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眠れる森の魔王(びじょ)

早速ブックマークして頂きありがとうございます、今後も宜しくお願いします。

大陸歴438年霧の月七日


逃避行の最中に見付けた洞窟、降り始めた雨を凌ぐために中に入ったミリアリアが魔力の明かりを灯して目にしたのは洞窟にしては不自然な程滑らかな岩肌と凹凸が少なく歩き易そうな平坦な地面と言う自然が造り上げたにしては明らかに異質で不自然な光景であった。

「……この洞窟、自然の洞窟では無いな」

その光景を目にしたミリアリアは洞窟から出る為に直ぐに踵を返したが、転じた視線の先には先程入った筈の洞窟ね入口の代わりに滑らかな岩壁が鎮座しており、それを確認したミリアリアは小さく舌打ちしながら顔をしかめたが直ぐにしかめた表情を緩めながら呟きをもらした。

「……進むしか無い、か、例えこの洞窟から出られたとしても、今更戻る道等無いのだからな」

ミリアリアはそう呟いた後に洞窟の奥へと進み、かなり歩いた後にかなり開けた空間へと到着した。

「……此処は、墓場、なのか?」

開けた空間の中央に石棺が鎮座しており、それを目にしたミリアリアは訝しげに呟きながら石棺の所に近付くと石棺の様子を調べ始めた。

石棺には魔方陣の様な物が記されていた為ミリアリアはその内容の確認しようとしたが、年代が著しく古いらしく記されている魔文字の大半が判読不能若しくは困難な物であり、ミリアリアは暫く苦労して判読した末にかなりの量(恐らく盗掘予防の為)の魔力を流す事で石棺の蓋を開閉する為の魔方陣であろうと推察した。

「もしこの中で眠りについていす者がいたとしたら、この蓋を開き、その永き眠りを妨げてしまう事になる事を許して欲しい、もう、私には前に進むしか無いのだ、墓荒らしの真似事をしてでも何かを掴み取るしかないのだ、だからこの棺を暴かせてもらう、もし、この中に何も無く、ここから出られる当ても無ければここで永久の眠りにつくだろう、眠りを妨げた上に勝手な話だが、許して欲しい、それでは、この蓋を開けさせて貰うぞ」

棺の魔方陣を確認したミリアリアは棺に語りかけた後に魔方陣に右手を添えると意識を集中させて魔方陣に魔力を流し込み、流し込まれた魔力に呼応した魔方陣が淡く輝いた後に軋み音と共に石棺の蓋がスライドした。

逃避行によって消耗した所に更に魔力を放出したミリアリアは一瞬立ち眩みを起こして倒れかけたが、数歩後ずさる事で何とかそれを防ぎ、軽く頭を振った後に石棺の中を覗き込んだが、石棺の中には美しい女性が仰向けに横たわっており、ミリアリアはその美しさに思わず息を飲んだ。

艶やかなストレートロングの濡羽色の髪に丹念に彫り込まれた彫刻の様に整った面持ちに豊かに隆起する柔らかな双丘と締まった腰回りにスラリとした手足と言う美しさと色香が混在する肢体を惜し気もなく露にさせる滑らかな黒の光沢を放つ扇情的な装い、見る者を劣情へと誘う蠱惑的な美女は目蓋を閉ざしたまま横たわり、ミリアリアは暫しその姿に見とれてしまっていたが、横たわる彼女の背中に存在している折り畳まれた黒い蝙蝠の羽根の事に気付くとサファイヤブルーの瞳を大きく見開いた。

「艶やかな黒髪に雪の様に白い肌、そして背中に存在する黒き蝙蝠の羽根……まさか、魔王?」

ミリアリアの言葉の中にあった魔王と言うのは膨大な魔力を持った魔物達の長の事であり、過去に幾度か現れては世界を混沌と破壊の渦へと巻き込んだ存在として恐れられていた存在であった。

伝承によるとその容姿は漆黒の黒髪に淡い瑠璃色の瞳に白雪の様に白い肌、そして背中から伸びる黒い蝙蝠の羽根であり、今ミリアリアが見ている美女の外見は確かにその特徴に合致してはいたが、伝承で伝えられている魔王は全て男性であり、ミリアリアは戸惑いの表情を浮かべながら横たわる美女を見詰めていたが、暫くすると少し躊躇い勝ちに横たわる美女に顔を近付けた。

ミリアリアは美女に顔を近付けると口元に手を翳しながら豊かな双丘を一瞥したが翳した手には呼吸は感じられず、豊かな膨らみにも動きは見られなかった。

(髪や肌の色に蝙蝠の羽根、それらは確かに伝承にある魔王、それも絶大な力を持つ純正魔王の特徴と合致している、だが、女性の魔王等噂にすら聞いた事が無い、それに、最後の純正魔王が滅ぼされてから400年以上が経過している、その際に魔王の眷族も大多数が滅び、生き残り魔王を自称した一握りの眷属も300年前に滅ぼされた、魔王は最早過去の存在、それが常識だ、だが、今、私の前に横たわる彼女は確かに、魔王の特徴を備えている、一体どう言う事だ)

戸惑いと共に横たわる美女を見詰めるミリアリア、その時、閉じられている美女の目蓋が微かな身動ぎを始めた。

「……ッ!?」

ミリアリアが突然の事態に思わず息を呑んでいると、美女の目蓋が再び微かな身動ぎを始め、やがて閉ざされていた目蓋がゆっくりと開かれて澄んだ煌めきを放つ淡い瑠璃色の瞳が姿を表した。

(……淡い、瑠璃色の瞳やはり、純正魔王、なのか?)

