虜の一部にアイリス様に不審の念を抱いている者がいるのです、私やマリーカ様も面談しましたがかなり興奮していて我々の話に耳を傾けてくれません」
マリーカの言葉に続いてアナスタシアが厳しい表情で補足説明を行い、それを聞いたアイリスは小さく肩を竦めながら口を開いた。
「……まあ、仕方無いわねと言うよりも魔王のあたしを不審に思うのは当然と言えば当然よ、だから大して気にしないわよ」
アイリスはそう言いながら微笑み、その様子を目にしたミリアリアは暫し躊躇った後に口を開いた。
「……ア、アイリス、私は感謝しているからな」
「……フフフ、あたしは別に気にしてないわよミリア……でもありがとね、ミリアに感謝して貰えるなら本望よ」
ミリアリアの言葉を受けたアイリスは嬉しそうに微笑みながら返答し、その後に一連のやり取りを目にして安堵の表情を浮かべたマリーカに向けて微笑みながら言葉を続けた。
「そう言う訳だから貴女達が余りに気に病む必要は無いわ、ただ、その娘達がこのダンジョンにとってどう言う存在になるかについては見極めさせて貰うわね」
「はい、当然の御話です、あたし達はどの様な結論に行き着こうともアイリス様が見極め決した方針に従います」
アイリスの言葉を受けたマリーカは威儀を正しながら返答し、アイリスは頷きつつ魔画像に目をやって第二集団が皆殺しにされたのを確認した後に皆に解散を告げた。
第一集団の帰還が遅れた事を不審に感じてダンジョンへと突入した第二集団、彼等はダンジョンを進んで行ったが地獄のダンジョンが用意していた地獄絵図の饗宴によって全滅してしまう。
ダンジョンに突入した陣営再建部隊を残党を鎧袖一触にて殲滅したアイリスだったが、マリーカより救出したヴァイスブルク伯国の捕虜に対する懸念が伝えられた……