訊問
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拷問部屋
ワンウッド傭兵隊の壊滅直後にアイリスが製作した新たな部屋、拷問部屋、そこでは全滅したワンウッド傭兵隊の隊長とロジナ候国軍残党狩部隊の下級幕僚が後ろ手に縛られた状態で椅子に座らされていた。
2人が戒めを解こうとしてもがいていると、ドアが開かれてミリアリアがリーナ、アリーシャ、ライナを従えて入室し、その姿を目にした2人が目を見開いていると、ミリアリアは冷たい視線で2人を見据えながら口を開いた。
「……私はミリアリア・フォン・ブラウワルト、旧ヴァイスブルク伯国第三騎士団長だ」
「第三騎士団長、だと、ならば貴様はダンジョンに逃げ込んだとされる高位エルフ、ど、どう言う事だ」
ミリアリアの言葉を受けた下級幕僚は驚愕と困惑が相半ばした表情で声をあげ、ミリアリアはその声を無視すると蔑みの視線で2人を見据えながら言葉を続けた。
「お前達に質問する権利等無い、お前達はただ私達の質問に答えればいいだけだ」
「……おいおい、随分無茶な言い分だな、捕虜の扱いについては大陸協定に細かい規定があるぜ、お前さん方がいたヴァイスブルク伯国は批准こそしていないが遵守を約束していた筈だ、そんな事言って良いと思ってんのか?」
ミリアリアの冷たい蔑みの声を聞いていたワンウッド傭兵隊の元隊長は話を聞いている間に冷静さを取り戻すと挑発する様に笑いながら口を開き、その厚顔無恥な物言いを聞いたライナが激高しながら口を開いた。
「大陸協定、だと、恥も外聞も無くよくそんな台詞を吐けたな、そもそも大陸協定は数年前に貴様等人間が定めた協定で我々ダークエルフやエルフ等の亜人族では批准出来ない協定だろうがっ!本来遵守する義務の無い協定を遵守した私達に対して大陸協定に批准している筈の貴様等は何をしたっ!どれほどの戦友達が貴様等に汚し尽くされと思っているっ!!」
「……勘違いをしている様ですので補足説明をしておきましょう、大陸協定が効果を及ぼすのは協定批准国に対してのみですよ、それに批准していないヴァイスブルク伯国が遵守を約束したのは素晴らしい事かもしれませんが、だからと言って批准国では無い貴国の捕虜の扱いが劇的に変わる話では無いのです、つまりそちらの元騎士団長の方以外の方々が生き永らえる事が出来たのは、単に我々の好意によって貴女方を保護した結果であり、我々は貴女方からのその好意に対する御礼も受け取らせて頂きました、尤も、貴女方も存分に楽しんでいた様ですがね」
激高するライナの姿に調子を取り戻した下級幕僚は挑発の笑みを浮かべながら慇懃無礼な口調で都合の良い理屈を述べ、余りの内容にライナは更に激高しかけたがミリアリアは片手をあげてそれを制した後に余裕の表情を取り戻している2人を見ながら口を開いた。
「……随分勝手な理屈を述べているが自分達の状況をまるで理解していない様だな」
ミリアリアの言葉を聞いた下級幕僚と元隊長は小馬鹿にした様な笑みでその言葉に応じ、ミリアリアはサファイヤブルーの瞳に哀れみの光を宿しながら言葉を続けた。
「……まあ良いだろう、お前達の話を聞くのは私達では無く、このダンジョンの主だ、そんな態度を取った事を後悔しなければ良いのだがな」
ミリアリアの言葉を聞いた下級幕僚と元隊長が怪訝そうな面持ちを浮かべているとドアが開かれてアイリスが入室し、一瞬驚きの表情を浮かべた2人だったがアイリスの魅惑的な美貌と肢体に扇情的な装いを目にした途端にその表情がだらしなく緩んだ。
「こんにちわ、侵入者さん達、あたしはアイリスこのダンジョンの主よ」
アイリスは2人を見ながらそう告げると2人は突然笑い始め、一頻り哄笑した後に肩で息をしながら相次いで口を開いた。
「あ、貴女がこのダンジョンの主、ですか……くくっ……だ、だとした貴女は敗残兵に過ぎない元騎士団長様をこのダンジョンに匿い、更に我が軍が丁重に保護していた捕虜を強奪した極悪人だと言う事になりますよ、くっふふ、見た所かなり薄い混血の蝙蝠の獣人にしか見えない貴女がね………ふっふふ、も、もう少しま、マシな嘘をついた方が良いでしょう」
