惨劇・陣営再建部隊残党編・反攻
残酷な描写がありますので閲覧は自己責任でお願い致します。
ダンジョン・第1階層、宝箱集積場
ダンジョン踏破の前祝いと称された悪趣味な宴に参加する事を強いられたイリリアスが羽交い締めにされたリスティアを護る為にリスティアの目の前で屈辱の姿を晒させられていた頃、宝箱を運ぶ事を命じられた3名の軽騎兵達は宴への参加が遅れた事を嘆きながら宝箱を集積場に運び込んでいた。
「たく、ついてねえよなあ、他の連中はお楽しみの真最中だってえのに俺達は運搬仕事だぜ」
「ぼやくなぼやくな、戻ったらその分きっちり取り戻そうぜ」
宝箱を並べ終えた軽騎兵が渋面と共にぼやくと同僚は野卑た笑みと共に応じ、その会話を聞いていたもう1人の軽騎兵が頷くのを目にした軽騎兵は気を取り直して頷いた後に言葉を続けた。
「それもそうだなそれじゃあさっさと戻るとしよう、遅れた分を取り戻さなきゃならないからな」
軽騎兵の言葉を受けた同僚達は頷く事で賛意を示し、3人が野卑な笑みを浮かべて頷き合って戻ろうとした刹那、音が聞こえた。
バタンッ
その音は短かったもののハッキリと軽騎兵達の鼓膜を揺さぶり、軽騎兵達が戸惑いの表情で視線を交わしていると再び音が聞こえた。
バタンッ
2度目の音も短くその後には沈黙が訪れた物のその音は確かに2度に渡って軽騎兵達の鼓膜を揺さぶり、軽騎兵達は戸惑いの表情で互いに視線を交わし合った。
「……聞こえたよな」
「……ああ、聞こえた」
「……一体何の音だ」
バタンッ
軽騎兵達が戸惑いの言葉を交わしているとそれを嘲笑う様に生じた3度目の音が鼓膜を揺さぶり、戸惑う軽騎兵達の胸中にゆっくりと鎌首を擡げる様に不安と恐れが浮かび上がって来た。
「……調べてみるぞ」
軽騎兵の1人が胸中で鎌首を擡げてきた不安と恐れによって頬に浮かんだ汗を拭いながら告げると残る2人の軽騎兵達が同じ様に頬や瞳に浮かんだ汗を拭いながら頷いたのを確認すると別れて異常の有無を確認し始めた。
軽騎兵は並べられた宝箱の周囲を調べたが特段の異常は認められず、軽騎兵が首を傾げていると背後からの異音が鼓膜を鷲掴みにした。
バタンッグシャッ
バタンッグシャッ
先程から聞こえて来た音とその音とほぼ同時に聞こえた何かが潰れた様な音、その音を聞いた軽騎兵は反射的に身体を硬直させてしまい、その後に軋み音が出てしまう様なぎこちない動きで後方に視線を転じた。
軽騎兵が転じた視線の先にいる筈の2人の軽騎兵達は影も形も無く、軽騎兵は胸中で完全に鎌首を擡げた不安と恐怖によって強張ってしまった顔を地面に向けた。
「……ひ、ひぃぃぃっ!!」
軽騎兵が視線を向けた地面には2人の軽騎兵の成れの果てとおぼしき喰い千切られた手や足が宝箱の傍らに転がっており、衝撃的な光景を目の当たりにした軽騎兵が悲鳴をあげながら尻餅をつき震えていると背後からあの音が聞こえて来た。
バタンッバタンッバタンッバタンッバタンッバタンッバタンッバタンッバタンッバタンッバタンッ
この短期間で何度も鼓膜を揺さぶり鷲掴みにして来た音は今回は何度も何度も何度も連続して続き止まる気配が見られず、軽騎兵はガタガタと震えながら恐る恐る背後に視線を向けた。
視線を転じた軽騎兵が見た物は側に誰も居ないにも関わらず独りでに開閉を続ける宝箱の姿であり、軽騎兵は暫く唖然とした表情でその光景を見詰めいたが開閉を繰り返す宝箱の蓋に鋭い無数の牙で覆われているのに気付くと顔を青ざめさせながら掠れた声をあげた。
「……そ、そんな馬鹿な……こ、ここは出来たばかりのダンジョンで……し、しかも第1階層だぞ……な、なんでこんな奴が……こ、こんなに沢山」
