三者会談
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大陸歴438年霧の月九日白昼・マスタールーム
残党狩部隊を殲滅して捕虜を救出した一同は明け方頃に仮眠をとり、昼前頃に起き出して携行食による朝食兼昼食を摂った後に行動を開始した。
ライナ達3人はアイリスに断った後にダンジョン周辺で狩猟と採取を開始し、救出された女エルフと狐人族の女達は居室で静養に努め、彼女達の長であるミランダとアイリーンに付き添いのクラリスはマスタールームでアイリスとミリアリアと共にテーブルを囲んでいた。
「……少しは落ち着いたかしら?」
「はい、居室も快適な部屋で皆ゆっくりと休めています、明日には狩猟や採取の御手伝いも出来そうです」
「私達もゆっくりと休む事が出来ております、重々の御配慮御礼のしようがありません」
アイリスから声をかけられたミランダとアイリーンは「私どもゆっくりと休む事が出来ております、重々の御配慮御礼のしようがありません」
アイリスから声をかけられたミランダとアイリーンは叩頭しながら謝意を示し、アイリスは擽ったそうな表情で言葉を返した。
「……ホントに義理堅いのね貴女達も、まあ、良いわ、こうして貴女達に来てもらったのは、現在の情勢を教えて欲しいからなの」
「……情勢、ですか」
アイリスから呼び出しの真意を聞かされたアイリーンは怪訝そうな面持ちを浮かべながらその言葉の中にあった一句を反芻し、アイリスは頷いた後に言葉を続けた。
「以前説明した通りあたしは眠りから覚めたばかりなの、だから現在の情勢なんか殆ど把握出来て無いの、今、あたしが知っている情勢はヴァイスブルク伯国とリステバルス皇国と言う2つの国が滅び、その原因がロジナ候国であると言う事、ヴァイスブルク伯国にはラステンブルク伯国という友好的があり、ロジナ候国やヴァイスブルク伯国と共に神聖ラインラント君主連邦帝国に所属している事、連邦には多くの君主国がありツェントラル同盟みたいな繋がりもあると言う事くらいなの、だから、貴女達の知っている事を教えて欲しいのよ、情報って奴は集めれる限り集めといた方が安心だから」
「……成程」
「……確かにそうですね」
アイリスから説明を受けたアイリーンとミランダは得心した様に頷きながら呟き、その様子を目にしたアイリスはテーブルに置かれた冷たい水の満たされたグラスを手に取りながら口を開いた。
「……最初は神聖ラインラント君主連邦帝国について聞くわね、聞いた限りだとかなり国の数が多そうなんだけど」
「……そうですね、連邦を構成している国は大小含めると300を越えています、公国は選出された皇帝を補佐する役目を有したラインラント公国のみで候国は皇帝を選出する権利を有する七選帝候国にその権利を持たない五候国を加えた十二候国があります。これらの国々は広大な領土を持ちこの13の公候国を合わせた領土の広さは連邦の総領土の半分を超えています」
アイリスの問いかけを受けたミランダはロジナ候国を含めた公候国に関する説明を行い、それに続いてミリアリアが伯国以下の国に関する説明を始めた。
「残る国々に関しては我が国やラステンブルク伯国の様に伯爵位の者が国主を務める伯国、男爵位の者が国主を務める男爵領国、子爵位の者が国主を務める子爵領国の3種類の国がある、伯国は大小合わせて70程あり残りは男爵領国と子爵領国が半々と言った所だな、男爵領国、子爵領国は規模の小さい国が多く後継ぎがいない為に廃国されて近隣国に吸収されたり、功績を上げて爵位を賜った者が新国主として叙任される等してかなり移り変わりが激しい、そして規模が小さい国が多いので近隣国と商業同盟を組む事が多く、ツェントラル同盟もその1つだ、他には北にあるバルティック同盟や南のラーデル同盟等が有名だな」
「……今までの話を聞いてると帝国とは言っても皇帝にはそんなに権限無さそうね、それでこの騒動の元凶のロジナ候国ってどういう国なの?」
ミリアリアの追加説明を聞いたアイリスは新たに問いかけ、それを聞いたミランダは顔をしかめながら口を開いた。
「……七選帝候国にはロジナの他にロンゴバルト候国、ゴルティック候国、ノルトラント候国の人族の国に獣人族の国レーヴェ候国、ドワーフ族の国オストブルク候国、ウィッチ族の国クリストローゼ候国がありますがロジナ候国は七選帝候国の中でも最大の領土と軍事力を保有する国です」
