編成区分
今後も本作を宜しくお願い致します。
大陸歴438年霧の月二十日・ダンジョン多目的ルーム
展開するロジナ候国軍と同盟国軍に対する攻撃実施を決した三国同盟戦略会議の終了から三時間が経過し、ヴァイスブルク伯国亡命政権とリステバルス皇国亡命政権に所属する全員が作戦会議が行われる多目的ルームに集合していた。
彼女達が緊張した面持ちで待機しているとドアが開かれてミリアリアとリリアーナを伴ったアイリスが姿を現し、それを確認したマリーカとアイリーンが起立すると同時にカッツバッハとサララの号令が響いた。
「「気をつけっ!!」」
カッツバッハとサララの号令から間髪入れずにマリーカとアイリーンを除いた全員が立ち上がる音が響き、カッツバッハとサララはそこから一拍の間を置いた後に更に号令を発した。
「「敬礼!!」」
カッツバッハとサララの号令が響くと同時に起立した一同は流麗な動作でアイリスに向けて敬礼(マリーカとアイリーンは一礼)を送り、アイリスは少しぎこちない動作で答礼した後に皆を着席させた。
「……それじゃあ作戦会議を始めるわね」
アイリスが着席した皆を見渡しながら告げると同時に展開するロジナ候国軍と同盟国軍の陣容が記された地図の魔画像が表示され、それと同時に指示棒を手にしたミリアリアが立ち上がって布陣している敵部隊の概要の説明を始めた。
ミリアリアは展開する敵の規模を説明した後に殊更に淡々とした口調で陣営に連行された女エルフ達と狐人族の女性達の事を告げ、初めてその事を聞いた出席者の多くが怒りを抑え込む為に唇を噛み締める中アイリスが不敵な笑みと共に口を開いた。
「……あたし達の目標は展開するロジナ候国軍と同盟国軍の部隊を叩いて捕虜を救出するわ、捕虜を救出する事と襲撃によって敵に出血を強要する事でダンジョンへの脅威を排除する事が本作戦の目標よ」
アイリスの言葉を聞いた一同は捕虜となった同胞を救出出来る事に対する期待とおよそ10000と言う大軍への襲撃に対する危惧が混ざり合った複雑な表情を浮かべ、それを目にしたアイリスは皆を安心させる様に泰然とした笑みを浮かべながらリリアーナに声をかけた。
「先ずは現在のあたし達の戦力を把握しておきましょう、リリアーナ、お願い」
「承知しましたアイリス様」
アイリスの言葉を受けたリリアーナはそう言いながら立ち上がり、出席者達に向けて一礼した後に口を開いた。
「それでは現在の三国同盟の戦力について報告させて頂きます、現在我々の数的主戦力はアンデッド部隊でスケルトンが1個大隊約1000体にボーンウォーリアーが1個中隊約300体、それに加えてボーンマジシャンと骸骨軽騎兵が各1個中隊約150体づつの総計約1600体になります。次にアイリス様がテイム及び進化させた大型モンスター部隊があり現在の戦力は装甲火蜥蜴28体、ブラッディマンティス31体、グロスポイズンサーペントが21体、ジンベルヴォルフが18体の総計98体になり、それに加えてロジナ候国軍がテイムしていた魔狼約80匹が存在しています。これに同盟者の魔龍とアイリス様が製作された使役獣であるメタルゴレーム、トーテムミノタウルス、一角龍、双角龍、珊瑚龍、双鞭龍が加わります」
リリアーナが告げる内容はアイリス率いる戦力が相当に増強されている事を示し、それを聞いたカッツバッハは感嘆と呆れを相半ばさせた表情を浮かべつつ隣に座るミランダに小声で話しかけた。
「……凄まじいなアイリス様の力は」
「……まあ、アイリス様だから」
