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侵攻作戦バグラチオン

喜び尽きせん、続く者は

アーカンソーにサウスカロライナ

更にテネシーも手を取り来たる

十一星並ぶ青き旗

フラー!フラー!いざ掲げよ

フラー!一つ星の青き旗


ボニーブルーフラッグ、六番歌詞(日本語訳)

大陸歴438年観月の月二十日・ロジナ侯国首都ベラモスコー・軍本部会議室


第三近衛騎士団と第九騎士団の帰還から約一週間が経過した観月の月二十日、スティリアはリーリャと共にベラモスコーのロジナ侯国軍本部の会議室へと向かっていた。

「……いよいよ、ですね〜」

「……ええ」

スティリアとリーリャが短く言葉を交わした後に会議室に入室すると既に数名の騎士団長と第二近衛騎士団長でロジナ侯爵家の次男のウラジミール・フォン・ロジナが着席しており、スティリアが彼等に向けて一礼した後に自身の席に着席すると、何かにつけてスティリアを一方的に敵対視してきていたウラジミールが嘲笑う様な笑みと共に声をかけてきた。

「……聞いたぞ、スティリア、優等生ぶっていたお前も遂に我国の国是を受入れたとの事だと、是非ともお前が手に入れたと言うお気に入りの亜人奴隷を目にしてみたい物だな」

「……」

ウラジミールに声をかけられたその声を無視して従兵が運んで来た紅茶を受け取り口へと運び、スティリアの冷淡な対応を受けたウラジミールが嘲りの笑みを浮かべて小さく肩を竦めていると他の騎士団長達も次々に会議室に入室して席に着いていき、最後に第一近衛騎士団長を兼務するロジナ侯国の首魁、レニスキーノ・フォン・ロジナが悠然とした足取りで入室して起立したスティリア達の敬礼に鷹揚に頷きながら席に着き、スティリア達も席に着いたのを確認した後に厳かな表情で出席者達を見渡しながら口を開いた。

「……皆の者、よくぞ集まってくれた、本日の議題についてだが、既に皆も察していると思うが、ヴァイスブルクで小煩く蠢動し偉大なる連邦を瓦解せしめんとしいるおぞましき敵の首魁、クリストローゼ侯国に対する懲罰侵攻作戦が議題となっている」

レニスキーノの告げた会議の議題は予想されていた通り七選帝侯国の1つであるクリストローゼ侯国に対する侵攻作戦であり、予想されていた事であるとは言え、これまでの戦役を遥かに上回る規模の軍事行動に対して騎士団長達から感情の昂りを示すざわめきが起こり、レニスキーノは頷きながら軽く片手をあげて場を鎮めた後にウラジミールに視線を向けて口を開く。

「ウラジミールよ、クリストローゼ侯国侵攻作戦、バグラチオン作戦に関する説明を実施せよ」

「……承知致しました」

レニスキーノの言葉を受けたウラジミールは立ち上がり出席者達に向けて恭しく一礼していると、下級幕僚達がテーブル上にクリストローゼ侯国の巨大な地図を敷き広げ、その作業が終了した後にウラジミールがロジナとクリストローゼ侯国の国境地帯を指示棒で軽くなぞりながら口を開いた。

「……バグラチオン作戦は怨敵クリストローゼ侯国を地図より消し去り、空位となった選帝侯に我等の盟友ヴァンブルク侯爵家を就任させる事を目的とする物である、故に我等の他に同盟国のロンゴバルド侯国及びヴァンブルク侯国も参加し北、西、東の国旗地帯を一気に突発、迅速果敢にクリストローゼ侯国の主要都市を攻略して連邦瓦解を謀る怨敵を葬り去るのだ、我国より本作戦に参加する部隊は14個騎士団と2個近衛騎士団に6個軽装歩兵大隊と4個軽騎兵大隊、4個魔導兵大隊、4個弩砲兵大隊からなる約52000名とし、ロングバルド侯国及びヴァンブルク侯国も同程度の兵力で一斉に侵攻し一気呵成にクリストローゼ侯国をこの世から抹消するのだっ!!」

