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善後策

105000PVアクセスを突破し、ブックマークも210件を突破しました。今後も本作を宜しくお願い致します。

後書きにてロジナ候国軍ヴァイスブルク派遣軍の編制を記載しておきます。

大陸歴438年霧の月十九日ヴァイスブルク城・ロジナ候国軍ヴァイスブルク派遣軍司令部


魔王アイリスがヴァイスブルク伯国亡命政権とリステバルス皇国亡命政権との間に三国同盟を締結して皆とささやかな宴を楽しんでいた頃、ヴァイスブルク城の一角に設けられているロジナ候国軍ヴァイスブルク派遣軍の軍司令部では魔龍討伐隊壊滅を受けて緊急の軍議が召集されていた。

軍議の席にはヴァイスブルク派遣軍に配属する全て騎士団の団長(戦死したカスターを除く)が出席しており、スティリアは最上位団長の席厳しい表情でで報告されている推測を含めた魔龍討伐隊壊滅の経緯に耳を傾けていた。

「……以上が魔龍討伐隊壊滅に関する報告であります」

下級幕僚は青ざめた表情で報告を終え、司令官用の席に座るナルサスは渋面と共に口を開いた。

「カスター率いる魔龍討伐隊が壊滅した事により第七騎士団は甚大な損害を被った、その為同騎士団は本日本国へと帰還して再編成される事となった」

ナルサスは苦々しげな口調で騎士団長や指揮官、ベテラン騎士と言う基幹要員を根刮ぎ喪失してしまった第七騎士団の本国帰還を告げ、スティリアはそれを聞きながら報告された魔龍討伐隊壊滅の様子を思い返していた。

(……捜索隊への魔龍の襲撃に対応して主力部隊が出撃してがら空き同然になった宿営地へ向かっていた補給部隊へのアンデッドの大群と正体不明の大型モンスターによる襲撃、その際に部隊は宿営地に救援を要請していた為宿営地が壊滅したのは恐らく補給部隊襲撃の後の筈だが留守部隊の生存者は皆無の為どの様な襲撃が行われたかは不明、その後、魔龍を追撃していた主力部隊は魔龍に加えて装甲火蜥蜴やグロスポイズンサーペント、更に未知の大型モンスターまでも参加した集中攻撃を受けて潰滅、そしてカスターは大木に討伐隊の騎士達が使用していたとおぼしき多数の剣や槍で貼り付けられた状態で絶命していた……)

推測が含まれてはいるものの魔龍討伐隊潰滅の経緯は魔龍の存在を考慮しても明らかに異様で統制されたな物で、スティリアが厳しい表情で襲撃の経緯を確認していると同盟軍として軍議に参加しているチーグタムが発言を求め、ナルサスの許可を受けた後に立ち上がって口を開いた。

「今回の襲撃によりロジナ候国に甚大な損害が出た事は真に遺憾であります。私見ではありますが本襲撃には我々が追撃中であった本戦役の元凶マリーカ・フォン・ヴァイスブルクが大きく関わっている物と推測されます。御許し頂けるならば直ちに出撃して魔龍共々粉砕して御覧にいれる所存であります」

(……馬鹿馬鹿しい、本戦役の元凶は我々と我々に内通したアロイスだ、マリーカ嬢を含めたヴァイスブルク伯爵家に戦役の責任等存在しない、コイツとてその事を理解できているだろうにその様な事をのうのうと宣えるのは功名心の故だろう、全くカスターの屑がいなくなったと思えば次はこの猪、頭が痛くなってくる)

チーグタムの的外れな意見を聞いたスティリアは内心でそう毒づき、ナルサスも苦笑を浮かべながら口を開いた。

「チーグタム殿、そなたの勇猛な言は頼もしく思う、更に本戦役の元凶たるヴァイスブルク伯爵家の最後の生き残りマリーカ・フォン・ヴァイスブルクが逃走中と判明したのは大きな成果だ。だが、ヴァイスブルクの残党がこの襲撃に加わっていると言う意見はいささか乱暴では無いかな?」

「……わ、私もそう考えております、この意見は私は私では無く此方に控えていますアハトエーベネの意見であるのです」

ナルサスの言葉を聞いたチーグタムは慌てた口調でそう言いながら傍らの席に座るアハトエーベネに非難の視線を向け、アハトエーベネはほんの一瞬(一瞬だった為、気付いたのはスティリアやリーリャのみ)だけ顔をしかめた後に立ち上がって口を開いた。

