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異変

23000PVアクセスを突破し節目の5000ユニークアクセスも目前となりました。今後も宜しくお願い致します。

大陸歴438年霧の月十日・ヴァイスブルク近郊・ロジナ候国軍第三近衛騎士団宿営地


ヴァイスブルク条約の妥結式とそれを祝う宴から一夜が開けた霧の月十日、朝の陽射しはヴァイスブルク近郊に展開するロジナ候国軍第三近衛騎士団の宿営地にも降り注いでいたが騎士団長専用のテントで目覚めたスティリア・フォン・ロジナは悪趣味な宴の際にやけ酒の様に飲み続けたゼクトによる二日酔いに苛まれている為爽やかな目覚めを迎えたとは到底言えず、二日酔いによる頭痛に顔をしかめながら戦陣において身の回りの世話と護衛を行ってくれている2人の女戦士アマゾネスケイトとソニアが用意してくれた水とトーストとスクランブルエッグに果物と言う朝食が並べられたテーブルの前に座っていた。

スティリアは頭痛に顔をしかめながら水を飲み、主の珍しい姿を目にしたケイトは苦笑しながら口を開いた。

「……大丈夫かい、お嬢、昨日はしこたま飲んでたみたいだけど」

「……しょうがないでしょ、あんな宴に最後まで居なきゃなんないのよ、素面じゃやってられないわよ」

スティリアがそう言いながら水を飲み干すとケイトは水差しで空になったグラスに水を注ぎ、スティリアは再びグラスを手にすると自嘲の笑みを浮かべながら言葉を続けた。

「……私等楽な物よ、あの悪趣味な宴の主役の1人である私はやけ酒を呷るだけであの悪趣味な宴をやり過ごせたのだから、必死に戦った挙げ句に敵と裏切り者達への奉仕を強いられた彼女達に比べれば、あまりに楽過ぎて反吐が出そうよ」

「……お嬢」

「……スティリア様」

スティリアの自嘲の笑みと呟きを受けたケイトとソニアは表情を曇らせながらスティリアに呼びかけ、スティリアは翳りのある笑みを浮かべて水を飲みつつ言葉を続けた。

「……それで、私の厳命を無視して凛々しく気高い騎士団長を親愛なるヴァイスブルク男爵様に進呈したクソッタレは誰か分かったの?」

「スティリア様、はしたなさ過ぎませんか」

「……仕方無いわ、現状が最低であるにも関わらず公では飾りつけた言葉を使わなきゃならないのよ、貴女達の前でまで言葉を飾りつもりも繕うつもりも無いわ」

侯爵家令嬢にあるまじきスティリアの物言いを受けたソニアが苦笑しながらたしなめるとスティリアは微笑わらいながら応じた後にスクランブルエッグをつつき始め、そのやり取りを見ていたケイト幾分調子を取り戻した様子のスティリアの姿に安堵の表情を浮かべたが直ぐに表情をしかめながら口を開いた。

「1人とてつもなく怪しい奴がいるぜ、第三大隊長のオリンピウスは、お嬢に敗れて捕らわれた騎士団長を含めた捕虜の尋問を担当していたんだが、昨日いきなり出向を命じられたとかほざいてナルサスの司令部に行っちまったんだ、何人かついてったからそい等が噛んでると思うぜ」

「激怒したスティリア様の様子に滑稽な程震えあがってましたので、何らかの関わりがあると見て間違いは無いかと思います」

ケイトとソニアは歯に衣着せぬ物言いでスティリアの問いかけに答え、それを聞いたスティリアは頭痛が更に増した様に感覚に襲われて苦虫を数匹纏めて噛み潰した様に表情を歪めながら口を開いた。

「……やっぱりあいつか、良いわ出向したっていうならナルサスの奴に熨斗つけてくれてやるわ、大隊長の後任にはベーケを任命するわ、食事が終わったら命令書を作製するから秘書官を呼んで来て頂戴」

