進発・第二機動打撃群
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ダンジョン周辺・第二機動打撃群
ラステンブルク伯国軍攻撃の為出撃したサララ率いる第一機動打撃群、その最後尾が木々の合間に消えて暫くした後に新たな動きが生じた。
整列していたアンデッド部隊の中からスケルトン部隊の一部とボーンマジシャンの部隊が骨を擦れ合わせながら前進を始め、第二機動打撃群を率いる闇神官リリアーナはクラリスやイライザ達と共にその様子を木陰から見詰めていた。
「さっきの大型モンスター、凄かったわね、あれがアイリス様の使役獣なのね」
「ええ、そうです……そう言えば姉上は初めて見る事になるのですね」
リリアーナが先程目にしたブラッディスケアクロウと地炎龍の姿を思い起こしながら感慨深げな口調でクラリスに問いかけるとクラリスは穏やかな表情でそれに応じ、その様子を見ていたエリーゼは笑みを浮かべながら傍らに佇むイライザに語りかける。
「……クラリス様、嬉しそうですね」
「……そうだな、今生の別れをしていた筈がアイリス様の御力によってこうして再び共に語らい、轡を並べる事が出来たのだ、クラリス殿の喜びアイリス様への感謝の念もひとしおだろう」
エリーゼの言葉を受けたイライザは微笑みと共に応じ、それから一拍の間を置いた後に頬を微かに赤らめさせながら言葉を続けた。
「……アイリス様への感謝の念に関しては私やエリーゼも同じだな」
「……ッ!?は、はい、そうですね」
イライザの言葉を受けたエリーゼは笹穂耳まで真っ赤になりながら相槌を打ち、イライザはその姿を愛しげに一瞥した後に表情を引き締めながら前進を開始したアンデッド部隊に視線を向けた。
どこか泰然とした様子で出撃の時を待つ第二機動打撃群の面々、その中にあってエウレーネだけが激変した己の状況に対して戸惑いの念を抱き続けていた。
(……私は本当にここに居ても良いのだろうか、ミランダ様やイライザ様の様に虜囚となり辱しめられた訳でも無く、マリーカ様の様に逃走をしていた訳でも無く、それどころか裏切り者の片棒を担ぎロジナの屑どもに加担していた私がこの一員に加わっていて本当に良いのだろうか?)
本意では無かったとしても裏切りを起こした第六騎士団の一員としてイライザ達を窮状に追い込む一助を担っていたエウレーネは苦悩の表情で見るとは無しに周囲を見詰め、エウレーネの監視役を務めるラリッサとサーシャは表情を曇らせながらその様子を見詰めていた。
「やはりお悩みの様ですわね、エウレーネ様」
「……無理も無い、幾ら本意では無いと言えエウレーネ様が第六騎士団で中隊長を務め、ロジナに加担していたのは事実なのだからな」
表情を曇らせたサーシャの呟きを耳にしたラリッサが同じ様な表情で相槌を打っているとアイリスがミリアリアと手を繋いだ状態で姿を現し、それに気付いたラリッサとサーシャが慌てて敬礼しようとするのを制した後に苦悩の表情で進撃を始めたアンデッド部隊を見詰めているエウレーネを見ながら口を開いた。
「……結構悩んでるみたいねえ」
アイリスの呟きを聞いたラリッサとサーシャは表情を曇らせたまま頷き、それを確認したアイリスは暫し思案した後に名残惜しげにミリアリアの手から自分の手を離しつつ言葉を続けた。
「……少し話してみるわ、ミリアはリリアーナにその事を伝えて頂戴」
「……ああ、頼むぞアイリス」
アイリスに声をかけられたミリアリアは若干の名残惜しさを感じながら返答し、アイリスは笑顔で軽く手を振る事で応じた後にエウレーネの傍らへと移動して口を開いた。
「……少しは慣れたかしら?」
「……ッ!?あ、アイリス様!?」
物思いの最中にアイリスに声をかけられたエウレーネは驚きの声をあげ、その様子を目にしたアイリスは悪戯っぽく笑った後に少し離れた所の大木を示しながら言葉を続けた。
「……考えてみたら貴女とはまともに話してなかったわ、あそこで少し話をしましょう、構わないわね?」
「は、はい」
アイリスの言葉を受けたエウレーネは戸惑いの表情のまま返答し、それを確認したアイリスは頷いた後にエウレーネを促して大木の傍らへと移動して改めて口を開いた。
