要人保護
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ダンジョン・マスタールーム階層
ブリーフィングを終えて朝食を終えたイライザ達は狩猟と採取の為にアイリスの転位魔法でダンジョンの外へと出発し、それが終了した後にミリアリア率いるマリーカ救出隊が出撃する為にアイリスの前に整列していた。
「今の所御嬢様の周辺に敵性勢力は確認されていないわ、使い魔達で周囲の監視は続行してるから何かあったら直ぐに報せるわ」
「……分かった、毎度の事だが本当に抜かりが無いな、ありがとう、アイリス」
アイリスからマリーカ達の最新情報を得たミリアリアは感謝の面持ちでアイリスに声をかけ、それを受けたアイリスは嬉しそうな笑顔で頷いたが直ぐに表情を引き締めながら言葉を続けた。
「……それと、御嬢様達を救出してから捕虜の処遇について皆の意見を聞くわ、考えておいて」
「……ああ、分かった」
アイリスから捕虜、エウレーネの処遇に関する話を聞かされたミリアリアは表情を引き締めながら応じ、アイリスはそれを確認した後にミリアリア達を見ながら言葉を続ける。
「……それじゃあ、今から転位魔法をかけて御嬢様達の近くに転位させるわ、転位したら鹿に擬態した使い魔が案内するからそれに従って前進して頂戴」
「……分かった、それじゃあ行ってくるぞ、アイリス」
「……ええ、いってらっしゃい、ミリア」
アイリスの説明を聞いたミリアリアはアイリスを見詰めながら出撃する事を告げ、アイリスはそれに応じながら転位魔法を発動させてミリアリア達をダンジョンの外へと送り出した。
ダンジョン付近・マリーカ主従一行
遭遇した怪しげな白鹿に誘導されてヴァイスブルク方面へと逃避行を続けていたマリーカ、アナスタシア、カッツバッハの3名、逃避行を続けていた彼女達は現在困惑の表情を浮かべながら件の白鹿と対峙していた。
昨夜までマリーカ達を何処かに誘導する様に進んでいた白鹿だったが今朝は暫く進んだ後に突然歩みを止めてマリーカ達を見詰め始め、マリーカ達は進退を決めかねて白鹿との対峙を続けていた。
「……如何致しますか、マリーカ様?」
「……周囲に異常は無い、カッツバッハ?」
「先程から周囲を確認しておりますが特に異常はありません」
アナスタシアが油断なく白鹿を見据えながら発した問いかけを受けたマリーカは周囲に視線を配らせているカッツバッハに異常の有無を問いかけ、異常が無い事を報されると腹を据えた表情になりながら方針を決した。
「……待ちましょう、進んだとしても引いたとしてもあたし達には行く宛等皆無なのよ、だったら腹を据えて待ちましょう」
マリーカはそう言うと手近な所にあった大木の根元に腰かけ、それを確認したカッツバッハはアナスタシアの傍らに歩を進めて白鹿を見詰めながら声をかけた。
「アナスタシア殿、あいつは私が見張っておく、暫くマリーカ様の傍らについて差し上げてくれ」
「……承知しました。宜しくお願いします」
カッツバッハに声をかけられたアナスタシアはそう答えると白鹿の監視をカッツバッハに託してマリーカの傍らに移動し、長引く逃走による疲労が色濃く滲み出ているマリーカを痛ましげに見詰めながら口を開いた。
「……マリーカ様」
「……あたしは平気よ、アナ、屑どもの虜囚となった他の者達の艱難辛苦を思えばどうと言う事は無いわ」
アナスタシアに声をかけられたマリーカは疲労の色を浮かべながらも気丈に言葉を返し、アナスタシアは主のその姿に込み上げてくる物を堪える為に唇を噛み締めて頷いた後にマリーカの傍らに腰を降ろした。
アナスタシアがマリーカの傍らに腰を降ろすとマリーカは暫し躊躇った後に自分の左手をアナスタシアの右手に重ね、アナスタシアは数拍の間を置いた後に躊躇いがちに、だがしっかりと重ねられたマリーカの手を握り締めた。
「……アナ、もしもの時は」
「……無論承知しております、その際は私も直ぐに貴女様の後を追わせて頂きます」
マリーカがアナスタシアの手を強く握りながら告げた覚悟の言葉を受けたアナスタシアはマリーカの手を強く握り返しながら迷い無い口調で返答し、マリーカが頷く事でそれに応じているとカッツバッハが緊迫の声をあげた。
