惨劇・残党狩部隊編・殲滅
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ダンジョン入口付近・残党狩部隊キャンプ
リーナとアリーシャを引き連れた第三、第五分隊の出発後、残された残党狩部隊の将兵達は設置したテントの周辺でその帰還を待ち、その内の多くは無聊を晴らす為に残されたライナの魅惑的な褐色の肢体に群がっていた。
激しい凌辱に嬲られ続けたライナは汚し尽くされた疲労困憊状態の身体をうつ伏せに倒れて荒く肩で息を続け、先程までライナの身体を嬲り続けていた残党狩部隊の将兵達は倒れ伏す褐色の肢体を野卑た笑みで見下ろしていた。
「オイオイ、もうオネンネの時間かよ、俺達を殺してやるって粋がってた割にだらしねえなあ」
「オラオラ、どうしたんだ誇り高きダークエルフさんよお、さっさと起きて俺達を殺してみろよ」
残党狩部隊の将兵達が嘲笑と嘲りの言葉を投げ掛けると同時に何人かがうつ伏せになった事で晒されてしまっている緩やかに曲線を帯びたライナの臀部を足蹴にし、ライナは懸命に歯を食いしばって羞恥と屈辱、そして無力感に耐えていた。
(……悔しい……私に……もっと力があれば……私だけじゃなく……リーナやアリーシャも護れたのに……)
歯を食い縛り耐えているライナの瞳からは止めきれなかった悔し涙の滴が流れ続け、その様子を目にした残党狩部隊の将兵は楽しげに嘲笑を続けながらうつ伏せになったライナの褐色の肢体を足蹴にし続けた。
悔し涙を流すライナを嘲笑し足蹴にし続けていた残党狩り部隊の将兵達が凌辱を再開する為に疲労困憊状態のライナを無理矢理立たせ、悔し涙を流しながらも彼等を睨みつける事で精一杯の抵抗を示すライナを一際楽しげに嘲笑している時、ダンジョンの入口から半狂乱状態になった兵士が転がり出る様に出てきた。
「た、た、助けてくれえええっ!!こ、こ、このダンジョン、ふ、ふ、普通じゃねえぇぇぇっ!!」
焦点の合わない目で半狂乱になって喚き散らす兵士の姿は明らかに常軌を逸しており、その姿を目にした将兵達が慌てて彼の元へと駆け寄った為に無理矢理立たされていたライナはその場に崩れ落ちてしまった。
(……何が……あったんだ)
崩れ落ちたライナが何とか視線を騒ぎがあった方向に向けると残党狩部隊の将兵達は半狂乱になって喚く兵士を取り囲んでおり、指揮官は喚く兵士の胸ぐらを掴みながら兵士に怒声を浴びせた。
「落ち着け、落ち着かんかっ!!貴様それでもロジナ候国の兵士か、他の連中はどうしたっ!!エルフはいたのかっ!!」
「死んだっ!!死んだっ!!皆死んじまったよっ!!皆、皆、気味悪りぃアンデットどもに殺されちまったっ、皆殺しだ、皆殺しなんだよおぉぉぉぉっ!!!このダンジョンは普通じゃねえ、普通じゃねえぇぇぇよおぉぉぉっ!!!」
指揮官に渇を入れられた兵士は正気に戻るどころか更に半狂乱になって喚き続け、その異様な様を目の当たりにした他の将兵達が動揺し始めるのを目にした指揮官は小さく舌打ちした後に号令を発した。
「ダンジョンに入った連中に何かが起こった様だ、急いで救援に向かう、全員直ちにダンジョンに突入するっ!!ダークエルフも囮として連れて行けっ!!」
(どうやらあの屑どもに何かが起こった様だな)
怒号の様な号令を下す指揮官の様子を目にしたライナは自分やリーナ、アリーシャを凌辱し嬲り続けた連中が憐れな末路を辿ったらしい事に僅かばかりだが溜飲を下げ、その後に兵士が喚いていた言葉の中にあった皆殺しと言う不穏な言葉に思いを馳せた。
(あいつは皆殺しと喚いていた、と言う事はリーナやアリーシャも……だが、もしも苦しまずに逝けたのだとしたら……こんな生地獄の様な状態よりは……マシなのかもしれないな……どうやら私もダンジョンに向かう様だし、そうすれば彼女達の所へ)
ライナがそんな事を考えているとその傍らに足音荒く兵士が近付き、先程に比べると明らかに余裕が無くなっている兵士は無言のライナに忌々しげな表情を浮かべながら怒声を浴びせた。