「……魔王の率いる軍勢に正式に参加してみた感想は如何かしら?」
「そ、それ、は……その」
アイリスの問いかけを受けたエウレーネは言葉に詰まってしまい、アイリスはそんなエウレーネを尻目に更に言葉を続けた。
「あらあら、あたしそんなに難しい質問をしちゃったかしら、だったら分かり易い質問に変えてあげるわね、裏切った仲間達ともう一度轡を並べてる気分は如何かしら」
「……っ!?」
アイリスが質問を更に苛烈な物へと切り替えるとエウレーネは押し潰されて声にならない声をあげてしまい、その反応を目にしたアイリスは場違いで空恐ろしく感じる程にニコニコしながら言葉を続けた。
「……貴女、あたしが気紛れで貴女を助けたみたいに勘違いしてるみたいだからハッキリ言っておくわね、あたしはそもそも貴女を迎え入れるつもりなんてこれっぽっちも無かったわ、数日分の食糧を渡したらほっぽり出して後は野垂れ死にしようが何だろうが好きにさせるつもりだったのよ、当然よね、貴女が本意であろうがなかろうが貴女がミリア達を裏切ってミリア達を窮地に追い込んだのは事実だもの、ハッキリ言ってあげる、あたしは今でも貴女を信用していないわ」
ニコニコしながらエウレーネに告げるアイリスだったがその淡い瑠璃色の瞳は全く笑っておらず、エウレーネがその瞳に気圧されて思わず身体を強張らせてしまっていると更に言葉を続けた。
「けれどミリア達の総意は貴女を受け入れる事、だからあたしはそれに従って貴女を受け入れる事にしたのよ」
アイリスはそこまで言うと笑いを収め、エウレーネを真正面から見据えながら言葉を続けた。
「……だからあたしは貴女を受け入れ、この襲撃にも参加させた。無論貴女がどうするかは貴女の自由よ、あたし達の一員としてロジナの連中を攻撃するも良し、あたし達を裏切ってロジナの連中の所に戻るも良し、今ミリアがリリアーナに伝えてる所よ、貴女がロジナの所に戻ったとしても止めない様に」
そこで一度言葉を止めたアイリスの淡い瑠璃色の瞳に凄絶な光が宿り、それを目にしたエウレーネが反射的に剣の柄に伸びかけた手を何とか寸前で止めているとアイリスは凄絶な光を宿した瞳でエウレーネを見据えながら宣言した。
「ロジナの連中の所に戻るのならば止めはしないわ、でも、それはその時だけの話よ、もしその次に戦場で貴女の姿を見つけたら……覚悟しておきなさい、ミリアを裏切った貴女をあたしは絶対に許さない、貴女の心も身体も何もかも滅茶苦茶にしてあげるわ、一息に殺すなんて慈悲はあげない、真綿でゆっくり、ゆっくり、ゆっーくりと締め上げる様に貴女の全てを蹂躙し尽くしてから苦しみ悶えさせながら殺してあげるわ」
「…………肝に命じておきます」
(……そうだ、私に選択の余地等ある筈が無い、本来の私に相応しい末路はアイリス様の仰有った末路、それにも関わらず私が今こうしていられるのは私達の裏切りによって辛酸を嘗めさせられた筈の皆の恩情、ただそれだけだ、悩む資格等私には最初から無かったんのだ)
苛烈なアイリスの言葉を受けたエウレーネはその言葉によって自身の立場を完全に理解して深々と頭を垂れ、それを確認したアイリスはエウレーネが頭を上げるのをまって穏やかな口調で言葉を続けた。
「……難しく考える必要は無いわ、ミリア達が貴女を受け入れた、ただそれだけよ、そしてあたしはそれを尊重しいる。ミリア達を裏切らない事を願っているわ、そうすれば貴女は行き長らえる事が出来るし、ミリアも喜んでくれる。そしてミリアが喜んでくれたらあたしも嬉しいわ」
そう言うアイリスの様子は何時もの飄々としたアイリスその物であり、エウレーネはその様子からは真逆の位置にある先程の苛烈なまでの忠告を胸に刻み込みながらもう一度頭を深々と垂れて謝意を示した。
そうしてエウレーネとの会話を終えたアイリスがリリアーナの所に向かうとミリアリアとリリアーナとクラリスがアイリスを出迎え、アイリスが鷹揚に頷いていると脳裏に同盟者の魔龍が念話による呼びかけてきた。
……魔王アイリスよ、ぼつぼつ頃合いの様だぞ……
魔龍の呼びかけを受けたアイリスが頭上に視線を向けると上空で魔龍が悠然と羽ばたきながらホバリングを行っており、それを確認したアイリスは片手を掲げて応じた後にリリアーナに向けて口を開いた。
