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蹂躙・ヴァイスブルクの悪夢編・凱歌

PVアクセス135000及びユニークアクセス28000を突破出来ました。今後も本作を宜しくお願いします。

陣営・ラステンブルク伯国軍第八猟兵団選抜部隊


反撃を試み様とした矢先に出現した無数の吸血球とそれが集結する事によって姿を現した新たな大型モンスター、吸血球獣、その出現により陣営再建部隊が模索した反撃は頓挫を余儀無くされた上にキャラガン率いるヴァイスブルク男爵領国軍第二騎士団との通信まで途絶してしまい、将兵を叱咤激励して猛威を振るう大型モンスターに対する迎撃を指揮していたアハトエーベネは悪化する一方の状況に顔をしかめさせていた。

(……甚だ遺憾極まりない話だが戦力をズタズタにされ過ぎているな)

アハトエーベネが内心で現在の窮状を憂いながら指揮を行っていると視界の端に肩を怒らせて此方に駆け寄ってくる此方に駆け寄って来るチーグタムの姿が捉えられ、それを目にしたアハトエーベネが思わず舌打ちしそうになってしまいそうなるのを懸命に止めていると駆け寄って来たチーグタムが目を剥きながら怒声を張り上げた。

「何をしているのだアハトエーベネっ!!新手のモンスターが出現した上にヴァイスブルクの連中との通信まで途絶しているでは無いかっ!!速やかに出撃して友軍の救援とモンスターの殲滅を実施せよっ!!ここで成果を示せれば我が軍の評価や価値が大きく跳ね上がるのだっ!!!」

(……コイツ本気で流れ弾にでも当たって名誉の戦死を遂げてくれないかしら)

チーグタムの怒声を受けたアハトエーベネはもれそうになる溜め息を止めながら胸中で物騒な呟きをもらし、その後に暴れ狂うモンスター達の動向に注意しつつ努めて冷静な口調で返答を始めた。

「……反撃を予定していたヴァイスブルク男爵領国軍第二騎士団が大打撃を受け更に未知の大型モンスターまで出現した為に陣営の混乱状況は一層悪化しています、更に西外哨陣地を突破し増援部隊と交戦中の敵が戦闘に加わる可能性もあります」

アハトエーベネがそう述べているとその言葉の正しさを裏付ける様に2体の未知の大型モンスター、狂機獣とラビットドラゴンを先頭にしたモンスターとアンデッドの混成集団が出現して混乱する陣営に対する攻撃を始め、それの様子を一瞥したアハトエーベネは同じ光景を目にしたチーグタムに向けて淡々とした口調で告げた。

「……この状況で我々が軽々に攻撃を実施し、そして失敗してしまった場合……残された道は破局しかありません、残兵を収容しつつ速やかにロジナの部隊と合流した上で南外哨陣地に後退して態勢を立て直すべきです」

「……貴様の戦意及び敢闘精神の不足に関しては報告させて貰うぞっ!!」

アハトエーベネの具申を受けたチーグタムは吐き捨てる様な口調で告げた後に足音荒くアハトエーベネの前を辞し、アハトエーベネは舌打ちしたくなるのを懸命に押さえた後に周辺の猟兵達と収容したロジナの兵士達を指揮して後退を開始した。

アハトエーベネが魔導猟兵と生き残りの魔導士と中弩砲を指揮して暴れ狂う大型モンスターに対して牽制攻撃を行う中、猟兵達は生き残りの軽装歩兵や弩砲を喪失した弩砲兵と共に第十六騎士団の所へ向けて後退(チーグタムはいの一番に後退を開始)を行い始めた。

「……ふーん、やっぱりあの滅龍騎士ドラゴンナイトは相当面倒臭い相手みたいね、あの無能な上官には彼女の邪魔をして貰う為になるべく生き永らえて貰いたいわね」

使役獣や使い魔達から送られてくるアハトエーベネが指揮する撤退の様子が映し出された魔画像を確認したアイリスは肩を竦めながらアハトエーベネの手際を称賛し、その呟きを聞いたミリアリアはカッツバッハと共に周囲に目を配りつつ問いかけた。