バタンッバタンッバタンッバタンッ
青ざめた顔で譫言の様に呟く軽騎兵の背後からまたもやあの音が聞こ、軽騎兵が恐怖に戦きながら背後に視線を向けると転がる喰い千切られた手や足の傍らの宝箱が独りでに無数の牙に覆われた蓋を開閉させており、その光景に言葉を喪ってしまった軽騎兵が青ざめた顔で腰を抜かしたまま後退りしようともがいているとその目の前に7つの宝箱、ミミックが並び無数の牙に覆われた蓋を開けてけたたましく不気味な哄笑を響かせた。
クケケケケケケケッ
「……ひ、ひぃっ!!……や、やめろっ!!……く、来るなっ!来るなっ!!来るなあぁぁっ!!!」
ミミック達のけたたましい哄笑を受けた軽騎兵は青ざめた顔でわめきながら震える手で軍刀を抜いて振り回し始め、その様子を目にしたミミック達はけたたましい哄笑と共に一斉に軽騎兵目掛けて飛びかかった。
薄暗いダンジョン内に軽騎兵の断末魔の絶叫と骨ごと身体が噛み砕かれる身の毛のよだつ音が暫く響き渡り、それが消えるとミミック達が飛び散った血糊を舐め取りながら展開して悪趣味な宴に耽る第一集団の退路を遮断してしまった。
第一集団
宝箱集積場に運ばれていたミミック達が擬態を解き第一集団の退路を遮断してしまった頃、当事者たる第一集団の将兵達は危機的な状況に気付かぬまま悪趣味な宴に興じていた。
将兵達はリスティアを盾に奉仕を強要したイリリアスに催淫魔法と感覚増幅魔法を施した後にリスティアの目の前でイリリアスを集団で弄び、羽交い締めにされて猿轡を咬まされたままイリリアスの屈辱的な姿を見る事を強いられたリスティアは泣きながらイリリアスの所に駆け寄ろうとして野卑た笑みを浮かべた弩砲兵達の腕の中でもがき続けていた。
「……おうおう、待ちな待ちな、もうすぐ小隊長殿が足腰立たなくなっちまうからよ、そしたらたっぷりお前さんで楽しんでやるぜ」
「……待ちきれなくて暴れるなんてとんだ好き者だなあ、あの小隊長殿も足ガクガクさせながらせがんでやがるし、とんだ好き者魔導士どもだぜ」
(……絶対許さないっ!絶対許さないっ!!絶対許さないっ!!!こいつら絶対に許さないっ!!イリリアスお姉様をこんな目に遭わせたこついらを、私は絶対に許さないっ!!)
リスティアが自分を押さえつける弩砲兵達の勝手極まりない言い草に胸中呪詛の罵りを続けながらもがき続けていると将兵達に弄ばれ尽くしたイリリアスが糸が切れた操り人形の様に力無くリスティアの目の前に倒れ伏し、それと同時に弩砲兵達が野卑た笑みのままリスティアの腕を掴んでいた手を離した。
(……イリリアスお姉様!!)
リスティアは転げる様な勢いで倒れ伏したイリリアスの傍らに駆け寄ると涙に濡れた瞳で変わり果てた姿のイリリアスを見詰め、イリリアスは虚ろな瞳でリスティアを見上げながら途切れがちの声をあげた。
「……ごめん……なさい……リスティア……さん……あ、貴女を……ま、護り……たかった……ごめん……なさい」
途切れがちの声で謝罪を続けるイリリアスの虚ろな瞳から涙の雫が溢れ、その姿を目にしたリスティアは涙を流しながら猿轡を噛み締めた。
(……悔しいっ……悔しいっ……イリリアスお姉様をこんな姿にした……こいつらが憎い……今の私には何も出来ない……誰でも良い……誰でも良いから……イリリアスお姉様を助けて……そしてこいつらを皆殺しにして……悪魔だって構わない……もし、悪魔がそうしてくれたとしたら……喜んで命を捧げます)
……オ前ノ望ミハ承知シタ、ダガ安心スルガ良イ、コノ屑ドモヲ皆殺シニスルノハ、我ガ主ノ命故ノ話ダ。オ前ヤオ前ノ想イ女ノ命ヲ対価ニスルツモリハナイ……
(……な、何、今の声!?)
