蹂躙・魔龍討伐隊編・埋伏
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今後も本作を宜しくお願いします。
ダンジョン・救護室
宿営地襲撃と捕虜の救出を終えたアイリスはダンジョンクリエイティブの能力を使って救出した捕虜達を収容する為の救護室を設営した後に転移魔法を使って捕虜達(含エウレーネ)とアイリーン達をマスタールーム階層へと転移させ、ミリーナ達とサララ達は救護室のベッドに横たわってアイリーンと侍女達による介抱を受けていた。
「も、申し訳ありませんアイリーン様、本来私達がアイリーン様を御護りせねばならぬにも関わらず、この様な事をして頂く等……」
介抱を受けていたサララは恐縮しきった表情でアイリーンに告げ、その言葉を受けたアイリーンは穏やかな笑みと共に頭を振った後に口を開いた。
「……気にする必要はありませんわサララ様、貴女方はリステバルス戦役の際は最後まで私に付き従って下さいましたもの、その忠節に比べればこの程度の事など造作もありませんわ、今はその様な事に拘らずゆっくりと心と身体を休め、アイリス様と皆様の凱旋を待ちましょう」
「……は、ハア」
(魔王……アイリス、これ程のダンジョンを造り上げ、魔龍を同盟者とし、そしてアイリーン様や私達を地獄から救い出してくれた女魔王)
アイリーンの言葉を聞いたサララは介抱の合間にアイリーンから聞かされた現在の概略に思いを馳せて戸惑いの表情を浮かべ、それを目にしたアイリーンは苦笑を浮かべながら言葉を続ける。
「戸惑うのも無理はありませんわ、私達も当初は面喰らっていましたもの、過去の存在だとばかり思っていた魔王が、しかもこれまで四方山話の中ですら語られた事の無い女魔王がいたのですから……」
アイリーンはそこで一度を言葉を区切ると少し可笑しそうに頬を緩ませながら言葉を続けた。
「ですが女魔王は永き眠りから目覚めた際に出逢ったミリアリア様を護る為だけにこの様な規格外のダンジョンを作ってしまい、更にミリアリア様の為にミリアリア様の戦友達や私達まで助けて下さいました。目覚めた魔王として好き勝手にやっているから気にするなと仰っておりますがミリアリア様をとても大切に想ってらっしゃる愉快で可愛らしい御方ですわ……敵に対する処遇やダンジョンのエグさは魔王らしいと言えますけど」
頬を緩めながらアイリスの事を説明していたアイリーンは敵に相対した時のアイリスの行動やダンジョンのエグさに関する説明の際は再び苦笑を浮かべ、ダンジョンの概略を聞かされていたサララが若干顔をひきつらせながら頷いていると隣のベッドで横になりつつその会話に耳を傾けていたミリーナがゆっくりと上体を起こしながら会話に加わって来た。
「……どの様な経緯があったにせよ私達にとってはありがたい話です。屑どもの嬲り物とされ騎士としての矜持を砕かれ堕ちるしか道が無かった私達、唯一の味方と思っていたラステンブルク伯国からも裏切られた敗残兵の私達を救ってくれたただけでは無くこの様に手厚い救護までしてくれる。あの方は確かに魔王かもしれませんが私達にとっては命の恩人です」
「……ああ、そうだな、騎士から娼奴隷に堕とされ絶望していた私達にとってもあの方は恩人だ。その点については異論を挟む事さえ罪になるな」
ミリーナの言葉を聞いていたサララは大きく頷いた後に賛同の言葉を発し、それを聞いたアイリーンが穏やかな笑顔と共に頷いていると皆と共にマスタールーム階層に転移させられたエウレーネを新設した牢部屋に収監させていたクラリスがテオドーラとマリーナを従えて救護室へと入室して来た。
入室したテオドーラとマリーナは直ぐ様皆を介抱している侍女達の手伝いを始め、クラリスはアイリーンの所に移動すると静かに一礼した後に口を開いた。