「……態勢を立て直した上で反撃して来るつもりなのか?」

「……どうかしら、猪と言い争ってたみたいだし、ロジナの部隊と合流した後は無事な外哨陣地、恐らく南外哨陣地に後退するつもりじゃ無いかしら、北と東の外哨陣地の部隊は此方に向かっているけど南の連中は陣地に籠ったままだし」

ミリアリアの問いかけを受けたアイリスは彼我の状況が印された地図の魔画像を一瞥して概況を把握した後に返答し、ミリアリアが頷きながら周囲を見渡していると視界の片隅に物影からアイリスの様子を窺っている数名の軽装歩兵の姿が捉えられた。

「……フレアランス!!」

軽装歩兵達の姿を確認したミリアリアは即座に彼等が潜む場所に向けて攻撃魔法を放ち、放たれた炎の槍が狙い違わず炸裂して軽装歩兵達を吹き飛ばすのを目にしたアイリスは構えかけていた大鎌を降ろすとニコニコしながらミリアリアに対して口を開いた。

「フフ、ありがとねミリア」

「……あ、アイリスなら大丈夫だとは思ったんだがな」

アイリスの感謝の言葉を受けたミリアリアは頬を赤らめさせつつ周囲に目を配りながら応じ、アイリスはそんなミリアリアの反応を愛しげに一瞥した後に戦局へと目を向けた。

支援射撃の下後退した猟兵部隊はロジナの騎士団を中心と部隊と合流を果たしたものの反撃に転じる気配は見られず逆に一部の部隊が南外哨陣地方面に向けて移動を始め、アイリスはそれを確認した後に陣地に向けて前進を続けていた東外哨陣地と北外哨陣地の部隊の動向を確認した。

2つの部隊はこれまで陣営に向けて前進を続けていたが撤退の兆しを見せている部隊から命令を受けているらしく現在は停止しており、アイリスはそれを確認した後に第一機動打撃群の攻勢の進捗状況を確認した。

第一機動打撃群の攻撃を受けたラステンブルクの猟兵部隊は既に完全に崩壊しており戦闘は既に残敵掃討戦の様すら呈しており、アイリスは順調な進捗状況に統制された興奮を覚えつつ指揮官のサララに通信を送った。

「第一機動打撃群、こちら作戦機動群よ、そちらの進捗状況は順調な様ね、此方も順調だけど出来ればもう一押ししたい所なの、ブラッディスケアクロウと地炎龍の指揮権を貰っても問題無いかしら?」

「こちら第一機動打撃群、問題ありません、現在は既に残敵掃討戦に移行しつつあり双鞭龍のみで対処可能と判断します、存分に戦果をお挙げ下さい」

アイリスの通信に対してサララからは即座に快諾の返信がもたらされ、アイリスは通信を終えた後に第一機動打撃群から抽出したブラッディスケアクロウと地炎龍を北外哨陣地守備隊の襲撃に向かわせ、残る東外哨陣地守備隊への襲撃には吸血球獣と硫黄龍を充てる事を決した。

方針を決したアイリスは幻影魔法を使用して吸血球獣と硫黄龍の幻覚デコイを展開させた後に硫黄龍には地下を、吸血球獣には分裂させて無数の吸血球の状態にさせて空中を進ませ、その光景を目にしたミリアリアは相変わらずのアイリスの規格外の能力に嘆息した後に声をかけた。

「相変わらず凄まじいな、だが、幻影魔法によるデコイは2度目になる、気付かれるのでは無いか?」

「そうね、でも例え気付かれたとしても連中に出来る事と言えば精々警報を発する位よ、撤退の気配すら窺える現状ではそれ以上の事が出来るとは思えないわ、第三機動打撃群も本格攻勢を始めたみたいだし」

アイリスがミリアリアの言葉に応じつつ示した先では陣営に到達した狂機獣とラビットドラゴンが狼狽える将兵を文字通りに蹴散らしながら進撃しており、それを目にしたミリアリアが得心の表情で頷いていると周囲を警戒していたカッツバッハが前方を指差しながら口を開いた。