「了解しましたスティリア様」

スティリアの指示を受けたソニアは滑らかな口調でそれに応じ、その様子を見ていたケイトは羨望の表情を浮かべながら口を開いた。

「こうして見てるとやっぱソニアはしっかり者って感じだよなあ、がさつなアタイと違って」

「あら、あたしは貴女のそう言う所好きよ、特にあたしを腰砕けにさせたり気絶させたりしちゃう獣みたいに激しくて荒々しい夜の貴女が」

「……っなっ!?」

ソニアの予想外の返しを受けたケイトは耳まで真っ赤になりながら絶句してしまい、その様子を目にしたスティリアは思わず吹き出しかけたが、直ぐに真剣な表情になりながらケイトとソニアに声をかけた。

「……ねえ、貴女達の馴れ初めって、敵同士だったのよね?」

スティリアの真剣な眼差しと言葉を受けたケイトとソニアは視線を交わし、互いをしっかりと見詰め合い頷き合った後に真摯な表情でスティリアと向き合いながら口を開いた。

「……はい、アタイとソニアが初めて逢ったのはルフトラント戦役の時です、その時アタイはロジナの傭兵で、ソニアはルフトラントへ参加した義勇兵でした」

「……それでお互い傷だらけになるまで戦い合った末にあたしは彼女に敗れてロジナの捕虜になりました、そしてその夜傷だらけになった彼女があたしを助けに来てくれたんです」

「……もっとも、あっさり失敗して捕まってソニアともども散々な目に逢って娼奴隷に堕とされお嬢に拾って頂けるまで慰み者にされてましたけどね」

ケイトとソニアは懐かしむ様に言いながら惜し気もなく晒す褐色の肢体の其処彼処に刻まれた古傷の痕に愛しげに指を這わせ、スティリアはその様子を見ながら悪趣味な宴の最中に自分の為にその身体を晒してくれたクーデリアとの出逢いを思い出していた。

陥落し叫喚の坩堝と化したヴァイスブルク、生き残ったヴァイスブルク伯国軍の残党が再起を期して脱出を図る城門に急行したスティリア達の前に立ちはだかったのが斬り捨てられて転がるロジナ候国の兵士達の骸を背に小さく肩で息をしながらも毅然とした様子で剣を構えるクーデリアだった。

不退転の覚悟を秘めた表情で剣を構えるその姿は凄絶なまでに美しく、スティリアはその美しさに吸い寄せられる様に剣を抜くと部下達の制止を振り切って彼女との壮絶な一騎討ちを戦う事になったのだ。

(……本当に綺麗だったわ、あの時の彼女は凛々しく、気高く、そしてどうしようも無い程に儚かった、私はそんな彼女の身体と心を汚す片棒を担いでしまった、なのに彼女は、その美しい身体を清め私に……)

スティリアは落城の最中に相対した凛々しき甲冑姿のクーデリアの姿と、悪趣味な宴の最中に自分の向けて晒してくれた扇情的な下着姿のクーデリアの姿を脳裏に浮かべながら思わず唇を噛み締め、その様子を目にしたケイトとソニアは恩人であもある主を慈しむ様に優しく見詰めながら口を開いた。

「……お嬢、悲しんじゃ駄目だぜ、悲しんだりしちゃあの騎士団長を侮辱しちまうぜ」

「……ケイトの言う通りです、スティリア様、あの騎士団長は己の全てを賭してスティリア様に挑んだのです」

「……分かっているわ、憐憫を抱く等、凛々しく気高い彼女に対する最大の侮辱」

ケイトとソニアの言葉を受けたスティリアは自分に言い聞かせる様にゆっくりと呟き、ケイトとソニアその言葉に大きく頷いているとテントの外が何やら騒がしくなり始め、それに気付いたスティリアが怪訝な面持ちで立ち上がっているとテントの外から大きな声が聞こえてきた。

