防衛方針
フィンランドの、フィンランドの
マンネルヘイム線は鉄の壁
カレリアから野砲火を噴けば
イワンは多く黙り込んだ!
ニェット・モロトフ!ニェットモロトフ!
総督以下の大ホラ吹き
モロトフは駄目だ、二番歌詞(日本語訳)
大陸歴438年実りの月二日・ダンジョン・マスタールーム
ヴァイスブルク派遣軍司令部にてフェルト・ヘルン・ハレへの攻囲戦開始を決断されていた頃、ダンジョンのマスタールームでも昨日の偵察隊との接敵報告を受けたアイリスが招集した三国同盟の緊急会議が開催されていた。
マスタールームにはアイリス、ミリアリア、マリーカ、アナスタシア、アイリーン、エメラーダ、クラリスに第一死霊師団長のマントイフェル、第一親衛死霊連隊LSSA指揮官のハウサーが集まり、フェルト・ヘルン・ハレ指揮官のリリアーナも魔画像を利用して参加し、最初にリリアーナからリステバルス王国軍偵察隊との接触交戦に関する報告が改めて実施された。
「……以上が報告となります、現在フェルト・ヘルン・ハレは敵の攻攻撃に備えて三直態勢にて警戒を実施しております」
リリアーナは現状の警戒態勢を告げて一通りの報告を完了し、アイリスは小さく頷いた後にマントイフェルに視線を向けて口を開く。
「……マントイフェル、現在のフェルト・ヘルン・ハレ駐留戦力の概略を伝えて頂戴」
……承知シマシタ、現在フェルト・ヘルン・ハレニハ第一死霊師団ノ第一、第二死霊連隊と第一火力支援連隊ノ第一、第二大隊、第一戦闘偵察大隊、ソシテ第二親衛死霊連隊ダス・ライヒガ駐留シテオリマス、アンデッド部隊ガボーンナイト1個大隊、ボーンウォーリア7個大隊約8000、ワイト2個大隊約1200、ポーンマジシャン3個中隊約600、コレニ第一戦闘偵察大隊ノブラッディマンティス、グロスポイズンサーペント、ジンベルヴォルフ各1個中隊約20ガ加ワッテ、フェルト・ヘルン・ハレニ駐留シテオリマス……
アイリスの指示を受けたマントイフェルは澱み無い口調でフェルト・ヘルン・ハレに駐留している部隊の詳細を伝え、アイリスは小さく頷いた後にマリーカとアイリーンに視線を向けて口を開く。
「……これに加えてヴァイスブルク伯国亡命政権軍とリステバルス皇国亡命政権軍の城塞作戦参加部隊にも引き続き駐留して貰っているわ、両国の協力にも感謝しているわ」
アイリスが改めてアイリーンとマリーカに感謝の言葉を述べると両者は微笑と共に頷く事でそれに応じ、アイリスはそれを確認した後に表情を引き締めながら言葉を続ける。
「……現在フェルト・ヘルン・ハレは警戒態勢に移行しているわ、あたし達はこのまま待機し敵の活動が確認された場合は直ちに出撃してフェルト・ヘルン・ハレ守備隊の後詰として活動する事になるわ」
アイリスの方針説明を聞いた一同は緊迫した面持ちになりながら頷き、アイリスはそれを確認した後に小さく指を鳴らすとブランデンブルク大隊指揮官のスコルツニィーとLSSA指揮官のハウサーが出現して恭しく一礼し、アイリスは鷹揚に頷いた後にマントイフェルに視線を向けて言葉を続ける。
「後詰はあたしが直卒し部隊は第一死霊師団の第三、第四死霊連隊と第一火力支援連隊の第三、第四大隊、第一軽騎兵大隊を主力とし第一突撃大隊、第一駆逐大隊、第一偵察大隊並びにLSSAが加わり、ブランデンブルク大隊のボーンナイト大隊も後方撹乱に従事して貰うわ、ブランデンブルク大隊の残る2個ボーンウォーリア大隊と第二駆逐大隊、第二偵察大隊がダンジョン及び同盟国首脳を守備して貰うわ、部隊の統括指揮はマントイフェルに行って貰うわね」