ウラジミールは興奮した口調でクリストローゼ侯国侵攻作戦、バグラチオン作戦の概要を説明しながら指示棒でクリストローゼ侯国の東部国境地帯を幾度も叩き、出席した多くの騎士団長達から興奮した声があがる中、リーリャが指示棒を手に立ち上がり、指示棒の先端で東部国境地帯の南側をなぞりながら口を開いた。

「……クリストローゼ侯国東部国境地帯の〜内北半分はゼーロウ山脈です〜そして南半分は当初は平原地帯ですが〜暫く進むとキュストリン湿原帯に入ります〜ゼーロウ山脈とキュストリン湿原帯を突破出来れば〜肥沃な耕作地帯のラインブルクですが〜クリストローゼ侯国も私達の事を警戒して〜東部国境地帯をかなり固めていています〜突破には相応の時間と損害を覚悟する必要がありますよ~」

「……確かにクリストローゼの亜人共は東部国境地帯をそれなりに固めてはいるが、我が軍の主力を持って行う無敵にして迅速果断な進撃をもってすれば東部国境地帯を迅速に突破しラインブルクと商業地帯のルールラントと言うクリストローゼの心臓を取る事は容易い筈だ、我等によって東部国境地帯を突破され心臓部たるラインブルクとルールラントを喪ったクリストローゼ侯国は動揺し、盟友ロンゴバルド侯国とヴァンブルク侯国の堂々たる進撃に恐怖し、クリストローゼ侯国を継承したばかりで文学や極東の矮小な島国の文化に現を抜かす軟弱なる選帝侯爵フレデリカ・フォン・クリストローゼは必ずや我等に降伏するであろう」

リーリャの懸念の言葉を受けたウラジミールは悠然とした様子でその懸念を一蹴し、そのやり取りを聞いていたレニスキーノの大きく頷いた後に悠然とした笑みを浮かべながら口を開いた。

「ウラジミールの言う通りである、フレデリカ・フォン・クリストローゼは昨年選帝侯に任命されたばかりの若輩者で文学や詩、東の小国の文化なる物に傾聴していると言う軟弱者だ、その様な者が治めるクリストローゼ侯国等、見てくれだけの腐りかけのドアに過ぎぬ、我等三侯国の無敵の進撃の一蹴りにて腐りかけのドアは倒れ、皇帝陛下の御威光は更に尊く光り、その権勢はますます盤石になるであろう、作戦開始は来月、葡萄の月三十一日を予定している皆の健闘と武功を期待しているぞ」

(葡萄の月三十一日、だと?馬鹿な、冬まで後一月程しか無いでは無いか!?)

レニスキーノの口から侵攻開始が冬開けでは無く、年内、しかも冬まで僅か一月程の猶予しか無い状態での作戦決行の予定を告げられたスティリアは内心で愕然としながら発言を求め、レニスキーノの許諾を得た後に立ち上がり厳しい表情と共に口を開いた。

「作戦開始を葡萄の月三十一日とした場合準備期間は一カ月強しかありません、その上、冬まで一月程しか余裕が無く初期侵攻で手間取れば戦役は長期化し他国や他の諸侯国の介入も視野に入れなければなりません、フレデリカ・フォン・クリストローゼは確かに国を継承し1年程度ですが、前選帝侯の急死による急な選帝侯位継承にも関わらず国内を平穏に治めています、その時点で相応の能力を持った君主であり、軽視するのは危険です、ヴァイスブルク戦役でさえ、一カ月の時が必要でした、選帝侯国のクリストローゼ侯国への侵攻作戦と言う総力戦開始の時期としては時期尚早の可能性は否定出来ません、せめて冬が明けるのを待ち、その期間中により問題点を洗い出し解決を図るべきでは無いでしょうか?」

「……お前は、そんな事を言っているが本心はお気に入りの奴隷と冬をゆっくりと過ごしたいだけなのでは無いのか?心配せずとも若輩者の統治するクリストローゼ侯国等一月程で踏み潰せる、我が妹故に大目に見てやるが厭戦を促す様な意見は慎んで貰いたいな」

スティリアの懸念の言葉を聞いたウラジミールは嘲りの笑みを浮かべながらその言葉を跳ねのけ、他の騎士団長の何名かもウラジミールに追従する様に笑みを浮かべ、リーリャはそのやり取りを見詰めつつ会議に参加している他の騎士団長達の様子を窺った。

