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晩餐

PVアクセス140000及びユニークアクセス29000を突破し、ブックマーク数が250を超えました。今後も本作を宜しくお願い致します。


大陸歴438年霧の月二十二日夜・ダンジョン・マスタールーム


展開するロジナ候国軍と同盟国軍に多大なる損害を与え囚われの身となっていた同胞達を救出してダンジョンに凱旋した魔王軍は仮眠を取った後に使い魔達が収集した敗残兵の動向に注意しつつ採取と狩猟に出発し、一方救出された女エルフ達と狐人族の女達は救護室にて留守部隊の看護を受けながら心身の回復に努めた。

採取と狩猟を行っていた部隊は夕刻に帰投すると夕食の準備が始められ、その最中にエメラーダとイレーナはアイリーンとクラリスに呼び出されてアイリスとの会食の為にマスタールームへと案内されていた。

「ようこそ、あたしはアイリス、魔王アイリスよ」

緊張の面持ちでマスタールームに入室したエメラーダとイレーナを迎えたアイリスは鷹揚な笑みと伴に声をかけ、それを受けたエメラーダとイレーナは少しぎこちない動作で一礼した後に口を開いた。

「エメラーダ・ド・トラジメーノでございます、あの生地獄よりお救い下さいました事を深く感謝致します、アイリス様」

「エメラーダ様の護衛騎士を務めておりましたイレーナ・ド・カンネーと申します。エメラーダ様や私を含めた皆をお救い頂きました事、深く御礼申し上げます」

「……ふふ、ホントに貴女達狐人族は義理堅いのね、聞きたい事が山程有るとは思うけど先ずは席につきましょう」

エメラーダとイレーナの言葉を受けたアイリスは鷹揚な笑みと共に応じた後に後方にセッティングされたテーブルと椅子を示し、頷いたエメラーダとイレーナがアイリーンとクラリスに誘導されてそこに向かい始めたのを確認した後に後方に控えていたミリアリアとリリアーナを促してテーブルへと向かった。

アイリス達とエメラーダ達が席に着くとテーブルの傍らにワゴンと共に控えていたフランシスカとミナがオレンジソースをかけた鹿のステーキやパン(戦利品)が乗せられた木皿と、搾りたてのオレンジが満たされた木のグラスを一同の前に並べた後に深々と一礼して退室し、アイリスは2人が退室したのを確認した後に穏やかに微笑みながら口を開いた。

「乾杯をする前にここに至るまでの経緯をミリアに説明してもらうわね」

アイリスの言葉を受けたミリアリアは頷いた後にエメラーダとイレーナにこれまでの経緯を説明し、それを聞き終えたエメラーダは予想の斜め上を行く話の内容に戸惑いと驚きが入り雑じった表情を浮かべながら口を開いた。

「……で、では、この、あ、悪意の塊の様なダンジョンはアイリス様がミリアリア様を追手から護る為だけに造られたと言うのですか?」

「……え、ええ、し、信じ難い話ではありますがそ、そうなります」

エメラーダの言葉を受けたミリアリアはアイリスを一瞥した後に頬を仄かに赤らめさせながら答え、それを聞いたエメラーダとイレーナが戸惑いと驚きの混じった表情を浮かべているとアイリーンが穏やかに微笑みながら口を開いた。

「……驚いてしまうのも無理はありませんわ、わたくしも初めてこの事を知った時は同じ様に驚きましたもの、ですがこの御話は与太話でも御伽話でも無く事実ですわ、その証拠に私やクラリスはあの生地獄より救われてリステバルス亡命政権を設立する事が出来、今こうしてエメラーダ様と言葉を交わせているのですわ」

「「…………」」

アイリーンの言葉を受けたエメラーダとイレーナは暫し無言で見詰め合った後に頷き合い、それを確認したアイリスは鷹揚な笑みと共に口を開いた。

「どうやら状況は把握出来たみたいね、このダンジョンは来る者拒まず去る者追わずが基本理念よ、暫くゆっくりと休んで心身を回復してからこのダンジョンに残り三国同盟に参加するか否かを決めて頂戴、最悪世界全てが敵になる可能性もあるから無理強いはしないわ、参加出来ずにこのダンジョンを去る場合についてだけどこの森を出るまでの安全については保証してあげて戦利品から幾何かの路銀も渡すわ、ただし、その際には拷問にかけられたりした場合を除いてこのダンジョンの事を他言無用でいる事が条件になるわ、去就をどうするかについてはゆっくりと考えてから結論を出して頂戴」

アイリスから告げられた言葉は魔王が発したとは到底思えぬ程に寛大な内容であり、それを聞き終えたエメラーダとイレーナは即座に深々と頭を垂れながら口を開いた。

「あの生地獄から救って頂いた上にかくも寛大な御言葉を頂き、御礼の申し様もございません、故に私自身がの歩むべき道は既にただ1つしかございません、未熟者ではありますがアイリス様の覇道みちに御協力させて頂きますわ」