「オイッ!!何時まで余韻に浸って呆けてやがんだこの阿婆擦れがっ!!ダンジョンに向かうからさっさと立てっ!!」
兵士は怒声を浴びせながらライナを無理矢理立たせて引き摺る様に準備を整えた残党狩部隊の先頭に移動させ、指揮官はそれを確認した後に傍らで準備を終えた魔導士に声をかけた。
「魔狼を最初に突入させよう、露払いや囮に使える」
「致し方無いでしょう、追跡能力を有した連中なので少々惜しい話ですが背に腹は替えられませんからね」
指揮官の提案を受けた魔導士は顔をしかめて応じた後に後方に控えている魔狼達をダンジョンに向けて侵入させ、全ての魔狼達がダンジョンの入口に消えると同時に指揮官はダンジョンへの侵入を命じた。
「い、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だあぁぁぁっ!!は、は、入りたくねえっ、こ、こ、こんなダンジョン、もう嫌だあぁぁぁっ!!」
「くそっ、おいっ、暴れるなっ!!おいっ、もう1人こい、こいつを黙らせる」
ダンジョンの入口付近で命からがら脱出したダンジョンに再び戻される事になった兵士が半狂乱でた暴れながら喚いた為、仲間の兵士達は彼を無理矢理押さえ付け猿轡を噛ませて黙らせ、それが終了した後に残党狩部隊の本隊と生き残り34名は囮のライナを先頭にダンジョンへと侵入した。
残党狩部隊を迎えたダンジョンは沈黙を以て侵入者達を迎えいれ、残党狩部隊は沈黙の中、ダンジョンの奥に向けて進み始めた。
命からがら脱出して来た先発隊の兵士のただならない様子を目の当たりにした残党狩部隊の将兵達は沈黙に包まれるダンジョンに忙しなく視線を走らせながら進み、一方囮となる事を強いられている筈のライナはこの状況に微塵も動じる気配を見せず、それどころか自分達を散々に嬲り尽くし汚し尽くして来た連中の落ち着き無く忙しない様子に溜飲を下げながら進み続けていた。
(……無様だな、忙しなさ過ぎていっそ滑稽ですらある、まあ、命からがら脱出してきた屑の様子を見れば警戒するのも当然と言えば当然か)
そんな事を考えながらライナは鉄球付の足枷が嵌められた両足を緩慢に動かしながら前に進んで行くと、前方に事前のスキャニングの結果によれば存在する筈の無い三叉路に到着し、それを確認したライナが静かに歩みを止めると後続していた残党狩部隊の将兵達も足を止めると戸惑いの表情を浮かべながら三叉路を見回した。
「……どう言う事だ?このダンジョンは生成されたばかりの一本道な筈だろうがっ!!」
「……ば、馬鹿な、スキャニングによるとこのダンジョンは一本道の筈だっ!?」
指揮官から詰問された魔導士は泡を食った表情になりながら杖を掲げると再びスキャニングの魔法をかけ、捜索の為に放った魔法の光が収まると同時に青ざめた顔で言葉を続けた。
「……どう言う事だスキャニングの結果は一本道だこんな三叉路等存在しない筈なのに」
「存在しないだと!?では我々の目の前にあるアレは何だっ!!一体何だと言うんだっ!!」
「そんな事私が知るかっ!!私に言えるのはスキャニングの結果は一本道のダンジョンであんな三叉路は存在する筈が無い、それだけだっ!!」
これまで無条件に信じていたスキャニングの結果と乖離するダンジョンの様子を目の当たりにして激しい口論を続ける魔導士と指揮官、ライナはその激しいやり取りを他人事の様に聞きながら前方に存在する三叉路を見詰めた。
(……スキャニングの結果に相反するダンジョンの様子、少なくともここから逃げ出して来た屑の言っていたこのダンジョンが普通のダンジョンでは無いと言う言葉は正しかった様だな、ならばやはりリーナとアリーシャは逃げられなかった屑どもと共に……そして、私もこの屑どもと共に……)
