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惨劇・リステバルス王国軍残存部隊編・捨石

神の御前、この剣にかけ、誓わん父に母に

娘に妻に、代議士、姉妹に、王家の首を削がんと

邪の王権をば、闇に突き落とし

フランスより世界へと、自由と愛与う

我等が呼ぶ呼ぶぞ勝利かはた死か

我等国が為生き、国が為死せる

我等国が為生き、国が為死せる


門出の歌六番歌詞(日本語訳)

リステバルス王国軍残存部隊


ダンジョンにてリステバルス王国軍残存部隊に対する方針が決定されていた頃、目標であるリステバルス王国軍残存部隊の側でも新たな動きが生じていた。

「……帰路が判明した?」

食事の最中に急遽召集された指揮官級の会議で伝えられた唐突な報告を聞いたアリステラは戸惑いの表情で残存部隊を指揮する神殿騎士中隊長に問いかけ、神殿騎士中隊長は大きく頷いた後に自信有り気な表情で立つ神殿騎士を示しながら口を開く。

「……パトロールを実施していた私の部下が木の枝が切り落とされているのを発見したのだ、その事と進撃中の記憶から帰路が判明したのだ、このままこの地に逗留し続けていてもジリ貧になるだけだ、我々はこれより彼の案内によって新発しヴァイスブルクに撤退した本隊との合流を目指すのだ」

神殿騎士中隊長がそう宣言すると、帰路を発見したという神殿騎士は自信に満ち溢れた表情で大きく頷いたが帰路を発見したと言う割にはその根拠は相当に不確かな物でしか無く、アリステラは怪訝な面持ちのまま疑問の声をあげる。

「……この周辺の木々は我々が燃料として伐採していますし、森に入った者が燃料として適当に伐採している可能性も否定出来ません、進撃中の記憶と言いましたが我々がこの森を訪れたのは初めてであり、その上先の退却時に森を彷徨い歩き続けた為、現在地の判別が困難になっているのが現状です、帰路が判明した可能性があるならば先ずはその神殿騎士を案内役とした伝令を組織してヴァイスブルクへ派遣し、味方部隊と連絡を取った方が良いのでは?」

「……それは、私の部下が無能だと言う事か?彼は家柄も良く優秀でありリキメロス様やアンテミウス様も評価なさっていた者だ、それ程の者が発見したと言うのだから間違い等ある筈が無い、貴殿の所の役立たずで軟弱な素人新兵と一緒にして貰っては困るっ!」

アリステラの懸念と提案を受けた神殿騎士中隊長は憤然とした様子でそれを跳ね除け、アリステラは件の神殿騎士がリキメロスやアンテミウス等のリステバルス王国首脳陣の取巻きをしていた1人で、その縁から希望していた神殿騎士団に推薦入団し、ミーティアを監視し見下していた輩である事に気付き、内心で顔を顰めてしまう。

(……何が家柄も良く優秀よ、一般的な新兵よりも下の能力しか無くてハッキリ言えば軍に放り込まれたミーティアやフロレシアの方が遥かに優秀よ、あの夜も右往左往しててミーティアとフロレシアが必死に展開してた結界で生き永らえ、ミーティアはその時の魔力の大量消費が原因で衰弱してるのにその事はものの見事に無視して今でもあの2人を見下し続けてる奴じゃない、そんな輩が見付けた帰路への目印なんて碌なモンじゃないわ、下手に案内なんてさせたらヴァイスブルクどころかまたあのダンジョンに連れてかれそうじゃない)

アリステラはミーティアの衰弱の要因でもある神殿騎士に対して遠慮無い呪詛を胸中で吐き出しながら沈黙し、アリステラの沈黙を目にした神殿騎士中隊長は疎まし気にアリステラを一瞥した後に周囲を見渡しながら口を開いた。

「……各員に通達せよ、速やかに準備を整えた後に発見者の先導によりヴァイスブルクへの帰途につく」

神殿騎士中隊長がそう告げるとアリステラ以外の者達は、生じた帰還への望みに表情を緩ませながら頷き、神殿騎士中隊長は満足気に頷いた後に視線をアリステラに向け、嘲笑う様な笑みを浮かべながら言葉を続ける。