「ハハハッ……ああ、笑わしてくれたなあ好き者そうな蝙蝠の姉ちゃんよお、そのおめでたい頭にゃあ理解出来ねえかもしれんが一応、説明しといてやるよ、ダンジョンの奥にあるのはダンジョンコアっつうばかデカイ魔水晶で人型の主がいるなんて話は聞いた事がねえよ、大方森で出逢った騎士団長様に騙されて一緒に行動してる最中に捜索隊の連中が出払ったキャンプを見つけて捕虜になったエルフを助け、その後は捜索隊との戦いで消耗したダンジョンを火事場泥棒みたえに踏破して住み着いたってとこだろう、この部屋はダンジョンコアに魔力を流し込んで騎士団長様が造り、おめでたい頭のお前さんは騎士団長様に上手いことおだてられてお山の大将に祭り上げられたんだろうよ、くっふふ、しっかしお前さんは頭の中身は相当めでてえなあ、まっ頭が弛い好き者ってのは嫌いじゃねえけどな」
2人は笑いの余韻を引き摺りながらアイリスの事を嘲り、得得と長広舌を振るった元隊長は扇情的な装いによって艶かしく胸元が露にされたアイリスの豊かな双丘を明け透けに好色な視線で見詰めながら言葉を続けた。
「……蝙蝠の姉ちゃんよおっ、お前さんがこのエルフ達の主だって言うなら俺達の所に水を運ばせる様命令してくれよ、笑った上に長々と喋らされたんで喉が渇いちまったんだよ」
「……あらあら、それは大変ねえ、リーナ、アリーシャ、2人に水を運んで飲ませてあげなさい」
元隊長の言葉を聞いたアイリスは疑う素振りすら見せずにリーナとアリーシャに声をかけ、2人は何か言いたげな様子で暫く逡巡した後に渋々と言った様子で頷くと木製の簡易な造りのコップに水を満たして下級幕僚と元隊長の所へと運んだ。
下級幕僚と元隊長はその光景を当然と言った様子で見詰め、リーナとアリーシャが傍らに到達した瞬間に縄を振り解いて立ち上がり咄嗟の事態に対応が遅れたリーナとアリーシャが床に落としたコップが水を撒き散らす中2人を羽交い締めにしてしまった。
「……フフフありがとうございます、頭の緩い蝙蝠の獣人さん」
「……ああ、ホントに助かったぜ、頭が緩くてよ」
下級幕僚と元隊長は勝ち誇った様子で袖口に隠し持っていた千枚通しを羽交い締めにしたリーナとアリーシャの喉笛に突き付け、下級幕僚はにこやかな表情でアイリスに向けて語りかけた。
「捕虜を捕らえた時は脱出されない様にしっかりと縄で縛り、武器などを隠し持っていないか十分に調べておく、次の機会など恐らくないでしょうが老婆心から助言させて頂きますよ」
「……それはどうも、彼女達をどうするつもりなのかしら?」
下級幕僚の小馬鹿にした助言を受けたアイリスは切迫した状況を感じさせないのんびりとした口調で問いかけ、それを聞いた元隊長は嗜虐の笑みを浮かべて羽交い締めにしたアリーシャの喉笛に千枚通しの尖端を微かに触れさせながら口を開いた。
「勿論捕虜として連れて帰る当然お前達にも降伏して一緒について来て貰うぞ」
「そうだ、何か妙な事を企まれても困りますから貴女方3人は服を全て脱いで貰うとしましょう」
元隊長に続き下級幕僚から屈辱的な内容の指示が送られ、元隊長は嗜虐と野卑が混ざった不快な笑みでアイリス達を見ながら言葉を続けた。
「好き者そうな蝙蝠の姉ちゃんや好色ダークエルフにとっちゃ慣れたもんかも知れねえが澄ました生活をしてた騎士団長様には酷かも知れねえなあ、まあ、ひょっとしたらとんでもねえ好き者な露出狂で裸に剥いて歩かせたら色んな口から涎垂らして喜ぶかも知れねえなあ」
「……浅ましい」
「……この、屑どもが」
元隊長の言葉を聞いたミリアリアとライナは嫌悪に顔をしかめながら吐き捨てる様に呟き、それを聞いた下級幕僚はにこやかな笑みでミリアリア達を見下しながら言葉を続けた。
「……口では何とでも言えますからね、さあ、騎士団長様、貴女が好き者な露出狂かどうか判断してあげますから、そのライトアーマーを全て外して下さい、勿論見るからに好き者そうな残る御二方も一緒にね」