「……私が述べたのはあくまで可能性と言う意味に過ぎません。この地に出現した事から考えて当地の魔龍はフォレストドラゴンが魔龍に変化した可能性が高く、森を根拠地として活動するフォレストドラゴンは穏和で危険な大型モンスターを補食する事から森の住民たるエルフやダークエルフ族との関係も良好です。穏和なフォレストドラゴンが母体となった魔龍であるならばヴァイスブルクの残党の窮状に対して何らかの協力を行う可能性が零とは言い切れません、今回の襲撃は余りに異様で統制が取れた襲撃です。どの様な可能性であれ分析検討せずに排除する事は危険であると私は考えています」

(リリアン・アハトエーベネ、知勇を兼ね備えた滅龍騎士と聞いていたが噂通りの人物の様だな、恐らく幕僚として意見を述べた所にあの猪が飛び付いたと言う所だろうな、彼女の言う通り全ての可能性を分析検討する必要がありそうだな)

「アハトエーベネ殿、我々エルフがドラゴンと誼を交わしている等と言う言い方には納得出来かねる、ドラゴン等と知性ある我々エルフは根本的に違うのだ、その発言、取り消して頂きたいっ!」

アハトエーベネの堂々とした意見を聞いたスティリアがその言に大きく頷いていると、同盟国(実質は属国)の元首として参加していたアロイスが神経質な面持ちで抗議の声をあげ、スティリアはそれを制する様に右手を掲げた後に口を開いた。

「戦死したカスターの状態から察するに今回の襲撃に我々に対して苛烈なまでの怨みを有している者が加わっている可能性は否定出来ない、ならば、アハトエーベネ殿の述べたヴァイスブルク伯国軍の残党と魔龍の共闘に関して検討する余地はある。アロイス様にとっては不本意かも知れませんが軍議における議題として検討する事としてみては如何でしょうか?」

「……す、スティリア様がそこまで仰有るのでしたら」

スティリアの言葉を受けたアロイスは気圧された様にその意見に同意し、それを確認したスティリアが視線をアハトエーベネに向けるとアハトエーベネが一礼した後に席に着いたのを確認した後にナルサスに視線を向けて言葉を続けた。

「司令官殿、先の襲撃に続いての今回の襲撃、何らかの異常事態が起きつつあると見た方が良いと思われます。現在再建中の陣営については撤収も視野に入れるべきでは無いでしょうか?」

「……それは、如何でしょうか?」

スティリアが進言を終えると同時にロジナ候国軍第五騎士団長のヘルンスト・フォン・レンネンカンプが口を開き、スティリアが視線を向けると柔和な笑みを浮かべながら言葉を続けた。

「スティリア様が仰有った通りこの襲撃は異様ではあります。ですが小官は、態々再建中の陣営を放棄してまで対処する事態とは考えておりません、スティリア様やアハトエーベネ殿が危惧する様に本襲撃にヴァイスブルクの残党どもが加わっていたとしてもたかが魔龍1匹に一握りのエルフ兵、雑多なモンスターの集団に過ぎません、小官は陣営再建部隊を増強して鉄壁の態勢を整えつつ戦災の首魁たるマリーカ・フォン・ヴァイスブルクの捜索、捕縛に全力を傾注すべきと愚考致します、戦役終了後の兵達の疲労にまで心を配るスティリア様の御考えには感服致しますがここは戦場です、スティリア様にこの様な事を申すのは些か厚顔ではありますがその事をお忘れ無き様お願い致します」

「……ああ、心に止めておこう、しかし、皆は記憶し、議事録には記録しておいて欲しい、私が陣営の撤収も視野に入れるべきだと進言した事についてはな」

(戦意不足だと笑うならば好きなだけ笑え、この事態は余りに異様で全貌はおろか輪郭すら定かでは無い、だが、この惨劇すら児戯になる様な事態が確実に起こる。そんな気がしてならない……)

暗にスティリアの戦意不足をあげつらうレンネンカンプの言葉を受けたスティリアは胸中に燻る不安に顔をしかめながら返答し、冷たい言葉のやり取りが終わったのを確認したナルサスは皆を見渡しながら重々しく口を開いた。

「スティリア様の言に頷く所が無い訳では無いが現時点で事態を過大評価するのは危険であると判断される、故に今回はレンネンカンプ殿の意見を取り入れ陣営再建部隊に部隊を増強して戦力を強化し、態勢が整い次第戦災の首魁たるマリーカ・フォン・ヴァイスブルクの捜索捕縛に当たる物とする」

