眷族精製
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ダンジョン・マスタールーム
カスター率いる魔龍討伐隊を殲滅してダンジョンへと帰投したアイリス達の凱旋を救護室で迎えたミリーナ達とサララ達は喜びを爆発させ、弾んだ声で皆が会話を交わす中、アイリスとミリアリアはアイリーンとクラリスに声をかけてマスタールームへと移動した。
マスタールームに移動した一同はテーブルを囲み、アイリーンは笑顔でアイリスとミリアリアに声をかける。
「アイリス様、ミリアリア様、御無事の凱旋おめでとうございます」
「おめでとうございます、救出した皆も喝采を叫んでおりました」
アイリーンに続いてクラリスも笑顔で告げ、アイリスとミリアリアが穏やかな表情で頷いているとアイリーンが怪訝そうな面持ちになりつつ言葉を続けた。
「……ところでアイリス様、私にお話があるとの事ですがどの様なお話なのでしょうか?」
アイリーンの問いかけを受けたアイリスとミリアリアは表情を真摯な物へと変えながら小さく頷き合い、その様子を目にしたアイリーンとクラリスが威儀を正しているとアイリスがアイリーンを見詰めながら口を開く。
「ロジナの騎士団長だった屑どもの隊長の鎧にこれが装着されていたの」
アイリスはそう言いながらアイリーン達の目の前にシャドウアメジストを置き、それを目にしたアイリーンとクラリスが大きく目を見開く中言葉を重ねる。
「……それはそいつの鎧に嵌め込まれてたのよ」
「……これは、間違いありません、シャドウアメジストですわ、我が国の宝物庫にて保管されていた物ですわ」
アイリスの説明を聞いたアイリーンはシャドウアメジストとアイリスを交互に見ながら返答し、それを聞いたアイリスは暫しの間を置いた後に少し言い澱みながら言葉を続けた。
「……そのシャドウアメジストにはね、術者の命を対価とした呪いがかけられていたの、影潜り(シャドウダイバー)を使用する度に使用者を病魔が蝕んで行く呪いがね」
「……そん、な……それでは」
アイリスの説明を聞いたアイリーンはシャドウアメジストがカスターの下に渡ったおおよその経緯を察して顔を蒼くさせながら掠れた声をあげ、アイリスは頷いた後に殊更に淡々とした口調で続けた。
「……そいつは狐人族の女神官がどうのこうの言ってたわ、これから先はあたしの推測だけどその女神官さんはそいつに脅されて宝物庫に案内させられた挙げ句嬲り者にされた、そしてせめてもの復讐として奴が分捕ったシャドウアメジストに己の命を対価とした呪いをしかけた」
「……その屑はこの絶龍石を精錬したメイスも所持していた、リステバルス皇国では希少な魔鉱石が産出されると聞いているので恐らくこれも宝物庫からの分捕り品だろう」
アイリスの言葉に続いてミリアリアがそう告げながらアイリーン達の前にカスターが使用していた一対のメイスを置き、アイリーンは哀しげな視線でそれを見詰めながら口を開く。
「……絶龍槌ですわ、ミリアリア様のお見立て通り、対ドラゴン用の武具として宝物庫にて保管されておりましたわ」
アイリーンがそう言いながら傍らに座るクラリスに視線を向けるとクラリスは顔面蒼白になりながら指先が白くなる程に手を握り締めており、それに気付いたアイリスとミリアリアは眉を潜めながら口を開いた。
「……ねえ、まさかその女神官って」
「……クラリス殿に縁のある方、なのか?」
「……ええ、宝物庫を管理している神官の中に女神官は1人しかおりませんわ」
アイリスとミリアリアの問いかけに対してアイリーンが哀しげに目を伏せながら返答し、その後にクラリスが言葉を絞り出した。
「……リリアーナ・ド・サジタリオ、私の姉です」
「「……」」
アイリスとミリアリアはクラリスの絞り出した言葉を無言で受け止め、暫しの間を置いた後にアイリスが真摯な眼差しで口を開いた。
「……彼女と、話してみる気はある?」
「……っ!?」
「……そ、その様な事が出来るのですかっ!?」
予想だにしていなかったアイリスの問いかけを受けて言葉に詰まってしまったクラリスに代わりアイリーンが驚愕の表情を浮かべながら声をあげ、アイリスはゆっくりと頷いた後にテーブルに置かれたシャドウアメジストを示しつつ説明を始めた。