明らかにウラジミールに追従していた数名の騎士団長程明確では無かったが他の騎士団長達も何処か冷ややかな目でスティリアを見詰め、大きな1つの三つ編みに纏められた赤毛のロングヘアと鶯色の瞳の純朴な印象の美女、第四騎士団長のアイリーズ・フォン・リーゼンダールに至っては半ば敵意の籠もった目でスティリアを見詰めており、その様子を目にしたリーリャは内心でに大きな溜息をついてしまう。

(……やっぱりクーデリアさんを奴隷にした事が響いてるわねえ、スティリアの能力と高潔さは軍の内部でもかなりの支持を集めていた、でもスティリアはクーデリアさんを救う為にその高潔さの証でもありロジナの最後の良心とまで言われていた部分をクーデリアさんを奴隷とした事で捨ててしまった、それを捨ててでもクーデリアさんを救ったスティリアと祖国の民の怨嗟を甘受してスティリアと共に歩む事を決めたクーデリアさん、2人に微塵も後悔が無い事だけが唯一の救いね)

リーリャが内心で呟いているとウラジミールに意見を一蹴されたスティリアが厳しい表情のまま席に座り、それを確認したレニスキーノとウラジミールは悠然とした様子で出席者達に戦闘序列を伝え始めた。

「我々はクリストローゼ侯国東部国境南部の主要な3本の街道を軸に攻撃を開始する、最も北のイーゼルローン街道を第二、第七、第十一騎士団と軽装歩兵、魔導兵各1個大隊が、南方のガイエスブルク街道を第三、第八、第十六騎士団と軽装歩兵、魔導兵各1個大隊が進み、中央の最も整備され首都グロス・ベルリオールに至るクリストローゼ街道を第十、第十二、第十四、第十九騎士団に軽装歩兵、軽騎兵、弩砲兵各2個大隊及び1個魔導兵大隊からなる部隊が進撃しこの部隊が主攻部隊となる、残る第四、第六、第九、第十五騎士団と2個近衛騎士団、軽装歩兵、軽騎兵、弩砲兵各2個大隊に魔導兵1個大隊が予備隊として進む、東部国境地帯の複数の砦を迅速に突破して東部国境南部の都市、オストブルク、リューベック、ゼルスバーグ等を攻略してキュストリン湿原帯を迅速に突破し東部国境地帯最大の街ヒュルトゲン及び東方州都キュストリンを攻略するのが第一目標である、第一目標達成後は速やかにラインブルクおよびルールラントに侵攻し友軍と合流した後に首都グロスベルリオールを攻略し連邦瓦解を画策せし大逆国クリストローゼ侯国を地図より消し去るが本作戦の最終目標である、皆の奮闘を期待しているぞ」

ウラジミールは自信に満ちた表情で戦闘序列を発表し、多くの騎士団長達はこれまでの戦役を上回る大規模攻勢の実施に興奮した面持ちをしていたが、リーリャやスティリアは選帝侯国への全面侵攻作戦にしては余りに楽観的過ぎる展開予想とクリストローゼ侯国に対する過小評価に胸中に大きな不安を抱いていた。



大陸歴438年、観月の月二十日、ロジナ侯国首都ベラモスコーでは来たるべきクリストローゼ侯国侵攻作戦バグラチオンに関する作戦会議がおこなわれ、スティリアはリーリャと共にその会議に参加した。

作戦計画は冬までの一カ月で選帝侯国のクリストローゼ侯国を攻略すると言う余りに楽観的で性急な作戦内容であり、スティリアとリーリャは余りに楽観的な作戦予想とクリストローゼ侯国に対する希望的とも言える過小評価に危機感を抱き意見したが、スティリアの兄ウラジミールと父レニスキーノはその不安を一蹴し、クーデリアを奴隷とした事により他の騎士団長達からの信頼がグラついていたスティリアも孤立しかけてしまっていた。

楽観的な作戦予想とクリストローゼ侯国への過小評価を基に立案された侵攻作戦バグラチオン、動き始めた巨大な歯車はスティリアとリーリャの不安を無視して大きく動き始めてしまう……

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