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蹂躙・ヴァイスブルクの悪夢編・戦姫出陣

女性同士のキスシーンがありますので閲覧は自己責任でお願い致します。

ヴァイスブルク近郊・ロジナ候国軍第三近衛騎士団宿営地


ヴァイスブルク近郊に駐留するロジナ候国軍第三近衛騎士団の宿営地、その一角を占める騎士団長用のテントの寝室では寝間着姿のスティリアが展開する自軍の状況が記された地図を前に思案にくれていた。

(……何事も起こらなければ良いのだが)

「……お嬢、寝る前にホットチョコでも飲まないかい?」

「……ああ、そうだな、頼む」

スティリアが胸中に不安が燻るのを自覚しながら思案していると寝室の外に控えていたソニアから声がかけられ、スティリアが地図から目を離さぬまま返答していると鼓膜が焦がれていた声によって揺さぶられた。

「……失礼致します、スティリア様」

「……ッ!?あ、ああ、入ってくれ」

スティリアは鼓膜を揺さぶる焦がれ待ち望んでいた声に頬を火照らせながら返答し、それに応じてホットチョコレートを乗せた盆を手にしてクラシカルなメイド服を纏ったクーデリアが静静と入室しその姿を目にしたスティリアは立ち上がりながら口を開いた。

「……もう大丈夫なの?クーデリア」

「……ええ、まだ万全と言う訳ではありませんがスティリア様への簡単な給仕程度でしたらこなせます」

穏やかに微笑みながらスティリアに返答するクーデリアの首には奴隷の証であるチェーカーの様な外見の首輪がつけられており、それを目にしたスティリアが思わず唇を噛み締めてしまっているとクーデリアはテーブルにホットチョコレートを置いた後に穏やかな笑みと共に首輪に手を添えながら言葉を続けた。

「……お気になさらないで下さいスティリア様、あの状況で私を救う為には私がスティリア様の奴隷となり、高貴な方に仕える奴隷として扱われるしか他に手段が無かったのですから、それに、奴隷となったおかげでこうしてスティリア様の御側にいる事が出来ますし」

そう告げながら微笑むクーデリアの姿は儚げであり、スティリアは暫し無言でクーデリアを見詰めた後に俯きながらクーデリアに近付いてその身体を抱き締めた。

「……す、スティリア様!?」

「……貴女を守るためなら道化にでも何でもなってやる、そう決めていた、だから私はもう迷わない、クーデリア・フォン・タンネンベルク、貴女は私だけのものだ」

クーデリアがスティリアの突然の行動に戸惑っているとスティリアはクーデリアの身体を抱き締めたまま自分自身に言い聞かせる様な口調でクーデリアに囁きかけ、それを受けたクーデリアは頬を仄かに染めながらスティリアの身体を抱き締め返した後にその耳元に囁きかけた。

「……貴女の奴隷となる道を選んだ、それが私の答えです、怨敵たるロジナの姫である貴女に添い遂げる為には奴隷となり貴女の所有物になる他ありません、スティリア・フォン・ロジナ様、私の全ては貴女様の所有物ものです。私はロジナ候国は決して許しません、ですから、今後は貴女様の奴隷として貴女様の武勲と隆盛のみを祈っております」

「……ああ、それでいい、ありがとう、クーデリア」

クーデリアの返答を聞いたスティリアがそう返答しつつ入口の方に視線を向けると、そこには心配そうに此方を窺っているソニアとケイトの姿がありそれを目にしたスティリアが気恥ずかしさを覚えて頬を染めていると2人は微笑みながら頷いた後にスティリアの前を辞し、それを確認したスティリアは微苦笑した後に名残惜しげにクーデリアから離れた。

「……頂くわね」

「……はい、どうぞお召し上がり下さいスティリア様」

スティリアが気恥ずかしさに頬を染めつつホットチョコレートのカップを手に取りクーデリアに声をかけると、クーデリアも同じ様に頬を染めながら一礼して言葉を返し、スティリアは頷きながらカップを口へと運んで温かな程好い甘さのホットチョコレートを喉に流し込んだ。