「……アリステラ殿、貴殿の言葉にも頷くべき所が全く無い、と言う訳でも無い、それに我々は早急に帰還せねばならぬので傷病者を連れて行くのは困難な一面もある、それ故に貴殿と貴殿の部下達で傷病者を看護しつつこの野営地を確保しておいて欲しい、勿論、我々が帰還したら直ぐに救援部隊を派遣して貰う様要請しておくので安心してこの地を確保しておいて貰いたい」

「……承知しました、道中御無事で」

神殿騎士中隊長の言葉を受けたアリステラは淡々とした口調で応諾の言葉を返し、神殿騎士中隊長は小さく鼻を鳴らして頷いた後に残存部隊に帰還に向けた準備を整える様命じた。

神殿騎士中隊長の命を受けた残存部隊の将兵、小隊規模の神殿騎士と近衛騎士の混成部隊に同じく小隊規模の第三騎士団、軽装歩兵、馬や弩砲を喪失した軽騎兵、弩砲兵の混成部隊は装具を整えた後にやや重たげな足取りで野営地を出発し、残置される事となったアリステラはライザリアやラウナディア、ジュリアンナ、フロレシアと共に醒めた眼で遠ざかる残存部隊の背中を見送った。

「……連中の進行方向ですが、パトロール中にブラッディマンティスやジンベルヴォルフが確認された方向です、恐らくですが、あのダンジョンの方角では無いかと」

「……呆れたわね、まさか本当にあのダンジョンに行くかも知れないなんて、とすれば、連中とは反対の方向に移動した方がまだ可能性があるって事ね」

遠ざかる残存部隊の進行方向を確認したライザリアは醒めた表情で傍らのアリステラに声をかけ、アリステラが呆れた表情で相槌を打っていると横になっていたミーティアがゆっくりと上体を起こし、それに気付いたフロレシアは慌ててミーティアの所へ駆け寄りしゃがみ込みながら声をかける。

「……ミーティア様!?まだ魔力の消耗が回復しきっていないのですっ、御無理はなさらず、御休みになっていて下さいっ!」

「……だ、大丈夫ですフロレシアさん、だ、だいぶ回復してきましたのでこれ、位なら」

フロレシアに声をかけられたミーティアは気丈に返答するが啄木鳥作戦失敗の際に受けた猛烈な魔法弾射撃を防ぐ為に魔力を消耗しきった状態で地獄の撤退戦を強要された結果、3日間も昏倒してしまっていたミーティアの消耗度は著しく、2人の所へ歩み寄ってきたアリステラはしゃがみ込むと穏やかな表情でミーティアに声をかける。

「……ミーティアさん、フロレシアさんの言った通りよ、あそこまで消耗してしまい碌な治療も給養も出来ないこの状態では回復は容易では無いわ、今は無理せず、回復に専念して頂戴、貴女達は新兵と言う現状からは想像出来ない程の働きをしてくれていたわ、間違い無く受勲申請の対象になる程の働きよ」

「……で、ですが、私の為に中隊長や他の皆様もこの地に取り残されて」

アリステラの言葉を受けたミーティアが泣きそうな顔で言葉を返していると、付近の木々の枝の上に数匹の栗鼠が姿を現して様子を窺う様にそのやり取りを見下ろし始め、それに気付いたライザリアはラウナディアやジュリアンナと共にアリステラ達の所へ移動し、枝の上の栗鼠を示しながら口を開いた。

「……大丈夫よ、ミーティアさん、此方の動きは恐らく敵に筒抜け状態よ、勿論、出発した本隊も含めてね、つまり今のあたし達の命運は敵の掌の上、俎の上の鯉状態よ」

「……ライザリアの言う通りのあの夜の情け容赦無い猛攻を考えれば、敵が本気を出せば私達も本隊も直ぐにをハデスの所へ団体様で御招待されてしまうわ、ジタバタせずにゆっくりしましょう」

ライザリアの説明を聞いていたアリステラが達観した表情で呟きながら近くの木の根元に腰を降ろすとラウナディアとジュリアンナが穏やかな表情で頷いた後に混乱の退却戦の只中で黄点した輜重の荷馬車から回収した代用紅茶を用意し始め、その様子を目にしたフロレシアは目尻に浮かんだ雫を指先で拭いながらミーティアに声をかける。