「アイリーン様、捕虜の収監終了しました」
「御苦労様でした、クラリス」
「……捕虜と言うのは、もしやエウレーネ殿の事なのでしょうか?」
クラリスとアイリーンの会話を聞いていたミリーナは視線を向けながらアイリーンに問い掛け、アイリーンが頷いた後にクラリスに目配せを行うとクラリスは頷いた後にミリーナに向き直って口を開いた。
「ロジナの先発隊を殲滅した魔龍様から捕虜としたとの報告を受けたアイリス様が捕縛と収監を決定しました。彼女の処遇については皆様を含めた一同の総意によって決せよとの事です」
「……クラリス、彼女の様子はどうなのだ?」
クラリスの説明を聞いていたサララは難しい顔つきになりながら問い掛け、それを受けたクラリスは暫しの間を置いた後に口を開く。
「……非常に落ち着いていて、皆様が無事救出されたと聞いた際はとても喜んでおりました、今後の見通しについて説明した際も私達が行った行為は紛れも無い裏切り行為であり、どの様な結果になろうとも決して恨みはしないし覚悟は出来ている、と述べておりました」
「……そうか」
「……やはり彼女も、苦しんでいたのだな」
クラリスの伝える収監されたエウレーネの様子を聞いていたサララとミリーナはエウレーネの苦悩を慮りながら呟き、それを聞いたアイリーンはゆっくりと頷きつつ口を開いた。
「……彼女の処遇について、しっかりと考えておいて下さい、そして考えつつアイリス様の凱旋を待ちましょう」
アイリーンがそう告げると、その言葉に呼応する様にアイリーンの眼前に彼我の状況が記された地図の魔画像が表示され、それを目にしたサララとミリーナが驚きの表情を浮かべているとクラリスが苦笑を浮かべながら声をかけてきた。
「アイリス様は鳥等の小動物に擬態した使い魔が収集した敵軍の情報が記されたこの様な魔画像を見ながら襲撃の指揮を行っているのです」
「……そうか、なら、あのナイチンゲールは使い魔だったのか」
「……それにしてもこれは凄まじいな、彼我の状況が一目瞭然だ、これでは戦にならんな」
クラリスの説明を聞いたサララとミリーナはアイリスの能力に改めて感嘆し、その後にアイリーンやクラリスと共に魔画像を食い入る様に見詰め始めた。
魔龍討伐隊
サララやアイリーン達が戦局を注視し始めた頃、魔龍討伐隊は後方の宿営地が壊滅した事を知らぬまま血気に任せて魔龍を追跡していた。
魔龍は付かず離れずの距離を保ちって飛行しながら時折追跡する魔龍討伐隊めがけてブレスを放ち、討伐隊は防御結界魔法でそれを防ぎながらの追跡を続けた。
「……けっ、臆病者の蜥蜴野郎がっ、そんなちゃちな攻撃が効くかよっ!?野郎ども、蜥蜴野郎はビビりきってやがるぜっ!!」
何度目かとなるブレスが防がれた所でカスターが侮蔑の表情と共に蛮声を張り上げると騎士達は雄叫びで応じながら追跡を続行し、その様子を確認した魔龍も侮蔑の呟きをもらしていた。
……愚かな連中だ……
「全くもって同意見ね」
魔龍が呟いているとアイリスからの念話が届き、魔龍は楽しげな口調で同盟者に対して語りかけた。
……漸くか、少々待ちくたびれていたぞ……
「あら、それは悪い事をしちゃったわね、包囲網は完成して連中は網に入りつつあるわ、連中が網に入ったら念話を送るから連中に対する本格攻撃を開始して頂戴、直ぐにあたし達も攻撃を開始するわ、それじゃあもう暫く連中を誘導して頂戴」
……承知した、屑どもの慌てふためく姿が楽しみだな……
アイリスから血気に逸るまま進む魔龍討伐隊に対する伏撃態勢が整った事を告げられた魔龍は楽しげに答えた後に悠然と羽ばたきを続け、魔龍討伐隊は自分達が陥穽へと突き進んでいる事に気付かぬままその後を追い続けた。
それから暫しの時が経過し、魔龍討伐隊が小さな泉とその周囲に広がる広場に到達した所で魔龍に待ち望んでいた報せがもたらされた。