「マリーカ様、何者かが此方に接近中ですっ!」
カッツバッハの声を聞いたアナスタシアは弾かれた様にマリーカの手を離して霊烏の柄に手を添えながら立ち上がり、マリーカも一拍遅れて立ち上がって左右の腰に差した2本のカットラスに手を添えつつカッツバッハに声をかけた。
「……カッツバッハ、状況は?」
「つい先程新たな鹿が白鹿の付近に出現しましたのでマジックイヤーで鹿の出現した方向の音を探ってみた所、下生えを踏み拉く音が確認されました、真っ直ぐ此方に向けて前進中で人数は恐らく4、5人程度と思われます」
マリーカに声をかけられたカッツバッハはパッシブ式捜索魔法マジックイヤーによって確認した状況を伝え、それを受けたマリーカが頷いていると前方の木々の合間から魔力の光と思われる青い光が3度瞬き、それを目にしたカッツバッハは驚愕の面持ちを浮かべながら口を開いた。
「まさか、今のは識別信号、青・青・青!?」
カッツバッハの言葉を受けたマリーカとアナスタシアが驚愕の表情を浮かべながらカッツバッハの指先す先に視線を向けると木々の合間から再び青い光が3度瞬き、それを確認したアナスタシアは半信半疑と言った表情になりながらマリーカに対して問いかける。
「……マリーカ様、如何致しますか?」
「……俄には信じ難いけど、罠にしては手が込みすぎてるわ、カッツバッハ、返信しなさい」
「……ハッ直ちに」
アナスタシアの問いかけを受けたマリーカは暫し思案の間を置いた後にカッツバッハに対して応答する様命じ、カッツバッハはそれに応じて青い魔力の光を3度瞬かせるヴァイスブルク伯国軍の敵味方識別信号、青・青・青を行った。
カッツバッハが識別、青・青・青を送って暫くすると木々の合間から白い光が3度瞬いて発信者の所属部隊を報せ、それを確認したマリーカは感慨深げな表情になりながら呟きをもらす。
「……第三騎士団長、ミリアリア・フォン・ブラウワルト、彼女も無事だった様ね」
「その様ですね、返信致します」
マリーカの呟きを聞いたカッツバッハはそう答えながらヴァイスブルク伯爵家関係者がいる事を示す赤い魔力の光を瞬かせ、それから暫くするとマリーカ達の前にミリアリアが姿を現した。
「マリーカ様、よくぞ御無事で」
「……貴女も無事で何よりだわ、貴女1人なの?」
ミリアリアが万感の思いでマリーカを見詰めながら声をかけると、マリーカは同じ様な表情になりつつ質問を行い、マリーカがゆっくりと頭を振っていると木々の合間を縫ってミランダ達が姿を現した。
「み、ミランダッ!?」
「……久し振りねカッツバッハ」
ミランダの姿を目にしたカッツバッハは驚愕の声をあげ、ミランダが少し頬を赤らめながらそれに答えているのを目にしたアナスタシアは戸惑いと警戒が混ざった表情になりながらミリアリアに問いかけた。
「ミリアリア殿、ミランダ殿は虜囚の身となった筈では?」
「……ああ、殿を務めたミランダ殿はロジナの屑どもに捕らえられ辛酸な目に合っていた。ミランダ殿だけで無く他の3名も虜囚となって辱しめを受けていた所を救出したのだ」
アナスタシアの言葉を聞いたミリアリアは表情を翳らせつつ返答し、それを聞いたカッツバッハが顔を歪めながら拳を握り締めているとミランダが柔らかく微笑みながら口を開いた。
「ですが私達はミリアリア様を匿って頂いているさる御方によって地獄より救って頂きました。私達だけで無く第九騎士団長のミリーナ殿や前年のリステバルス戦役の際に落命したと報じられていたアイリーン・ド・リステバルス皇女様やリステバルス皇国軍の捕虜達も救出されています」
「……匿った?救出された?一体何者なのよ、そのさる御方と言うのは?」
ミランダの告げた意外な説明の内容を聞いたマリーカは戸惑いの表情のままミリアリアに問いかけ、それを受けたミリアリアは頬を仄かに赤らめさせながら口を開いた。
「……それは、その、些か信じ難い話であり長い話にもなります。ですのでまず私達が匿って頂いている場所にご案内させて頂き、詳しい説明は当地にて行わせて頂きます」
「私達には他に選択肢が無い以上それに従うしか無いわ……でもこれだけは質問させて、そいつは信用出来るのね?」
