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最強化と不協和音

独立の先駆けバージニア

彼もまた我等に加われり

それに見倣いし諸共よ

さあ行こう我等の青き旗

フラー!フラー!いざ掲げよ

フラー!一つ星の青き旗


ボニーブルーフラッグ・五番歌詞(日本語訳)

大陸歴438年・観月の月十七日・ヴァイスブルク男爵領国・ヴァイスブルク城


スティリア率いる第三近衛騎士団とリーリャ率いる第九騎士団が本国へ帰還した数日後、度重なる敗北と主力部隊とも言える両騎士団長の抽出による大幅な戦力低下に見舞われたロジナ侯国軍ヴァイスブルク派遣軍は半ば強引な形での態勢再強化を概成させていた。

啄木鳥作戦の失敗により唯一の戦力化完了騎士団の第一騎士団すら団長ポポフと約半数の戦力を喪失してしまったヴァイスブルク男爵領国軍は急ピッチで戦力化を進めていた他の4個騎士団から基幹要員をかき集めて第一騎士団を強引に再編した後に緊急徴募によりかき集めた人員を基幹要員の激減した残る4個騎士団に補充して僅か2週間の急速錬成で無理矢理戦力化する事で強引に5個騎士団の戦力化を完了し、ラステンブルク伯国軍は啄木鳥作戦の生存者とラステンブルク伯国からの補充兵をチーグタム指揮下の派遣部隊に組み入れて集成猟兵団を戦力化し、ヴァイスブルク派遣軍の指揮下に入れ、更にツェントラル同盟からイエナ伯国軍第七騎士団、アウエルシュタット男爵領国軍第三騎士団、ルウム子爵領国軍第二騎士団の3個騎士団の派遣が約束され、月末の到着を目処に準備が開始された。

半ば強引に進められる態勢再強化、その最大の柱とも言えるリステバルス王国軍第二次ヴァイスブルク派遣軍約20000の大軍はこの日ヴァイスブルク男爵領国に到着し、ヴァイスブルク派遣軍司令部は強力な援軍の到着を喜び入城する部隊を出迎えていた。

第二次ヴァイスブルク派遣軍は軍楽隊が奏でる歓迎の行進曲の中整然と行進を続け、住民のエルフ達は新たな軍勢の登場に暗然とする内心を押し殺しながら固唾を呑んで行進するリステバルス王国軍の兵士達を見詰めていた。

(……かなわんわぁっ、ある程度は想像しとったけど想像以上にウチ等歓迎されてへんやないの、ロジナや他の国の連中どんだけ好き勝手やっとんのよ)

更新する軍列の中、青鹿毛の駿馬に跨ったミスティリアはヴァイスブルク男爵領国の住民の友好的とは程遠い様子に内心で憂鬱になりながらもそれを押し隠して前進を続け、その最中に軍列の先頭で芦毛の駿馬に跨り颯爽と前進を続けるバジリスコスを一瞥した後に内心で盛大にため息をつきながら到着に至るまでの道中を思い返し始めた。

出発後バジリスコスはかなりの強行軍での移動を命じた結果、部隊は落伍者を出しかねない程の強行軍での移動を強行し、ミスティリアは先を急ぎたがるバジリスコスの移行を半ば無視して他の部隊と共に適宜休養を入れながらの進軍を実施させ、バジリスコスは歴戦のミスティリアの行動に表立って反対も出来ず不承不承と言った様子でその行動を受け入れていたがヴァイスブルク男爵領国に到着する頃には殆どミスティリアと会話をする事が無い程にまで両者の間に巨大な溝が構成されてしまい、ミスティリアはバジリスコスの子供じみた対応に内心でげんなりとしながらも淡々と部隊を指揮して現在に至っていた。

(……あのアホ司令官、到着したらいきなり死亡した前司令官の仇討ちする為に出撃するとか言うアホな事言わへんよな、まさか、そこまでアホや無いよな)

ミスティリアはこれまでのバジリスコスの短慮な行動と言動の数々に懸念を抱きながら淡々と前進を続け、リステバルス王国軍の軍列はミスティリアの懸念を尻目にヴァイスブルク派遣軍の歓迎の歓声の中、整然と進軍を続けて割り当てられた宿営地へ向けて前進を続けていた。


数時間後・ヴァイスブルク城・ヴァイスブルク派遣軍司令部


歓迎の中、割り当てられた宿営地に入った第二次ヴァイスブルク派遣軍の各部隊は宿営準備に入る一方、バジリスコスと各騎士団長と魔導士団長は顔合わせを兼ねた作戦会議に参加する為にヴァイスブルク派遣軍司令部の設置されているヴァイスブルク城に移動した。

「……リステバルス王国の頼もしき盟友達よ、よくぞ我等との友誼に基づきこの地に参集なされた、私はヴァイスブルク派遣軍司令官のナルサスである」

開始された作戦会議の冒頭、ナルサスはリステバルス王国側の出席者達に向けて穏やかな表情で声をかけ、バジリスコスは力強く頷いた後に立ち上がり出席者達に向けて一礼した後に口を開いた。

「……リステバルス王国近衛騎士団長、バジリスコス・ド・キレナイカだ、俺達の盟友、親愛なるロジナ侯国との友誼の為、非業なる死を遂げた親友リキメロス・ド・アルバニアの無念を晴らす為、我が国母、聖女プラチディアに仇なす仇敵を覆滅する為に来援した、宿営地を用意して頂いたとの事だが我等には不要だ、道案内を頂き、速やかに国賊アイリーンとそれに与する売国奴どもの本拠地に乗り込み奴等の首をもって我が友への供物とさせて貰いたい」

