惨劇・第一次フェルト・ヘルン・ハレ攻防戦編・破砕
フィンランドへ、フィンランドへ
またもやイワンが攻めてきた
フィンランドへ、フィンランドへ
またもやイワンが攻めてきた
モロトフはすばり言い切った
「明日よりかの地はロシアだ!」と
総督以下の大ホラ吹き!!
モロトフは駄目だ、五番歌詞(日本語訳)
大陸歴438年実りの月三日・フェルト・ヘルン・ハレ北方・ヴァイスブルク男爵領国軍第三騎士団集結地
性急な総攻撃を行った結果フェルト・ヘルン・ハレの猛烈な防御射撃に甚大な損害を被った攻撃部隊は這々の体で後退すると本隊に合流し、猛烈な弾雨を浴びた急造エルフ騎士達の多くは放心状態で地面にへたり込んでしまっていた。
「……手酷くやられたな」
「……我々の小隊も8名戦死しました、先頭を進んでた小隊の連中はほぼ全滅ですな」
放心状態でへたり込み回復魔法による負傷の治療を受けるエルフ騎士達の様子を目にしたハルスが顔をしかめて傍らのバープリーに声をかけるとバープリーは厳しい表情で応じ、ハルスが厳しい表情で頷いていると集結地にて新たな動きが生じた。
攻撃に参加していなかった2個中隊の内1個中隊が慌ただしく装備の確認と整列を始め、その様子を目にしたハルスは困惑の表情を浮かべて呟きをもらす。
「……まさか、再攻撃するつもりなのか?」
ハルスがそう呟いていると騎士団本部から派遣されてきた要員がへたり込むエルフ騎士達に駆け寄り、半ば強引に立たせて整列させ始めバープリーは呆れた様な表情で口を開いた。
「……どうやら再攻撃の様ですな、あの堅固さを目の当たりにした上で再攻撃を決定するとは、上の連中、やる気だけはある様ですな」
「……それに巻き込まれる俺達はとんだ貧乏籤だな、くそったれが」
ハルスはバープリーの呆れ顔の呟きに頷きつつ呪詛の声をもらしながら放心状態で座り込む部下達の所へ向かい、その背後では強引に立たされた急造エルフ騎士達が緩慢な動きで整列させられ始めていた。
フェルト・ヘルン・ハレ北方・リステバルス皇国亡命政権軍
「……呆れたな、あれだけ手痛い打撃を受けながら再攻撃をするつもりなのか」
第一次総攻撃を僅かな損耗で撃退したばかりのサララはヘイヘと共に上空の使い魔達から送られてきた再び攻撃準備を整え始めるヴァイスブルク男爵領国軍の様子を見ながら呆れ顔で呟き、ヘイヘも小さく頷いてその言葉に同意した後に言葉を続ける。
……何トモオ粗末ナ連中デスガ我々ガ手加減シテヤル理由ニハナリマセン、愚カ者ドモガ再ビ虎口ニ飛ビ込ムト言ウノナラ、喜ンデソノ手助ケヲシテヤルトシマショウ……
ヘイヘの言葉を聞いたサララが頷きながら魔画像を見ているとヴァイスブルク男爵領国軍の攻撃部隊が攻撃開始線に到達し、再編成を終えたリステバルス王国軍弩砲兵隊も護衛の軽装歩兵隊と共に展開を進めており、サララはその様子を見詰めながらヘイヘに声をかける。
「……ヘイヘ殿、ワイト隊の遠距離魔法射撃でリステバルス王国軍の弩砲兵隊に先制攻撃をしかけて敵に揺さぶりをかけて貰えるだろうか?」
……了解シマシタ、我等ノ力存分ニ御覧下サイ……
ヘイヘの返答を受けたサララは司令部のリリアーナに先制攻撃の実施を伝え、伝えられたリリアーナは第一、第二火力支援大隊による先制魔法射撃を決意命令し、1200体のワイト達は使い魔の弾着観測支援を受けながら再攻撃態勢を整えていたヴァイスブルク男爵領国軍とリステバルス王国軍に対する猛烈な魔法射撃を開始、降り注ぐ魔法弾の弾雨がヴァイスブルク男爵領国軍とリステバルス王国軍に降り注いだ。
ヴァイスブルク男爵領国軍第三騎士団攻撃部隊
フェルト・ヘルン・ハレから行われた猛烈な魔法射撃は20分程の短時間で終了したが再攻撃目前に行われた先制攻撃は攻撃部隊に相当の損害と混乱を与え、その混乱はフェルト・ヘルン・ハレが沈黙した後も続いていた。
「……畜生、こいつは本当にとんでもない貧乏籤だな」
ハルスは攻撃により混乱するヴァイスブルク男爵領国軍第三騎士団攻撃部隊の様子を見ながら吐き捨てる様に呟き、小隊を再び纏めたバープリーは頷いた後に後方で燃えるリステバルス王国軍の中弩砲を一瞥して厳しい表情で口を開いた。
「……リステバルス王国の連中もかなりやられてます、この攻撃だけで恐らく3割はやられましたな」
「……ああ、先程の攻撃と合わせるとたった半日で我が騎士団は損耗率5割を突破だ、他の騎士団やリステバルスの連中も似たような物だろう」
バープリーとハルスが短時間の間に発生したであろう自軍の損耗について言葉を交わしていると、漸く混乱から立ち直った指揮官達が混乱する部隊の立直しを始めその動きとほぼ同時に攻撃中止と陣営の建設が命じられた。
フェルト・ヘルン・ハレ南方・リステバルス王国軍第十一騎士団本部