「アイリス様、第三機動打撃群ですっ!!」

カッツバッハの言葉を受けたアイリスとミリアリアがカッツバッハの指差す先に視線を向けると狂機獣とラビットドラゴンと共に陣営に突入した第三機動打撃群の面々がミランダを先頭に此方に駆け寄って来るのが確認され、それを目にしたアイリスが手にした大鎌を左右に大きく振って駆け寄って来たミランダ達を出迎えた。

「……御苦労様、状況は確認しているわ、見事な物ね」

「……ありがとうございます、アイリス様」

アイリスが駆け寄って来たミランダに声をかけるとミランダは微かな笑みと共に応じた後にカッツバッハに視線を向けて頷きかけ、それに気付いたカッツバッハが頬を微かに緩めながら頷き返していると戦局を確認していたアイリスが口を開いた。

「……敵の残存部隊が動き始めたわ、重傷を負った連中が護衛と共に後退を始め、滅龍騎士を指揮官にした部隊が迎撃態勢を整えてるわ、此方に向かっていた各外哨陣地の守備隊も進路を変更、どうやら撤退するつもりみたいね」

敵性部隊の動きを把握したアイリスは頷きながら呟き、それを聞いたミリアリアはカッツバッハやミランダ達と共に周囲を警戒しつつ問いかけた。

「各外哨陣地の守備隊は使役獣に襲撃させるとして敵の本隊に対してはどうするつもりなんだ?」

「……このままお帰り願いましょう、かなりの損害を与えたけどまだ2000近い戦力はありそうだし、滅龍騎士率いる後衛部隊は面倒臭そうな気配満々、そしてこの連中も近付いて来てるし」

アイリスはミリアリアの問いかけに応じながら第二機動打撃群と対峙している魔曲騎士団の陣地に向けて急速に接近中の第三近衛騎士団とその先頭を進むスティリアの姿を捉えた使い魔からの魔画像を示し、それを確認したミリアリアは表情を引き締めながら更に問いかけた。

「……どうする?同盟者フェデラートゥスの魔龍の支援があるとは言え相手が魔曲騎士とロジナの戦姫が率いる近衛騎士団となると第二機動打撃群単独では些か荷が重いのではないか?」

「……同感ね、既に多大な戦果もあげている事だし敵の後退を確認したら追撃はせずに残敵を掃討しつつ撤収しましょう、第二機動打撃群についてはもう少し魔曲騎士団への牽制攻撃をして貰った後に撤収させるわ」

ミリアリアの更なる問いかけを受けたアイリスはそう返答した後に一度言葉を区切り、その後にミランダ達を見渡しながら命令を下した。

「そう言う訳だから撤収準備に入りましょう、敵の後衛部隊に対しては珊瑚龍の弾幕射撃で牽制拘束しておくから貴女達は狂機獣やラビットドラゴン達と共に残敵ごとこの陣営を徹底的に叩きなさい、容赦無く叩いて構わないけど指揮官クラスがいたら報せて頂戴、知ってる情報洗い浚い喋って貰う様お願いする為にダンジョンに連行するから」

アイリスの命令を受けたミランダ達はアイリスの言うお願いの内容を想像して内心ドン引きしながら頷いた後に散開して攻撃を開始し、アイリスは満足気にその様子を一瞥した後にミリアリアとカッツバッハに向けて口を開いた。

「……あたし達は一度光壁龍の所に戻って撤収準備を始めましょう、もう大勢は決したわ、あの滅龍騎士は面倒臭い相手だけど、負けと分かってる勝負に賭け金注ぎ込んで来るタイプでは無いわ」

「……ああ、そうだな」

「……了解しました、アイリス様」

アイリスの言葉を受けたミリアリアとカッツバッハが相槌を打つとアイリスは満足気に頷いた後に光壁の所に向けて移動を始め、ミリアリアと共にその後に続いたカッツバッハは燃え盛る陣営の惨状に一瞥した後に呟きをもらした。

「……凄まじい物だな、アイリス様の御力は」

「……ああ、アイリスには毎回驚かされ放しだよ」

カッツバッハの呟きを耳にしたミリアリアは周囲に目を配りながら応じたがその声と表情にはどこか穏やかな気色が漂い、それを察したカッツバッハは一瞬表情を緩めた後にミリアリアと同じ様に周囲に目を配りながらアイリスの後を追った。

