戦姫の困惑
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今後も本作を宜しくお願い致します。
今回は少し短目のお話になります。
大陸歴438年霧の月十日・ヴァイスブルク近郊・ロジナ候国第三近衛騎士団宿営地
アイリスが捕虜の詰問して情報を引き出していた頃、アイリス率いる異形の軍勢の襲撃を受けて壊滅した陣営から散り散りになって敗走して来た敗残兵達が到着したヴァイスブルク近郊に展開するロジナ候国軍第三近衛騎士団の宿営地の騎士団本部のテントでは指揮官のステリィアが生存者達の報告に耳を傾けながら困惑の表情を浮かべていた。
外哨拠点に対するアンデッドの大群と装甲火蜥蜴の突然の襲撃とそれに対応して陣営から進発した増援部隊に対する火蜥蜴、ポイズンサーペント、ジャイアントマンティスと陣営の外周を警戒していた筈の魔狼の混成部隊による伏撃、そして連続する凶報に狼狽える陣営を突如襲撃した巨大なドラゴンと見慣れぬ外見の巨大なモンスター、複数の生存者達の断片的な証言を繋ぎ合わせた結果判明した襲撃の様子は驚く程統制が取れた物であり、ステリィアだけで無く周囲の幕僚達も困惑の表情を浮かべながら纏めた生存者の証言を報告する下級幕僚の報告を聞いていた。
「……以上が生存者の証言を纏めた物になります」
報告を終えた下級幕僚は一礼した後に着席し、それを確認した幕僚長は難しい顔付きになりながらステリィアに向けて口を開いた。
「報告にあった巨大なドラゴンについてですが如何思われますか?」
「……間違いなく魔龍だろう」
幕僚長の問いかけを受けたステリィアは表情を鋭くさせながら言下に言い放ち、それを聞いた幕僚達の何人かが表情を強張らせるのを確認すると厳しい表情で言葉を続けた。
「脅威認定の際に最もやっていけないのは敵の脅威を実在より低く見積もる事だ、今回の襲撃は通常のそれと比較すると明らかに洗練され、統制された物だ、魔龍となったドラゴンは絶大な力に加え高い知性まで有する様になる、だとすれば報告にあった巨大なドラゴンは魔龍であると想定せざるを得ない」
(ただ、魔龍が起こしたのだとしてもこの襲撃は異常だ)
ステリィアは幕僚達に告げ、その後にテーブルの上に広げられた地図に描かれた異様な襲撃の様子を確認しながら思案を続けた。
(生存者の証言を総合すると陣営にいた部隊の規律は些か箍が緩みがちだったのは間違い無い様だ、しかし緩みがちだと言っても外哨拠点と魔狼によってそれ相応の警戒態勢は敷かれていた、それにも関わらずこの襲撃は掃討部隊を陣営ごと文字通りに粉砕してしまった)
「……外哨拠点の襲撃にそれに対応した進発した増援部隊に対する伏撃じみた襲撃に魔龍の襲撃、ですか、これ程統制された襲撃を受けると考えるとゾッとしますね」
ステリィアが思案にくれていると第三大隊長のベーケが首筋の辺りを軽く叩きながら呟き、ステリィアが頷いていると第二大隊長のギレが難しい顔付きになりながら口を開いた。
「……ステリィア様、ステリィア様は滅龍騎士ですが、やはりステリィア様にとっても魔龍は脅威でしょうか?」
「……私が倒したドラゴンは古成体だがそれとて容易く倒せる相手では無い、そして、魔龍の力は別格だ魔龍と単独で相対する事が出来る滅龍騎士など大陸全土を探しても十指に満たないだろう」
ステリィアの返答を聞いたギレ達は表情を強張らせながら頷き、ステリィアはそれを確認した後に視線を先程まで襲撃の全容を報告していた下級幕僚に向けて口を開いた。
「魔龍と共に見慣れぬ外見のモンスターが出現したとあるがどの様なモンスターなのだ?」
「これ等のモンスターに関する生存者の証言がかなり少ない為、真偽の程は定かではありませんがそれらを総合する限りモンスターは少なくとも3種類存在している様です、1体はメタルゴーレムと思われますが通常のゴーレムに比べると細身の外見をしており、光弾を発射していたとの事です、もう1体はミノタウロスの亜種と思われる外見をしていますが通常のミノタウロスを遥かに上回る巨体で更に口から光線を吐いて攻撃して来たとの事です、そして残る1体のモンスターについては角を持ったグランドドラゴンの様な外見をしていたそうです」
下級幕僚の言葉を聞いていた幕僚達はその特異な内容に戸惑いの表情を浮かべ、第一大隊長のバイエルラインは困惑の表情でステリィアに声をかけた。
「……ステリィア様、この様なモンスターに対して心当りはありますか?」
「……無いな、少なくともヴァイスブルク周辺に出現するモンスターにその様な特徴のモンスターはいない」
(……魔龍が率いた襲撃ならば確かに統制の取れた襲撃にはなる、だが、この襲撃は余りに洗練され統制され過ぎている、初手から奇襲を連続して此方の対応を後手に回らせた上に後手に回って行われた対応の更に裏をかいて混乱を拡大させる、そしてその混乱の只中に強大な火力をもっと中枢を叩き狼狽え逃げ惑う敗残兵を徹底的に叩き潰す、空恐ろしい程に洗練され容赦が無い攻撃、そして見慣れぬ外見の正体不明のモンスター……異常、明らかにこの襲撃は異常過ぎる)
ステリィアはバイエルラインの言葉に応じながら残党狩部隊本隊に対する襲撃を分析し、その異常さに改めて懸念を生じさせた。
(……私は脅威認定を低く見積もる事は禁物だと言った、だが、私の脅威認定は低過ぎるのでは無いか?魔龍の出現は確かに脅威的ではあるがこの襲撃の本質ははそれすらも上回っているのでは無いか、だが、魔龍を上回る脅威などあるはずが……)
ステリィアは腕組みをして胸中に燻る懸念に困惑の表情を浮かべ、バイエルライン達も同じ様に困惑の表情を浮かべながら異様な襲撃に言い様の無い漠然とした不安を感じていた。
ステリィア達が判明した襲撃の精細に困惑の表情を浮かべているとヴァイスブルクの城の一角に設置されたロジナ候国軍ヴァイスブルク派遣軍司令部より指揮官の緊急召集を告げる伝令が到着し、その言葉を受けたステリィアはバイエルライン達に周囲を厳重に警戒する様命じた後に胸中に懸念を燻らせながらヴァイスブルクの城へと向かった。
魔王のダンジョンが新たな獲物をくらい尽くした頃、ヴァイスブルクではロジナの戦姫が漸く判明した異形の軍勢による襲撃の精細に触れていた。
判明した襲撃の精細は余りに洗練され過ぎると同時に統制され過ぎる物であり、それを確認したロジナの戦姫は困惑に包まれながら現状の把握に努めていた……