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蹂躙・台風(タイフーン)作戦編・撃砕

鬨の声は汝が戸を開きて、女神が導ける

北に南に高鳴る響きは、戦の時を知らす

慄け仇なす者、血に酔いし敵よ

進みて懲らせ市民よ、王を棺へと

祖国が呼ぶ呼ぶぞ、勝利かはた死か

我ら国が為生き、国が為死せる

我ら国が為生き、国が為死せる


門出の歌・一番歌詞(日本語訳)


アイリス戦闘団


円盤形態のブラッディスケアクロウによるミステル投下に続いて行われた広域魔力支援(ネーベルヴェルファー)による猛烈な魔法弾射撃の成果は上空を悠然と舞う梟に擬態した使い魔達によって魔画像として送られ、アイリス戦闘団の本部ではアイリスがミリアリアに抱えられた状態で送られてくる魔画像を利用して標的であるリステバルス王国軍主力部隊、標的丙に対する攻撃の進捗状況を確認していた。

「……かなり打撃を与えられたけど決定打と言うには少し弱いわね、流石に近衛や神殿騎士なんかが加わっている部隊ね、魔力防壁が展開され出しているわ」

アイリスは降り注ぐ魔法弾を防ぐ為に各所に展開された魔力防壁を確認しながら呟きをもらし、その後にサララ、カッツバッハの両戦闘団の攻撃進捗状態が記された地図の魔画像に視線を向けた。

地図に記されたサララ、カッツバッハ両戦闘団の攻撃進捗は順調と言って良くカッツバッハ戦闘団の攻撃を受けた標的乙に至ってはほぼ壊乱状態とも言う程であり、それを確認したアイリスは標的丙に対する総攻撃を実施して台風(タイフーン)作戦の完結を目指す事を決意してサララ戦闘団に魔通信を実施した。

「……サララ、此方はアイリスよ、各戦闘団の攻撃状態は順調そのもので標的甲、乙共に壊滅は時間の問題と判断したわ、これよりあたし達は標的丙に対する総攻撃を実施して台風(タイフーン)作戦の完遂を目指すわ、硫黄龍と地炎龍の指揮権を此方に譲渡させて貰っても構わないかしら?」

「……アイリス様、此方サララです、指揮権譲渡の件了解しました、現在硫黄龍、地炎龍共に後退して予備として待機状態です、既に戦闘の帰趨は決しており、両使役獣の投入は不要と判断します、現時刻をもって硫黄龍、地炎龍の指揮権をアイリス様に返還させて頂きます」

アイリスから硫黄龍、地炎龍の指揮権譲渡の依頼を受けたサララは即座に了承の言葉を返した後に戦闘中の各作戦群にその事を伝え、それを受けたサララ戦闘団はアイリス戦闘団の攻撃に参加させる為に硫黄龍と地炎龍を出撃させる。

硫黄龍と地炎龍の出撃を確認したアイリスは両者に地中から標的丙を襲撃させる事を命じ、両者が猛然と大地を掘り進め始めたのを確認した後に待機中のA、B両作戦群に魔通信を送った。

「……各作戦群に通達、サララ戦闘団より硫黄龍と地炎龍が派遣されたわ、各作戦群は速やかに攻撃準備を実施し、両使役獣の到着に呼応する形で標的丙に対する総攻撃を実施して頂戴、A作戦群は硫黄龍の、B作戦群は地炎龍の攻撃に其々呼応して攻撃を行って頂戴」

「こちらA作戦群、了解しました、硫黄龍の攻撃に呼応して攻撃を開始します!」

「B作戦群も了解しました、地炎龍の攻撃に呼応して攻撃を開始します!」

アイリスの魔通信を受けたユーティリアとクーリアからは即座に返信が行われ、それを聞いたアイリスは硫黄龍と地炎龍に第一金掘衆が到着するまで標的丙の行動を妨害、拘束する為の魔法弾射撃の継続を命じた。


リステバルス王国軍司令部


アイリスの命を受けたクレッチマー率いるワイト部隊とポーンビショップ隊の猛烈な魔法弾射撃が降り注ぎ、混乱しながらも態勢の立て直しに躍起となるリステバルス王国軍主力部隊、その司令部では、第三騎士団長のミュラと第二魔導士団長のジュノーが剣呑な表情で互いを睨めつけながら言葉を交わしていた。