下級幕僚の言葉が終わると下級幕僚と元隊長は高らかに哄笑をあげ、その耳障りな笑い声が舞う中、ドアが開かれその音を耳にした下級幕僚と元隊長は笑いを収めながらドアの方に視線を向けた。
「おや、まだエルフを匿っていたのですか?これはとんだごくあ……」
「まだエルフを匿ってやがったとはな、まあいいそつらも裸にひ……」
勝ち誇った表情で宣いながら新たな入室者を確認した下級幕僚と元隊長の長広舌が突然詰まり、下級幕僚と元隊長は唖然とした表情で2人の入室者を見詰めた。
「アイリス様、キャンプ跡の捜索完了しました」
「僅かですが傭兵隊が所持していた携行食料がありましたので食料庫に収納しておきました」
「そう、御苦労様、リーナ、アリーシャ、こいつ等への尋問はまだ始まったばかりよ」
2人の入室者、リーナとアリーシャのハキハキとした口調の報告を受けたアイリスは穏やかな口調で2人を労い、唖然とした表情でその光景を見詰めていた下級幕僚は呆けた表情で呆然と呟いた。
「……ど、どう言う事だ、これは?」
「……ねえ、不思議に思わなかったの?」
下級幕僚の呟きに応じる様にアイリスが発した問いかけ、その言葉にはそれまでのんびりとした口調やリーナとアリーシャの労を労った穏やかな口調からは想像すら出来ない底冷えするかの様な冷気が宿り、その言葉を受けた下級幕僚と元隊長が思わず蛇に睨まれた蛙の様に身体を硬直させる中、アイリスは冷気を纏った問いかけを続けた。
「……縛ってある縄が振り解けそうな程縛りが緩い事を、不思議に思わなかったの?あれほど単純な場所に隠し持っていた武器が見つからなかった事を、不思議に思わなかったの?あんた達みたいな屑の所にあんた達の仲間に汚し尽くされたリーナとアリーシャを簡単に近付けさせた事を、そして最後になるけど、不思議に思わなかったの?あんた達が捕らえた2人がこの部屋に入ってから一言も喋っていない事を」
下級幕僚と元隊長が呪縛された様に身体を硬直させてアイリスの冷気を纏っていた問いかけを聞いていると、2人が羽交い締めにしていたリーナとアリーシャの顔が180度向きを変えて羽交い締めしている下級幕僚と元隊長と鼻先を付き合わせ、有り得ない光景を目にした下級幕僚と元隊長はけたたましい絶叫と共に腰を抜かして尻餅を着くと真後ろに顔を向けたリーナとアリーシャから少しでも離れ様として血相を変えた表情で無様にもがいた。
「……あらあら、可哀想に、腰抜かしちゃってるじゃない、どうかしたの?」
尻餅を着いたまま下がる下級幕僚と元隊長の背後がアイリスの冷気に溢れた問いかけで撫でられ、下級幕僚と元隊長が動きを止めて恐る恐る背後に視線を向けると、いつの間にか背後に回り込んでしゃがんでいたアイリスが膝頭を支えに両手で頬杖をついた状態で2人を見詰めており、その姿を目にした2人は泡を食った様に尻餅を着いたまま後退りして震える手で千枚通しの尖端をアイリスに突き付けた。
「……あらあら、恐いわねえ、そんな物騒な代物仕舞いましょ、恐くてお話出来ないわ」
しゃがんで頬杖を着いたアイリスが蔑みの視線を向けながら冷たい口調で告げると、アイリスに突き付けられていた千枚通しが突然黒い焔に包まれ、それを目にした下級幕僚と元隊長が声にならない声をあげながら焔に包まれた千枚通しを床に放り投げると2本の千枚通しはあっという間に消し炭になり、2人が呆けた表情で消し炭になった千枚通しを見ているとアイリスがしゃがんで頬杖を着いたまま冷たい笑顔と共に声をかけてきた。
「フフフ、危ない物も無くなった事だし、これで心おき無くお話出来るわね、あたしは頭が緩いから緩い頭でも理解出来る様にお話してね」
アイリスは冷たい笑顔で告げた後に右手を頬から離して小さくパチンッと鳴らし、その後に再び頬杖を着きながら質問を始めた。
「……最初の質問よ、下っ端参謀さん、残高狩部隊の本隊には何人の捕虜がいるのかしら?」
「……そ、そんな事しら……捕虜は全部で8名だ、内訳はダークエルフが1名で残りは全てエルフだ……な、何だ、これ、は……」