カッツバッハの言葉を受けたミランダは苦笑と共にそれに応じ、カッツバッハが同じ様に苦笑しつつ頷いているとアイリスが指示棒を手に立ち上がって陣営再建部隊を軽く何度か叩きながら口を開いた。
「あたし達の目標はこの部隊よ、この部隊に捕らえられている貴女達のお仲間さん達を救出し、屑どもを叩きのめす事が目的」
アイリスはそこで一度言葉を区切って皆を一瞥し、その後に凄惨な笑みと共に言葉を続けた。
「……さっきも言った通りあたし達の最大の標的は陣営を再建中の部隊よただし、攻撃をしかけるのは現在確認されている3つの敵部隊全てよ」
戦力的に劣勢であるにも関わらず確認された敵性部隊全てに攻撃をしかける。無謀とも言えるアイリスの言葉を受けた出席者達はざわめき、アイリスは片手を掲げてそれを制した後に不敵な笑みと共に言葉を続ける。
「攻撃をしかけるとは言ったけど魔曲騎士団に対する攻撃は牽制と拘束よ、ラステンブルクの部隊に対する攻撃も同じく牽制と拘束だけど攻撃の進捗状況によっては本格攻勢も有り得るわ、とは言っても両部隊に対する攻撃の本質は牽制と拘束であり、この攻撃によって敵主力への増援部隊と予備隊を拘束、その間にこちらの主力部隊で敵の主力部隊を粉砕すると言うのが大まかな流れになるわ」
アイリスから作戦の大まかな流れを告げられた一同は気圧された様に無言でそれに聞き入り、それを目にしたアイリスは満足げに頷いた後に小さなカプセルを6個掲げながら言葉を続けた。
「勿論こちらの戦力は限られているわ、だからそれを補う為に新たな使役獣を6体製作したわ、ラビットドラゴン、硫黄龍、狂機獣、光壁龍、地炎龍、ブラッディスケアクロウの6体よ」
「「……うわぁ」」
アイリスから新たな使役獣の存在を知らされた一同は思わずドン引きしてしまい、それを目にしたアイリスが頷きつつ視線をミリアリアに向けるとミリアリアは小さく頷いた後に皆を見ながら口を開いた。
「……只今より編成区分を発表する、編成される部隊は4部隊、当初敵部隊に攻撃をしかける第一から第三までの機動打撃群と敵主力部隊に強襲をしかける作戦機動群の4部隊となる、先ずは第一機動打撃群、ラステンブルク伯国軍を襲撃する部隊でリステバルス皇国亡命政権軍とヴァイスブルク伯国亡命政権軍の混成部隊とする、作戦指揮官はサララ・ド・ジョッフル、参加人員はリステバルス側がサララ殿の他にイストリア・ド・アクィラ、メルクリアス・ド・スピルバロエ、カリアーナ・ポーラ、ローザンナ・フィーメ、リーアン・ド・メララ、アークティア・ド・アレサンデル、マーメリア・カブール、アドリアーナ・ドリア、セレスティア・ド・デュリオ、ジュナ・ド・チュザーレ、レザリーヌ・ド・ガリバルディの10名、ヴァイスブルク側からはミリーナ・フォン・ベアルンを指揮官としてエルザ・ホルニッセ、カリン・フンメルの3名が参加する事になる。配属部隊はボーンウォーリアー及び骸骨軽騎兵各1個中隊に魔狼隊の約半数、大型モンスター部隊からは装甲火蜥蜴、ブラッディマンティス、グロスポイズンサーペントが各6体、ジンベルヴォルフ10体が配属される事になる。使役獣はブラッディスケアクロウ、双鞭龍、地炎龍の3体だ」
「……承知致しましたアイリス様、指揮官に選出して頂き光栄に存じます、万難を排して任務を貫徹致します」
ラステンブルク伯国軍攻撃部隊、第一機動打撃群の指揮官に任じられたサララがアイリスに決意の言葉を述べるとミリーナ達も同じ様な表情と共に頷き、アイリスが頷く事でそれに応じた後にミリアリアが次の部隊の編成を発表した。
