惨劇・陣営再建部隊残党編・遮断
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ダンジョン・マスタールーム
唐突に阿鼻叫喚の地獄絵図と化したダンジョン第1階層からアイリス達が待つマスタールームへと転位させられたイリリアスとリスティア、突然の事態に驚く2人に対してミリアリアがあられもない姿のイリリアスに毛布をかけ、その後に戸惑う2人に対して手短に概況を伝えた。
「……ま、魔王のダンジョンですか?」
「……に、俄に信じ難い話ではありますが、そうであるならば納得出来ます、この地獄の様なダンジョンの正体について」
話を聞かされたリスティアとイリリアスは予想の斜め上過ぎる内容に戸惑いながらも先程目の当たりにしたダンジョンの異様さから納得の言葉を発し、その後に躊躇い勝ちに一連のやり取りを見詰めているアイリスに向けるとアイリスは不敵な笑みと共に口を開いた。
「あたしが魔王アイリスよ……それにしても理解が早くて助かるわ、今までこのダンジョンや陣営で捕まえて来た奴等があたしを見ても頭の緩い獣人程度にしか見てくれなかったのよね」
「……愚かですね……少しでもこのダンジョンの異様さを見れば事態の異常さは理解し得る筈です、それ位の事一介の魔導兵小隊長の私にも理解出来ます、恐らくその様な結末を迎えたのは恐らくは敗北を認められずアイリス様の御姿に侮りの念を覚えた故の末路では無いでしょうか」
アイリスの言葉を受けたイリリアスはロジナ候国の捕虜達の末路に関して容赦無い感想をもらし、それを聞いたアイリスは楽し気な表情で言葉を続けた。
「……フフフ、中々面白いわね貴女達、このダンジョンは来る者拒まず去る者追わずが基本概念よ、だから貴女達も好きにすれば良いわ、ただし、貴女達はミリアの国を滅ぼしたロジナ候国軍に所属していたわ、このダンジョンに残る選択を選んだ場合はあたしの所有物と言う立ち位置になって貰うわ、ロジナ候国がしていた様な扱いはしないけどヒエラルキーについては最下層と言う事になるわ」
アイリスはそう告げた後に答えを促す様にイリリアスとリスティアを見詰め、イリリアスとリスティアは互いを見詰め合い頷き合った後にアイリスの前に跪いた。
「……それが貴女達の答えだと言う訳ね、もう一度だけ聞くわ、後悔しないわね?」
2人の行動を目にしたアイリスは真剣な眼差しで跪く2人を見ながら改めて問いかけ、2人は躊躇う事無く頷いた後に口を開いた。
「……私は無力でした、私を護ろうとしてくれたイリリアスお姉様が目の前で壊されていくのを黙って見ている事しか出来ませんでした、イリリアスお姉様を壊そうとしたロジナ候国軍に戻る気はさらさらありません、イリリアスお姉様と共にイリリアスお姉様を助けて下さったアイリス様の所有物になります」
「……私1人の力ではリスティアさんを護れませんでした。あのまま助けて頂けなければ私もリスティアさんも壊され尽くされていた筈です。だからこそリスティアさんと共にアイリス様の所有物となります。ロジナ候国軍に所属していた私達が他の皆様と同じ立場を望む等烏滸がましい事は理解し納得しております。リスティアさん共々所有物として存分にお使い下さいアイリス様」
リスティアとイリリアスは迷い無い口調で自分達の決意を告げ、それを受けたアイリスは頷く事で応じた後に2人用のクラシカルなデザインのメイド服を魔法で精製して更衣するよう命じて脱衣所に向かわせ、その後にマリーカとアイリーンを交互に見ながら口を開いた。
「……そう言う訳で彼女達をあたしの所有物としてこのダンジョンに滞在させるわ、怨敵であるロジナ候国軍に所属していた彼女達を迎え入れる事に関して異論があるかもしれないけど納得して頂戴」
「……愚問ですわアイリス様、我がリステバルス皇国亡命政権はアイリス様の御温情と御配慮があればこそ成立し三国同盟を締結させて頂く事が出来ました。この様な些末な事態に関してアイリス様の意思に意を唱えるつもり等毛頭ございませんわ」
