進発・第一機動打撃群
魔王軍の各部隊毎の出撃シーンになります。
大陸歴438年霧の月二十一日深更・ダンジョン周辺
展開するロジナ候国軍と同盟国軍に対する全面攻勢が立案された翌日である霧の月二十一日深更、夜空に輝く血に塗れた様に赤い満月の月光が降り注ぐダンジョン周辺に動きが生じた。
最初に白銀に輝く体毛に覆われた大型の魔力を宿した狼ジンベルヴォルフの集団に先導された魔狼の集団が出現すると二手に別れて森の木々の合間に消えて行き、それから暫くした後に夥しい数のスケルトン、ボーンウォーリアー、ボーンマジシャン、骸骨軽騎兵の集団が出現して各種族毎に隊列を組み始めた。
血塗れの満月の下で隊列を組む夥しい数のアンデッドの集団、第一機動打撃群を率いるサララはミリーナと共に呆れと感嘆をない交ぜにした複雑な表情を浮かべてその異様な光景を見詰めていた。
「……この光景を目にすると実感するな、アイリス様が魔王だと言う事を」
「……ええ、それとこれもね」
サララが集結するアンデッド部隊を見ながら呟いていると、ミリーナが双鞭龍のカプセルを掲げながら相槌を打ち、サララが頷きながら懐から地炎龍とブラッディスケアクロウのカプセルを取り出して眺めていると集結を終えたアンデッド部隊から第一機動打撃群に所属するボーンウォーリアー隊と骸骨軽騎兵隊が骨と骨が擦れ合う異様な音を響かせながら前進を開始した。
「……いよいよ、か」
「……そうよ、先ずは移動距離の最も大きい貴女達第一機動打撃群に進発して貰うわ」
サララが感慨の面持ちで呟いているとミリアリアと共に現れたアイリスが声をかけ、サララとミリーナが慌てて敬礼しようとするのを手で制した後に言葉を続けた。
「様子はどうかしら?」
「問題ありません、総員極めて意気軒昂です」
アイリスの問いかけを受けたサララは微笑と共に返答し、アイリスは満足げに頷いた後に進撃して行くアンデッド部隊を見ながら更に言葉を続けた。
「貴女達が進発するのはアンデッド部隊と大型モンスター部隊が出撃した後になるわ、因みに最初の攻撃は空と地中からの一撃になるわ」
「「……空と地中!?」」
アイリスから予想外の攻撃方法を告げられたサララとミリーナは思わず驚きの声をあげ、アイリスは悪戯っぽく笑いながら頷いた後にサララが手にする地炎龍とブラッディスケアクロウのカプセルを指差しながら言葉を続けた。
「その為に地炎龍とブラッディスケアクロウを第一機動打撃群に配属させたのよ、出撃させてみて頂戴」
「わ、分かりました」
アイリスの言葉を受けたサララはそう応じながらミリーナにブラッディスケアクロウのカプセルを渡した後に地炎龍のカプセルを取り出し、傍らのミリーナと共にアンデッド部隊が出撃した事によって生じた空地に向けてカプセルを投じた。
「……出撃してくれっ!」
「……頼んだぞっ!」
サララとミリーナが言葉と共に投じたカプセルは眩い閃光と共に爆ぜ、その閃光が治まると巨大な2体のモンスターが姿を現した。
まるで血に塗れたかの様に紅一色の扶桑皇国伝承の天候用の呪い人形に似た外見の巨体とそこから伸びる三つ叉の頂戴な鞭と鋭く鋭利な鎌と言う異質な外見が印象的な大型モンスター、ブラッディスケアクロウと、明るい茶色の巨大な節によって構成される二足歩行型の様な巨体に鋭くシャープな印象を与える鋭角的な頭部が印象的な大型モンスター、地炎龍、アイリスの魔力によって産み出された2体の大型モンスターは血塗れの満月から降り注ぐ月光の中静かに佇み、サララとミリーナがその特異な外見に気圧され思わず数歩後退りしてしまっているとアイリスが微笑みながら口を開いた。
「……フフフ、驚かなくても大丈夫よ、この子達は戦闘以外にも特殊能力があるのよ」
アイリスがそう言いながらブラッディスケアクロウに視線を向けるとブラッディスケアクロウの巨体が瞬く間に小さな円盤に変化し空中に漂い始め、その光景を目にしたサララとミリーナが絶句してしまっているとアイリスが満足げに微笑みながら言葉を続けた。
「ブラッディスケアクロウは円盤に変化して空を飛ぶ事も出来るのよ、そして地炎龍は地中を掘り進む事が出来るの、だからラステンブルクの部隊を攻撃する時は円盤に変化したブラッディスケアクロウを寝入っている部隊の真っ只中に突入させて暴れさせ、連中が慌てふためいている最中に地中から地炎龍が出現して追い撃ちをかける様にすればいいと思うわ」
「……あ、悪夢の様な攻撃、ですね、ラステンブルクの輩にも辱しめを受けていたので同情はしませんが」
アイリスから地炎龍の能力と2体の能力を活かした襲撃計画を告げられたサララはそのエグさにドン引きしつつ応じ、それを聞いていたミリーナも同じ様にドン引きしつつ口を開いた。
「……そ、そこまでの襲撃を受けてしまえばラステンブルクの部隊は大混乱に陥ってしまいますね、そんな状況に装甲火蜥蜴やグロスポイズンサーペントの襲撃を受ければ下手をすれば潰乱して潰走しまうかもしれませんね」