再攻撃実施前に行われたフェルト・ヘルン・ハレからの先制攻撃により手痛い打撃を受け、その日の攻撃を中止した攻撃部隊は各地で陣営の建設を始め、フェルト・ヘルン・ハレ南方に展開したリステバルス王国軍の将兵が度重なる損耗に暗雲とした表情で陣営を造る中、第十一騎士団の本部にてレオスとジェイクが損耗の確認と今後の方針についての協議を開始していた。
「……第七及び第十一騎士団の第一大隊は共に約600名を損耗し、支援部隊も約300を喪失しました、現在損耗の激しい各大隊は生き残った将兵を纏めて中隊規模の集成部隊を編成しています、ヴァイスブルク男爵領国軍の損害は現在調査中ですがあちらにも相当な損害が生じていると思われます」
幕僚は蒼白になりながら一連の戦闘によって受けた損害の報告を行い、それを聞いたジェイクは渋面になりながら同じ様な表情のレオスに声をかける。
「……どうする?夕刻も迫っているが」
「……致し方あるまい、本日の攻撃は中止し陣営を構築して敵の拠点を包囲しつつ後詰のツェントラル同盟の部隊に援軍を要請し、ヴァイスブルク男爵領国軍の損耗を補填増強した後に総攻撃を続行しよう、我々の損害も大きいが敵も相当に消耗している筈だ、ここは苦しい所ではあるが敵の戦力を包囲して孤立させつつ攻撃を続行するべきだろう」
ジェイクの問いかけを受けたレオスは渋い表情のまま本日の攻撃中止とフェルト・ヘルン・ハレの包囲、そして後詰のツェントラル同盟への援軍要請後の攻撃続行を提案し、ジェイクは渋面のまま頷いた後に部下達に命じてその命令を各隊へと伝達させた。
命令を受けた各隊は部隊の再編作業と並行して陣営を構築してフェルト・ヘルン・ハレを取り囲んだが一連の戦闘の損害は甚大であり、特に元々の部隊規模が小さいヴァイスブルク男爵領国軍の3個騎士団の戦力ほぼ半減してしまっており、攻撃部隊の将兵は甚大な損害に元々高くはない士気を更に低下させながら陣営の構築作業を進め始め、使い魔達は木々の合間や上空からその様子を硝子玉の様な眼で淡々と見詰めていた。
ダンジョン・マスタールーム
使い魔達の収集した攻撃部隊の様子はフェルト・ヘルン・ハレだけで無くダンジョンのマスタールームにも伝達されており、アイリスはミリアリアと共にその様子を見詰めていた。
「……取敢えず敵の第一次攻撃は撃退出来たわね、緒戦はこちら側の完勝と言っても良いわね」
「……ああ、リステバルス王国軍とヴァイスブルク男爵領国軍に相当な痛撃を与える事に成功したな、だが、あの様子だと諦めるつもりは無さそうだな、後詰のツェントラル同盟の部隊を注ぎ込んで再度攻撃を仕掛てくるつもりなのだろう」
アイリスはミリアリアと言葉を交わしながら小さく指を鳴らし、それに呼応する様に具現化された魔法陣からスコルツニィーが姿を現すと恭しく一礼した後に口を開く。
……アイリス様、ブランデンブルク大隊ボーンナイト中隊ハ何時デモ出撃可能デゴザイマス……
「……素晴らしいわ、ならば早速出撃して貰うわね、現在フェルト・ヘルン・ハレを攻囲中のリステバルス王国軍とヴァイスブルク男爵領国軍と後詰のツェントラル同盟軍の連絡船を遮断して頂戴」
……御意、ソレデハ出撃致シマス……
スコルツニィーの報告を受けたアイリスが即座にブランデンブルク大隊のボーンナイト中隊への出撃を命じると、スコルツニィーは即答した後に転移魔法でアイリス達の前を辞し、アイリスはそれを確認した後に傍らのミリアリアに視線を向けて言葉を続けた。
「……敵の損害はかなりありそうだから少し予定を前倒ししまょう、そろそろ準備に入りましょう」
「……ああ、そ、そうだな」
アイリスの言葉を受けたミリアリアは頬を赤らめ少し口籠りながらも返答して立ち上がり、その様子を目にしたアイリスは柔らかく微笑みながら立ち上がりとミリアリアに寄り添い軽くもたれかかりながら湯浴みの為にマスタールーム内に設けられた浴室へと向かって行った。
完全な失敗に終わったらフェルト・ヘルン・ハレへの第一次総攻撃であったが攻撃部隊は甚大な損害にも関わらず再度の総攻撃実施を企図し、使い魔達の偵察活動によりそれを察知したフェルト・ヘルン・ハレ側は攻撃再開を待つ事無くワイト隊の遠距離魔法射撃による先制攻撃を開始した。
予期せぬ先制攻撃を受けた攻撃部隊は再び大きな損害を被ってしまい本日中の再攻撃は諦めざるを得なかったもののこのままフェルト・ヘルン・ハレを包囲しつつ後詰のツェントラル同盟の来援を待っての再攻撃実施を計画して陣営の構築作業を始めたが、ダンジョンにて戦局推移を見守っていたアイリスはフェルト・ヘルン・ハレへの救援作戦を前倒しで行う事を決して死霊伯爵スコルツニィー率いるブランデンブルク大隊ボーンナイト中隊に連絡線遮断を命じ、スコルツニィー率いるボーンナイト中隊は粛々と出撃して行った……