「……そろそろ進発の時間ね、皆を集合させて頂戴」
「畏まりました、アイリス様、クラリス」
「承知しました、皆様、集合願いますっ!!」
アイリスの言葉を受けたリリアーナがクラリスに声をかけるとクラリスはイライザ達に集合を呼びかけ、それを受けた第二機動打撃群の面々は即座に集合してアイリスの前に整列した。
第二機動打撃群の面々が整列するのに相前後する形で第二機動打撃群に配属された大型モンスター部隊が出現し、アイリスはそれを一瞥した後にリリアーナ達を見渡しながら口を開いた。
「それでは第二機動打撃群に進発して貰うわ、既に通達済だけどもう一度伝達しておくわね、第二機動打撃群の目標はロジナの魔曲騎士団への攻撃よ、ただし魔曲騎士団の戦闘力は高くヴァイスブルク方面からの増援が来る可能性もあるわ、無理をせず牽制と拘束に徹しなさい、同盟者の魔龍にも参加して貰うから魔龍騎士団への攻撃は魔龍が主導して実施し、第二機動打撃群はその支援に当たりなさい、貴女達が魔曲騎士団を釘付けに出来るかどうかはこの作戦の重要ような要素よ、皆の健闘を期待しているわ」
「畏まりました、アイリス様、全力を尽くします」
「敬礼!!」
アイリスの訓示を受けたリリアーナが深々と一礼して決意を述べると同時にクラリスの号令を受けた第二機動打撃群の面々が流れる様な動作で敬礼を行い、アイリスが少しぎこなく答礼して応じると第二機動打撃群の面々が出撃を開始した。
……随分と賑やかになった物だな……
「……ええ、そうね、第二機動打撃群が配置につくまで暫く時間がかかるわ、降りて待機してたらどうかしら?」
……それもそうだな……
出撃する第二機動打撃群を見送っていたアイリスが念話で話しかけてきた魔龍に返答すると、魔龍は相槌を打った後に第二機動打撃群出撃によって生じたスペースにゆっくりと巨体を降ろし、アイリスが頷いていると傍らのミリアリアが声をかけてきた。
「……お疲れ様、アイリス」
「……平気よ、彼女には釘を刺しておいただけだもの、また裏切ったらひどい目に遇うぞってね」
ミリアリアから労いの言葉をかけられたアイリスは悪戯っぽく微笑みながら返答し、一拍の間を置いた後に更に言葉を続けた。
「……もう少し気の利いた事を言えたら良かったかも知れないんだけど、魔王のあたしだとああいう言い方の方が様になるのよね」
「……アイリス」
そう言うアイリスの微笑は少し寂しげな物でそれを目にしたミリアリアは小さくアイリスの名を呟いた後にぎこない動作だがしっかりとアイリスの肩に手をかけてアイリスを抱き寄せた。
「……み、ミリア?」
「……気にするなアイリスは貴女は魔王なのだ、だから魔王として思うままに振る舞ってくれ、世界の全てが貴女を拒絶したとしても私は貴女の全てを受け入れ肯定するつもりだ」
アイリスが突然のミリアリアの行動に真っ赤になって声をあげているとミリアリアは笹穂耳まで真っ赤にさせながら言葉を続け、アイリスは嬉しそうに頷いた後に甘える様にもたれかかりながら口を開いた。
「……第三機動打撃群まで、お姫様抱っこで運んでくれる?」
「……っなっ!?……ぐっ……ぬっ……わ、分かった、そ、それくらい御安い御用……だ」
アイリスから願いを告げられたミリアリアはこれ以上無い程真っ赤になりながら返答した後にアイリスの身体を抱え上げ、嬉しそうに笑いながら甘える様にもたれかかってくるアイリスを愛しげに一瞥した後に待機している第三機動打撃群に向けて歩き始めた。
……ククク、随分と素直になった物だな、とは言えまだまだ道半ば、と言った所か……
魔龍は遠ざかるアイリスを抱えたミリアリアの背中を見ながら楽しげに笑いながら呟きつつ脳裏に現在の彼我の状況が記された地図を思い起こし、前進を始めた魔王軍の動きを確認して満足げに頷いた。
第一機動打撃群の進発に引き続き魔曲騎士団への牽制攻撃部隊、第二機動打撃群が進発を開始した。魔王に見送られ進発した第二機動打撃群は粛々と戦場に向けて歩を進め、第二機動打撃群に協力する同盟者の魔龍はダンジョン周辺に待機してその時に備えていた……