リスティアが変わり果てたイリリアスの姿に涙を流しながら胸中で悲痛な叫びをあげていると突然リスティアの脳裏にその叫びに応える様な声が届き、突然の声に驚いたリスティアが思わず周囲を視線を巡らせているとその様子を目にした弩砲兵達が野卑た笑みと共に声をかけてきた。
「おいおい、いきなり物欲しげに廻りを物色か?呆れた好き者だなあおい、流石は好き者小隊長殿の部下だな」
(……空耳なの?……でも、それにしては余りにはっきりと聞こえた)
「……聞こえたのね……リスティアさんにも」
リスティアが外野の囃し立てる声を無視して戸惑いの表情を浮かべているとイリリアスが掠れた声をあげ、リスティアがイリリアスに視線を向けるとイリリアスは小さく頷きながら掠れた声を続けた。
「……私も……聞こえたわ……こいつらを……皆殺しに……してくれるって……言っていたわ……リスティアさんにも……聞こえたの?」
イリリアスの途切れ途切れの言葉を受けたリスティアは何度も頷く事でそれに応じ、野卑た笑みと共にその様子を見ていた第一集団の将兵達がリスティアを弄ぶ為に近付こうとした瞬間、ダンジョンの奥から大量の軍靴の靴音が響いて来た。
「……チッ新手のモンスターどもか、お前達はこの2人を見張っていろっ!残りの者は直ぐに隊列を整えろっ!さっさっとモンスターどもを蹴散らして宴を続けるぞっ!」
軍靴の響きを聞いた騎士は舌打ちした後に数名の弩砲兵達にイリリアスとリスティアを見張る様告げた後に残る全員に迎撃態勢を整える様命じ、それを受けた第一集団の将兵達は隊列を整えて接近して来るであろうモンスター達を待ち受けた。
軍靴の靴音は徐々にその大きさを増して行くが待ち受ける第一集団の将兵達は接近してくるモンスターをスケルトン程度と考え余裕の表情を崩さず、異様な声を聞いたイリリアスとリスティアにしても半信半疑と言った様相であった、ダンジョンの奥から軍靴の靴音の正体が姿を現すまでは……
軍靴の音を響かせながらダンジョンの奥より姿を現したのは蒼白く生気の失せた顔色をしたロジナ候国の騎士の甲冑を纏った者達の姿であり、その甲冑に印された紋章を確認したイリリアスは茫然とした表情と共に呟きをもらした。
「……だ、第七騎士団……魔龍討伐隊」
イリリアスが呟くと同時に第一集団の将兵達もざわめき始め、その様子を目にした騎士は自身も顔を青ざめさせながら部下達を叱咤した。
「……き、貴様等、狼狽えるなっ!!こ、こんな物は単なる虚仮脅しに過ぎんっ!!魔導士、攻撃を開始しろっ!!」
騎士が青ざめた顔で叫んだ叱咤と号令を受けた2名の魔導士は弾かれた様に呪文を唱えて迫り来る生気の失せた騎士達に炎の矢を放った。
放たれた炎の矢は生気の失せた騎士達に向けて突き進んだが先頭集団を捉える直前に虚空に生じた黒い炎によって消失してしまい、信じ難い光景を目の当たりにした騎士が驚愕の声をあげる。
「……な、なんだ、今のはっ!?」
……温イ、実ニ温イ、コノ程度ノ実力デコノダンジョンニ挑モウトスルトハ……
騎士の驚愕な声に応じる様に蔑みの声が響き、同時に黒い炎が飛散して禍々しさを漂わせる精緻な造りの黒い鎧を身に纏う頭蓋骨の一部と片目の眼窩が露になった腐敗した土気色の顔の騎士、死霊伯爵が姿を現し、その姿を目にしたイリリアスは一瞬唖然としたものの直ぐに達観の表情になりながら傍らのリスティアに囁きかけた。
「……死霊伯爵が第1階層にいるなんて……どうやらこのダンジョン……とんでもない地獄だったみたいね」
イリリアスの達観の囁きを受けたリスティアが同じ様な表情で頷いていると後方、つまりダンジョンの入口方面からも軍靴の靴音が響き始め、予想外の事態の連続に茫然とした将兵達が恐々とそちらに視線を向けると生気の失せた顔をしたラステンブルク伯国軍猟兵部隊の者達が能面の様な表情で淡々と近付いていた。
「……な、なんだ、これは……い、一体……どう言う事なんだ」
