蹂躙・ヴァイスブルクの悪夢編・血雨
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大陸歴438年霧の月二十二日・ダンジョン周辺・作戦機動群
出撃した第一、第二、第三機動打撃群は順調に進撃して日付が替わった頃に所定の部署に展開を終え、それを確認したアイリスは作戦機動群の出撃を命じて双角龍を出撃させた後に同盟者の魔龍に向けて口を開いた。
「それじゃあ、そろそろ出撃して頂戴、攻撃のタイミングはそちらに任せるわ」
……承知した、それでは行くとしよう、良き狩りが出来る様祈っているぞ魔王アイリスよ……
魔龍はそう応じた後に悠然と羽ばたいて夜空に向けて飛び立ち、アイリスは飛び去る魔龍を一瞥した後に傍らのミリアリアに向けて口を開いた。
「それじゃあ、あたし達もそろそろ出撃しましょうか?」
「ああ、そうだな」
アイリスの言葉を受けたミリアリアは相槌を打ちながらマリーカ達に向けて頷きかけ、それを確認したマリーカ達は頷いた後に双角龍の背中によじ登り始めた。
マリーカ達が双角龍の背中に跨がり終えたのを確認したアイリスは頬を仄かに赤らめさせながらミリアリアに向けて微笑み、それを目にしたミリアリアは笹穂耳まで赤くさせて頷き返した後にアイリスに近付いた。
アイリスは近付いた来たミリアリアを軽々と抱き抱えると嬉しそうに微笑み、そのあどけない笑顔を間近に見たミリアリアが真っ赤な顔で頷いたのを確認した後にマリーカ達が乗り込んだ双角龍に視線を向けた。
アイリスの視線を受けた双角龍はそれに応じる様に小さく咆哮した後にゆっくりと夜空に向けて上昇を始め、アイリスは双角龍の上昇が終了したのを確認した後に背中の蝙蝠の羽根を軽く一叩きさせて双角龍と同じ高度に上昇した。
上昇したアイリスは眼前に彼我の状況が記された地図の魔画像を具現化させ、順調に進捗している自軍の展開状況に満足げな笑みを浮かべながら腕の中のミリアリアに語りかけた。
「今の所順調ね、各機動打撃群に攻撃開始を命じるわ」
「ああ、いよいよだな」
アイリスの言葉を受けたミリアリアは表情を鋭くさせながら応じ、アイリスは魔王に相応しい凄惨な笑みと共に頷いた後に各機動打撃群に向けて攻撃命令を下した。
第一機動打撃群
陣営再建部隊への合流途上に野営の陣を張るラステンブルク伯国猟兵部隊、その陣を遠巻きに監視していた第一機動打撃群を率いるサララの下にアイリスから待ち望んでいた命令がもたらされた。
「各機動打撃群に通達、各機動打撃群は所定の計画に従い攻撃を開始しなさい」
「こちら第一機動打撃群、了解しました、攻撃を開始します」
アイリスの告げた攻撃開始命令を受けたサララは即座に返信した後に周囲に展開したミリーナ達に視線を向け、ミリーナ達が大きく頷いたのを確認した後に円盤形態で上空に待機しているブラッディスケアクロウに向けて攻撃を命じた。
ラステンブルク伯国軍猟兵部隊野営地
陣営再建部隊への合流を目指すラステンブルク伯国軍猟兵部隊、第八猟兵団主力及び第十猟兵団の約1600名の猟兵達は少数の不寝番の者を除いて簡易的な野営地にて仮寓しており、不寝番の猟兵は生欠伸を噛み殺しながらぼやきをもらした。
「……ったく俺達がする事は騙されてるとも知らずにやって来た間抜けなヴァイスブルクの残党どもを捕縛するだけだった筈だってのにこうして野宿する羽目になるとはな」
「全くだぜ、今頃他の部隊の奴等は捕縛した女エルフを好き放題にしてるだろうに、ホントに運が悪いぜ」
猟兵のぼやきを耳にした同僚が肩を竦めながら相槌を打っていると唐突に周囲の闇が更に深まり、それに気づいた猟兵達が怪訝そうな面持ちで頭上を見上げるといつの間にか上空に輝いていた筈の満月が消失しており、猟兵達が首を傾げているとその頬を生温い雨粒が叩き始めた。
「……ちっ雨かよ、さっきまで晴れてたってのに本当に運が無いぜ」
「全くだぜ」
猟兵達は忌々しげにぼやきながら手近な所にあった天幕の下に移動して雨粒から逃れ、雨粒をタオルで拭いながらぼやき続けた。
「今日は本当に厄日だぜ、なあ、おい」