「……ヴァイスブルク伯国亡命政権につきましても意見は同じですアイリス様、アイリス様の御温情と御配慮、その2つによってのみあたし達は存続を許され三国同盟にも参加させて頂いております。この程度の決定に際して大恩あるアイリス様の意思に意を唱えるつもりはありません」
アイリスの言葉を受けたアイリーンとマリーカは即座に言葉を返し、アイリスは頷きながら陣営再建部隊残党が派遣した伝令と護衛の一団が映し出された魔画像を具現化させた。
「……新手がダンジョンに突入してくるまでもう少し時間があるからその前にこいつらを殲滅してしまいましょう、リリアーナこいつらを殲滅して来なさい、ブラッディマンティス4体にスケルトン1個小隊、ボーンマジシャン1個分隊を与えるわ」
「畏まりました、アイリス様」
アイリスが魔画像を示しながらリリアーナに出撃命令を下すとリリアーナは典雅な動作で一礼した後に立ち上がり、そのやり取りを目にしたアイリーンは微笑みながら口を開いた。
「アイリス様、意見具申を許して頂けますでしょうか?」
「構わないわ、だけどそれは不要かも知れないわね、だって今からリステバルス皇国亡命政権にリリアーナの護衛派遣を命じるつもりだったもの」
アイリーンの言葉を受けたアイリスは悪戯っぽく笑って返答しながらクラリスに視線を向け、クラリスは深く一礼して謝意を示した後に立ち上がってリリアーナの所に歩み寄るのを確認しながら言葉を続けた。
「それじゃあ、出撃して貰うわね、周囲の状況は監視していて異常があれば逐次報せるから心置き無く襲撃に専念して頂戴」
アイリスの言葉を受けたリリアーナとクラリスは頷く事でそれに応じ、アイリスは不敵な笑みを浮かべながら転位魔法を発動させた。
伝令護衛隊
第一集団が地獄のダンジョンに喰らい尽くされていた頃、陣営があった場所に向かい救援部隊との合流を目指していた伝令及び護衛隊はその道すがらに採取した果実を喰らいながら小休止をしていた。
「……運が無いな、ダンジョンの連中は宜しくやってる筈なのによ」
「……そうかもしれんな、だが一番最初に友軍と接触出来ると言うのも運が良い話だぞ」
「……それもそうだな」
果実を食べ終えた軽装歩兵達が会話を交わしていると近くの藪からカサカサと揺れ始め、それに気付いた軽装歩兵達が腰の得物に手を添えながら身構えていると藪から、黒い神官風の装いを纏った狐人族の美女が姿を現し軽装歩兵達を目にして笑みを浮かべつつ口を開いた。
「……良かった御無事だったんね」
「……な、何だお前は?」
突然現れた美女の安堵の言葉を受けた伝令は戸惑いの表情と共に問いかけ、美女は柔らかな笑顔で一礼した後に言葉を続けた。
「御主人様の命を受け皆様をお探ししておりました」
「我々を?……フム、確かに娼奴隷になっている狐人族どもは捜索任務に適しているな」
美女の言葉を受けた伝令は得心の表情で呟きながら美女を見詰め、美女の神官服のような衣装に刻まれた大胆なスリットとそこから覗く美脚に目を細めながら言葉を続けた。
「なかなか良い服を着せてもらっているな、相当に気に入られている様だな」
「……はい、とても敬愛すべき御主人様です、御主人様の命令ですので精一杯努力して御案内させて頂きますね」
伝令の言葉を受けた美女はニコニコしながら答え、それを受けた伝令と護衛隊の面々は安堵の表情を浮かべた後に美女を舐め廻す様な視線で見詰め始めた。
「案内すると言ったが部隊まではどれくらいかかるのだ?時間がかかるのであれば少々休んでも良いぞ」
「……ありがとうございます、ですが大丈夫ですよ、もう、迎えが到着しましたから」
伝令が粘ついた視線で美女を見詰めながら声をかけると美女はニコニコしながら返答し、それを合図とした様に周囲の藪がガザカザと激しく揺れた。