「豚が罠にかかったわ、攻撃を開始して頂戴」
……承知した……
アイリスの攻撃開始命令を受けた魔龍はゆっくりと魔龍討伐隊に顔を向け、追跡隊が展開させた魔力結界を侮蔑の眼差しで見据えた。
……愚か者どもが、先程までの攻撃を擬態とも見抜けぬか……
魔龍は侮蔑の呟きをもらした後に先程まで放っていたブレスとは段違いの威力のブレスを放ち、放たれたブレスは展開された魔力結界を紙の様に容易くぶち抜き、驚愕する先頭集団の只中で炸裂して10名近い騎士とエルフ騎士を吹き飛ばしてしまう。
「何だとおっ!!?」
衝撃の光景を目の当たりにしたカスターは驚愕の叫びをあげ、討伐隊の騎士とエルフ騎士達は慌てて駒を止め様としたが血気に委せて進んでいた駒足が瞬時に止まる筈も無く討伐隊に一時的に隊列が乱れた状態に陥ってしまい、それは魔龍の放ったブレスの第二波が炸裂する事で更に悪化してしまう。
至近距離で炸裂したブレスに脅えた馬達が暴れる事によって落馬する騎士やエルフ騎士が現れ、醜態を目にしたカスターは鬼の様な形相で蛮声を張り上げた。
「何醜態を曝してやがんだ、てめえらっ!!さっさと陣形を整えて蜥蜴退治を始めねえかっ!!!」
カスターの蛮声を受けた討伐隊は動揺を無理矢理抑え込みながら陣形を整え始め、その内の一部が泉の畔に到達した瞬間に予想外の事態が勃発した。
畔に到達した騎士達が魔龍に向き直っていると泉の水面を突き抜けてグロスポイズンサーペントの双頭が4組出現して側面から騎士に襲いかかり、8つの蛇頭は不意をつかれた騎士8名にかぶり付いて絶叫する騎士達を泉の中に引き摺り込んでしまった。
突然の事態に呆気に取られた騎士とエルフ騎士達が呆然と泉の水面を見詰めていると水面が赤く染まり噛み千切られた騎士の亡骸が浮かび、その光景を目にして動揺する騎士達目掛けて周囲から火球、光弾、光線が矢継ぎ早に叩き込まれ炸裂した。
騎士とエルフ騎士達が連続した爆発に巻き込まれ吹き飛ばされる中下生えを踏み拉きながら10体を超える装甲火蜥蜴が出現し、更に見慣れぬ形状の2体のモンスター、メタルゴーレムとトーテムミノタウロス迄も出現して混乱する魔龍討伐隊に対する攻撃を続行した。
「……ど、どう言う事だこれは?い、一体何が起こってやがるんだ」
「ぜ、全周から攻撃を受けていますっ!!一度撤退して態勢を整えましょうっ!!」
カスターが目の前で繰り広げられている光景を唖然と見詰めながら呟いていると副団長が血相を変えながら提案し、それを受けたカスターは怒りの為に青筋を浮かべつつ怒声を張り上げた。
「逃げろだとおっ!?蜥蜴ごときに逃げる等出来るかっ!!てめえら、不様な姿さらしてんじゃねえ第七騎士団の名が泣くぞっ!!さっさと蜥蜴とモンスターどもを叩きのめせっ!!」
カスターが副団長の言葉をはね除けつつ蛮声を張り上げた刹那、混乱する魔龍討伐隊の背後に新たに3体ものモンスター、双角龍、双鞭龍、珊瑚龍が出現して狼狽える魔龍討伐隊の騎士とエルフ騎士達を蹴散らし始め、その様を目にしたカスターが愕然として立ち尽くしていると魔龍がその付近目掛けてブレスを放った。
「……クッ!!」
「……だ、団長一体何をっ!?は、はなぐあぁぁぁぁっ!!!あ、あづいっあづいぃぃっ!!目が!!目があぁぁぁっ!!」
カスターは咄嗟に近くにいた副団長を盾にして炸裂したブレスの爆風と飛散した土塊から我が身を守り、爆風と土塊をまともに浴びた副団長が両目を押さえてのたうち回るのを無視してブレスを放った魔龍を睨みつけた。
「……このクソ蜥蜴が、良くも好き放題やってくれたなあ、滅龍騎士カスター様が直々にぶちのめしてやるぜっ!!」
「……あらあらこわぁい、流石は滅龍騎士様ねえ」
