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戦姫の帰還

正義の旗の下に集え

テキサス、優美なるルイジアナ

敬愛なるデーヴィス、スティーブンスも

集うは麗しの青き旗

フラー!フラー!いざ掲げよ

フラー!一つ星の青き旗


ボニーブルーフラッグ・四番歌詞(日本語訳)

大陸歴438年観月の月十五日・ロジナ侯国首都ベラモスコー・ロジナ侯爵家城館


ヴァイスブルクより転進命令を受けた第三近衛騎士団と第九騎士団は、約2週間の軍旅の末に本国であるロジナ侯国の首都ベラモスコーに到着し、スティリアは到着後の諸業務を済ませた後にクーデリアを伴って豪奢な佇まいのロジナ侯爵家の城館へ移動した。

「「……おかえりなさいスティリア様」」

スティリアが城館の玄関を開けてホールに入室すると、使用人達とメイド達が一斉にスティリアに声をかけ、スティリアは小さく頷いてそれに応じた後にメイド長に視線を向けて口を開く。

「……先触れでも伝えていますが、夕食にリーリャとミサを招待しています、宜しくお願いします」

「……畏まりました準備は万端整えて御座います、ですが、後ろに控えております者はどの様な輩で御座いましょうか?」

スティリアの言葉を受けたメイド長は丁寧だが何処か慇懃無礼にも感じる言葉で応じた後に、スティリアの後ろに控えるメイド服姿のクーデリアを嫌悪混じりの視線で一瞥した後に問いかけ、スティリアはその視線と物言いに微かに眉をヒクリッと反応させた後に淡々とした口調で返答した。

「……彼女は……私の奴隷よ」

スティリアが一拍言い澱んだ後に告げた言葉を受けた使用人達とメイド達からざわめきの声があがり、メイド長も一瞬目を見開いた後に大きく咳払いをして皆と自身を落ち着けた後に佇むクーデリアを無遠慮に見詰めた後に勝ち誇った様な表情をスティリアへと向けて口を開いた。

「左様で御座いますか、スティリア様も遂に我がロジナの国是を御受け入れ成さったので御座いますね、旦那様や奥方様も御喜びになられる事で御座いましょう軍旅にて御疲れで御座いましょう?御部屋にて暫く御休みなされては如何で御座いましょうか?」

「……そうさせて貰うわ、クーデリア、行きましょう私の部屋まで案内するわ」

「……畏まりましたスティリア様」

メイド長の言葉を受けたスティリアは返答した後に後方のクーデリアに声をかけ、クーデリアが好奇と蔑みがないまぜになった視線を受け流しながら応じたのを確認した後にメイド長達に視線を向けて言葉を続けた。

「……もう一つ皆に確認して貰いたい事があるわ、彼女は私の所有物(もの)であり、ロジナ侯爵家の所有物(もの)では無いわ、その点についての認識はしっかりと把握しておいて貰うわ、侯爵家に仕える者達ならこの意味は理解出来るわね」

「……承知致しましたスティリア様」

スティリアが事更に扁平な口調と表情で告げた言葉を受けたメイド長は慇懃無礼と言った様子で返答した後に頭を垂れ、スティリアは頷いた後にクーデリアを促して歩き始めた。

「……せいぜいスティリア様に可愛がって頂きなさい、後、なるべくスティリア様の目の届く範囲で活動する事ね、スティリア様の目が無い所では、お前等ただの亜人の奴隷風情に過ぎないのだから」

「……承知しました、私もスティリア様の栄華と隆盛のみを我が糧としておます、ロジナ侯国も侯爵家もどうなろうが知った事ではありませんし興味も無いのでどうか御安心下さいませ」

クーデリアがメイド長の側を通るとメイド長は嫌悪に顔をしかめながら小声で告げ、それを受けたクーデリアは淡々とした口調で返答した後に侯爵家の使用人達とメイド達の陰気な視線の中、静かにスティリアの後を追ったその場を離れた。

「……ごめんなさい」

「……あの程度、ヴァイスブルクでの怨嗟の視線や罵倒に比べれば何程の事もありません、私はスティリア様の栄華と隆盛のみをお祈りしているのです」

居室へ向かう最中にスティリアが絞り出した謝罪の言葉を受けたスティリアは穏やか口調で前を進むスティリアの背中に声をかけ、スティリアは小さく唇を噛み締めながら歩を進めて休暇等で侯爵家を訪れた際に利用している居室へと移動してクーデリアと共に入室した。