その後、珊瑚龍の弾幕射撃によってアハトエーベネ率いる後衛部隊が釘付けにされる中、狂機獣とラビットドラゴン、更にアイリスが光壁龍の所に到着した為に護衛の任を解かれた双角龍と第三機動打撃群によって後衛部隊が展開した付近を除く陣営は徹底的な攻撃を受け、更に南外哨陣地に向けて進路を変えた北外哨陣地守備隊と東外哨陣地守備隊にも使役獣達による上空と地下からの襲撃が実施された。

アイリスの行った幻影魔法によるデコイに気付いたアハトエーベネは守備隊に警報を送ったものの、使役獣による攻撃な威力は警戒していた守備隊の想定を上回る物であった為に守備隊は僅かな期間抵抗した後に蹴散らされてしまい、悲鳴の最期の通信を受けたアハトエーベネは歯軋りしながらも2つの守備隊は潰滅したと判断、撤退する本隊を追従する為に燃え盛る陣営を放棄した。


第九騎士団宿営地


急報を知り出撃したスティリア率いる第三近衛騎士団は第九騎士団の宿営地に到着したがその時には宿営地を襲撃していた筈のアンデッドや大型モンスターの姿は存在しておらず、夜空そらに悠然と羽ばたきながら浮遊する魔龍の姿のみがあり、その光景を目にしたスティリアが胸騒ぎを感じつつ騎士団の本部に到着すると沈痛な表情を浮かべたリーリャとミサが彼女を出迎えた。

「救援、感謝致します〜スティリア様〜」

「リーリャ殿、この状況はもしや」

沈痛な表情ながらも来援に関する謝意を述べたリーリャに対してスティリアは厳しい表情で問いかけ、リーリャが頷く事で応じた後に沈痛な表情を浮かべたミサが説明を始めた。

「外哨陣地の襲撃に続いて再建中の陣営が直接襲撃を受けました、情勢は不明でしたが暫くすると此方に対する攻撃が徐々に下火になると同時にアンデッドや大型モンスターが姿を消していき魔龍のみとなりました。そして先程アハトエーベネ殿から魔通信がありました。それによると第十六騎士団長ザイドリッツ殿が重傷を負い、ヴァイスブルク男爵領国軍第二騎士団は壊滅、騎士団長キャラガン殿は生死不明との事ですので恐らく絶望的でしょう、その他の部隊も多大なる損害を被り、態勢を立て直す為南外哨陣地に向けて後退中との事です。つまり我々を攻撃していた連中は」

「目的を果たした為に帰還した、と言う訳か」

ミサが沈痛な面持ちで告げた報告を受けたスティリアは苦い顔付きで呟き、その後に視線を悠然と羽ばたいて浮遊している魔龍へ向けて言葉を続けた。

「……やはりアハトエーベネ殿の見立て通り魔龍すらも作戦の歯車に組み込まれている様だな」

「……アハトエーベネ殿は襲撃の際に大規模な幻影魔法が確認されたとも報告しております、襲撃の規模から考えても陣営再建部隊を襲撃したのが敵の主力なのは間違い無いでしょう」

スティリアの呟きを聞いたミサは同じ様に魔龍に視線を向けながら言葉を続け、スティリアは頷くと暫し思案した後に魔龍を見据えながら口を開いた。

「……魔龍と接触してみる」

「なっ!?反対ですっ!!危険過ぎますっ!!」

「……私も〜賛成致しかねますよ〜」

スティリアの呟きを受けたミサとリーリャは顔色を変えて翻意を促すがスティリアはゆっくりとかぶりを振った後に言葉を続ける。

「危険なのは重々承知している、だが、魔龍と接触出来れば何らかの情報を得る事が出来る筈だ、まともな情報が何一つ無い状況ではどんな些細な情報でも貴重だ、そして現在この場にて魔龍と接触出来るだけの力量を持つ者は滅龍騎士たる私だけだ、私とて辛うじてだがな」