……簡単ナ事ダ、オ前達ハ地獄ニ、飛ビ込ンデ来タ、タダソレダケダ、ソシテ、消エルガイイ、雑魚ドモヨ……
急転する事態の流れについて行けず茫然と呟く騎士に対して死霊伯爵は蔑みの口調で告げた後に滑らかな黒曜の光沢を放つ2本のロングソードを手に取り、それを合図にした様に前進していた生気を失ったロジナの騎士達とラステンブルクの猟兵達が歩みを止めた。
歩みを止めた彼等は無表情のまま己の顔に手を伸ばすと躊躇う事無く己の顔の皮を自分自身の手で引き剥がし始めた。
異様な光景に第一集団の将兵達が愕然とした面持ちで佇んでいる間にロジナの騎士達とラステンブルクの猟兵達は自分達の顔の皮膚を引き剥がしてボーンウォーリアーと化した現在の姿を晒し、衝撃的な光景を目の当たりにして唖然として立ち竦む第一集団に向けて引き剥がした自分達の顔の皮膚を放り投げた。
皮膚を放り投げられた第一集団の将兵達は悲鳴をあげて戦き、イリリアスとリスティアを見張っていた数名は転がる様な勢いで仲間の所にかけより、死霊伯爵は混乱する彼等を蔑む様に見詰めながら攻撃を命じた。
死霊伯爵が攻撃を命じると同時にダンジョンの床から大量の骸骨の手が伸びて将兵の足首をがっしりと掴んで動きを阻害し、更なる異常事態に混乱する将兵達目掛けて死霊伯爵率いるボーンウォーリアーの大群が襲いかかった。
第一集団の後方から出現したボーンウォーリアーの集団は思わず身構えたイリリアスとリスティアの傍らを通り過ぎて混乱する第一集団目掛けて突撃を敢行し、イリリアスとリスティアは呆気に取られた表情で眼前で繰り広げられる惨劇を見詰めた。
「……一体何なの、このダンジョンは?」
……ソレニ関シテハ直接我ガ主ニ聞クガヨイ……
イリリアスが茫然とした面持ちで呟いていると死霊伯爵がイリリアスとリスティアの傍らに歩み寄りながら静かに声をかけ、リスティアが猿轡を咬まされ後ろ手に縛られた状態のまま反射的にイリリアスを護る様に間に入るのと足を止め、楽し気な口調で続けた。
……良キ気概ダナ、我ガ主モ御気ニ召ス事デアロウ……
死霊伯爵は楽し気に呟いた後に踵を返して繰り広げられている地獄絵図に突入し、リスティアが茫然とその様子を見詰めているとイリリアスが少し覚束無い手付きでリスティアの猿轡を外した。
「……おねえさ……い、いえ、小隊長」
「……お姉様で構わないわよリスティアさん、寧ろ呼んで頂戴」
イリリアスは呼びかけの途中で慌てて言い直したリスティアに対して穏やかに微笑みながら告げ、その後に目の前で繰り広げられている地獄絵図を見ながら言葉を続けた。
「……正に地獄絵図ね」
「……はい」
イリリアスの言葉を受けたリスティアは頷きながら応じ、その後にイリリアスを愛しげに見ながら言葉を続けた。
「……確かにこのダンジョンは地獄だと思います、でも、イリリアスお姉様と一緒ですから平気です」
「……こんなに汚し尽くされてしまった私でも?」
リスティアの想いの籠った視線と言葉を受けたイリリアスは仄かに頬を赤らめさせながら問いかけ、リスティアは愛しげにイリリアスを見詰めつつ大きく頷いた。
リスティアの頷きを目にしたイリリアスが微笑みを浮かべたのと同時に2人の姿が消え去り、後に残ったのは死霊伯爵率いるアンデッド部隊が第一集団を蹂躙する阿鼻叫喚の地獄絵図のみであった。
第一集団の将兵達は死霊伯爵やボーンウォーリアーの集団によってその多くが屍を晒し、傷付きながらも辛うじてその場を脱した数名も宝箱集積場にて待ち構えていたミミックの集団に襲われ生きたまま貪り喰われてしまった。
仮初めの勝利に浮かれ前祝いと称して悪趣味な宴に興じていた陣営再建部隊残党、その愚かな行為に対する反攻は速やかに実施された。
彼等自身によって退路上に運搬集積されたミミック達が退路を遮断する一方第1階層を守護する死霊伯爵率いるアンデッド部隊が悪趣味な宴に拭ける彼等を襲撃し、ダンジョン内に阿鼻叫喚の地獄絵図が出現した……