惨劇・第一次フェルト・ヘルン・ハレ攻防戦編・到着
フィンランドにフィンランドに
無敵の赤軍震えだす
モロトフはかつてこう言った
「チェフラより畑を守るのだ」
ニェット・モロトフ!ニェット・モロトフ!
総督以下の大ホラ吹き!
モロトフは駄目だ、三番歌詞(日本語訳)
大陸歴438年実りの月三日フェルト・ヘルン・ハレ周辺・攻撃部隊
ヴァイスブルク派遣軍司令部にて攻撃開始が決定された翌早朝、ヴァイスブルク男爵領国軍の第三から第五までの3個騎士団とリステバルス王国軍の第九、第十一騎士団に軽装歩兵、弩砲兵各1個大隊によって編成された約9000名の攻撃部隊は慌ただしくヴァイスブルクを出撃し、木々の合間から栗鼠や雲雀、ナイチンゲール等に見下されながらフェルト・ヘルン・ハレに向けて前進を続け、昼前にフェルト・ヘルン・ハレに程近い場所にて昼食を兼ねた大休止を行っていた。
僅か2週間の急速錬成の結果半ば無理矢理仕立て上げられたヴァイスブルク男爵領国軍の多くのエルフ騎士達と縁もゆかりも無い遠国の森に駆り出されたリステバルス王国軍の将兵が気怠げに黙々と携行食を齧る中、各騎士団長と軽装歩兵大隊長と弩砲兵大隊長が集まってフェルト・ヘルン・ハレに対する攻撃計画の確認の為の会談を実施していた。
「……尖兵隊が敵の拠点を確認したならば我々ヴァイスブルク男爵領国軍が敵の拠点の北、東、西に展開します、リステバルス王国軍の皆様はそのまま前進し敵拠点の南側を押さえて頂きたいと思います」
ヴァイスブルク男爵領国軍第三騎士団長のマクシミリアン・スリムは地図を指し示しながらフェルト・ヘルン・ハレ確認後の展開に関する説明をリステバルス王国軍側の出席者達に行い、最先任の為リステバルス王国側の指揮を執るレオスは頷いた後に皆を見渡しながら口を開く。
「……ヴァイスブルク男爵領国軍の各騎士団には軽装歩兵、弩砲兵各1個中隊を支援部隊として配属させて貰う、大休止後に支援部隊を各騎士団に派遣するので各隊は合流後速やかに進発して貰いたい、我々2個騎士団と残る軽装歩兵、弩砲兵中隊は最後に進発し敵の拠点の南側に布陣し各隊の展開完了を待つ事とする、各隊は展開完了したならば速やかに敵の拠点への総攻撃を実施し本夕刻までに敵の拠点を粉砕する、ヴァイスブルク男爵領国軍の各騎士団は2個中隊、我々は各1個大隊を持って敵の拠点に対する総攻撃を実施し、軽装歩兵隊と弩砲兵隊はそれに対する支援活動を行って貰う」
レオスの指示を受けたジェイクとマクシミリアンにヴァイスブルク男爵領国軍第四騎士団長のアルフレッド・ジットラと第五騎士団長のジン・ドリンカーズが大きく頷き、それを確認したレオスは満足気な表情を浮かべながら大休止後の速やかな進発を命じて会談を終了した。
会談終了から暫くして大休止の時間が迫ると各隊では下級指揮官達が部下に進発準備を命じ、騎士や兵士達はその声に急き立てられながら準備を整えていった。
進発準備が完了すると、ヴァイスブルク男爵領国軍の第三騎士団が先頭となって前進を始め、木々の枝の上に止まり羽を休めているナイチンゲールや雲雀は硝子玉の様に無機質に光る眼で前進を再開した攻撃部隊を淡々と見下ろしていた。
フェルト・ヘルン・ハレ司令部
擬態した使い魔達によって発見された敵攻撃部隊及び後詰のツェントラル同盟軍の行動は逐次ダンジョン及びフェルト・ヘルン・ハレへと伝えられ続けており、フェルト・ヘルン・ハレの司令部ではリリアーナとカッツバッハとサララにクーリア、そして第一死霊連隊長のマイヤーが使い魔達から送られてくる攻撃部隊の様子を映し出された魔画像と攻撃部隊の進軍状態が記された地図の魔画像を見詰めていた。
「……ヴァイスブルク男爵領国軍とリステバルス王国軍の連合部隊、総兵力は約8000と言った所ですね、これに加えて恐らく後詰と思われるツェントラル同盟軍約3000がかって魔曲騎士団が駐留していた辺りに展開して陣営を構築中」
リリアーナは使い魔達の映像を見ながら敵部隊の状態を呟き、カッツバッハ達が頷いているとマイヤーが小さく片手を挙げながら口を開く。