ライナが目の前に広がる異質のダンジョンの光景を見ながら親友であったリーナとアリーシャが辿ったであろう末路と、これから2人と同じ様な末路を辿るであろう自身に思いを寄せていると前方から一団の人影が姿を現して此方に向けて近付き始め、ライナはそれに気付くと小さく息を吐いた。
(……どうやら迎えが来た様だな、リーナ、アリーシャ、私も直に貴女達の所へ逝くわ)
ライナがそんな風に思いながら心を落ち着けている間にも進み続けていた一団の人影は、病的な程青白い顔をした残党狩部隊先発隊の将兵達の姿となり、それに気付いた指揮官は口論を止めると彼等を睨み付けながら怒声を張り上げた。
「貴様等無事だったのかっ!!一体どう言うつもりだったのだ、何があったのかさっさと報告しろっ!!」
指揮の怒声を受けた先発隊の将兵はそれに応じる様に足を止めたがその病的な程青白い顔からは表情と言う物の存在を確かめられず、その異様な様子から異状を感じ取った指揮官は後退りしながらライナに声をかけた。
「ダークエルフっ!!さっさとあいつ等の所に行き、様子を調べて来いっ!!」
指揮官の言葉を受けたライナは無言で佇む先発隊の所に向けて歩き始め、一団の虚ろな表情を浮かべた青白い顔を確認すると自分に最期の時が近付いているのを悟った。
(……リーナ、アリーシャ、もうすぐ貴女達の所に逝けるわ、貴女達を護れなかった無力な私だけど、向こうでも私を親友にしてね)
ライナは既にこの世にはいないであろうリーナとアリーシャに呼び掛けながら鉄球を引き摺りながら歩き続け、青白い顔で佇む先発隊の前に移動すると背筋を伸ばしながら口を開いた。
「屑どもを始末してくれて、感謝している、私の親友2人も貴方方の手にかけられたこの世から旅立っている筈だ、私を刺し貫きあの2人の所へ向かわしてくれ、そして、私の屑どもに地獄を味あわせてやってくれ」
佇む青白い一団に向けて淡々とした口調で告げた後にゆっくりと瞳を閉ざしたライナ、その鼓膜を抑揚の乏しい低い声が揺さぶった。
……早マルナ、気高キダークエフルノ戦士ヨ、御主ノ戦友達ハ、我ガ主ノ御恩情ニヨリ手厚ク介抱サレテイル、スグニ御主モ我ガ主ノ御力デ回収サレル、戦友達ト共ニ、傷付イタ身体ト心ヲ、癒スガヨイ……
その声を受けたライナが驚きのあまり思わず目を開けると、青白い顔色の先発隊の将兵達が歩みを再開してライナの脇を素通りし、それと同時にライナの姿が消失した。
「ど、どう言う事だっ!?な、何故あのダークエルフが襲われんのだっ!?そ、そして奴はどこへ行ったのだっ!?」
「……彼女ハ我ガ主ノ御力ニヨリ回収サレタ、今頃ハ、戦友達ニヨリ、手厚ク介抱サレテイルデアロウ」
指揮官が狼狽えながら発した言葉に応じる様に抑揚の乏しい低い声が残党狩部隊の後方からかけられ、突然想定外の方向からかけられた声を耳にした残党狩部隊の将兵達が慌てて後方に視線を向けると退路にあたるダンジョン入口への道は剣を両手に備えた死霊騎士とその後方に控えるスケルトン、ボーンウルフによって封鎖されており、予想外の事態を目にした残党狩部隊の将兵達が驚愕の表情を浮かべていると両手に剣をもった死霊騎士が蔑みの目で彼等を見ながら口を開いた。
「貴様等ガ捕ラエテイタ、エルフトダークエルフノ戦士達ハ、我ガ主ト我ガ主ノ寵ヲ受ケシ御方ニヨリ、手厚キ介抱ヲ受ケテオル、後ハ貴様等ヲ食ライ尽クスノミ」
「し、死霊騎士だと!?な、何故発生したばかりのダンジョンにこんな奴が、ま、魔狼達は何をしているのだ」
「……ソレハ、コイツ等ノ事カ?」
突発事態の連続に狼狽えた指揮官の呟きを聞いた死霊がそう言うと三叉路の奥から先んじてダンジョンに侵入した筈の魔狼達が姿を現すと残党狩部隊の将兵に向けて低い唸り声をあげて威嚇し始め、その様子を目にした魔導士は慌てて魔狼達に向けて杖を振ったが狼達は威嚇の唸り声をあげながら残党狩部隊に向けて更に近付き始めた。
「そ、そんな馬鹿な、な、何故、使役出来ないのだっ?」
