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惨劇・陣営再建部隊残党編・攻略開始

ブックマークが260件に到達しました、今後も宜しくお願い致します。


大陸歴438年霧の月二十三日・ダンジョン前・陣営再建部隊残党


朝の陽射しが木漏れ日となって差し込み始めたダンジョン攻略当日、陣営再建部隊残党が行動を開始した。

壊滅した陣営方面に向かい救援部隊との合流を目指す伝令と護衛からなる分隊規模の部隊が出発し、残る将兵達はダンジョンへの突入に備えて各々の装備の点検を始めていた。

「リスティアさん、準備は良い?」

「は、はいっ!大丈夫です」

装備の点検を終えたイリリアスが緊張した面持ちのリスティアに声をかけるとリスティアは緊張を感じさせる声で応じ、それを聞いたイリリアスは微笑みながらリスティアの頭を軽くポンポンと叩きながら言葉を続けた。

「リスティアさん、ダンジョン踏破が初めてで緊張しているのは分かるけど緊張し過ぎるのは良くないわ、出来たばかりのダンジョンの様だし油断せず緊張し過ぎない様にすれば大丈夫よ」

「……はい、ありがとうございます、お姉さ……い、いえ、小隊長」

イリリアスの言葉を受けたリスティアは笑顔で応じたがイリリアスへの呼びかけの際に思わず魔導学院時代に先輩であった頃のイリリアスへの呼びかけを言いかけてしまい慌ててそれを訂正し、それを聞いたイリリアスは苦笑しながらリスティアの鼻先に人指し指を当てながら言葉を続けた。

「……こら、ここは魔導学院じゃないでしょ」

「……は、はい」

イリリアスの軽いたしなめの言葉を受けたリスティアは鼻先に押し当てられた魔導学院時代の憧れの先輩であり淡い想いを抱いているイリリアスの指先の温もりに思わず頬を赤らめながら応じ、イリリアスが頷いた後に微笑みながらリスティアの鼻先から指を離していると指揮官の騎士が総員に集合を命じた。

騎士の命令を受け集合したのは軽装歩兵34名、弩砲兵(弩砲は喪失している為実質的には軽装歩兵)14名、軽騎兵(乗馬を喪失している為実質的には軽装歩兵)12名イリリアスとリスティアを含めた魔導士8名に指揮官の騎士を含めた騎士2名の70名であり、指揮官の騎士はその部隊を2つの集団に再編成した。

第一集団はもう1人の騎士を指揮官として弩砲兵、軽装歩兵にイリリアスとリスティアを含めた魔導士4名が加わった31名からなりダンジョンに突入して攻略を実施し、残る者達は第二集団として指揮官の騎士と共に後詰として控える事となった。

(……最悪な編成だわ、あの屑どもと同じ部隊じゃない)

「第一集団は速やかにダンジョンへ突入する、総員速やかに整列せよっ!!」

部隊編成を告げられたイリリアスは昨夜リスティアに粘ついた視線に向けていた連中と同じ部隊に編成された事に胸中で毒突いていると、第一集団を率いる騎士が部隊の整列を告げ、それを聞いたイリリアスはリスティアと共に件の連中からなるべく離れた場所に他の魔導士達と整列した。

「これより我々はダンジョンへと突入するっ!!出来たばかりのダンジョン等我等ロジナ候国軍にとって如何程の物でも無い、後詰の第二集団の手を煩わす事無く雑魚モンスターどもを蹴散らし速やかに踏破してしまうぞっ!!」

騎士の激励の言葉を受けた第一集団の将兵は雄叫びをあげ、胸中に一抹の懸念が小骨の様に刺さっているイリリアスと緊張と疲労が重なっているリスティアは控えめにそれに和した。

気合いを入れた第一集団は第二集団に見送られながらダンジョンに向けて前進を始め、その様子は見送る第二集団の他に木々に止まった雲雀や栗鼠建ちにも凝視されていた。


ダンジョン・マスタールーム


ダンジョン攻略の為前進を開始した第一集団の様子はアイリスの使い魔達によって筒抜けになっており、アイリスはミリアリアと共に前進する第一集団の様子が映し出される魔画像を見詰めていた。

「2つの集団に分けた上での攻略、オーソドックス編成だけど、妥当と言えば妥当な作戦よね」

「ああ、そうだな」

ミリアリアがアイリスの感想に相槌を打っているとヴァイスブルク伯国亡命政権とリステバルス皇国亡命政権に状況を伝えに行っていたリリアーナがマリーカ、アナスタシア、アイリーン、クラリス、エメラーダと共に入室し、アイリスはマリーカ達とアイリーン達を着席させた後に前進を続ける残党を示しながら口を開いた。

「見ての通り連中は2組の分かれた後に1組がダンジョンに向かい、もう1組が後詰として待機するみたいね」

アイリスから概況を説明されたマリーカ達とアイリーン達は表情を引き締めながら頷き、それを確認したアイリスはダンジョンに接近する第一集団の将兵を示しつつエメラーダに問いかけた。