ミリアリアの説明を聞いたマリーカは真剣な表情で問いかけ、ミリアリアが真剣な表情で頷き返しているとミランダが穏やかな笑みと共に口を開いた。
「心配は無用ですマリーカ様、その御方はミリアリア殿がいる限り絶対に私達の、と言うよりミリアリア殿の味方です、もしミリアリア殿が世界を望んだならばその御方は躊躇う事無く世界に戦いを挑む事でしょう」
「ミ、ミランダ殿!?」
ミランダの断定の言葉を受けたミリアリアは笹穂耳まで真っ赤になりながら抗議の声をあげ、それを目にしたマリーカ達は興味深げな面持ちなりながら口を開いた。
「……へえ、堅物の貴女にそこまで熱烈に執心だなんて凄いわね、見た所貴女も満更じゃ無さそうだし、既にさる御方とやらには興味津々だったけどより一層興味が湧いたわ」
「……そうですか、ミリアリア殿にも遂にその様な御方が」
「ま、マリーカ様、カッツバッハ殿!?……と、とにかく御案内させて頂きます」
マリーカとカッツバッハの言葉を聞いたミリアリアは顔を真っ赤にさせながら抗議の声をあげた後に気を取り直して言葉を重ね、それを受けたマリーカ達が表情を改めさせて頷いたのを確認すると先頭に立って案内を開始した。
ダンジョン・マスタールーム階層
ミリアリアに案内されて出発したマリーカ達は暫く進んだ所で突然発生した魔法陣によってダンジョンへと転位させられ、ミリアリアは突然の事態に思わず身構えたマリーカ達に向けて穏やかな表情で語りかけた。
「……御安心下さいマリーカ様、当地は我々が匿って貰っているダンジョンです」
「……ダンジョン、ですって?ヴァイスブルクの森にはその様な物は無かった筈よ」
「……造ったのです、その御方が、ミリアリア様を追手から護る為に」
ミリアリアに声をかけられたマリーカが戸惑いの表情で言葉を返すとそれを聞いていたミランダが穏やかな表情と共にマリーカの疑問に応え、マリーカ達が予想の斜め上を行く回答に絶句してしまっているとアイリスが一同の前に姿を現し、嬉しそうに微笑みながらミリアリアに声をかけた。
「お帰りなさいミリア」
「あ、ああ、ただいま、アイリス」
アイリスに声をかけられたミリアリアは先程のミランダの言葉を思い起こして頬を赤らめながら返答し、その反応を目にしたアイリスは小さく首を傾げながら問いかける。
「……どうかしたの、ミリア?」
「……あ、いや、その、な、何でも無い、何でも無いんだ、心配しないで大丈夫だアイリス」
アイリスの問いかけを受けたミリアリアは慌てて返答し、マリーカは戸惑いの表情でその光景を眺めていたが暫くするとアイリスの容姿が意味する所に気付いて眼を軽く見開きながら呟きをもらした。
「……まさか」
「……マリーカ様?」
「如何なさいました?」
マリーカの呟きを耳にしたアナスタシアとカッツバッハは戸惑いの表情でマリーカに問いかけ、マリーカは小首を傾げてあたふたするミリアリアを見詰めているアイリスを凝視しながら2人に囁きかけた。
「……よく見なさいあの女性を、白雪の様に白い肌、艶やかな黒髪に淡い瑠璃色の瞳、そして背中から伸びる蝙蝠の羽根」
「……っ!?まさか、魔王?」
「……し、しかし魔王とは既に過去の存在、しかも女性の魔王等聞いた事もありません」
マリーカの告げたアイリスの特徴を聞いたアナスタシアとカッツバッハが驚愕の疑問の声をあげているとミリアリアとの会話を終えたアイリスがマリーカ達の方へと視線を向け、マリーカ達が思わず身構えかけてしまうのを何とか押し止めているとゆっくりと一礼した後に口を開いた。
「ヴァイスブルクのお姫様、当ダンジョンへようこそ、あたしはこのダンジョンのマスターの魔王アイリスよ、宜しくね」
「……ヴァイスブルク伯爵家当主マリーカ・フォン・ヴァイスブルク、危急の縁より救って頂き感謝致します」
アイリスの名乗りを受けたマリーカは一礼を返した後に自身の名を告げ、アイリスは大きく頷く事でそれに応じた。
魔龍討伐隊の潰滅によって生じた状勢の変化によりラステンブルク伯国猟兵部隊の追撃を脱したヴァイスブルク伯国唯一の拠マリーカ・フォン・ヴァイスブルクの一行、アイリスに送り出されたミリアリア達は一行を救出し保護する為に魔王のダンジョンへと案内した……