仇敵の赫怒
バラ・ヴィアラこそ我等が導標ぞ、彼等は死せど勝つ
老いを盾に臆するに価値無し、殉じる者に価値有り
汝も我も勇みて、暴君を討たん
共和主義者こそ至高、奴隷など未熟
祖国が呼ぶ呼ぶぞ勝利かはた死か
我等国が為生き、国が為死せる
我等国が為生き、国が為死せる
門出の歌三番歌詞(日本語訳)
大陸歴438年深緑の月二十四日・リステバルス王国・王都グロスロマーネス・王宮・会議室
ロジナ侯国がクリストローゼ侯国への全面進攻を決し、アイリスが強化された魔王軍の閲兵式を行っていた頃、リステバルス皇国亡命政権の仇敵とも言えるリステバルス王国の王都グロスロマーネスでは戦死が確認されたヴァイスブルク派遣軍司令官リキメロスの国葬が実施されていた。
喪章を付けた騎士達が厳粛な表情で国葬の儀を終えたリキメロスの遺体が納められた棺(リキメロス死亡の経緯は厳重な箝口令が敷かれ、砕けた破片は神殿に封印された為、棺の内部は空)を生家のアルバニア伯爵家の墓地へと運び、駆り出された王都の住民達の多くが淡々とした表情でその葬列を見送る中、セレモニーを終えたリチャード1世、マヨリアヌス、バジリスコス、アンテミウスの4名が王宮の会議室に集い、今後の方針に関する会議を開催していた。
「……長距離魔法通信による報告では我が軍の喪失は約7000、各部隊は損耗が著しい為、一度解散させ最も損害が少ない第三騎士団に配属させミュラに指揮させてヴァイスブルク派遣軍に協力させている」
バジリスコスはリキメロスの死による怒りに顔を強張らせながら派遣軍の現状に関する報告を行い、リチャード1世がアイリーン達への怒りに顔をしかめながら頷いていると、マヨリアヌスが小さく咳払いをして心を落ち着けた後にロジナ候国の特使との緊急会談に関する報告を開始した。
「……先日、来訪されたロジナ候国の特使より一連の戦災の元凶として選帝侯国であるクリストローゼ侯国の関与が確定され、ロジナ侯国は盟邦と共にクリストローゼ侯国への全面進攻を行うと言うに極秘情報が齎されました、ロジナ侯国はクリストローゼ侯国への全面進攻作戦の為、ヴァイスブルク方面より戦力を抽出する必要があり、その補填として光栄にも我が軍に大規模な派兵を要請して下さいました、隣国である大国ヴァルティーリア王国との関係はまだ確定しておりませんが、我が軍も先の戦役による戦力再編も完了しつつあり、怨敵たる売国奴アイリーンを抹殺する好機を逃す訳にはいきません、ヴァルティーリアとの交渉は私とアンテミウスで継続しますのでバジリスコス殿に援軍を率いてヴァイスブルクへ向かって頂く事で合意致しました」
マヨリアヌスが説明を行うとアンテミウスも小さく頷き、リチャード1世はそれを確認した後に視線をバジリスコスへ向けながら口を開く。
「……頼むぞバジリスコス、お前は俺と聖女プラチディアの剣であり盾だ、非業の死を遂げたリキメロスの無念を晴らす為、我が国に楯突く大罪人アイリーンを煉獄へ送る為出立して貰う、リキメロスの非業の死によって俺も目が覚めた、我が妹だからとて情は無用だ」
「……ああ、承知しているぞ、友であるお前の為、リキメロスの死に心を痛めている聖女プラチディアの為、お前達の剣であり盾であるこの俺が、大罪人アイリーンを必ず煉獄に叩き込み、その首をリキメロスの墓前に捧げて見せるぜっ!!」
リチャード1世の激を受けたバジリスコスはアイリーンへの怒りのままに宣言し、そのやり取りを見ていたマヨリアヌスは大きく頷いた後に第二次ヴァイスブルク派遣軍の編成に関する説明を開始した。
「バジリスコス殿を総司令官とする第二次ヴァイスブルク派遣軍は王都周辺に展開する第二、第四騎士団に東部より第七騎士団、西部より第九、第十一騎士団を加えた5個騎士団、王都周辺の第一、第三魔導士団に西部の第九魔導士団の3個魔導士団に近衛騎士団と神殿騎士団より抽出された各2個大隊を主力とし、これに王都周辺の軽装歩兵2個大隊、軽騎兵、弩砲兵各1個大隊を加えた約20000名で編成され、東部、西部より抽出した部隊の補填として再編完了した第十三騎士団を東部、第十四、第十五騎士団に第四魔導士団を西部に派遣する事とします、現地到着後は駐留している再編第三騎士団も指揮下に加えて活動する事になります、なお、先の作戦により潰滅した各部隊は速やかに再編成に着手し、これとは別にロジナ侯国との協議の結界、新たに5個騎士団と3個魔導士団の増設を含めた国軍の増強再編作業にも着手する予定です」
「……バジリスコス、神殿騎士団の残る2個大隊は全て君の指揮下で行動させる近衛騎士団長の君の方が有効的に活用出来るだろう、宜しく頼む」
マヨリアヌスが第二次ヴァイスブルク派遣軍の編成及び、ロジナ侯国との協議の結界実施されるリステバルス王国軍の増強に関する報告を行うと、アンテミウスがバジリスコスに向けて激励の言葉をかけ、バジリスコスは大きく頷いた後に出席者達を見渡しながら力強く宣言した。
「任せてくれ、皆、俺はリチャードと聖女プラチディアの盾であり剣だ、高慢で残酷無比な元皇女やそいつに協力してる奴等を全員叩き斬ってやるぜっ!!」