カスターが両手のメイスを構えながら怒声を張り上げているとその背後からこの場で聞こえるには場違いなのんびりとした口調の声が聞こえ、カスターが怪訝そうな面持ちで後方に視線を転じると、大鎌を手にした扇情的な装いに身を包んだ美女、アイリスとライトアーマー姿のエルフの美女、ミリアリアが物言わぬ骸となって血だまりの中に横たわる騎士達の中佇んでおり、その異様な光景を目にしたカスターが思わず一歩後ずさっているとアイリスが大鎌を軽く振って刃についた血糊を吹き飛ばしながら口を開いた。
「はじめまして親愛なる滅龍騎士カスター様、あたしが同盟者の魔龍や使役獣達と一緒に奏でた破壊と悲鳴に満ちた凄惨な狂想曲気に入って頂けたかしら?」
「……てめえが指揮しただと、フン、寝言は寝てからほざきな尻軽蝙蝠女、てめえに出来るのはその身体を使った御奉仕程度だよっ、さっさと失せなっ!!」
アイリスの言葉を受けたカスターは後ずさってしまった己を叱咤する様に大きく一歩前に進み出るとアイリスの背中の蝙蝠の羽根に侮蔑の視線を向けながら怒声を張り上げたが、アイリスは響いた怒声にまるで動じた様子を見せぬまま嘲笑を浮かべ、それを目にしたカスターの顔面が怒りに赤黒く染まった。
「……こんの尻軽蝙蝠女、一体何がおかしいっ!!とっとと、失せろってんだよ」
怒りに赤黒く顔面を染めたカスターは怒声を迸らせながらアイリス目掛けてメイスを叩き付けたが、素早く両者の間に入ったミリアリアが手にしたフレイヤを一閃させてメイスを切断してしまい、更に咄嗟の事態に思わず動きを止めてしまったカスターの顔面に流れる要な動作で蹴りを叩き込んだ。
「ぐげえぇっ!!」
ミリアリアの足甲の爪先を頬に叩き込まれたカスターは口から血と悲鳴を撒き散らせながら地面に転がり、ミリアリアは廃棄物を見る様な目で転がるカスターを見下ろしながら口を開いた。
「久し振りだな、ロジナ候国軍第七騎士団長カスター殿」
「……て、てめえは、ヴァイスブルクのお澄まし騎士団長、な、何故てめえがこんな所にっ!?」
ミリアリアの姿を目にした血が混じった唾を吐きながら喚いた後に立ち上がり、一方アイリスはミリアリアが切断したメイスを手に取り、納得した様に頷きつつ口を開いた。
「成程、そう言う事か」
「……何が言いてえんだ尻軽蝙蝠女」
アイリスの嘲りが含まれまれた呟きを耳にしたカスターは忌々しげな表情をアイリスに向け、アイリスは嘲笑を浮かべながらメイスを掲げて言葉を続ける。
「……このメイスよ、絶龍石を精錬してるでしょ?」
「……っ」
アイリスの言葉を聞いたカスターは目を剥きながら声にならない声をあげ、その様子を目にしたアイリスは楽しげに嘲笑いながら言葉を続けた。
「不思議だったのよねえ貴方って滅龍騎士を名乗ってる割にそこまで強く感じなかったのよ、まあ、滅龍騎士にもピンからキリまであるらしいからそう言う物かなとも思ってたんだけど、これで納得よ、滅龍石を精錬した武器ってドラゴンに対して絶大な威力を発揮するんですものねえ、物凄く希少な鉱石なのによく見つけられたわねえ、幸運も実力の内だからそれに関しては誉めてあげるわ」
「……てめえら……ぶっ殺してやるうぅぅぅっ!!?」
血走った目で怒声を迸らせたカスターの姿が一瞬にして掻き消え、ミリアリアはフレイヤを構えながら周囲に視線を配るがアイリスは穏やかに微笑いながらミリアリアに声をかけた。
「……大丈夫よ、ミリア、もう見つけてる、からっと」
アイリスはそう言うと地面に映るミリアリアの影目掛けて大鎌の刃を振り下ろし、振り下ろされた刃は地面に突き刺さる代わりにミリアリアの影の中へと吸い込まれてしまう。
「……これはっ!?」
「影潜り(シャドウダイバー)よ、相手の影に潜り込んで相手の隙をついて攻撃するの、かなりの高等魔法で普通はこんな奴程度じゃ使えないんだけど……」