スティリアはそう言うと莞爾と笑みを浮かべ、それを目にしたリーリャとミサは苦笑を浮かべて頷き合った後に口を開いた。

「本当に〜困ったちゃんな後輩ですね〜スティリア様は〜私達も同行するのが条件ですよ〜」

「全く、困ったちゃんな後輩を持つと苦労するわねえ、危険と判断したら直ぐに中断する、これが条件よ」

リーリャとミサの言葉を受けたスティリアは深々と頭を垂れる事で応じ、その後に3人はゆっくりとした足取りで展開する騎士達の先頭へと進み出た。

……御初に御目にかかるな、ロジナの戦姫スティリア・フォン・ロジナ、そして魔曲騎士団長リーリャ・フォン・ヴェートベン、副団長ミサ・フォン・シューベルトよ……

「……っ!?成程、私達の事は既に既知の事と言う訳か」

進み出たスティリア達に対して悠然と浮遊する魔龍から念話による呼びかけが行われ、突然名を告げられたスティリアが一瞬言葉に詰まった後に苦い顔付きで返答すると魔龍は楽し気に続けた。

……敵がどの様な輩なのか知る事は戦闘の鉄則であろう、お前達の事は聞かせて貰っておるよ、森の民や黒き森の民、そして狐人族の者達からもな……

「……狐人族、だと?」

スティリアは魔龍から告げられた言葉の中にあった狐人族と言う予想外の単語に思わず戸惑いの声をあげ、魔龍はその反応に愉快気に笑いながら言葉を続けた。

……ククク、どうやら知らぬと様だな、まあ、御主の様な輩には黙っておくのも当然と言えば当然か、貴様等が謂れ無く理由で滅ぼし慰み者として囲っていたリステバルス皇国の姫や侍女、女騎士達の事よ……

「……リステバルス皇国の、姫、だと?」

「……リステバルス戦役当時在国していたのは〜第三皇女のアイリーン・ド・リステバルスだけよ〜公式発表では〜戦死したとされていたけど〜」

「……公には否定されてたけど、滅ぼされたリステバルス皇国の女性達が娼奴隷に貶められていると言うのは残念ながら事実だった様ね、戦死した事にしておけば正体を詮索されても困らないって言う所かしら」

魔龍の新たな言葉に愕然とした呟きをもらしたスティリアに対してリーリャとミサが苦い顔付きで声をかけ、それを聞き憤怒に唇を噛み締めてたスティリアに対して魔龍が楽し気な口調で続けた。

……今宵も貴様等に捕らえられ慰み者とされていた森の民や狐人族の女達を頂いて行くぞ、お前達は虎の尾を践んでしまったのだ、精々己の命を大事にする事だな、安心するが良いロジナの姫よ、我が同盟者フェデラートゥスはお前達より情深い、お前に関しては虜囚とした上に慰み者にさせたり等はせずロジナの戦姫として華々しく壮絶に討死させてやると言っているぞ……

「同盟者……だと、魔龍を盟友として従えられる者がいると言うのか?」

魔龍の言葉を受けたスティリアは予想外の言葉の連続に翻弄されながら魔龍に問いかけ、魔龍はそれに応える代わりにゆっくりと羽ばたいてスティリア達に背を向けながら言葉を続けた。

……そこまでお前達に答えてやる義理は無いな、先も言った様にお前達は虎の尾を践んでしまったのだ、栄華の道を進んでいたお前達の末路、楽しませて貰うぞ、それでは今宵はこれでお暇させて頂くとしよう、精々仲間の救出に明け暮れるが良い、ロジナの戦姫達よ……

魔龍はそう告げると悠然と羽ばたいてスティリア達の前から飛び去り、スティリアが唇を噛み締めながらその姿を見送っているとリーリャが声をかけてきた。

「スティリア様〜如何なさいますか〜?」

「……全軍を速やかに出撃させて頂戴、南外哨陣地へ急行して負傷者の収容と救護に当たるわ、派遣軍司令部にも通信と伝令を送って増援と救護所の設置を要請して頂戴」

リーリャの問いかけを受けたスティリアは絞り出す様な口調で今後の指示を送り、それを受けたリーリャとミサは厳しい表情で一礼した後に踵を返して後方の騎士達の所へ向かった。