魔狼達の様子に変化が無い事を確認した魔導士は青ざめた顔のまま呆然と呟き、死霊騎士は蔑みの視線で魔導士を見ながら口を開いた。
「我ガ主ノ御力ノ及ビシコノ地ニテ、ソノ様ナ小手先ノ使役魔法等、何ノ意味モ持タヌワ」
死霊騎士がそう告げていると青白い顔をした先発隊一同が足を止め、残党狩部隊の将兵達が戦きながら見詰める中彼等は自分の顔の皮膚をつかむと力を籠めてそれを引いて自分達の顔を自らの手で引き剥がし始めた。
引き剥がされた顔のしたからくすんだ色合いの頭蓋骨が姿を現し、顔を剥ぎ取った先発隊の甲冑を纏った骸骨、ボーンウォーリアー達は笑う様にカタカタと骨を鳴らしながら残党狩部隊の方に向けて剥ぎ取った顔の皮膚を放り投げ、皮膚が着地した近くにいた残党狩部隊の将兵達が怪鳥の様な叫び声をあげる中、死霊騎士が号令を下した。
「行クゾ、我等ガ主ニ仇ナス愚カ者ドモヲ、皆殺シニスルノダ」
死霊騎士の号令を受け残党狩部隊を取り囲んでいたスケルトン、ボーンウルフ、ボーンウォーリアー、魔狼の集団は一斉に残党狩部隊に襲いかかり、余りの突発事態の連続に呆然自失の状態に陥ってしまっていた残党狩部隊は完全に対応するのが遅れてしまった。
ある者は数匹の魔狼に生きたまま貪り喰われ、ある者は群がるアンデットの剣や牙に全身を貫かれる、後手を踏んでしまった残党狩部隊の将兵達は身の毛もよだつ断末魔の悲鳴をあげながら次々にアンデットと魔狼達の餌食となって行き、ダンジョン内は残党狩部隊の将兵があげる断末魔の悲鳴が幾重にも木霊していた。
マスタールーム
「……こ、ここは一体?」
ダンジョンに命を捧げる覚悟を決めて青白い顔をした先発隊の将兵にその命を委ねた筈のライナはいつの間にか自分がダンジョンからゆったりとしたサイズのベッドやソファーが置かれた寛ぎ空間にいる事に気付くと戸惑いの声をあげ、その声に応じる様に穏やかな声がかけられた。
「安心しろ、ここは安全だ」
その声を受けたライナが声のした方に視線を向けるとそこにはミリアリアが穏やかな表情を浮かべながら立っており、訓練の際等でその姿を見知っていたライナは威儀を正そうとしたが自分の褐色の肢体が僅かばかりの布でしか覆われていないのを思い出すと羞恥に頬を染めてほぼ剥き出しの豊かに隆起した双丘を慌てて手で隠しながら口を開いた。
「だ、第四騎士団所属のライナ・バンファールであります、こ、この様な破廉恥な姿を晒し申し訳ありません、ミリアリア様」
「気にするな、その痛ましい姿から貴女の受けた屈辱は容易に察せられる」
ライナの言葉を受けたミリアリアは穏やかな口調でライナを労り、その後に優しく微笑みながら言葉を続けた。
「貴女の戦友達も無事よ、自ら声をかけて安心させてあげなさい」
「り、リーナと、アリーシャが?」
ミリアリアの口から出た望外の言葉を受けたライナが思わず声を上擦らせるとミリアリアは頷きながらライナの横を示し、ライナがそれに従い視線を移すと今生ではもう会えないと思っていた大切な存在、リーナとアリーシャが涙を流しながら立っていてその姿を目にしたライナは急いで2人の所に駆け寄ろうとしたがミリアリアはそれを制すると優しく微笑みながら口を開いた。
「もう少しだけ待ってくれ、魔力封じの首輪と足枷を外す」
「は、はい」
ミリアリアの言葉を受けたライナは頷きながら応じ、それを確認したミリアリア優しく微笑んだ後に短刀を使ってライナの首に嵌められた魔力封じの首輪を切り裂き、その後に足に装着されている鉄球付の足枷を開錠の魔法を使って外した。
「さあ、行ってやれ、2人とも貴女の事を案じ続けていたぞ」
「は、はい、ありがとうございます、ミリアリア様」
ミリアリアから声をかけられたライナはそう言うと少しふらつきながらリーナとアリーシャの所へ駆け寄り、リーナとアリーシャは涙を流しながら駆け寄って来たライナを迎えた。
「リーナ、アリーシャ」