「今このシャドウアメジストにはリリアーナが籠めた呪いが宿っているわ、本来呪いは呪いの対象になった者が呪いによって命を喪う事で消滅するんだけど、今回についてはあたしが対象者を殺した事で呪いが付与されたままなの、術者の命を対価とした呪いは術者の念でもあるし、リステバルス戦役が終結してまだ間もないし、シャドウアメジストもかなり純度が高い魔鉱石だからリリアーナの自我もまだ残っている筈よ、だから、貴女が望むならば自我を持った幽霊として具現化させて会話する事は可能よ」
アイリスはそう言うと真摯な眼差しでクラリスを見詰め、その言葉と視線を受けたクラリスが逡巡の表情を浮かべて言葉に詰まっているとアイリーンが固く握り締められたクラリスの手に優しく手を重ねて来た。
「……アイリーン、様?」
クラリスがアイリーンに視線を向けながら戸惑いの声をあげると、アイリーンはクラリスを見詰めながら優しく微笑みかけ、それを目にしたクラリスは表情を緩めて頷いた後に真っ直ぐにアイリスを見詰め返しつつ口を開いた。
「お願いします、アイリス様」
「……了解、それじゃあ呼び出すわね」
クラリスの答えを聞いたアイリスは頷きながらそう言った後にシャドウアメジストを手に取り、深い紫紺の水晶を見詰めながら言霊を紡ぎ出す。
「……我が手の中の物に宿りし思念の名残よ、我が魔力を拠として形を成せ」
アイリスの紡いだ言霊に呼応する様にシャドウアメジストが淡い輝きを瞬かせ、それが収まると同時に淡いグリーンの神官服を身に纏った狐人族の美女が皆の前に佇んでいた。
佇む女性の容姿は何処と無くクラリスに似た雰囲気を持っており、その姿を目にしたクラリスは思わず立ち上がると微かに震える声で女性に呼びかけた。
「……姉上」
「……久し振りね、で、良いのかしら?」
クラリスに呼びかけられた美女、クラリスの姉、リリアーナの幽霊は少し困った様な笑みと共に言葉を返し、クラリスが込み上げてくる涙を押し留めながら頷いているとアイリーンが目に浮かぶ雫を拭いながら口を開いた。
「……リリアーナ様、久方ぶりですわね」
「……アイリーン様、よくぞ御無事で……宝物庫を護る神官としての責務を全う出来ませんでした事、お許し下さい」
アイリーンに声をかけられたリリアーナはアイリーンの無事に対する安堵と責務を果たせなかった自身に対する自責がない交ぜになった複雑な表情と共に返答し、それを受けたアイリーンはゆっくりと頭を振った後に言葉を続けた。
「謝罪の必要等ございませんわリリアーナ様、貴女がどの様な憂き目にあったのか想像出来ます、貴女はそれでも必死に責務を果たそうとし努め、それが果たせぬならせめて一矢を報い様として己の命を捧げたのです、誇りを持って下さいませ、リリアーナ様」
アイリーンが万感の籠った眼差しで見詰めながらリリアーナに告げると、リリアーナは深々と一礼する事で謝意を示し、その後に頭をあげるとクラリスを穏やかな表情で見ながら口を開いた。
「……クラリス、貴女も無事で良かったわ、アイリーン様の事をしっかりと御護りするのよ」
「……勿論です姉上、必ずアイリーン様を御護りしてみせます」
リリアーナに声をかけられたクラリスは涙を押し留めながら気丈に返答し、その様子を目にしたリリアーナは目頭を少し拭いながら頷いた後に傍らで様子を見守っているアイリスとミリアリアに視線を向け、深く頭を垂れた後に口を開いた。
「アイリス様、ミリアリア様、クラリスの姉、リリアーナ・ド・サジタリオと申します、御二方のおかげで怨みと屈辱を晴らす事が叶い、その上にクラリスやアイリーン様の姿を見る事が出来ました、この御恩、決して忘れは致しません、ありがとうございました」
リリアーナの言葉を受けたアイリスとミリアリアは深く一礼する事によってそれに応じ、その後にアイリスが暫し口ごもった後にリリアーナやクラリス、アイリーンを見ながら口を開いた。
「……感動の再会が一段落した所で悪いのだけれども、あたしの提案を聞いて貰えるかしら」
「……提案、ですか?」
アイリスの改まった言葉を受けた一同を代表してアイリーンが戸惑いの声をあげ、アイリスは頷いた後にリリアーナを見ながら言葉を続ける。
「……リリアーナを、あたしの眷族としたいの」
「「……はい?」」
「……り、リリアーナ様を、あ、アイリス様の眷族に?」
アイリスの予想の斜め上な提案を受けたリリアーナとクラリスは思わず呆けた声をあげてしまい、残るアイリーンが呆気に取られた表情でアイリスの提案を反芻するとアイリスは頷いた後に更に言葉を続けた。