美女の瞳を目にしたミリアリアは思わず身を固くさせたが、美女は目覚めたばかりの為かぼんやりとミリアリアを見詰め、ミリアリアは身体を硬直させたまま美女と見詰め合う事となった。

(……綺麗な瞳だな、吸い込まれてしまう様だ、捉えられてしまったのかもしれんが……所詮敗残兵の私の運命はここまでだったと言う事かもしれないな)

ミリアリアは美女の澄んだ瑠璃色の瞳を見詰めながら自分が危機的な状況にあるのを感じたが、今更慌てた所で状況が劇的に改善する筈も無く、達観したミリアリアは腹を括って美女を見詰めた。

ミリアリアが見詰めていると当初はぼんやりとしていた美女の瑠璃色の瞳はだんだんとはっきりし始め、美女はその瞳でミリアリアを見詰め返した。

美女の淡い瑠璃色の瞳とミリアリアのサファイヤブルーの瞳、共に澄んだ光を放つ美しい瞳は互いの姿を映し続け、ミリアリアが美女の美しくそれでいて官能的で蠱惑的な面立ちに改めて感嘆していると美女の口がゆっくりと開かれた。

「貴女が、あたしを目覚めさせてくれたのかしら?」

「特に貴女に何かをした訳では無い、だが、この石棺の蓋の魔方陣に魔力を流し込んで開けたのは確かに私だ」

美女に声をかけられたミリアリアは静かな口調で言葉を返し、それを受けた美女は微かに笑いながらゆっくりと上体を起こした。

美女が扇情的な装いによった谷間が露になっている豊かな双丘を悩ましく揺らしながら上体を起こすと畳まれていた蝙蝠の羽根がゆっくりと大きく開き、ミリアリアはその羽根を見ながら上体を起こした美女に声をかけた。

「……黒髪と瑠璃色の瞳に白い肌、そして背中の黒い蝙蝠の羽根、貴女は魔王、なのか?」

「……確かにそんな風に呼ぶ人もいたわね、そんな質問をするって事は、あたしの正体を知りあたしの力を利用する為にあたしを目覚めさせたって訳じゃ無さそうね、エルフさん」

ミリアリアの言葉を受けた美女はそう返答し、ミリアリアは乾いた笑みを浮かべながら口を開いた。

「……今の私は敗残兵でね、敗走の最中にこの洞窟を見つけ、入ったはいいが出られなくなった為に奥に進んでこの石棺を見つけ、勝手な話だが何かを無いかと思って蓋を開けたのだ」

「……あら、だとしたら貴女は墓荒らしさんって事になるのね、しかも魔王の墓を荒らしちゃった」

ミリアリアの言葉を受けた美女は面白そうに頬を緩めながら告げ、ミリアリアは自嘲の笑みを浮かべて頷きながら言葉を返した。

「確かにそうなるな、いかに敗残の身で窮していたとは言え、墓を暴き、貴女の、魔王の眠りを妨げた、とんでもない愚か者だな」

自嘲気味に笑いながら呟くミリアリアは美女はそんな彼女を面白そうに見詰め、呟きが終わった後に口を開いた。

「……面白いわ、貴女みたいな人に目覚めさせて貰うなんてね、ねえ、貴女の名前を聞かせて頂戴、エルフの墓荒らしさん」

「……私はミリアリア・フォン・ブラウワルトかってはヴァイスブルク伯国の第三騎士団長をしていた、が、今は単なる敗残兵で墓荒らしに過ぎない」

美女に問いかけられたミリアリアは静かな口調で己の名を告げ、それを受けた美女は蠱惑の笑みを浮かべながら口を開いた。

「そう、それじゃあ改めてはじめましてミリアリア・フォン・ブラウワルト、あたしの名はアイリス、貴女達の言葉で言うならば魔王って奴になるわ」

美女、魔王アイリスは蠱惑の笑みと共に己の名を告げ、ミリアリアは改めて告げられた魔王と言う名に己の身体が強張るのを感じながら頷いた。


ミリアリアが魔王アイリスとの出逢いを果たした頃、アイリスが眠っていた洞窟に程近い場所でロジナ候国軍残党狩部隊の一部が降り始めた雨を避ける為にテントを張っていた。

残党狩の最中に捕らえたエルフの女兵士を陵辱し、手柄話に華を咲かせるロジナ候国軍将兵の所にミリアリアの追跡を断念した魔狼が戻って来た。

魔狼を操っていた魔導士は戻って来た魔狼から高位のエルフの痕跡を掴んだ事を知ると早速この事を指揮官に告げ、指揮官は新たな手柄の存在に部下達は新たな陵辱の標的の存在に色めきたつと降り注ぐ雨の中出立した。

魔狼を戦闘に虜囚となったエルフを引き摺りながらミリアリアを捕らえる為に移動を始めた残党狩部隊、勝ち誇る彼等はまだ知らない、魔王が目覚めた事を、不運な彼等はまだ知らない、標的であるミリアリアが目覚めた魔王と出逢った事を、そして、愚かな彼等はまだ知らない、自分達が進んだ先に地獄が待っている事を……



敗走し、怪しい洞窟に迷い込んだミリアリア、後に戻れない彼女はその洞窟の奥へと進み、その地にて眠れる美女の眠りを解いた、国を喪い敗走していたエルフが出逢った美女、彼女は歴史から忘れさられて眠り続けていた、眠れる森の魔王びじょ……

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