ライナの声に対して泣き笑いを浮かべながら頷くリーナとアリーシャ、そんな2人の肢体を覆うのは僅かばかりの布のみであり、それを目にしたライナは自分達が味あわされた凄惨な凌辱を思い起こしながら口を開いた。
「ごめんなさい、リーナ、アリーシャ……貴女達を……護れなかった……護りたかったのに……護れなかった……本当に……ごめんなさい」
嗚咽混じりに謝罪するライナの目から大粒の涙が次々に溢れ、リーナとアリーシャはライナと同じ様に大粒の涙を溢しながら2人でライナの身体を抱き締めた。
「ライナの馬鹿……あんたが……どれだけ必死にあたし達を護ろうとしてくれたか……知らない訳無いじゃない……必死に……必死に……あたし達……護ろうとして……アイツ等に……アイツ等に……無茶しないでよ……怖かったんだよ……あんたが……壊れちゃいそうで」
「ライナちゃん……本当にありがとう……分かってるよ……ライナちゃんが……私達を……護ろうとしてくれてた事……だけど……もうあんな無茶しないで……怖かったんだよ……ライナちゃん……このまま……壊れちゃうかと……思ったんだよ」
ライナの身体を抱き締めたリーナとアリーシャは泣きじゃくりながらライナに告げ、大切でかけがえの無い2人の腕に包まれながら泣きじゃくっていた。
抱き合って泣きじゃくる3人の姿を見ていたミリアリアは瞳に滲んだ涙を拭うと魔水晶を見詰めているアイリスの所に歩み寄り、それに気付いたアイリスは穏やかな眼差しをミリアリアに向けながら口を開いた。
「良かったわね」
「……ああ、そうだな、隣、構わないか?」
アイリスの言葉を受けたミリアリアは穏やかな表情で言葉を返すとアイリスは頷きながら自分の隣のソファーを軽く叩き、それを確認したミリアリアはそのソファーに腰を降ろすと魔水晶を一瞥しながら口を開いた。
「……奴等の様子は……聞くまでも無い様だな」
アイリスに残党狩部隊の様子を問いかけ様としたミリアリアは魔水晶に映し出される阿鼻叫喚の光景にドン引きしながらその質問を治め、アイリスは頷いた後に冷たい視線で魔水晶を見詰めながら口を開いた。
「これからロジナ候国の連中がどう動くかは分からないけど、今日はこれ以上の動きは無い筈よ」
「ああ、そうだな」
アイリスの言葉を受けたミリアリアは肩の力を抜きながらソファーに背を凭れさせ、それを目にしたアイリスが同じ様にソファーに背中を凭れかからせているのをぼんやりと眺めながら激動の一日の事を思い起こしていた。
(故国の滅亡と魔王の目覚め、そして魔王によるダンジョンの作製とロジナ候国軍の侵入、正に激動の一日だったな)
ミリアリアが激動の一日を振り返りながら隣のアイリスに視線を向けるとそれに気付いたアイリスもミリアリアの方に視線を向け、ミリアリアとアイリスは互いの瞳に互いの姿を映し合った。
「一段落ついたら助けた3人に詳しい説明をした方が良いわね」
「ああ、そうだな」
アイリスから声をかけられたミリアリアは相槌を打ち、その後にアイリスを見詰めながら問いかけた。
「……本当に構わないのか?この戦いは私達の戦いであって貴女には本来無関係の戦いだ」
「……言ったでしょ、あたしは魔王だと、魔王として好き勝手している結果がこの状況なの、だから貴女は気兼ね無く魔王のあたしを利用すれば良いわ」
ミリアリアの問いかけを受けたアイリスは穏やかな眼差しでミリアリアを見詰めながら返答し、それから2人は暫く無言で互いを見詰め合った後に立ち上がると魔水晶を一瞥して残党狩部隊が殲滅されたのを確認し、その後に助けた3人に詳しい状況を教える為に泣きながら抱き合う3人の所へと向かった。
ミリアリアを追いアイリスの造りあげたダンジョンへと侵入したロジナ候国軍残党狩部隊57名はダンジョン第1階層にて死霊騎士率いるアンデット部隊によって殲滅させられ、2人のエルフと1人のダークエルフが虜囚から解放された。
大陸歴438年霧の月七日、この日はヴァイスブルク伯国が歴史から消失した日、そして魔王が造り上げた異形のダンジョンが歴史に姿を現した日……