「……うん、美味しいわ」

「……良かった、ケイトさんに作り方を教えて頂いたんですよ」

スティリアの感想を聞いたクーデリアは微笑みながら安堵の呟きをもらし、スティリアがその様子に頬を緩めながらホットチョコレートを飲んでいると慌ただしい足音と共にソニアとケイトが駆け込んで来た。

「……何かあったの!?」

2人のただならぬ様子から変事の発生を察したスティリアはベッド脇に置かれたドレスアーマーの所に向かいながら問いかけ、それに対してケイトは厳しい表情と共に凶報を告げた。

「当直将校からの伝令が到着しました、報告によると第九騎士団、陣営再建部隊が大規模な襲撃を受け、ラステンブルクの猟兵部隊とは通信途絶状態との事です」

「ヴァイスブルクの森に展開する部隊全てが襲撃されただとっ!?」

ケイトが告げた襲撃の内容はスティリアの予想を上回る規模の物であり、スティリアは寝間着を脱ぎ捨てるとクーデリアとソニアの助けを借りてドレスアーマーを装着しながらケイトに指示を出した。

「伝令に告げなさいっ!中隊長以上の指揮官を司令部に緊急召集並びに総員の緊急点呼、及び即応待機、大至急行う様にと!」

「承知しましたっ!」

ドレスアーマーを装着し終えたスティリアの指示を受けたケイトは即座に応じるとスティリアの着替えを手伝っていたソニアと共に慌ただしく駆け出し、スティリアはその背中を一瞥した後に緊迫の面持ちで傍らに控えるクーデリアに向けて口を開いた。

「……それじゃあ、行って来るわ」

「……行ってらっしゃいませスティリア様、先に申した通り貴女様の武勲と御無事と凱旋のみを祈願して御待ちしております」

スティリアの言葉を受けたクーデリアはスティリアを見詰めながらその無事を願う言葉を紡いだ後に己の顔をスティリアの顔に近付け、スティリアも頬を赤らめながら自分の顔をクーデリアの顔へと近付けてクーデリアの唇に己の唇を重ねた。

「……行って来る」

「……行ってらっしゃいませスティリア様」

スティリアとクーデリアは触れあった唇から互いの存在と互いへの想いを確かめ合った後に言葉を交わし、その後にスティリアは踵を返してテントの外へと駆け出した。

テントの外に駆け出したスティリアがソニアとケイトを従えて隣接する司令部のテントに駆け込むと緊迫した面持ちの当直将校が出迎えてスティリアに敬礼し、スティリアは素早く答礼した後にテーブルに広げられた地図に歩み寄りながら口を開いた。

「……現在判明している状況は?」

「……第九騎士団が魔龍とアンデッドの集団による襲撃を受けています、魔龍の攻撃を凌ぎ1個中隊を出撃させたもののアンデッド部隊と大型モンスターの襲撃を受け全滅、出現した大型モンスターは先の陣営襲撃時に出現した物と同一だと思われるとの事です。また、詳細は不明ながら相当に高位な魔力を操る存在も確認されており、現在小康状態となっておりますが第九騎士団からの報告によれば明らかに統制された襲撃であるとの事であります」

第九騎士団から襲撃の様子を知らされたスティリアがその異質さに顔をしかめながら頷いていると、別の当直将校が地図に記されている陣営再建部隊の所在地を示しながら口を開いた。

「陣営再建部隊については西外哨陣地が襲撃を受けています。膨大な数のスケルトンに未確認の大型モンスターが2体です。白い体毛に覆われた2足歩行のドラゴンと左右非対称な形状の腕を持ち強固な装甲の巨大なメタルゴーレムです、外哨陣地は猛攻を受けており陣営再建部隊は増援を進発させています」