……カシコマリマシタ、全力ヲモッテアイリス様ノ御信任ニ応エサセテ頂キマス……
……我ブランデンブルク大隊モ後方撹乱及ビ本拠地守備ノ大任ヲ完遂シテ御覧ニイレマス……
アイリスが敵攻撃部隊発見時の出撃部隊編成と共にマントイフェルに出撃時の統括指揮を命じると、マントイフェルと後方撹乱及びダンジョン守備を命じられたスコルツニィーが深く頭を垂れながら返答し、アイリスは鷹揚に頷いた後にマリーカとアイリーンに視線を向けて言葉を続ける。
「……出撃の際にはヴァイスブルク伯国亡命政権軍とリステバルス皇国亡命政権軍にも参加して貰う事になるわ、両国軍は首脳陣を警護する者を除いた残る人員全てに参加して貰う事になるから人員の選定をお願いするわね」
「……承知致しました、アイリス様の建築して下さった拠点にして我が故国奪還の礎たるフェルト・ヘルン・ハレ、この地を奪おうと企む不逞の者共を迎え撃つ戦い、些細な我々ですが全力でアイリス様に御協力させて頂きます」
「……私達、リステバルス皇国亡命政権にとってもフェルト・ヘルン・ハレはダンジョン以外の初めての拠点にして攻め手には怨敵リステバルス王国の者共が加わりし可能性が極めて高い、私達も微力ながらもアイリス様に御協力させて頂きますわ」
アイリスの協力要請を受けたマリーカとアイリーンは穏やかな表情で快諾の言葉を返し、それを受けたアイリスは小さく頷いた後に魔画像に映るリリアーナに視線を向けて指示を送る。
「……フェルト・ヘルン・ハレは当面の間現行の警戒態勢を維持し続けて貰う事になるわ、敵の攻撃が確認されたら速やかに後詰の部隊を派遣するから同地を可能な限り堅持して頂戴」
「……承知致しました、我等の初めて対外防御拠点フェルト・ヘルン・ハレ、ロジナやそれに与する者共にむざむざ明け渡しなぞ致しません、全力で御下命を完遂させて頂きます」
アイリスの指示を受けたリリアーナは穏やかな表情の中に不退転の決意を秘めながら返答し、アイリスはその返答に頷いた後に緊急会議の閉幕を告げた。
緊急会議の後にマリーカとアイリーンはアイリス率いる救援部隊に派遣すべき人員の選定作業に入る一方、フェルト・ヘルン・ハレではリリアーナ指示の下厳重な警戒態勢を敷き、来るべきヴァイスブルク派遣軍の襲来に向けて静かに牙を研ぎ始めていた。
フェルト・ヘルン・ハレへの攻撃がヴァイスブルク派遣軍司令部にて決定されていた頃、敵偵察隊との接触交戦報告を受けたダンジョンでもアイリスが緊急招集された三国同盟の首脳会談が実施され、フェルト・ヘルン・ハレ防衛司令官のリリアーナより現状の報告が実施された。
リリアーナから改めて報告を受けたアイリスは敵の攻撃行動が確認された場合は第一死霊師団主力と第一親衛死霊連隊LSSAを主力した後詰部隊を自らが率いて出撃する事を告げ、それに対する協力をマリーカとアイリーンに要請し両者はそれを快諾して今後の防衛方針を確定させた。
フェルト・ヘルン・ハレ攻略を目指すヴァイスブルク派遣軍と同地の堅持を目指す三国同盟、両者が激突する事となる第一次フェルト・ヘルン・ハレ攻防戦は開幕に向けての秒読みに突入した……