「あたしがリリアーナの呪いの対象を殺した為に、本来消失する筈のリリアーナの呪いがシャドウアメジストに付与されたままなのが今の状況なの、そしてシャドウアメジストは高純度の魔鉱石だから拠としては最適なの、だからシャドウアメジストを拠にあたしの魔力を組み合わせるとリリアーナをあたしの眷属として実体化させる事が出来るの」
「……あ、姉上を実体化?」
「……そ、そんな事、出来るのですか?」
「……理論上は可能な筈ですわ、本来は高い魔力と精緻な魔力操作が必要なので成功する可能性は低い筈なのですがアイリス様の今までの規格外な力を考えれば間違いなく可能な筈ですわ」
アイリスの説明を聞いたクラリスとリリアーナが半信半疑と言った表情で呟いているとアイリスの説明を吟味していたアイリーンが真剣な表情で肯定の言葉を発し、アイリスは頷いた後に少し表情を翳らせながら言葉を続けた。
「……正直な所あたし達の戦力は全然足りていない状況なの、だからリリアーナを眷族とする事が出来れば戦力増強になると言うのが理由なの、恩着せがましいお願いだから判断は貴女達に任せるわ、今のリリアーナはシャドウアメジストに取り憑いている状態だからダンジョンルーム階層だと何時でも会話出来るし安全だけど眷族になっちゃったら戦いにも参加しなきゃならないから危険になっちゃうわ、それが嫌だと言うなら無理強いはしないわ」
アイリスの言葉を受けたアイリーンはリリアーナとクラリスに視線を向け、リリアーナとクラリスは力強く頷き合った後にリリアーナがアイリスに対して返答を始めた。
「……アイリス様、宜しくお願い致します」
「……本当に良いのね?」
リリアーナの返答を聞いたアイリスは確認の問いを発しながらリリアーナとクラリスに視線を向け、リリアーナとクラリスは頷きながら口を開いた。
「……私の怨みを晴らして下さっただけでなくクラリスやアイリーン様まで助けて下さったのです、そんなアイリス様の一助となるのでしたら喜んで協力致します」
「……こうして再び姉上と話せただけでも望外の喜びであるにも関わらずその上に共に轡を並べる事まで出来る、これ程の喜びは無い上に姉上も快諾されています、私には反対する意志も理由もありません」
「……分かったわ、それじゃあ早速始めるわね」
リリアーナとクラリスの迷いなき答えを受けたアイリスはそう言うとゆっくりと目を閉ざして意識を集中させ、それに呼応する様にアイリスの足下に五芒星の魔法陣が形成される中静かに言霊を紡ぎ始めた。
「……闇の魔力を宿りし紫紺の魔石とそれに宿りし思念よ、我が魔力を糧とし地肉を成せ」
アイリスの紡ぐ言霊に呼応してリリアーナとシャドウアメジストが光に包まれ、閉ざした目蓋からそれを感じたアイリスは流し込む魔力の量と操作に最新の注意を払いながら言霊を解き放った。
「……我が魔力を糧とし魔石に宿りし思念よ、成した地肉を持ってこの世に再び生を受け、我が眷族となれ、出でよ、闇神官リリアーナッ!!」
アイリスの言霊が解き放たれると同時にリリアーナとシャドウアメジストを包んでいた光が一気に爆ぜ、ミリアリア達が咄嗟に目を閉ざしてそれをやり過ごした後に目蓋を開けると胸元にシャドウアメジストが輝く大胆なスリットが入った紫紺の神官服に身を纏ったリリアーナが佇んでおり、目を開けたアイリスは満足気な笑みを浮かべながら佇むリリアーナに対して口を開いた。
「成功したわ、気分はどうかしら、闇神官リリアーナ?」
「……とても良いです、これから宜しくお願い致しますマスター、アイリス様」
アイリスの問いかけを受けたリリアーナは穏やかな笑みと共に答えアイリスが大きく頷いたのを確認した後にクラリスに視線を向けながら言葉を続けた。
「……クラリス、共にアイリス様やアイリーン様の為に戦いましょう」
「……はい、姉上、共に戦いましょう!」
リリアーナの言葉を受けたクラリスは力強い言葉でそれに応じ、その様子を目にしたアイリーンは小さく頷いた後にアイリスとミリアリアに視線を向けた。
「……大丈夫か、アイリス?」
「……平気よ、だけどありがとう、ミリア」
(フフフ、本当にじれったい、お二人ですわね)
ミリアリアから労いの言葉を受けたアイリスは嬉しそうにそれに応じており、その様を目にしたアイリーンはそう胸中で呟きながら穏やかな微笑みを浮かべた。
魔龍討伐隊を粉砕して凱旋したアイリスは出迎えたアイリーンとクラリスに戦いの最中に入手したシャドウアメジストを示し、そこに宿っていたクラリスの姉リリアーナの思念を元に眷族を精製した。
魔王が精製した眷族、彼女の名は闇を司りし神官、闇神官リリアーナ……