ナルサスが厳かに告げると出席者(スティリア、リーリャ、アハトエーベネは内心渋々と)は頷く事で賛意を示し、それを確認したナルサスが作戦幕僚に視線を向けると作戦幕僚は立ち上がり陣営周辺の地図を示しながら口を開いた。

「現在陣営を再建中の部隊は第十六騎士団及び2個軽装歩兵大隊、軽騎兵、魔導兵、弩砲兵が各2個中隊となっており兵力は約4800名となっております、同地の戦力を強化する為、ヴァイスブルク男爵領国に1個騎士団の、ラステンブルク伯国にチーグタム殿の猟兵団を含めた2個猟兵団の派遣を要請し、了承されております」

作戦幕僚がそう告げるとアロイスとチーグタムが誇らしげに頷き、それを目にしたスティリアが内心で顔をしかめている間に作戦幕僚が更なる説明を重ねた。

「現在陣営再建部隊には増援部隊到着を見越した拡張作業を命じており、これが完成したならば第五騎士団より1個大隊、更に軽装歩兵1個大隊、軽騎兵、魔導兵、弩砲兵を各1個中隊派遣して守備態勢を強化します、全ての部隊が揃えば陣営の総兵力は約12000となり、魔龍と言えども簡単に手を出せるとは思えません、なお、過去の襲撃で補給部隊や後方が襲撃されている事態を考慮し、補給路の守備を兼ねた緊急時の増援部隊として第九騎士団を後方に配置して万全を期します」

「畏まりました、我が第五騎士団の武勇御期待下さい」

「了承しました〜」

作戦幕僚の説明を聞いたレンネンカンプとリーリャは相次いで返答し、スティリアがリーリャに視線を向けるとリーリャは穏やかな笑みと共に頷きつつ念話を送って来た。

(それじゃあ行って来るわねスティリア)

(リーリャお姉様、御武運を)

リーリャに語りかけられたスティリアは敬愛する先輩に対して餞の言葉を送り、その後に意識を軍議に戻して作戦幕僚の説明に耳を傾けた。

軍議の結果、ヴァイスブルク男爵領国軍より第二騎士団が、ラステンブルク伯国からはチーグタムの率いる第八猟兵団と第十猟兵団の派遣が決定され両国の部隊は勇躍出撃して陣営再建部隊との合流を目指して進撃を開始した。

一方ロジナ候国軍ヴァイスブルク派遣軍からは第九騎士団が補給路警備の為出撃し、第五騎士団を忠心とした増援部隊は再建された陣営の拡張が終了するまで待機する様命じられた。



魔王アイリスを盟主とした三国同盟が締結された頃、ヴァイスブルクではロジナ候国軍ヴァイスブルク派遣軍による緊急の軍議が召集され魔龍討伐隊潰滅への善後策が講じられた。

その結果陣営再建部隊に対する戦力増強が決定されたがスティリアは本能的に事態の異常性を悟っており、胸中に懸念が降り積もるのを自覚していた……


ロジナ候国軍ヴァイスブルク派遣軍編制(大陸歴438年霧の月十九日)


軍司令部戦略予備(兵力約8000)


第三近衛騎士団


軽装歩兵2個大隊


軽騎兵1個大隊


魔導兵1個大隊


弩砲兵1個大隊



第一集団(兵力約8000)


第五騎士団


第七騎士団(魔龍討伐戦の損害甚大により本国帰還)


第九騎士団


軽装歩兵3個大隊(内1個大隊は陣営ごと潰滅)


軽騎兵1個大隊(1個中隊が陣営ごと潰滅)


魔導兵1個大隊(同上)


弩砲兵1個大隊(同上)



第二集団(兵力約9000)


第十六騎士団(陣営再建中)


第十七騎士団


軽装歩兵2個大隊(陣営再建中)


軽騎兵1個大隊(2個中隊が陣営再建中)


魔導兵1個大隊(同上)


弩砲兵1個大隊(同上)



工兵集団(兵力約3000)


工兵3個大隊(1個大隊が陣営再建中)



攻城戦集団(兵力約2000)


重弩砲兵2個大隊



傭兵集団(兵力約8000)



同盟軍(約4000、一部未到着)


ヴァイスブルク男爵領国軍(兵力約2000)


第一騎士団(旧ヴァイスブルク伯国軍第六騎士団)

第二騎士団(旧ヴァイスブルク伯国第七騎士団)


第三〜第五騎士団(編制途上)



ラステンブルク伯国軍(約2000・主力は未到着)


第八猟兵団(約半数が未到着)


第九猟兵団(未到着)



総兵力約42000(一部未到着)


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