「……ざ、残党狩部隊だっ!!残党狩部隊の連中がボロボロになって帰って来てるぞっ!!」

「……お嬢っ!」

「……スティリア様!」

「……ついて来なさいっ、ケイトッ、ソニアッ!」

外から聞こえて来た声を聞いたケイトとソニアが緊迫した表情でスティリアに声をかけると、スティリアは短く命じた後に燃え盛る様な紅の刃が印象的な愛剣クリムゾンが収められた鞘を掴みながら駆け出してテントの外へと飛び出し、スティリアの姿を目にして慌てて敬礼する近衛兵達に対して答礼した後に口を開いた。

「掃討部隊に何かあったの?」

「は、はい、つい先程から、ざんと、いえっ掃討部隊本隊に所属していた将兵が三々五々の状態で到着しているのです、傷を負った者が多く深傷を負っている者も少なくありません」

スティリアの問いかけを受けた近衛兵は一部の言葉を言い直しながら容易ならざる事態が生じた事を告げ、それを受けたスティリアは即座に周囲にいる近衛兵達に命令を下した。

「伝令はヴァイスブルクに急ぎこの事を伝えよ、残りの者は直ちにこの事を知らせつつ救護所を設置し後退してくる友軍将兵を収容せよ、お前は私を後退してくる友軍の所へ案内しろっ!!敬礼は構わん、行けっ!!」

「「はっ」」

スティリアの号令を受けた近衛兵達は素早く周囲へと散り、スティリアはテントを飛び出して来たケイトとソニアを従えて状況の説明を行った近衛兵と共に後退してくる残党狩部隊の所へと移動した。

スティリアがその地に到着するとそこでは木々の合間を縫う様にして残党狩部隊本隊の生き残りが進んでおり、その姿を目にしたスティリアは敗残兵と呼んでも間違いでは無いその姿に内心で衝撃を受けながら比較的統制の取れた一団に向けて声をかけた。

「……指揮官はいるかっ!?」

「……指揮官はわた、す、スティリア様!?」

スティリアに声をかけられた指揮官は気だるげに応じかけたがスティリアの姿に気付くと慌てて敬礼し、スティリアは答礼した後によろめく様に進む兵士達を見ながら問いかけた。

「一体何があったのだ」

「は、はい、我々は本隊として陣営に駐留していたのですが一昨日の深夜にモンスターの大規模な襲撃を受け、陣営は壊滅、我々は撤退を命じられましたがモンスターの攻撃と深夜の撤退により部隊は散り散りになりこうして撤退して来ました」

「壊滅」

衝撃的な報告を受けたスティリアが短く呟くと指揮官は沈痛な表情で頷き、それを確認したスティリアは鋭い眼差しで指揮官を見ながら言葉を続けた。

「現在救護所を設置中だ、御苦労だか詳しい情報を聞きたいので貴官は騎士団本部に向かってくれ」

「ハッ分かりました」

スティリアの指示を受けた指揮官は助かった事に安堵の表情を浮かべながら応じ、スティリアは案内役の近衛兵に指揮官の案内と応援の派遣を命じると遠ざかっていく指揮官と近衛兵の背中を一瞥した後に視線をよろめきながら進む残党狩部隊の敗残兵達に戻した。

「……一体何があったのだ」

スティリアは厳しい表情でそう呟いた後にケイトやソニアと共によろめきながら進む残党狩部隊の兵士達に救護所への道筋を示し、彼等は勝利に驕り享楽に現を抜かしていたそれまでの姿が嘘の様に悄然とした様子で救護所へとよろめく様に進み続けた。

壊滅した残党狩部隊本隊の敗残兵達が漸く味方の元に到着した頃、別の残党狩部隊が新たな獲物として魔王のダンジョンへと誘われていた。



悪趣味な宴の翌朝、宴を楽しむ周囲を尻目にただ1人苦い酒杯を重ねていたロジナの戦姫が激しくて刃を交えた騎士団長に想いを馳せていると、アイリス率いる異形の軍勢に粉砕された残党狩部隊本隊の敗残兵達が漸く味方の所に到着した。

異様な事態に戸惑いながらも対処を命じるロジナの戦姫だったが、既に魔王のダンジョンには新たな獲物が到着しようとしていた……

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