「……思い出したく無いかもしれないけどダンジョンに近付いてる連中の中に見覚えのある奴はいるかしら?」

「……御配慮ありがとうございますアイリス様、ですが御気になさらず遠慮無く命じて下さいませ」

アイリスの問いかけを受けたエメラーダはその中に籠められていた配慮に関して謝意を示した後に魔画像に目をやり、暫く見詰めた後に微かに顔を歪めながら言葉を続けた。

「……こいつらになら見覚えが御座いますわ、こいつらはイレーナの目の前でわたくしを弄び、私の目の前でイレーナを弄びました」

「……つまりは屑どもって訳ね」

数名の将兵を指差したエメラーダは殊更に平坦な口調で告げ、それを聞いたアイリスは敢えて淡々とした口調で応じた後に彼等を見詰めながら言葉を続けた。

「……こいつら昨日の夜から同僚の魔導士達に変な視線を向けてたのよねえ、この達も大変よねえこんな屑どもとダンジョンに突入しなきゃならないなんて、こいつら騎士っぽい指揮官と良からぬ顔で何か話してたみたいだから何かやらかすかも知れないわねえ」

「……指揮官らしき騎士にも見覚えがありますわ、ヴァイスブルクの方々を殊更に弄んでおりましたわ」

アイリスの説明を聞いたエメラーダは据わった目で騎士を見据えながら吐き捨てる様な口調で告げ、それを聞いたアイリスは呆れた様な表情で前進する第一集団の面々を見詰めながら言葉を続けた。

「……見た目通り大した連中じゃ無さそうねえ、盛大に歓迎して墓場に送ってあげなきゃならないわね」

アイリスはそう言うと第一階層を守護する死霊伯爵に対して迎撃の指示を始め、一同はこれから起こるであろう惨劇に若干引きかけながらダンジョンに近付く第一集団を見詰めた。


ダンジョン・第一階層・第一集団


その行動が既に筒抜けの状態になっているとは露知らぬままにダンジョンへと突入した第一集団、彼等は軽騎兵隊にイリリアスとリスティアが加わった集団を尖兵としてダンジョンの奥へと向けて進撃を開始した。

進撃を開始して暫くすると前方からボーンウルフとスケルトンの一団が出現し、それを確認した尖兵集団は直ちに展開して攻撃を開始した。

「リスティアさん、攻撃を開始してっ!!」

「は、はいっ!!ファイヤーアローッ!!」

イリリアスの命令を受けたリスティアは弾かれた様に返答しながら出現したアンデッド達に向けて炎の矢を放ち、放たれた炎の矢は先頭を進んでいたスケルトンを捉えて傍らを進んでいたボーンウルフも巻き込みながら炸裂して無数の骨片を撒き散らす。

「……ウィンドブリッドッ!!」

リスティアのファイヤーアローの成果を確認したイリリアスは追撃として魔力が宿った風の塊をアンデッド達に向けて放ち、放たれた風弾はアンデッド達を吹き飛ばしてリスティアが抉じ開けた穴を更に拡大した。

リスティアとイリリアスの攻撃によりアンデッドの隊列に風穴が開けられたのを確認した軽騎兵達は突撃して残るスケルトンとボーンウルフを瞬く間に蹴散らし、鎧袖一触とも言うべき戦果を目にした騎士は上機嫌で更なる進撃を命じた。

命令を受けた尖兵集団は隊列を整えた後に進撃を再開し、イリリアスは傍らを進むリスティアに話しかけた。

「リスティアさん、良かったわ、次もこの調子で行きましょう」

「……は、はい、ありがとうございます」

イリリアスの称賛と激励の言葉を受けたリスティアははにかみながら応じ、イリリアスが微笑みながら頷いていると先頭を進む軽騎兵が宝箱を発見してその事を告げた。

尖兵集団から宝箱の発見を告げられた騎士はダンジョン踏破後に宝箱を開ける事を決してこの場所に発見した宝箱を集積する様に命じた後に更なる進撃を命じ、第一集団は尖兵集団を先頭に更なる進撃を続けた。

進撃を再開した尖兵集団は出現するアンデッドの群を蹴散らし途中で見付けた宝箱を後続集団に託して前進を続けたがそれほど進んだとは思えないにも関わらず発見された宝箱が7個に達してしまい、リスティアはその多さに戸惑いながらイリリアスに問いかけた。

「だ、ダンジョンの宝箱ってこんなに沢山ある物なんですか?」

「……いいえ、第一から第十階層位までの各階層にある宝箱の数の平均数は5個くらいでしかも階層全体での話よ、まだ三分の一位しか進んで無いのにこの数は異常とすら言えるわ」

リスティアの問いかけを受けたイリリアスが胸中に突き刺さる一抹の懸念がゆっくりと大きさを増して行くのを感じながら応じていると騎士が宝箱の運搬と小休止を命じ、発見した宝箱を集積場所へと運搬する軽騎兵3名を除いた第一集団の一同は思い思いの場所に腰を降ろして休息を始めた。

「リスティアさんは休んでいて頂戴、少し隊長と話をしてくるわ」

「はい、分かりました」

胸中で大きさを増して行く疑念に急かされたイリリアスはリスティアに一声かけた後に指揮官の騎士の所へ移動し、イリリアスを出迎えた騎士は上機嫌な様子でイリリアスが口を開く前に口を開いた。