衝撃的な光景を目の当たりにしたミリアリアは驚きの声をあげ、アイリスはカスターが姿を消した事に関する種明かしを行いながらミリアリアの影の中に突き入れた大鎌をゆっくりと引き上げ始めた。
アイリスが引き上げた大鎌の先には右胸の辺りに深々と刃を突き刺さされたカスターが苦悶の表情を浮かべてもがいており、アイリスはカスターの鎧に大きなアメジストが嵌め込まれている事を確認すると頷きながら説明を続けた。
「この鎧に嵌め込まれているアメジストはシャドウアメジスト、魔水晶を精錬した物で影潜りの能力が付与されているわね、これが嵌め込まれた鎧を着てるから影潜りが使えるのよ」
「……ぐっ……がっ……て、てめえっ……な、何者だっ」
アイリスが説明しているとカスターが苦悶の呻きの合間に声をあげ、それを聞いたアイリスは小首を傾げて嘲笑いながら答えを返した。
「……あら、あたしは尻軽蝙蝠女でしょ?貴方が自分でそう言ってたじゃない、ああ、そうそうどうせ貴方はもうすぐ死ぬから関係無いけどそのアメジスト呪いがかけてあるわよ」
「の、呪いだあっ!?」
アイリスの言葉を聞いたカスターは目を剥きながら声をあげ、アイリスは楽しげに嘲笑いながら言葉を続ける。
「そう、呪いよ、影潜りの能力を使用する度に病魔が貴方を蝕んで行く呪い、見た所元々はそんな呪いなんて付与されてなくて最近付与された呪いね、術者の命を対価として付与された呪い、心当たりがあるかしら?」
アイリスは楽しげな口調でカスターにかけられた呪いの説明を行い、カスターは怒りによって痛みを忘れたらしく赤黒く顔を染めながら呪詛の言葉を吐いた。
「あの、くそ雌狐の似非神官、散々悶え狂ってたからたっぷり可愛がってやったのにそんな真似を」
「…………呆れた、大した事ない奴だと思ってたけどこれ程屑だとも思わなかったわ」
「……っぐあぁぉっ!!」
カスターの呟きを聞きおおよその事情を察知したアイリスは汚物を見る様な目で呟きながら手にした大鎌を一気に引き上げ、それによって完全にミリアリアの影の中から放り出されたカスターが無様な悲鳴をあげながら大鎌を引き抜かれて出血する右胸に手を当てて回復魔法をかけるのを蔑んだ目で見下ろしながら言葉を続けた。
「……もう良いわ、さっさと終わらせましょう、後は貴方だけだし」
「な、なんだとっ!?」
アイリスに声をかけられたカスターが慌てて周囲を見渡すと周囲は半透明の魔力障壁によって覆われており、それを目にしたカスターは愕然とした表情を浮かべながら呟きをもらす。
「……い、いつの間に」
「……最初に声をかけた時からに決まってるでしょう、そうじゃなきゃあんだけ激しい戦闘の最中にこうして話せる訳無いじゃない、よく見なさい、御自慢の魔龍討伐隊の末路をね」
アイリスの言葉を受けたカスターが魔力障壁の外を見詰めるとその周囲には魔龍討伐隊の騎士とエルフ騎士達の骸が折り重なっている上に、ほんの一握りの生存者達は蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑っており、その様を目の当たりにカスターが呆然とした表情を浮かべているとアイリスが楽しげに嘲笑いながら声をかけてきた。
「……あらあら、可哀想に、でも安心して頂戴、直ぐに追い付けるわよ」
「……っぐあぁぁっ!!!」
アイリスがそう言うと同時にカスターの身体が吹き飛ばされて近くの大木に叩き付けられ、アイリスは蔑みの目で苦悶の声をあげるカスターを見ながら小さく指を鳴らした。
アイリスが指を鳴らすとカスターの鎧に嵌め込まれていたシャドウアメジストが消失して一拍の間を置いた後にアイリスの手の中に出現し、アイリスは手にしたシャドウアメジストを掲げながら言葉を続ける。
「……これは貰って置くわね、貴方にはもっと相応しい物をあげるわ」