スティリアの居室はスティリアらしく上品ではあるが必要以上の華美は無く落ち着いた雰囲気の内装であり、入室したスティリアはクーデリアに補助を受けてドレスアーマーを脱ぎ、シンプルなデザインの部屋着に着替えた後に読書や寛ぐ際に使用するテーブルに着いて一息を入れ、クーデリアは脱いだドレスアーマーを洗濯用の籠に入れた後にスティリアの傍らへと移動して口を開いた。

「何かお飲みになられますか?」

「……その前に」

クーデリアの問いを受けたスティリアは返事をしながら立ち上がってクーデリアに歩み寄るとその身体を優しく、そしてしっかりと抱き締め、クーデリアは我が身を抱き締めるスティリアの温もりと感触を噛み締めながら遠慮がちにその背中に手を伸ばしてその身体を抱き締め返した。

「……スティリア様」

「……クーデリア」

抱き合ったスティリアとクーデリアは互いの存在と互いへの想いを噛み締め合いながら互いを呼び合いながら見詰め合い、スティリアは暫く愛し気にクーデリアを見詰めていたが、不意に顔をしかめながら私室の一角に設けられたドアへと視線を向けて言葉を続けた。

「……私がこの家にいる間、貴女にはあの居室で寝泊まりして貰う事になるわ、あの居室はあのドアしか入口の無い部屋で侯爵家の者がお気に入りの奴隷を囲い込む為の部屋よ、勿論、今までただの一度も使用された事はないけどメイド達によって掃除だけはされていたわ……何時か私がロジナの国是を受け入れる時に備えて、ね」

スティリアは苦い笑みを浮かべて告げながら奴隷専用の居室のドアを見詰め、クーデリアはスティリアの身体を抱き締める手に優しく力を込めながら口を開いた。

「……スティリア様、あの部屋に私を囲う、それを決意して頂いた事を私は喜んでしまいました、ロジナの国是を良しとせず高潔な騎士として歩んで来たスティリア様にあの部屋を使う決意をして頂いた、それを、喜んでしまいました、私は私の意思でスティリア様の所有物(もの)となりました、私の国を滅ぼした貴女に我が身を委ね、貴女の栄華と隆盛のみを願う事を決意しました、その為に同胞や戦友に怨念と軽蔑を向けられ様とも微塵も後悔する気はありません、どうか、これ以上自分を苦しめ無いで下さい、私は今、スティリア様のお側にいる事が出来て光栄です」

「……クーデリア」

クーデリアは己の決意とスティリアへの想いを伝えながらスティリアの身体を優しく抱き締め続け、スティリアは愛し気にクーデリアの名を告げながらクーデリアの身体を優しく、そして強く抱き締め返して頬を仄かに赤らめさせながら口を開く。

「……私は決めたのだ、貴女と共に歩む為なら道化にでも何にでもなるのだと、これからも私と共に歩んで欲しい、クーデリア・フォン・タンネンベルク、私の愛しい(ひと)

「……愚問です、私も決めています、貴女の栄華と隆盛のみを渇望し、貴女と共に歩む事のみを決意しています、これからも共に歩む事をお許し下さい、スティリア・フォン・ロジナ、私の全てを捧げる最愛の(ひと)

スティリアとクーデリアは愛し気に互いを見詰め合いながら互いへの想いの言葉を紡ぎ合い、それから数拍の間を置いた後にスティリアがゆっくりとクーデリアの顔へと自身の顔を近付けクーデリアは愛し気に近付くスティリアの顔を見詰めた。

釣瓶落としの秋の夕陽が差し込む中、スティリアとクーデリアの影が重なり合い、重なり合った2つの影は互いの存在と互いへの想いを確かめ合い続け、離れるまでにかなりの時間を必要とした。


大陸歴438年観月の月十五日、第三近衛騎士団と第九騎士団は本国のロジナ侯国の首都ベラモスコーに到着し、スティリアは帰国後の諸業務を済ませた後にクーデリアを伴ってロジナ侯爵家へ帰還した。

帰還したスティリアは出迎えた使用人達とメイド達にクーデリアをスティリア専属の奴隷として紹介し、メイド長はスティリアがロジナの国是を肯定した事に満足しながらもクーデリアに対する嫌悪を隠そうともせず、使用人達やメイド達も同様の態度でクーデリアを迎えたがクーデリアはその視線や言葉に頓着せずスティリアの栄華と隆盛のみを願う事をスティリアに伝え、スティリアもクーデリアと共に歩む為に手段を選ぶつもりの無い事を伝えた。

戦姫の帰還、それは新たな大乱に向けた歯車が新たに動き始めた事の証……

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