「……おお、よく来たな、呼ぶ手間が省けて助かるぞ」

「……呼ぶ、手間ですか?」

妙に上機嫌な騎士から告げられた意味深な言葉を受けたイリリアスは戸惑いの表情で応じ、騎士は頷いた後に粘り付く様な視線でイリリアスを見ながら言葉を続けた。

「……余り時間はかけられんからな、短い時間で精一杯楽しみたいだろう?」

「……っ!?」

騎士の言葉を聞いた周囲の者達は頷きながら粘ついた視線でイリリアスを見詰め始め、その言葉と視線からおおよその事を察したイリリアスは反射的に後退りしながら身構えたが背後からも野卑た声があがった。

「……そんな事をしたら可愛い部下がどうなるんでしょうねえ、小隊長殿」

背後からかけられた声にイリリアスが思わず背後に視線を転じるとそこには軽騎兵達によって羽交い締めにされてしまったリスティアの姿があり、その光景を目にしたイリリアスが言葉を喪ってしまっていると騎士が野卑た笑みと共に続けた言葉が鼓膜が蝕み始めた。

「……無駄な抵抗は止めておいた方が身の為だぞ」

「……私が従えば、リスティアさんには手を出しませんか?」

「我々を満足させられたら考えてやろう」

騎士の言葉を受けたイリリアスは手にしていたロッドを地面に落としながら力無く問いかけ、騎士から返された信憑性等欠片も感じられないおざなりな返答に唇を噛み締めながら頷いた後に羽交い締めにされたリスティアに目をやった。

羽交い締めにされた猿轡を咬まされたリスティアは瞳に涙を溜めながら力無く首を振り、それを目にしたイリリアスはリスティアを安心させる酔うに微笑みかけた。

(分かっているわリスティアさん、こいつ等が今まで捕虜や娼奴隷達にしてきた事を鑑みればこんな約束無意味な事は……でもね、他に貴女を救う方法が無いの、私1人ではどう足掻いた所で貴女を救うなんて不可能、だからどれほど可能性が低くてもこの方法でしか貴女を救え無いの、ごめんなさいリスティアさん、貴女の前では素敵なお姉様で居続けたかった、でも、もう駄目、私は貴女の目の前で壊されてしまう、でも壊されてしまったとしても私は貴女を護りたい)

リスティアを護る為に悲痛なまでの覚悟を決めたイリリアスは強張った顔を騎士に向け、その様子を目にした騎士は満足気に頷いた後に残る2人の魔導士に命じて魔力封じの首輪をイリリアスとリスティアに装着させた。

「……さてと、それではダンジョン攻略の前祝いを始めるとしようか」

イリリアスとリスティアに魔力封じの首輪が装着されたのを確認した騎士は機嫌良くイリリアスに声をかけ、それを受けたイリリアスは血が滲みそうな程に唇を噛み締めながら頷いた後に微かに震えながら自分の服に手をかけた。


マスタールーム


リスティアを盾にされ屈辱の奉仕を強いられ自らの手で服を脱いで行くイリリアスの姿はダンジョンルームの魔画像に克明に映されており、無言でそれを見詰めていたアイリスは凄惨ごくじょうの笑みと共に口を開いた。

「……フフフ、本当に屑どもしかいないみたいねえ」

「……ああ、その様だな」

アイリスの呟きを聞いたミリアリアは嫌悪感を露にした表情で魔画像を見据えながら相槌を打ち、それを聞いたアイリスは頷きつつ魔画像を消失させ、その後に出席者達を見渡しながら言葉を続けた。

「見た通りの屑どもだから予定通り此方から出向いて叩きのめす事にしたわ、準備が済むまで少し休憩しましょう」

アイリスはそう言うとテーブルに置かれていた水差しから搾った葡萄の果汁を冷たい地下水で割った葡萄ジュースをグラスに注ぎ、一同は頭を垂れてアイリスの配慮に謝意を示した後にグラスを手に取った。


ダンジョン攻略を開始し突入した陣営再建部隊残党、楽観的な彼等はまだ知らない、自分達が突入したダンジョンが地獄だと言う事を、微弱な抵抗を排し進撃を続ける突入部隊、仮初めの勝利に酔う彼等はまだ知らない、微弱な抵抗の裏で地獄のダンジョンが着々と牙を研いでいる事を、そして仮初めの勝利に酔う余りに悪質な宴まで始めてしまった突入部隊、愚か極まりない彼等はまだ知らない、自分達の未来に地獄が口を開けている事と最後の警告を握り潰してしまったのが他ならぬ自分達自身である事を……



ダンジョン攻略が開始され、突入した陣営再建中部隊残党、彼等は微弱な抵抗を蹴散らしながらダンジョン内を進撃し、容易く重ねられた勝利に酔う余りに悪質な宴まで始めてしまう、疑う事無く仮初めの勝利に酔しれ進撃を続ける突入部隊、彼等を待ち受ける未来は阿鼻叫喚の地獄絵図……


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