アイリスの質問に対してしらを切ろうとした下級幕僚の言葉は途中から正確な答えへと変化し、下級幕僚が驚愕で掠れた声を絞り出すとアイリスは極上の嘲笑を浮かべながら事も無げに告げた。
「簡単な話よ、自白の魔法を使ったの、これで頭の緩いあたしが質問してもしっかりと答えてくれるでしょう、質問を続けるからしっかりと質問に答えてね」
アイリスの答えを聞いた下級幕僚と元隊長はこの時になって漸くアイリスが桁外れのバケモノである事を理解出来たがその時には全てが手遅れの状態になっており、2人はアイリスの質問に応じて残党狩部隊や捕虜となっている捕虜達の情報を知っている限り伝え続けた。
「……お、俺達は、ど、どうなるんだ?」
質問の合間に元隊長は震える声でアイリスに問いかけ、アイリスがそれに答える前に下級幕僚と元隊長の廻りの床から多数の骸骨の手が浮かび上がってその身体をガッシリと掴み、その反応から答えを察した2人が顔面蒼白になってもがいているとアイリスの背後に魔狼の集団が出現した。
「質問が終わればあんた達に用は無いわ、予定では残った骨は媒体にするつもりだったけど気が変わったわ、あんた達は生きたまま骨の欠片に至るまで全てこの子達の餌になるの、だから、安心して質問に答えてね」
アイリスが養豚所の豚を見る様な目と共に告げた答えを受けた下級幕僚と元隊長は真っ青な顔になってジタバタともがいて泣き喚きながら許しを請うたがアイリスはそれを無視して質問を続け、2人は泣き喚きながらアイリスの質問に対して正確な答えを返し続けた。
「……ね、ねえ、ライナ、あ、アイリス様、そ、相当激怒してるっぽいんだけど」
「……じ、十中八九ミリアリア様関連なのは分かるけど心当り、ある?」
アイリスが下級幕僚と元隊長に行っている尋問の様子を見ていたリーナとアリーシャはドン引きしながら小声でライナに話しかけ、ライナは顔をひきつらせかけて頷いた後に尋問の場から少し離れた所に立つ2体のボーンウォーリアー(先程までアイリスの魔力によってリーナとアリーシャに化けていた)を一瞥した後に説明を始めた。
「あの屑どもがこちらの予想通り貴女達に化けたボーンウォーリアーを人質にした時、あの屑どもは私達が何も出来ない様着ている物を全て脱げと言ってきたんだ、そしてその時ミリアリア様にこんな風な事を言ったんだ、本当は好き者な露出狂かも知れないから裸に剥いて歩かせたら色んな口から涎を垂らして喜ぶかもな、と」
「……うん、アイリス様の目の前でミリアリア様にそんな事言ったんなら、この結果も納得ね」
「……うん、アイリス様の理由はそれなんだね」
ライナの答えに納得したリーナがひきつりかけた顔で呟くとアリーシャも頷きながら呟き、その後に少し躊躇いがちにアイリス並みに冷たい眼差しで尋問される下級幕僚と元隊長を見据えるミリアリアを見ながら小声で続けた。
「……ねえ、ライナちゃん、ミリアリア様もアイリス様と同じくらい激怒してるっぽいんだけど、心当り、ある」
「…………あの2人は散々アイリス様を嘲ったんだ、頭が緩そうだの、好き者だの言いたい放題にな、因みにあの空気になったのはミリアリア様の方が早かった……その後にアイリス様があの空気を纏ったんだ」
アリーシャの言葉を受けたライナは遠い目をしながら小声で答え、それを聞いたリーナとアリーシャはライナの頭を優しく撫でながら耳元に囁きかけた。
「……頑張ったわね、ライナ、よくやったわ」
「……ライナちゃん、御苦労様」
「…………本当に恐かったんだぞ、あの空気が私に向かっていないのは分かっていたが、それでも本当に恐かった……」
リーナとアリーシャの言葉を受けたライナはミリアリアとアイリスが纏った底冷えしそうな冷気を思い出して遠い目のまま呟き、リーナとアリーシャはその場に居合わせ無かった事に安堵しながら遠い目をしたライナを慰めていた。
ワンウッド傭兵隊を全滅させたアイリスは捕虜としたワンウッド傭兵隊の元隊長とロジナ候国軍の下級幕僚に訊問を実施し、使い魔が収集した情報の肉付け作業を進めた……