「続いて第二機動打撃群の編成を告げる。魔曲騎士団に対して牽制攻撃をしかけ同騎士団をその場に拘束する事がこの部隊の主任務となる。魔曲騎士団は今回の敵性部隊では最も戦闘力の高い部隊であり、ヴァイスブルク方面よりの援軍が到着する可能性もある為無理な攻撃は控え牽制と拘束を主眼とした活動を行ってもらう事になる。指揮官は闇神官リリアーナ、所属するのはリステバルス皇国亡命政権軍のクラリス・ド・サジタリオ、ヴァイスブルク伯国亡命政権軍のイライザ・フォン・アルハンゲリクス、エリーゼ・アストラハン、アレリア・サエッタ、セレーナ・ダンケルク、ティアナ・フォン・ストラスブール、ラリッサ・シャルンホルスト、サーシャ・フォン・グナイゼナウ、エウレーネ・フォン・ブランデンブルクの合計8名、配属部隊はボーンマジシャン及びスケルトンが各1個中隊、それに大型モンスター部隊から装甲火蜥蜴、ブラッディマンティス、グロスポイズンサーペントが各4体づつの12体加わり、使役獣についてはメタルゴレーム、トーテムミノタウルス、一角龍の3体を配属する。そして同隊には支援部隊として同盟者の魔龍が参加して魔曲騎士団への攻撃を主導して実施する事になる。魔曲騎士団の戦闘力は高い為第二機動打撃群は軽挙する事無く牽制と拘束に徹してくれ」
「畏まりました、非才の身ではありますが精一杯任務を務めます」
ミリアリアが魔曲騎士団牽制攻撃部隊、第二機動打撃群の編成と指揮官を告げ終えるとリリアーナが幾分か緊張した面持ちで決意を告げ、アイリスは頷いた後にクラリスとイライザを交互に見ながら口を開いた。
「リリアーナは今回の戦いが初陣になるわ、頼むわね」
アイリスの言葉を受けたクラリスとイライザは力強く頷きそれを確認したアイリスが満足げに頷いていると、ミリアリアが口を開いた。
「……それでは続いて第三機動打撃群の編成を発表する。この部隊は作戦機動群と共に敵の数的主力部隊である陣営再建部隊に強襲をしかける部隊だ。指揮官はミランダ・フリートラント、所属するのはハンナ・ヴァイセンベルガー、テオドーラ・フォン・シュセリンブルク、マリーナ・ヴィテプスク、イリナ・クネルスドルフ、リリナ・フォン・ツォルンドルフ、オクタヴィア・フォン・ヴァレンシュタイン、ジュリアンナ・フォン・パッペンハイム、ミスティア・フルンツベルク、ティリアーナ・ホーフェンシュタウヘン、システィーナ・クロンシュタット、ラナ・セヴァストポリ、イレーゼ・フォン・ドレスデン、マリアリーゼ・フォン・バウツェンの14名だ、配属部隊はスケルトン部隊3個中隊、魔狼隊の半数、大型モンスター部隊の残り全てとなる、配属使役獣は狂機獣とラビットドラゴンとなる」
「了解しました、全力を尽くします」
(……ミランダ)
ミリアリアが陣営再建部隊強襲部隊、第三機動打撃群の編成と指揮官を告げるとミランダは立ち上がって決意の言葉を述べ、カッツバッハが胸中でミランダの名を呟いていると、ミリアリアが最後の部隊の編成を告げ始めた。
「……最後に作戦機動群の編成を告げる、作戦機動群は第一から第三までの機動打撃群の攻撃に呼応する形で陣営再建部隊の拠点を直接強襲し混乱に乗じて捕虜となっている同胞達を救出する。指揮官はアイリス、所属するのは私にエリーゼ・カッツバッハ、アナスタシア・フォン・リーゼンダール、ライナ・バンファール、リーナ・ヘッケン、アリーシャ・フォン・リヒテイン、そしてマリーカ様とアイリーン様にも捕虜への呼びかけの為に参加して頂く事になります。部隊の総員は9名、使役獣は双角龍、珊瑚龍、光壁龍、硫黄龍が配属される」
(作戦機動群所属と言う事は陣営への強襲、と言う事はキャラガンや第七騎士団の連中がいる訳だな)