アイリスがそう言うとそれに呼応する様に周囲に転がっていた魔龍討伐隊の騎士やエルフ騎士達の剣や槍が次々に浮き上がってその切尖をカスターに向け、カスターは悪態を突きながら身体を動かそうとしたがいつの間にか自分の身体が金縛りにあった様に動かず声も出せなくなってしまっているのに気付いて見る間に顔を青ざめさせてしまった。
「……それじゃあ屑滅龍騎士様、永遠にサヨウナラ」
アイリスは青ざめたカスターに対して凄惨な嘲笑で告げた後に小さく指を鳴らし、一拍を置いた後に虚空に浮かんでいた多数の剣や槍が弾かれた様にカスター目掛けて殺到して全身に突き刺さり、それを確認したアイリスは骸と化したカスターから目を離して傍らのミリアリアに向けてシャドウアメジストを掲げながら口を開く。
「……これは、狐人族のお姫様に見せてあげた方が良いと思うから持って行くわ」
「……ああ、そうだな、それが良いだろう」
アイリスの言葉を受けたミリアリアは頷きながら賛同し、アイリスは頷いた後に嬉しそうに微笑いながら言葉を続けた。
「……さっきは護ってくれてありがとう、とっても嬉しかったわ」
「……あ、アイリスだったらあんな奴程度の攻撃何とも無いとは解っていたんだが」
アイリスの感謝の言葉を受けた恥ずかしげにモゴモゴと返答し、それを目にしたアイリスが仄かに頬を赤らめさせながらニコニコとした笑顔でミリアリアを見詰めていると魔龍が念話で語りかけてきた。
……魔王アイリスよ、話の邪魔をしてすまねが屑どもの生き残りが遁走したぞ、生き残りと言って10名程で大なり小なり負傷しているがな……
「……そう、そいつらはツイているわね、今のあたしはとっても機嫌が良いから快く見逃してあげるわ、それじゃあダンジョンに帰還しましょう、各機動集団に通達、これよりダンジョンに帰投する、損害の有無を報告して頂戴」
「北方機動集団、損害ありません」
「東方機動集団、こちらも損害無しです」
「西方機動集団、同じく損害ありません」
魔龍の言葉を受けたアイリスは各機動集団(南方機動集団は珊瑚龍をアイリスに返納して既にダンジョンに向け帰投中)に向けて行った損害の有無を確認し、自軍に損害が無い事を確認したアイリスは満足気に頷いた後に魔力障壁を消失させ、折り重なり魔龍討伐隊の騎士とエルフ騎士の亡骸を一瞥した後にミリアリアに向けて口を開いた。
「……それじゃあ帰りましょう、あたし達のダンジョンに」
「……ああ、そうだな、帰ろう、私達のダンジョンに」
アイリスの言葉を受けたミリアリアは頷きながら言葉を返した後に顔を真っ赤にさせながらアイリスに近付き、アイリスも頬を桜色に染めながらミリアリアの身体を抱え上げて上空へと上昇して行った。
アイリス率いる異形の軍勢がダンジョンに帰還して数時間が経過した黄昏時、壊滅した補給部隊の生き残りから報告を受けた砦から押っ取り刀で駆け付けた救援部隊が目にしたのは壊滅した宿営地であり、半死半生の体でそこにたどり着いていた10名程の生存者(収容後に約半数が死亡)によって魔龍討伐隊壊滅が告げられた。
魔龍討伐隊と補給部隊の壊滅、相次いでもたらされた衝撃的な報告を受けたヴァイスブルク派遣軍司令部は大きな衝撃に見舞われ、スティリアも同じく衝撃を受けながらも行方不明部隊は既に壊滅したと判断して捜索任務中の第九騎士団のヴァイスブルク帰還を進言、その進言を受け入れた司令官からの命令を受けた第九騎士団はヴァイスブルクへの帰投の途に就いた。
己の力を過信し滾る血気と功名心に任せて魔龍を急追していた魔龍討伐隊、驕慢に満ちていた彼等は魔王アイリスが用意していた陥穽に突入し、壊滅してしまう。
血気と功名心に逸り見境無く進撃していた魔龍討伐隊が陥った陥穽、それは魔王率いる異形な軍勢による埋伏の罠……
 