「……皇帝を選出する権利を有する選帝候国と言えば聞こえは良いけど人間の国だけで過半数超えてるじゃない、筆頭国のロジナにしてからがやりたい放題だし、人間側の意思が透けて見えるわね」
ミランダの説明を聞いていたアイリスは眉を潜めて呟いた後にグラスの水で喉を湿らせ、その話を聞いていたミリアリアは苦笑しながら口を開いた。
「実際歴代皇帝には人間の皇帝が多いが人族の4候国も何かと対立する事が多くてな、亜人族の選帝候国の存在を無視する事は難しくバランスは均衡していたんだ、少なくとも10年前まではな……」
「何かあったの?」
ミリアリアの説明を聞いていたアイリスはミランダに視線を向けながら最後にあった思わせ振りな単語に関して問いかけ、ミランダは小さく頷いた後に説明を始めた。
「皇帝選出権を持たない候国が5つあると言いましたが10年前は候国は7つあったのです。マーメイド族の国ノルティック候国とハーピー族の国ルフトラント候国、この2つの候国がロジナ候国に滅ぼされたのです、両国が連邦瓦解を狙っているという主張の下侵攻したロジナ候国は両国を占領して領土に組み込み、それによってロジナ候国は発言力を増したのです、元々極端な人間至上主義を国是とするロジナ候国は同様の国是を持つロンゴバルト候国と強固な関係を結んでおり、ゴルティック候国もこの事態に勢いずいた親ロジナ候国の派閥が優勢となりそれに加わりました」
「……ノルティック候国はリステバルス皇国とも関係が深くその折には多くのマーメイドが我が国に避難してまいりました、国主のローザ女侯爵様と御令嬢のナタリア様は捕らえられローザ様は獄死され、ナタリア様は現在行方知れず、どの様な目にあったのかは、私が申さずともお分かりでしょう」
ミランダが説明していりとアイリーンも暗い表情でそれに加わり、それを聞いていたアイリスがげんなりとした表情を浮かべているとクラリスが厳しい表情で口を開いた。
「ラインラント候国は激しい抵抗を続けましたが衆寡敵せず滅亡、国主アンヌ女侯爵様は戦死、5人いた御令嬢の内4人も戦死若しくは獄死され末娘のリリアン様のみが脱出したとの事ですが行方知れずとなっています、獄死された御令嬢方がどの様な目にあったのか、想像したくもありません」
「ホントに碌な事してないのねあの屑どもって」
クラリスが厳しい表情と共に告げた説明を聞いたアイリスは更にげんなりとした表情でミリアリアに話しかけ、ミリアリアは渋面を作って頷きながら口を開いた。
「……それに加えてロジナ候国は昨年リステバルスの内戦に介入して新たな領土を得た、リステバルス王国はラインラント連邦とロジナ候国に領土を割譲したが連邦に統治機能は無いので連邦が得た領土は信託を受けたロジナ候国が信託統治領として運営しているので実質的にはロジナ候国が丸取り状態だな」
「割譲されたザールブルク地方とポルメルス地方は鋼玉と川真珠が豊富に産出すると同時に土地の肥えた穀倉地域でもありますわ、ロジナ候国の発言力強化に大きく寄与した事でしょう」
ミリアリアの説明を聞いていたアイリーンは皮肉っぽい笑みとともに呟き、ミランダは渋面で頷いた後に言葉を続けた。
「実際この結果によって残る人族の候国でロジナ候国とは対立する事が多いノルトラント候国においてさえ親ロジナ候国派の台頭が著しい状況になっており余談を許さぬ状況となっています、皇帝選出権を持たぬ五候国でも人族のヴァンブルク候国が露骨にロジナ候国に接近しつつある状況です」
「ラインラント皇帝は何してるの?幾らなんでも勝手な事を許し過ぎじゃない?」
ミランダの告げるロジナ候国の隆盛ぶりを聞いていたアイリスは怪訝そうな面持ちになりながら疑問を呈し、それを聞いたミリアリアは溜め息をついた後に口を開いた。
「現在のラインラント皇帝テウドシオス3世は12年前にロジナ候国等の支援を受けて選出された皇帝だ、敬虔と言うより狂信に近い程の十字教教徒で十字教関係の施策には非常に熱心に取り組んでいるが領土経営についてはロジナ候国等に任せっきりの状態だ、十字教は熱心に教徒獲得を行う一方異教徒排斥にも非常に熱心に取り組んでいる、同じく十字教を国教とするロジナ候国に取っては組み易く、操り易い皇帝だな、一応連邦構成国には自由信教が認められてはいるが昨今は十字教の絶対国教化すら噂されている状況だ、少なくとも十字教を信教していないノルティック候国、ルフトラント候国、そして我がヴァイスブルク伯国への侵攻に対して皇帝は何もしてくれなかった」