雨粒を拭った猟兵は同僚に向けてぼやいたが同僚は目を見開いたまま無言で先程まで雨粒を拭っていたタオルを見詰めており、それに気付いた猟兵は訝しげな表情で同僚に語りかけた。
「……おい、どうしたんだよ一体」
「……お、おい、お前のタオルどうなってるんだ?」
「……ああ、タオルが一体どうし」
猟兵の言葉を受けた同僚はタオルを凝視しながら逆に問いかけ、それを受けた猟兵は戸惑いの声と共に自分が手にしたタオルに視線を落として驚愕の表情と共に言葉を喪った。
天幕に吊るされた簡易魔力灯のぼんやりとした光に照らされるタオルはまるで血に濡れた様に赤く染まっており、それを目の当たりにした猟兵が慌てて同僚に視線を向けると同僚も同じ様に赤く染まったタオルを手に呆然とした表情を浮かべていた。
「……お前のタオルも、なのか?」
「……あ、ああ、だがどういう事だ?俺達はただ雨を拭っただけだぞ」
同僚の言葉を受けた猟兵が戸惑いの声をあげながら手にしたタオルを雨粒落ちる天幕の外へと差し出して暫くした後にそれを手元に戻すとタオルは更に鮮やかに赤く濡れており、その異様な光景を目の当たりにした2人が言い様の無い悪寒に襲われて顔面を蒼白にさせていると地面が微かに揺れた。
微かな揺れはほんの一瞬で治まり、猟兵と同僚は生唾を飲み込みながら顔を見合わせた後に恐る恐る天幕の外へと出た。
外に出た2人が目にしたのは降り頻る血の様に赤い雨の中に佇む今まで見た事が無い赤い巨大な人形の様な物、ブラッディスケアクロウの姿であり、その異様な姿を目にした2人は思わず後退りしながら驚愕に目を見開いた。
「……な、何だコイツは?」
「……こ、こんな奴、見た事も聞いた事も無いぞ」
2人が驚愕に目を見開きながら喘ぐ様な口調で呟いているとブラッディスケアクロウは鞭と鎌をゆっくりと振りかぶり、それを目にした2人は遅まきながらに警告を発しようとしたがブラッディスケアクロウはそれを制する様に鞭を降り降ろして2人を地面に叩きつけた。
地面に叩きつけられ絶命した2人から飛び散り地面を濡らした血糊と血反吐に赤い雨が降り注ぎ、ブラッディスケアクロウは2人の亡骸には目もくれずに整然と並ぶ簡易テントに顔を向けた。
テントを見据えたブラッディスケアクロウの無機質な目から光線が発射され、発射された光線は整列した簡易テントの只中で炸裂して眠っていた猟兵達を吹き飛ばしてしまう。
突如として発生した爆発は就寝中の猟兵達を文字通りに叩き起こし、ブラッディスケアクロウは突然の事態に寝ぼけ眼を擦りながら起き上がった彼等を光線と鞭と鎌でもって蹂躙し始めた。
光線に薙ぎ払われ爆砕されたテントと吹き飛ばされた猟兵が吹き飛ばされ、状況が分からぬまま長大な鞭と鎌に捉えられた猟兵が断末魔の絶叫と共に倒れ伏す、ブラッディスケアクロウは血の様な赤い雨を降らせながら野営地を蹂躙し、それに対して猟兵達は右往左往しながらも態勢を建て直そうとし始めた。
「一体何がどうなっているのだっ!!」
「し、正体不明の大型モンスターによる襲撃です、現在第八猟兵団のテントが襲われています」
司令部のテントではぐっすりと熟睡していた所を叩き起こされた指揮官の第十猟兵団長のウラジミール・フォン・ラムキが張り上げた怒声に対して幕僚が青ざめた顔で状況を報告し、ラムキは目を吊り上げながら更に怒声を張り上げた。
「モンスターの襲撃程度で醜態を晒しおってっ!!直ちに部隊を編成してモンスターを討伐せよっ!!」
ラムキの怒声を受けた幕僚が慌てて敬礼して逃げる様にテントを飛び出して行き間にもテントの外からはブラッディスケアクロウの光線が炸裂する爆発音が連続して響き、それを聞いたラムキは怒りに顔を赤黒く染めながらテントの外へと駆け出した。
テントの外に出たラムキが目にしたのは野営地を蹂躙し続けるブラッディスケアクロウの姿であり、それを目にしたラムキは怒りに目を血走らせながら怒号を張り上げた。
「貴様ら、それでもラステンブルク猟兵部隊か!!たかが一匹のモンスターごときに好き勝手暴れ回られよって!!直ちにモンスターをせんめ……っな、何事だっ!?」