「ミーティア様、私もお手伝いしてまいります」

「……ありがとう、私は本当に恵まれています、最期を迎える時に貴女や中隊長の様な御方達と共に過ごす事が出来て」

フロレシアの言葉を受けたミーティアは気丈な笑みを浮かべて返答し、それを受けたフロレシアは小さく頭を下げた後にラウナディア達の所へと移動し始めた。


ダンジョン・マスタールーム


残存部隊の野営地で生じた新たな動きは小動物に擬態した使い魔達によってマスタールームへ齎され、それを確認したアイリスは変化した情勢に対応する為にヴァイスブルク伯国亡命政権首脳陣とリステバルス皇国亡命政権首脳陣を招集して残存部隊の新たな動きをリリアーナに説明させた。

「……以上が残党の新たな動きの概略になります、帰路を発見したと言う事で動き出した残党の本隊ですが進路を見る限り、このダンジョンへ向けて前進しております」

「……闇の中であれだけ逃げ惑っていれば森に精通している者でさえ、自分の位置を把握するのは困難になる、にも関わらずあの様なあやふやな根拠で移動するとはな、典型的な遭難のパターンだな」

リリアーナが地図の魔画像に記された残存部隊の行動を示しつつ概略の説明を終えると、ミリアリアが残存部隊本隊の軽率な行動に対する率直な感想を述べ、一同が頷く事でその言葉に同意しているとアイリスが魔画像の脇へと移動して指示棒で前進する残存部隊本隊の矢印を指し示しながら口を開く。

「……敵の動きに変化が生じたので此方も行動を変更するわ、前進を開始した残党の本隊に対してLSSAからボーンナイト1個大隊とボーンビショップ中隊、ダークマンティス隊とレッサーヒュドラ隊の主力からなる迎撃部隊を出撃させて殲滅させるわ、指揮官はミリアにお願いし、ヴァイスブルク伯国亡命政権の参加予定者にも加わって貰うわ」

「……了解した、任務を完遂する」

「……ヴァイスブルク伯国亡命政権も謹んで御下命拝命させて頂きます」

アイリスの指示を受けたミリアリアとマリーカは即座に了承の言葉を発し、アイリスはそれを聞いた後に視線をリリアーナとリステバルス皇国亡命政権首脳陣へと移して言葉を続ける。

「リリアーナが指揮する包囲部隊は当所の計画通り残党の野営地を包囲して残ってる者達に対する降伏勧告を行って貰うわ、エメラーダには当所の計画通り降伏勧告を実施して貰い護衛の派遣はリステバルス皇国亡命政権からのみとなるわ」

「……承知致しました、アイリス様」

「……リステバルス皇国亡命政権も御下命、了承させて頂きますわ」

アイリスの指示を受けたリリアーナとアイリーンも深く頭を垂れながら了承の言葉を返し、アイリスはそれを確認した後に作戦会議の終結と出撃を宣言した。

その後、リリアーナが指揮する包囲部隊、リリアーナ作戦集団と残存部隊本隊殲滅部隊、ミリアリア作戦集団はアイリスの転移魔法によりダンジョンから出撃、偵察大隊から派遣されたジンベルヴォルフ隊を尖兵に残存部隊野営地と残存部隊本隊を目標に前進を開始した。


アイリスが残存部隊の包囲と勧告によるミーティア救出を決定した頃、標的となったリステバルス王国軍残存部隊では不確かな根拠を拠としたヴァイスブルクへの帰還計画が提唱され、その不確かさに懸念を呈したアリステラの進言を無視した上にアリステラ達と衰弱したミーティアを事実上放置する形でヴァイスブルクへの帰還を強行してしまう。

既に自分達の行動がアイリスに掌握されている事を察知していたアリステラ達は達観の念で自分達の運命を甘受する事を甘受して泰然と過ごし始め、アリステラ達を捨石とした残存部隊本隊は皮肉な事に帰路と信じて地獄の退却戦戦を行ったダンジョンへの進路を前進し始めていた。

残存部隊の動きを察知したアイリスはLSSAを中心にした残存部隊本隊迎撃部隊をミリアリア指揮の下編成し、野営地を包囲するリリアーナ指揮の部隊と合わせて出撃を下令し、異形の軍勢は魔王の命に従い、粛々と前進を開始した……



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