「因みにリステバルス皇国も十字教を信教してはいませんでした、そして伝聞なのですがロジナ候国に割譲された地域では半強制的な十字教への改宗が行われているそうです」
ミリアリアに続きアイリーンが渋い表情で情勢の説明を続け、それを受けたアイリスは呆れた表情と共に口を開いた。
「聞けば聞く程頭が痛くなる話ね、でも、その話を聞けば聞く程心配になってくるわね、ラステンブルク伯国ってそんな情勢でヴァイスブルク伯国の支援なんかして大丈夫なの?」
「……その事についてなのですが、1つ宜しいでしょうか?」
アイリスが呟いているとクラリスが厳しい表情で発言し、アイリスが頷く事で発言を促すと言い難そうに言葉を続けた。
「私達はアイリーン様と共に娼奴隷として数えるのも面倒な程多くの輩の相手をさせられました、その中の何人かはラステンブルク伯国の人間だと思われます」
「……なん、だと」
クラリスの発言を受けたミランダは顔色を変えながら呟き、アイリスとミリアリアが目配せを交わす中、クラリスは厳しい表情のまま言葉を続けた。
「数人がかりで私を嬲り尽くした屑どもはこう言っていました、「今ごろ隊長は皇女様と宜しくやっているだろうな」「ああ、狐人族も良いが今度はエルフの連中だから楽しみだな」「友好国の俺らに裏切られて絶望した奴らの顔が見物だぜ」と言っていました、ミランダ殿、黙っていて申し訳ありません、あの状況下で貴女達にこの事を告げたら貴女達は完全に心をへし折られてしまうと思ったのです」
「……そうだったのですか……クラリス殿、配慮感謝致します」
クラリスは陵辱の合間に聞いた会話を伝えた後にミランダに謝罪し、唖然としていたミランダは我に帰るとクラリスにの配慮に対して謝意を伝えた後に唇を噛み締め、無言でその様子を見ていたアイリスはゆっくりと口を開いた。
「当面の目標が決まったわね」
アイリスの言葉を受けた一同は視線をアイリスに集中させ、アイリスはダンジョン周辺の地図を展開させた。
アイリスが表示させた地図上にはラステンブルク伯国へと移動する緑の光点が5つあり、それを確認したミリアリアは思わず立ち上がりながら口を開いた。
「この光点はっ!?」
「……使い魔達が発見したヴァイスブルク伯国の残党よ、エルフが4人にダークエルフが1人、全員が女性でバラバラになってラステンブルク伯国に向かっているわ」
「そうかっまだ生き残りがいたのか」
ミリアリアの声を受けたアイリスは頷きながら生き残りの存在を告げ、その言葉を受けたミランダが弾んだ声をあげた。
「この位置からだとラステンブルク伯国までは数日かかるわ、使い魔達をは彼女達に張り付かせているから明日にでも救出しましょう、それよりも対処すべきはこちらよ」
アイリスの更なる言葉に応じる様に地図上に光点を追いかける赤い矢印が表示され、それを目にしたクラリスは険しい表情で口を開いた。
「これは、追手!?」
「ええ、軽装歩兵に魔導兵、軽騎兵が加わった中隊規模の部隊よ、逃げてるエルフの1人が怪我をしてるみたいで動きが遅いの、このままじゃ追い付かれるわ」
「どうなさるのですか?」
アイリスの説明を聞いたアイリーンは焦燥の表情で問いかけ、アイリスは事も無げな表情で言葉を続けた。
「連中は相も変わらず魔狼を使って追跡を行ってるわ、彼女達を追跡していた魔狼は使い魔を通じて既にテイムしたからそいつらをつかって連中の進路を徐々にこのダンジョンに誘導させるわ、ダンジョン前に逃亡者の痕跡を偽装しとけば連中はこのダンジョンに釘付けになる筈よ、その間に彼女達を救出しダンジョンで消耗した連中を潰すわ、指揮官クラスは出来たら捕虜にして訊問するつもりよ」
「……じ、訊問、ですか」
「……あ、アイリーン様は御覧にならない方が宜しいですね」
「……その方が良いと思います、正直私も立ち会いは遠慮したいですから」
アイリスから出た訊問と言う言葉を受けたアイリーン、クラリス、ミランダの3人はこれまでのアイリスの行動や言動を思い起こして顔を引きつらせかけながら呟き、その様子を目にしたミリアリアは思わず苦笑を浮かべていた。
魔王アイリスは救出した騎士団長や狐人族の皇女と会談して現在の情勢の収集に努めた。その際にヴァイスブルク伯国の友好国ラステンブルク伯国に対する不審情報が確認されたアイリスはラステンブルク伯国に逃亡していたヴァイスブルク伯国の残党の救出と彼女達を追跡するロジナ候国の残党狩部隊の殲滅を決意し、異形のダンジョンは新たな獲物を迎え入れる事になった……