ラムキが怒号を張り上げていると、その足元が突然激しく揺れ始め、突然の事態にバランスを崩しかけたラムキがテントの支柱にすがり付いて転倒するのを防ぎながら狼狽えた声をあげていると司令部前の地面が激しい揺れと共に大きく盛り上がり、そこから大量の土塊を撒き散らしながら巨大なモンスター、地炎龍が姿を現して方向を轟かせた。
「な、何だコイツはあっ!!」
突如出現した地炎龍を目にしたラムキが驚愕の声をあげていると司令部の警備を行っていた魔導猟兵数名が慌てふためきながらも地炎猟に向けてファイヤーボールを発射し、放たれたファイヤーボールは狙い過たずに地炎龍を直撃したが地炎龍は全く意に介した様子を見せず逆に魔導猟兵達に向けて口から業火を迸らせた。
地炎猟の放った業火は魔導猟兵達の近くの地面で炸裂して魔導猟兵達を吹き飛ばしてしまい、その猛威を目にしたラムキは血走った目で地炎龍を見据えた。
「……何なのだ、コイツは、一体、何が、何が起こっていると言うのだあぁぁぁっ!!」
激変する事態に付いていけずに絶叫したラムキに視線を向けた地炎龍はラムキに向けて業火を放ち、放たれた業火は司令部のテントごとラムキの身体を単なる消し炭へと変えてしまった。
ブラッディスケアクロウの襲撃に混乱しながら態勢を建て直そうとしていた猟兵部隊は地炎龍の出現と地炎龍による司令部粉砕によって大混乱に陥ってしまい、その状況はブラッディスケアクロウの更なる攻撃によって更に悪化してしまう。
野営地を蹂躙ていたブラッディスケアクロウは周囲に猟兵達の亡骸が増えた事を確認すると周囲に赤いガスを撒き散らし、そのガスに包まれた猟兵達の亡骸はゆっくりと起き上がると濁り開ききった瞳孔でかっての同僚達を見据えながら襲い始め、衝撃的な事態に総毛立った猟兵達に向けてブラッディスケアクロウの光線と地炎猟の業火が襲いかかる。
「「……うわぁ」」
たった2体で野営地を蹂躙するブラッディスケアクロウと地炎龍、その猛威を目の当たりにした第一機動群の面々はその猛威に思わずドン引きしてしまっていた。
「……す、凄まじい、アイリス様の使役獣は」
「……あ、ああ、そうだな」
サララとミリーナはブラッディスケアクロウと地炎龍の猛威にドン引きしながら言葉を交わし、サララはその後に気を取り直す様に小さく首を振りながら双鞭龍が収められたカプセルを取り出して言葉を続けた。
「現在ラステンブルクの連中は崩壊寸前だ、双鞭龍を出撃させ、装甲火蜥蜴や私達が火力支援を行えば恐らく連中は潰走するだろう、アンデッド部隊やブラッディマンティス隊、魔狼隊は潰走する連中の残敵掃討に当たらせよう」
「……そうだな」
サララの言葉を受けたミリーナは頷きながら同意し、それを確認したサララは装甲火蜥蜴隊と皆を展開させて攻撃態勢を整えた後に双鞭龍のカプセルを前方に投じた。
「……頼むぞっ、力を貸してくれっ!!」
サララがそう言いながら投じたカプセルは眩い光と共に爆ぜて双鞭龍が姿を現し、サララは双鞭龍の報告が轟く中号令を発した。
矢継ぎ早に起こり続ける事態の連続に混乱しきっていた猟兵部隊の士気と規律はサララ達と装甲火蜥蜴隊の火力支援を受けた双鞭龍の野営地襲撃によって完全に崩壊し、士気と規律を喪失した猟兵達は散り散りになって遁走を開始してしまう。
野営中を襲われたラステンブルク伯国軍猟兵部隊約1600名は襲撃によって約半数を喪い遁走したが、散り散りになって逃げ惑う彼等は散開した待ち構えるアンデッド部隊とブラッディマンティス隊や魔狼隊の待ち伏せを受けてその多くが骸を晒す事となり、命辛々にラステンブルクに辿り着けた者や救援隊の陣地に収容された者は300名程度に過ぎなかった。
後にヴァイスブルクの悪夢と呼ばれる事となる凄惨な殺戮劇、その幕はまだ開かれたばかりであった。
遂に開始された魔王軍によるロジナ候国軍及び同盟国軍に対する襲撃作戦、最初に蹂躙されたのはラステンブルク伯国軍猟兵部隊であった。
野営中を襲撃された部隊はアイリスの使役獣の猛威の前に瞬く間に崩壊して潰走し、多くの猟兵達が骸を晒す事となった。
遂に開幕したヴァイスブルクの悪夢、その幕を開いたのは使役獣が降らした血の様に赤い雨……