「……それが狙いよ、潰走してしまえば散り散りになった連中を散開埋伏させたブラッディマンティスやジンベルヴォルフ率いる魔狼隊、アンデッド部隊で刈り取らせれば良いし、潰走しなければある程度叩いた後に撤収すれば良いわ、この攻撃を受ければ損害僅少で済む筈が無いから再編成と部隊の立て直しでラステンブルク部隊を現在地に拘束する事が出来るわ」
ミリーナの言葉を受けたアイリスは頷いた後に改めて第一機動打撃群の襲撃方針を伝え、サララとミリーナが頷いたのを確認すると2人を交互に見ながら言葉を続けた。
「第一機動打撃群の任務はあくまでラステンブルクの部隊を牽制攻撃で現在地に拘束する事よ、その事を念頭に置いて行動して頂戴、勿論ラステンブルクの部隊が潰走してしまえば徹底的に叩いて問題無いわ」
アイリスの言葉を受けたサララとミリーナが頷いていると地炎龍が小さな咆哮をあげた後に屈み込んで地面を掘り進め始め、それを確認したアイリスは不敵な笑みと共に言葉を続けた。
「……地炎龍が出撃したわね、そろそろ大型モンスターと一緒に出撃した方が良いわね」
「承知しました、総員集合!!」
アイリスの言葉を受けたサララは頷きながら応じた後に第一機動打撃群の全員に集合を命じ、それを受けた狐人族の女達と女エルフ達は集合してアイリスの前に整列した。
「アイリス様、御訓示をお願い致します」
「……え?」
サララから訓示を求められたアイリスは戸惑いの声をあげながら傍らのミリアリアに視線を向け、ミリアリアが穏やかな表情で頷くと照れた様に鼻の頭を軽くかき始めた。
「……まいったわねえ」
アイリスは照れ臭そうに呟いた後に手を降ろして整列したサララ達に視線を向け、直立不動の姿勢で整列するサララ達を見ながら口を開いた。
「これより第一機動打撃群に出撃して貰うわ、作戦会議でも伝えた通り目的はラステンブルク部隊への牽制と拘束よ、だから軽々しく行動せず必ず全員で生還してきなさい、健闘を祈っているわ」
「「……敬礼!!」」
アイリスが訓示を終えるとサララとミリーナが号令を発し、それを受けた第一機動打撃群所属の一同は流麗な動作でアイリスに対して敬礼した。
サララ達の敬礼を受けたアイリスは少しぎこちない動きで答礼し、それを確認したサララとミリーナは気を付けを命じて敬礼を終えた後にアイリスに向けて口を開いた。
「……それでは行ってまいりますアイリス様」
「……アイリス様をはじめとした他の皆様の御武運と御生還を心より祈願しております」
サララとミリーナから惜別の言葉を受けたアイリスが笑顔で頷く事でそれに応じていると第一機動打撃群に配属された大型モンスター部隊の装甲火蜥蜴、グロスポイズンサーペント、ブラッディマンティスが姿を現し、それを確認したサララ達とミリーナ達はもう一度アイリスに対して敬礼した後にアイリスの前を辞した。
「……ミリーナ殿、宜しく頼むぞ」
「……こちらこそ宜しく頼むサララ殿、貴女とならば地獄の果てまで行こうとも悔いは無い」
サララとミリーナは想いを込めた言葉を交わし合った後に部下達と共に大型モンスター部隊と出撃していき、アイリスはミリアリアと共にその背中を見送った。
「……ありがとう、アイリス」
「……御礼なんて良いわよミリア、あたしはあたしのやりたい様にやってるだけ、でも、嬉しいわ」
ミリアリアは万感の思いで出撃していく第一機動打撃群を見送りながらアイリスに感謝を告げ、アイリスは第一機動打撃群を見送りながらも嬉しそうに笑いつつそれに応じた後に少し躊躇いがちにミリアリアの左手に自分の右手を重ねながら言葉を続けた。
「……ギュッてしてくれる?」
「……あ、ああ、遠慮するな」
アイリスが少し躊躇いがちに告げた要望を受けたミリアリアに笹穂耳を仄かな朱に染めながら応じた後にアイリスの指先に自分の指先を絡ませてしっかりと、そして優しく握り締め、アイリスは嬉しそうに微笑みながら同じ様にミリアリアの手を握り返した。
作戦会議の翌日たる霧の月二十一日深更、アイリス率いる魔王軍は出撃を開始した。
最初に出撃した部隊は第一機動打撃群、出撃した彼女達の目的は裏切りの盟友ラステンブルク伯国軍猟兵部隊……
ミリアリア「……なあ、この地炎龍なんだが」
アイリス「違うわよ、だって夜中の都市でナパーム弾攻撃を受けて無いし、ぐんにょりボディーに味がある弟も居ないわ」
ミリアリア「いやまあ冷静に考えたら夜間の都市でナパーム弾攻撃って明らかにやり過ぎだと私も思うがな、それと弟の事は触れてやるなよ、あとブラッディスケアクロウなんだが」
アイリス「違うわよ、家族の幻を見せたり赤い雨を降らしたりしてないわ」
ミリアリア「冷静に見れば赤いてるてる坊○なんだが、割とトラウマ怪○だったよなあこいつ」