「……作戦機動群には捕虜に呼びかけて貰う為にヴァイスブルク伯国亡命政権首班とリステバルス皇国亡命政権女皇にも参加して貰うわ、護衛はしっかりと行って頂戴ね」
ミリアリアが告げた最後の部隊、作戦機動群の編成を聞いたカッツバッハはキャラガンと第七騎士団が存在している陣営への強襲に戦意を掻き立てているとアイリスがマリーカとアイリーンを交互に見ながら告げ、その言葉を耳にしたカッツバッハは小さく首を振って滾りかけていた戦意を落ち着かせた。
(……アイリス様が仰った通りだ、今回の戦いにはマリーカ様やアイリーン様も参加される、騎士団長たる身であるなら個人的な復讐に血道を上げている暇等無い)
「……カッツバッハ」
カッツバッハが自分を落ち着かせているとミランダが案じる様に声をかけ、それを受けたミランダは軽く微笑みながら小声で応じた。
「……心配するなミランダ、私とて騎士団長の一員だ。分別は弁えているつもりだ」
カッツバッハの答えを聞いたミランダは小さく微笑みながら頷き、カッツバッハが同じ様に頷き返しているとアイリスが皆を見ながら口を開いた。
「……作戦決行は明日深更よ、日中は作戦準備及び休養に充てなさい、今回の戦いは今までの戦いを遥かに上回る規模になるわ、だけど必ず全員でこのダンジョンに戻るわよ、勿論捕虜になっているお仲間さん達も含めて、よ」
「「……はいっ!!」」
アイリスの言葉を聞いた一同は決意の表情と共に力強く応じ、アイリスは満足げに頷いた後に魔王に相応しい凄惨な微笑を浮かべながら言葉を続けた。
「……明日は満月みたいね、満月の夜に相応しい破壊と殺戮に満ち溢れた凄惨な殺戮をしましょう」
「……こう言う所を見ると実感するなアイリス様が魔王なのだと言う事を」
アイリスの凄惨な言葉を聞いたカッツバッハは苦笑しながら呟き、それを聞いたミランダは同じ様な笑みと共に頷いた後に口を開いた。
「……でも、私は感謝しているわ、例えアイリス様が魔王だとしても、私達を助けてくれた理由がミリアリア殿を喜ばせる為だとしても、誰からも見捨てられ生地獄でもがくしか無かった私達を助けてくれたのはアイリス様だけなのだから」
「……それについては全身全霊をかけて同意するな、国を喪いさ迷うしか無かった私達を救出して下さっただけで無く、屑どもや売国奴に対して再び切尖を突き付ける事さえも出来る様にして下さった。アイリス様は間違いなく私達にとって大恩人だな」
ミランダの言葉を受けたカッツバッハは大きく頷きながら相槌を打ち、その後に地図の魔画像へと視線を向けた。
(……屑どもに売国奴ども、明日深更、私達はアイリス様に指揮されてお前達に襲いかかる、貴様達に囚われた戦友達を奪還し、貴様達を叩きのめす為に、待っているが良い)
カッツバッハは地図に表示されている展開するロジナ候国軍と同盟国軍の様子を見据えながら静かに闘志をたぎらせ、他の出席者達も万感の思いを感じつつ同じ様に地図の魔画像を見詰めていた。
戦略会議を終えた後に開催された三国同盟による作戦会議、魔王アイリスはその席上にて展開するロジナ候国軍と同盟国軍に対する攻撃と収監されている捕虜達の救出の実施を高らかに告げ、それに向けて編成された部隊、魔王軍の編成区分を皆に告げた……
ミリアリア「……また、増えたんだな」
アイリス「これでマ○からレ○までが出た事になるわね、何が出るかについてはこれからのお楽しみって所ね、ラビットドラゴンとかは結構分り易いかしら」
ミリアリア「……本当に元ネタ分かっている読者の方はいるんだろうか?割りと真剣に疑問なんだが?」