「……同盟者」

スティリアは敗北感と懸念に厳しい表情のまま先程魔龍の述べた言葉の中にあった一句を反芻し、その後に踵を返してリーリャとミサの後を追って部下達の所へと向かった。


作戦機動群


スティリアが敗北感を胸に撤退した部隊を収容する為に動き始めていた頃、作戦機動群は第三機動打撃群と共に燃え盛る陣営を後にしてダンジョンへの帰路についていた。

「魔龍がロジナの戦姫との接触を果たしたわ、それとなく此方の情報を伝えて貰ったから連中は戸惑うでしょうね」

アイリスは上空から帰還する部隊を見下ろしながら腕の中のミリアリアに話しかけ、ミリアリアは頷いた後に怪訝そうな面持ちになりながら口を開いた。

「だが、大丈夫なのか?此方の情報を伝えたりして?」

「平気よ、魔龍が伝えた事は狐人族の存在と魔龍に同盟者が存在している事だけ、余りに漠然とした情報だし、狐人族の事はあの勇ましいお姫様は知らなかったみたいだから情報の確認やらなんやかやで時間を稼げる筈よ、それまでにあたし達はダンジョンの態勢を強化出来るし逃げ散った敗残兵がダンジョンを見つけて入ってくれたりする事も期待出来るわ、取りあえず帰ったらダンジョンをもう5階層程増築するつもりよ」

「……そ、そうか、だ、ダンジョンの防備が固くなるのは、よ、良い事だな」

アイリスが返答と共に更なるダンジョン増築を行う事を告げるとミリアリアは増築されるダンジョンのエグさにドン引きしかけながら相槌を打ったが、アイリスが満足気な笑みを浮かべたのを目にすると表情を緩めながら言葉を続けた。

「……アイリスには何時も助けられてばかりだな」

「……気にしなくても良いわよミリア、あたしは魔王として好き勝手にやってるだけよ」

ミリアリアの言葉を受けたアイリスははにかみながら返答し、その後に頬を赤らめさせながら小声で続けた。

「……でも、ミリアが御礼したいって思ってるなら、ギュッてしてくれる?」

「……っそ、それくらい、御安い御用だ」

アイリスのいじらしい望みを受けたミリアリアは笹穂耳まで真っ赤にさせて応じた後にアイリスに抱き着く腕に力を籠めてアイリスの身体を抱き締め、それによってより一層密着する事になったアイリスの身体の温もりと柔らかさを噛み締めた。

(……アイリスの身体、熱い位に温かい、ドキドキしてくれている)

「……ミリア、あたしがドキドキしてるのバレちゃってるよね?」

ミリアリアが熱い位のアイリスの身体の感触に頬を火照らせているとアイリスが恥ずかしそうに問いかけ、それを受けたミリアリアは自分の身体も火照り心臓が早鐘の様に脈打っているのを自覚しながら言葉を返した。

「……き、気にするな、アイリス、あ、アイリスにだって、ば、バレてしまっているだろう、わ、私も、ど、ドキドキしている事が?」

ミリアリアの言葉を受けたアイリスは更に頬を赤らめさせながら頷いた後に嬉しそう微笑み、ミリアリアもその笑顔に頬が緩まるのを自覚しながらアイリスを抱き締める手に更に力を籠めた。

互いの存在を感じながら夜空そらを進む赤らアイリスとミリアリア、その下では凱歌をあげた異形の軍勢が帰路につき、その後方では粉砕された陣営が業火に包まれ赤々と燃え盛っていた。

こうして後にヴァイスブルクの悪夢と呼ばれる事になる凄惨な襲撃は終わりを告げた。

展開していたロジナ候国軍とその同盟国軍は5000名以上を喪う大損害を被り、その衝撃に関係者達は大きな衝撃を受ける事となった。



魔王アイリス率いる異形の軍勢による襲撃は大成功に終わり、ロジナ候国軍とその同盟国軍に多大なる損害を与え、虜囚となった同胞達を救う事に成功した一同は、凱歌と共にダンジョンへと帰投して行った。

一方、撤収に際して同盟者の魔龍はスティリアと言葉を交わして情勢が激変した事を告げ、それを告げられたスティリアに出来た事は敗北感に唇を噛み締めながら後退する友軍の救護を命じる事のみであった……


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