バジリスコスは半ば狂気とも言える決意の表情で宣言し、リチャードは大きく頷いた後にアンテミウスに視線を向けて口を開く。
「……聖女プラチディアの様子はどうなっている?」
「……気丈に国葬の儀は過ごしておられましたがやはり心労は凄まじい様です、現在は私室にて御休み頂いております?」
「……そうだな、よし、皆で訪問し元気付けてやろう、バジリスコスは出征するし、マヨリアヌスとアンテミウスはヴァルティーリアとの交渉がある、その前に皆で聖女プラチディアを訪問し、言葉をかけて元気づけておこうじゃないか」
アンテミウスの問いかけを受けたリチャード1世は3人を見渡しながらプラチディアの私室への訪問を提案し、3人が頷く事で同意したのを確認した後にプラチディアの私室を訪問する為に会議室を後にした。
「……ホンマ、けったいな連中やなあ、前回の9000に続けて今度は20000もの兵力を縁もゆかりも無い遠国に派遣し、更に軍備増強やなんて」
会議中、会議室に防諜用防護用の魔障壁していたストレートロングの銀髪と真紅の瞳に片眼鏡の理知的な美貌とローブに包まれたスラリとした肢体が魅力的な狐人族の美女、リステバルス王国軍第一魔導士団長にしてティベリウス伯爵家の長女である、ミスティリア・ド・ティベリウスはリチャード1世達の退室に合わせて魔障壁を解除し、巨大で分厚い魔導書レコンキスタを畳んで小脇に抱えながらぼやくように呟き、ミスティリアの傍らに控えていたポニーテールに纏められた青髪と紫の瞳の静謐な美貌に豊かな双丘と魅惑的な弧を描く臀部と言う魅力的な長身の肢体にライトアーマーを纏い腰から長い尾を伸ばしたリザードマンの美女、ティベリウス伯爵家でミスティリア専属侍女を務めていた従兵、レミリアナ・ハドリアヌスは微かに顔をしかめながら口を開いた。
「……おまけにの王の許可を得たとは言え、王妃候補の御方の私室に皆で訪問なさるなんて、些か常識を疑う方々ですね」
「……レミは手厳しいなあ、まあ、概ねその通りやさかい仕方あらへんわねぇっ」
レミリアナの毒が籠もった呟きを聞いたミスティリアは楽しげには笑いながら、旧知の仲であるレミリアナに2人だけの愛称でレミリアナに呼びかけ、レミリアナはほんの僅かだが頬を緩めて頷いたのを確認した後に小脇に抱えたレコンキスタを持直しながら言葉を続ける。
「……まあ、他人の婚約者に纏めて媚売った聖女様とその取り巻き連中なんてけったいな連中でもそれが上役やったら従わないかんのが宮勤めの辛い所やわ、なんやウチ等も駆り出されるみたいやし、長丁場の任務になりそうやなあ、宜しゅうねレミ、ウチの事しっかり護ってえな」
「……滅龍騎士のミア様でしたら独力で何とでも出来そうですが、お助け頂いたあの日から私の全てはミア様に捧げております、ミア様がいいと言っても地獄の果てまで押しかけますので宜しくお願い致します、ミア様」
ミスティリアに声をかけられたレミリアナは2人だけの呼び名でミスティリアに呼びかけながら返答し、2人は互いへの想いを確かめ合う様に頷きあった後に兵舎へ向けて歩き始めた。
リキメロスの国葬と極秘会議が行我ながらた4日後の深緑の月三十一日、盛大な二度目の出陣式に見送られながらバジリスコス率いる第二次ヴァイスブルク派遣軍はグロスロマーネスを出立して西部及び東部から派遣された部隊との合流点に向けて前進を始め、その中には第一魔導士団を指揮するミスティリアとその傍らに付き従うレミリアナの姿も存在していた。
第二次ヴァイスブルク派遣軍の出陣に相前後する形でマヨリアヌスとアンテミウスはラインラント連邦に匹敵する大国ヴァルティーリア王国との外交協議の為に西部国境方面へ向けて出発し、ヴァルティーリア王国側も中継貿易によってリステバルス王国へ入っていた隊商達からの情報等を収集して協議への備えを進め始めていた。
ヴァイスブルク派遣軍とアイリスのダンジョンで動きがあった頃、アイリーンの仇敵のリステバルス王国でも新たな動きが生じていた。
啄木鳥作戦によって戦死したリキメロスの国葬を行ったリチャード1世とリステバルス王国首脳部はそのままロジナ侯国から齎された新たな援軍派遣に対する秘密会議を送り、近衛騎士団長バジリスコスを総司令官とする第二次ヴァイスブルク派遣軍を派遣し、合わせて国軍の大幅な増強再編を行う事を決した。
第一次ヴァイスブルク派遣軍を大きく凌駕する約20000と言う大兵力の第二次ヴァイスブルク派遣軍は深緑の月三十一日を盛大な出陣式に送られて王都グロスロマーネスを出立し、その中には第一魔導士団を率いる滅龍騎士ミスティリアと彼女に付き従う侍女兼従兵であるレミリアナの姿もあった。
啄木鳥作戦の失敗と大敗、その損害は仇敵の赫怒を引き起こし、仇敵達は激情の赴くままに先の規模を大きく上回る戦力をヴァイスブルクに向けて前進させる事になった……
第二次ヴァイスブルク派遣軍編成
第二騎士団
第四騎士団
第七騎士団
第九騎士団
第十一騎士団
魔導士団
第一魔導士団
第三魔導士団
第九魔導士団
近衛騎士団
2個近衛騎士大隊
神殿騎士団
2個神殿騎士大隊
軽装歩兵
2個大隊
軽騎兵
1個大隊
弩砲兵
1個大隊
総兵約20000名
総司令官
バジリスコス・ド・キレナイカ