「……な、何だ今のはっ!?」
ただならぬ様子を察した伝令は血相を変えながら戸惑いの声をあげ、護衛隊を率いる軍曹が周囲を警戒しながら2人の軽装歩兵達に音のした方に向かわせる中、美女がニコニコしながら伝令に告げた。
「……安心して下さい、迎えが到着しただけですよ」
「……迎え、だと?」
「ギャアァァァァッ!!!」
伝令が美女の場違いな口調に背筋に悪寒が走るのを感じながら声をあげていると様子を窺いに言った軽装歩兵が発した断末魔の絶叫が木々の合間に響き、その声を聞いた軍曹は美女に弩を突き付けながら口を開く。
「てめえ何をした、娼奴隷の分際で」
「……ねえ、私がロジナ候国軍の娼奴隷だなんて、何時言ったの?」
軍曹の詰問を受けた美女は鋭い表情になりながら呟き、伝令と護衛隊が豹変した美女の雰囲気に思わず後退りしてしまっていると藪を突き抜けて軽装歩兵の死体をくわえたブラッディマンティスが姿を現し、美女はその光景を目にして絶句する伝令と護衛隊を冷めた眼で見据えながら口を開いた。
「私の御主人様の名を貴方達に伝える気は全くありませんが私の名は伝えておきましょう、私は闇神官リリアーナ、貴方達を地獄に案内する為に参りました」
「ほ、ほざくなっ狐女風情があぁっ!!」
美女、リリアーナの名乗りを受けた軍曹は怒声と共に弩のトリガーを操作し、弩から放たれた矢は吸い込まれるにリリアーナの双丘に向けて飛翔したが鏃がその身を突き刺す直前に黒い五芒星の魔方陣が出現した。
「ぼ、防御結界だとっ!?い、一体何時の間にっ!!詠唱等していなかった筈だっ!?」
放たれた弩の矢が出現した魔方陣によって弾かれてしまい、その光景を目にした軍曹が驚愕に目を見開き叫んでいるとリリアーナが冷めた笑みと共に胸元のシャドウアメジストを一瞥した後に口を開いた。
「このシャドウアメジストに魔障壁自動発生術式オペラハウスが組み込まれているのよ、此方が攻撃された場合に簡易的な魔障壁を自動展開してくれるの、簡易結界だけどそんなオモチャでは攻撃するだけ無駄よ」
リリアーナが説明しているとその背後の藪や木立の間から多数のスケルトンとボーンマジシャンが出現し、信じ難い光景を目の当たりにして顔を青ざめさせた伝令と護衛隊に対してリリアーナが冷めた笑みを浮かべたまま口を開いた。
「そう言う訳で、貴方達を地獄に案内してあげるわね」
「た、退避!退避!!退避!!!」
リリアーナの宣言を受けた伝令は青ざめた顔で退避を命じながら踵を返して駆け出し、軍曹と護衛隊も青ざめた顔でそれに続こうとしたが逃走し様とした方向の藪が激しく揺れ始め、それを目の当たりにして踏鞴を踏んで止まった一同が青ざめた顔で見詰めていると藪を突き抜けて新たなブラッディマンティスが姿を現した。
伝令と護衛隊が顔面蒼白になって立ち竦んでいると木立の合間や藪を通り抜けてブラッディマンティスやスケルトン、ボーンマジシャンが姿を現して一同を取り囲み、それを確認したリリアーナは静かな口調で彼等を取り囲む異形の軍勢に命じた。
「……攻撃開始、皆殺しにしなさい」
リリアーナの攻撃命令を受けた異形の軍勢は顔面蒼白の伝令と護衛隊に襲いかかり、阿鼻叫喚の地獄絵図が現出した。
「……大丈夫な様ですね」
リリアーナが繰り広げられる地獄絵図を見詰めていると傍らの木陰から姿を現したクラリスが歩み寄りながら声をかけ、リリアーナは頷いた後にクラリスと共に眼前で展開される地獄絵図を見詰めた。
地獄のダンジョンに突入した陣営再建部隊残党の第一集団が骸を晒している頃、アイリスは救援部隊との連絡の為に派遣された伝令と護衛隊を粉砕する為に闇神官リリアーナとクラリスを出撃させた。
出撃したリリアーナとクラリスはアイリスより付与されたブラッディマンティスとアンデッド部隊を指揮して伝令を護衛隊ごと抹殺し、これによって陣営再建部隊が再構築しようとした救援部隊との連絡線は完全に遮断されてしまった……