(……うん、やっぱり言いよったわこのアホ司令官、ロジナの連中もえらい微妙な顔付きになってもうとるやないの、大規模作戦で主力部隊引っこ抜かれたんでウチ等に戦力肩代わりして貰おうとした言う話で、その話もされとる筈なんにこの鳥頭やからな、残念やけどこんなアホども国の重鎮にさせたんはアンタ等やからな、操り易いかもしれへんけど、中々のアホと鳥頭揃いやで我国の素晴らしき首脳陣連中)

バジリスコスが誇らし気な表情と口調で述べた早速の出撃宣言を聞いたミスティリアは内心で容赦無い毒を吐きながら、微妙な表情になってしまったナルサス達を見詰めていると同盟国の指揮官として会議に出席していたチーグタムが我が意を得たりと言うように大きく頷きながら立ち上がり、熱に浮かされた様な表情をバジリスコスに向けて口を開く。

「……バジリスコス様、よくぞ申されましたここ最近たまたの敗北が続いた事により我軍の内部に些か敗北思考が漂っております、リキメロス様の戦死は痛恨の極みではありますが勝敗は兵家の常、数度の敗北は一度の決定的勝利で雪げば良いのです、到着されたリステバルス王国の大軍による無敵にして迅速なる進撃と苛烈果敢な猛攻によってのみ勝利は掴めるのです、不肖チーグタムもその一翼に加わり、驕り高ぶる傲慢な者共に正義の鉄槌を下すべきと愚行致します」

(……ウソやろ、アホがもう1人おったんやけど、大規模作戦実施に向けて暫くは積極的な行動控える言う話やったよね?何でこんなに話聞いてへんのコイツ等、それともウチの方が間違うとるん、もしかして?)

「……宜しいですか?」

チーグタムが自己陶酔しながら告げた礼賛の言葉を受けたバジリスコスが大きく頷き、その様子を目にしたミスティリアが内心で啞然としていると、ポニーテールに纏められた黒髪と翡翠の瞳に縁無し眼鏡の理智的な美貌が魅力的な美女、イエナ伯国軍第七騎士団長であり打ち合わせの為ヴァイスブルク男爵領国を訪れ会議に参加していたエルヴィーナ・ロンメルが発言を求め、バジリスコスとチーグタムの相次ぐ発言に微妙な表情を浮かべていたナルサスがこれ幸いとばかりに発言を許可するとエルヴィーナは静かに立ち上がり落ち着いた表情で口を開いた。

「……ロジナ侯国本国は何らかの大規模作戦を行う為主力とも言うべき第三近衛騎士団と第九騎士団を本国へ帰還させ、情勢が落ち着くまで我々ツェントラル同盟が派兵する、と言う話だった筈です、また、我々はこれまでの戦闘経緯等も把握出来ておりません、この様な状況で闇雲に出撃する等と言う暴論には承服出来兼ねます、少なくとも我々が到着し情勢が多少なりとも俯瞰可能な来月初旬までは軽々に動くべきでは無いと考えますが」

「……私もエルヴィーナ様の意見に賛同します、これまでの我軍の敗北と損害はたまたまの一言で片付けるには明らかに異質です、ロジナ侯国本国の意図や情勢が多少なりとも判読可能な来月初旬までは動かず情勢の収集と分析に努めるべきです」

(……少しは話の分かる連中もおりそうやね、ホンマ助かるわ、結構別嬪さんやし、女子会がてら意見交換出来たらええわねえ)

エルヴィーナに続いてチーグタムと共に会議に参加していたアハトエーベネもエルヴィーナの意見に賛同し、それを聞いたミスティリアが安堵しているとエルヴィーナとアハトエーベネの意見を聞いたナルサスが当面の間の静観をバジリスコスとチーグタムに取り成し、バジリスコスとチーグタムはエルヴィーナとアハトエーベネを剣呑な表情で一瞥した後に渋々と言った様子で総司令官のナルサスの意見を受入れた。

その後、作戦会議は情勢の簡単な説明とリステバルス王国軍第二次ヴァイスブルク派遣軍の駐留任務区分の割当等の当たり障りの無い議題を淡々と進めて解散となったが、バジリスコスやチーグタムとエルヴィーナとアハトエーベネの間には明らかにしこりが残っており、リステバルス王国軍内のバジリスコスとミスティリアの間のしこりと合わさりヴァイスブルク派遣軍内部に不協和音を響かせ、その不協和音は最強化された筈のヴァイスブルク派遣軍を新たな惨劇へと誘って行く事となるが、それが具現化されるのには今暫くの日時が必要であった。


第三近衛騎士団と第九騎士団がロジナ侯国本国へ帰還した数日後、バジリスコス率いるリステバルス王国軍第二次ヴァイスブルク派遣軍は強行軍の末にヴァイスブルクへ到着し、ヴァイスブルク派遣軍の大きな歓迎を受けたがその道中にて血気に逸るバジリスコスと滅龍騎士(シルバーナイト)でもある第一魔導士団長のミスティリアの間には大きな溝が生じており、その状態で行われた作戦会議にて更なる不協和音が生じてしまう。

バジリスコスは到着したばかりであるにも関わらずダンジョンに対する総攻撃を提案し度重なる敗北を経験している筈のチーグタムまでもそれに同調し、それに対してアハトエーベネとツェントラル同盟軍の一員として派遣される予定で作戦会議に参加していたイエナ伯国軍第七騎士団長エルヴィーナ・ロンメルが反対の意見を述べたのだ。

来たるべくクリストローゼ侯国侵攻作戦に向けて軽はずみな行動を避けたいナルサスはエルヴィーナとアハトエーベネの意見を受入れたものの、バジリスコスとチーグタムはその決定に不満を抱き、最強化された筈のヴァイスブルク派遣軍はその代償として大きな不協和音までも抱えてしまう事となった……

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