「仕える国が滅びたとしても私は命果てるその時までエメラーダ様の護衛騎士を務める所存です、故に私もエメラーダ様と共に参ります。その道が大恩あるアイリス様が進む覇道みちへの助勢であります事は望外の喜びであります」

エメラーダとイレーナは迷い無き口調でアイリスへの協力を告げ、それを受けたアイリスは苦笑を浮かべながら口を開いた。

「ホントに貴女達狐人族って義理堅いのね、まあ良いわ、あたし達の戦力不足だから貴女達の参加は正直な所ありがたいわ、アイリーン、彼女達は貴女に預けるわ」

「畏まりました、アイリス様」

アイリスに話を振られたアイリーンは微笑みながらそれに応じ、その後にエメラーダに視線を向けて言葉を続けた。

「エメラーダ様、宜しくお願い致します」

「……勿体無い御言葉ですわアイリーン様、非才の身ではありますが全力を尽くさせて頂きますわ」

アイリーンの言葉を受けたエメラーダは穏やかな笑みと共に応じ、そのやり取りを見たアイリスはグラスを手に取りながら口を開いた。

「話も一段落ついた所だし、そろそろ食事にしましょう」

アイリスはそう言いながらグラスを軽く掲げ、それを確認した一同が頷いた後に自分のグラスを手に取るとアイリスはグラスを目の前に掲げながら乾杯の音頭を取った。

「それじゃあ、乾杯」

「「乾杯」」

アイリスの音頭を受けた一同は唱和しながらグラスを掲げ、それから一同は歓談を交わしながらささやかな晩餐を開始した。


陣営再建部隊残党


アイリス達が歓談しながら晩餐を堪能していた頃、ダンジョンから程遠からぬ場所にて陣営再建部隊の残党が小休止を取っていた。

集団は2個小隊程の軽装歩兵と弩砲兵に数名の魔導士と第十六騎士団の騎士が加わった比較的統制の取れた集団であったもののその表情には敗走による疲労が色濃く浮かんでおり、彼等を率いている第十六騎士団で小隊長をしていた騎士は渋面を作りながら分隊長をしていた騎士に話しかけた。

「……相当疲労しているな」

「無理もありません、あれだけの混乱状況でしたから、間も無く日も暮れます、野営出来る場所を探さねばなりますまい」

小隊長だった騎士の言葉を受けた分隊長だった騎士は難しい顔つきで応じ、そこから少し離れた所では補充要員として配属されてた矢先にこの事態に巻き込まれてしまった新米魔導士のリスティア・メーベルワーゲンが疲労困憊した状態で大木の根元にへたり込んでいた。

「……リスティアさん、大丈夫?」

へたり込むリスティアに対してリスティアが所属していた魔導兵小隊の小隊長を務めていたイリリアス・フォン・クーゲルブリッツが心配そうな面持ちで声をかけ、それを受けたリスティアは気丈な笑みと共に口を開いた。

「……だ、大丈夫です、ま、まだ新米魔導士ですけど、あたしだって兵士です」

「……そう、解ったわ」

リスティアの答えを聞いたイリリアスは柔らかに微笑みながらリスティアの頭を撫で、リスティアが嬉しそうに頬を緩めていると指揮官の小隊長だった騎士の号令が響いた。

「総員、進発準備を整えろ、野営出来る場所を探す、野営地にて現在地の把握を行い、翌日以降派遣軍本隊への合流を目指す事とする」

小隊長だった騎士の号令を受けた将兵は気だるげな動作で立ち上がり、イリリアスも少しふらつきながら立ち上がったリスティアを促して進発準備を整える魔導士達の所に移動した。

進発準備を整える何名かの将兵は少しふらつき気味に進むリスティアに粘ついた視線を送り、それに気付いたイリリアスは然り気無い風を装ってリスティアの傍らに移動してその視線からリスティアを護りながら内心で毒づいた。

(……あいつ等散々捕虜や娼奴隷を弄んでた連中じゃない、最悪だわ、あんな奴等が生き残っててしかも統制が覚束無いこんな状況で一緒になるなんて)

イリリアスは顔をしかめながら粘つく視線を送る輩達の前を足早に通り過ぎて魔導士達と合流した。

やがて残党は疲労を色濃く感じさせる足取りで進み始めたがその進路の先にはアイリスが造りあげたダンジョンが待ち受けており、進む将兵の頭上の木々の枝の上では数羽の梟が硝子玉の様に無機質に輝く目で進む彼等を見下ろしていた。



業火に包まれた陣営より救い出されたエメラーダとイレーナはダンジョンルームにてアイリスと対面しその覇道みちに協力する事を約し、一同はその後にダンジョンルームにてささやかな晩餐を楽しんだ。

一方その頃、壊滅した陣営から命辛々脱出した陣営再建部隊の残党が野営出来る場所を探して進んでいた。

疲労を色濃く漂わせながら進む残党達はまるで吸い寄せられる様に異形のダンジョンに向けて進み、アイリスの使い魔達は知らぬ間に地獄に向けて進む残党の様子を静かに見下ろしていた……


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