「……ラステンブルクの猟兵部隊に関しては今に至るまで通信途絶状態のままです、状況は……絶望的かと……」

別の当直将校が陣営再建部隊の状況を告げたのに続いて第九騎士団の状況を報告した当直将校が暗然とした表情で残るラステンブルク猟兵部隊の状況を報告し、それを受けたスティリアが唇を噛み締めながら地図を見詰めていると装具を装着した中隊長以上の幹部達が続々と司令部のテントに駆け込んで来た。

駆け込んで来た幹部達は当直将校の報告する襲撃の規模と巧みさに一様に顔をしかめ、スティリアは彼等が状況を把握したのを確認するとバイエルラインとギレに視線を向けながら口を開いた。

「バイエルライン、ギレ、大隊が出撃可能になるまでの時間は?」

「20分の予定ですが可能な限り急がせています」

「こちらも同じ様な見通しです」

スティリアの問いかけを受けたバイエルラインとギレは即座に部隊の出撃可能時期を答え、それを受けたスティリアは頷いた後に愛剣クリムゾンの柄に手を添えながら命令を下した。

「第一大隊及び第二大隊の半数は私と共に出撃して第九騎士団の救援に向かう、第二大隊の残余と第三大隊に関しては現在地にて防備を固めつつ救護所を設定して負傷者の後送に備えよ、派遣軍司令部に伝令及び魔通信をもって急報を報告して回復魔導士の急派を要請しろっ!!第一、第二大隊長は私に追従し、第三大隊長に関しては当地の指揮に任ぜよ、敬礼は構わん、直ちにかかれっ!!」

「「……ハッ!!直ちにかかりますっ!!」」

スティリアの命令を受けた幹部達は叩きつける様な口調で復唱した後に司令部から駆け出して行き、スティリアは厳しい表情でそれを見送った。

その15分後、出撃態勢を整えた第一大隊と第二大隊の2個中隊の騎乗騎士約1500名は緊迫した面持ちで整列し、尖兵中隊の後方には葦毛の駿馬に跨がったスティリアがバイエルラインや大隊本部付の騎士達と共に控えていた。

「スティリア様、出撃態勢完了しました」

バイエルラインから出撃態勢が整った事を告げられたスティリアは片手を掲げる事でそれに応じ、その後にクリムゾンを鞘から抜き放って紅の刃を前方に降り下ろしながら号令を発した。

「総員出撃せよっ!!」

スティリアの凛とした号令を受けた尖兵中隊の騎乗騎士達は馬腹を軽く蹴って前進を開始し、スティリアが進発を開始した尖兵を見送りながら周囲を見渡すと離れた所で出撃を見送るクーデリアの姿があった。

スティリアの視線に気付いたクーデリアは深々と頭を垂れて一礼し、スティリアが右手を軽く掲げる事でそれに応じた後に前方に視線を向けると尖兵中隊の最後尾が進発して宿営地の出入口へと駆け出していた。

「……よし、行くぞっ!!」

「「……ハッ!!」」

尖兵中隊の出撃を確認したスティリアがバイエルライン達に出撃を命ずるとバイエルライン達は短くそれに応じ、スティリアはそれを確認した後に愛馬の馬腹を軽く蹴って愛馬を進ませ始めた。

スティリアの出撃を確認したバイエルライン達も乗馬の馬腹を蹴ってそれに続き、後続の乗馬騎士達も同じ様に馬腹を蹴ってそれに続いた。

スティリア率いる近衛第三騎士団救援隊は軽やかな駒音と共にヴァイスブルクの森へと向かい、クーデリアは無言で佇みながら遠ざかるスティリアのみを見送っていた。



魔王アイリスによって開始されたロジナ候国軍及び同盟国軍に対する襲撃作戦、その凶報は直ちに後方で変事に備えていたスティリアの下にももたらされ、それを受けたロジナの戦姫スティリアは傷から回復しつつあるクーデリアに見送られて友軍を救援する為に出撃した……


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