……現在守備隊ハ北及ビ西方面ニ我連隊ノ第一、第二大隊ガ展開シ南及ビ東方面ニ第二死霊連隊ノ第一、第二大隊ヲ展開サセテオリマス、各連隊ノ第三大隊及ビダス・ライヒガ予備隊トナリマス第一、第二火力支援大隊は各方面に1個中隊ヲ展開サセ、残リヲ予備隊トシテオリマス、先程マントイフェル様ヨリ連絡ガアリ、第一死霊師団主力ハ今夜アイリス様ノ指揮ニヨリ出撃予定トノ事デアリマス……
「……出撃に関しては私にもアイリス様から伝達されております、今夜出撃し翌早朝にはフェルト・ヘルン・ハレ北方に展開する予定との事であります」
マイヤーが守備隊の展開状況を告げるとそれに続いてリリアーナがアイリスより通達された救援部隊の行動に関する説明を行い、一同が鋭い表情を浮かべながら頷いたのを確認した後に更に言葉を続ける。
「……ヴァイスブルク伯国亡命政権軍の皆様には南、リステバルス皇国亡命政権軍の皆様には北を固めて頂き、女戦士隊の皆様に二手に別れて東と西をそれぞれ固めて頂きたいと思います」
リリアーナから各々の配置場所を告げられたカッツバッハ達は小さく頷き、それを確認したリリアーナは各自に解散と配置場所への展開を命じた。
フェルト・ヘルン・ハレ南方正面・リステバルス王国軍攻撃部隊
フェルト・ヘルン・ハレに接近を察知され迎撃準備を整えて待ち構えられている事を知らぬまま前進を続けていた攻撃部隊は前進再開から小一時間程経過した所で尖兵隊がフェルト・ヘルン・ハレを望遠し、尖兵隊からの報告を受けた攻撃部隊は当初の打ち合わせ通り攻撃態勢への移行を開始した。
先頭を進むヴァイスブルク男爵領国軍第三騎士団が支援部隊お共にフェルト・ヘルン・ハレ北方に向けて移動を開始すると後続していた第四、第五騎士団も支援部隊と共に二手に別れ、第四騎士団が東方に第五騎士団が西方に向けて移動を始め、 南方に展開予定のリステバルス王国軍攻撃部隊はそのまま前進を続けてフェルト・ヘルン・ハレ南方へと進出して対峙する形となった。
土塁と水濠によって構成された異様な外見の星型要塞は周囲を木柵と逆茂木によって周囲を囲まれた状態で対峙するリステバルス王国軍の将兵の前に鎮座し、その異様で堅牢さを感じさせる外見に将兵達の間に動揺が生じるがレオスは泰然とした様子で鎮座するフェルト・ヘルン・ハレを睨めつけながら口を開く。
「……フン、見てくれだけは少々物々しいが所詮は見かけ倒しの虚仮威しに過ぎんっ!栄えあるリステバルス王国の将兵達の前にはあんな張りぼての砦等何程の脅威にもならん、盟友ヴァイスブルク男爵領国軍の勇士達の準備が整い次第、攻撃に入る、第一大隊は直ちに攻撃準備を整えろっ!!」
レオスの叱咤と号令を受けた将兵達は内心の動揺を押し隠しながら攻撃準備を整え始め、その傍らではジェイクの叱咤を受けた第十一騎士団の第一大隊が同じ様に慌ただしく戦闘準備を整え始めていた。
リステバルス王国軍が戦闘準備を整え始めているのとほぼ同時にフェルト・ヘルン・ハレの三方に展開したヴァイスブルク男爵領国軍の急造エルフ騎士達も戦闘準備を整えていたがその動きは明らかにぎこちない上に目の前に鎮座するフェルト・ヘルン・ハレの異様で堅牢さを感じさせる外見によって少なくない規模の動揺を生じさせてしまっており、周囲の木々の枝に立つ栗鼠や雲雀、ナイチンゲール等はその様子を静かに見詰め、一部の雲雀やナイチンゲールは軽やかな羽音を立てて上空へ飛び立ち攻撃部隊の上空を悠然と旋回しながら無機質な硝子玉の様な瞳で見下ろし始めていた。
攻撃開始が決定された翌早朝、約8000名からなる攻撃部隊はヴァイスブルク男爵領国軍を先頭に粛々と前進を続け、その途上の大休止の最中に首脳陣により攻撃計画が確認された。
攻撃部隊はフェルト・ヘルン・ハレの四方に展開して速やかに攻撃を開始すると言うやや安直に過ぎる計画であったものの、首脳陣は容易にその計画を了承して前進を再開させたがその接近は使い魔達によって既に後詰のツェントラル同盟軍の動きも含めてフェルト・ヘルン・ハレに伝えられており、司令官のリリアーナはアイリスから伝えられた増援計画を伝えた後にフェルト・ヘルン・ハレの堅守を命じた。
リリアーナの命を受け防衛態勢を整え待ち受けるフェルト・ヘルン・ハレに到着した攻撃部隊はその異様な外見に動揺を生じさせながら慌ただしく攻撃準備を整え始め、その周囲では小動物に擬態した使い魔達が静かにその様子を見おろしていた……