「……どう言うつもりだ貴様、貴様の率いる魔導士どもは自分達の事ばかり護り、我々への護りが手薄の様に思えるのだが?」

「……言いがかりも大概にしろ、我々は食糧や弩砲の炸裂弾集積所等の重要拠点の守備も任務としているのだ、貴様の部隊にはそもそも魔導騎士も所属しているし、我々もしっかりと支援を行っているぞ」

ミュラとジュノーは、明らかに非友好的な態度で言葉を交わし、神殿騎士大隊長は内心で舌打ちしながら2人のやり取りを聞いていた。

(……ミュラ団長とジュノー団長は元々折り合いが悪かった所に王国内での地位向上を狙ったミュラ団長の妻で王家の縁者でもあるカロリーナ様がジュノーを誘惑した事が発覚して両者の関係は最悪に近い、こんな事は軍内では周知の事実であるにも関わらず態々2人を組ませ、派遣させるとは、残敵掃討程度の任務だと考え、楽に功績をあげられると考えていたが、現在はこの為体、何故、こうなってしまったんだ)

神殿騎士大隊長が内心で呪詛の呟きをもらしていると遠距離魔導通信担当の魔導士からヴァイスブルク派遣軍司令部から総退却命令が発せられた事が告げられ、それを聞いた神殿騎士大隊長は内心で苦虫を噛み潰しながら剣呑なやり取りを続けているミュラとジュノーに声をかける。

「ミュラ様!ジュノー様!ヴァイスブルク派遣軍司令部より総退却命令が発動されました!これほどの大規模攻勢が行なわれている以上総司令官のリキメロス様の安否は絶望的でしょう、速やかに退却を行う必要があります!」

神殿騎士大隊長の怒声に近い仲裁の言葉を受けたミュラとジュノーは苦虫をダース単位で噛み潰した様な渋面で互いを睨み合った後に渋々と言った様子で頷き、その様子を目にした神殿騎士大隊長がやれやれと肩を撫で下ろしていると、激しい魔法弾射撃を浴びせられている木柵の周辺に土塊と土煙を撒き散らしながら地炎龍と硫黄龍が姿を現し周辺に業火と可燃性ガスを吐き散らして周辺を混乱に陥れ、その混乱に紛れ込む様にユーティリアとクーリアが発進させた10台のゴリアテが木柵の其処彼処に突入して爆裂魔法を発動させてしまう。

ゴリアテの突入によって木柵の其処彼処に巨大な火柱が発生し、周囲に展開していた不幸な近衛兵や騎士達を吹き飛ばしながら突破口が穿たれ、穿たれた突破口を目指す様に木々の合間から大量のボーンナイトが出現し、猛烈な魔法弾射撃の支援の本突撃を開始し、陣営内に雪崩れ込み、リステバルス王国軍の混乱を増大させる。

雪崩込んだボーンナイトは黒刃のロングソードや長槍を振り回して混乱するリステバルス王国軍の兵士達を屠り、地炎龍と硫黄龍が業火と可燃性ガスで周囲を吹き飛ばして損害を急拡大させてしまい、更に防御魔法を破砕して降り注ぐ魔法弾射撃が陣営の其処彼処を吹き飛ばし、混乱と損耗を拡大させていく。

「……クソッ、青二才の魔導かぶれのせいでこの為体かっ!全軍に通達、陣営を放棄し直ちにたいきゃ」

陣営の惨状を目の当たりにしたミュラは呪詛と共に総退却を告げ様としたがその言葉を遮る様に地面が大きく揺れ始め、司令部に詰めていた面々が慌てて近くの支えになりそうな物に寄り掛かりバランスを保とうとしていると土煙と土塊を吹き散らしながらスパイラルシェルが出現すると回転を止めた螺旋状の殻から滑りつく本体を出現させて触眼から光線を放ち、放たれた光線が不幸なジュノーの近くに着弾し周囲にいた数名の魔導士達と共に吹き飛ばしてしまう。

ジュノー達が吹き飛ばされたのに相前後する形でスパイラルシェルが構築した穴を通ってラージスラッグが滑りつく巨体を現して巨大な触眼から溶解液を放ち、ラージスラッグに後続する形でゾロゾロと姿を現したマジックマリオネット達が出現し混乱する司令部に向けて手当たり次第に炎弾を発射して右往左往するリステバルス王国軍の将兵を薙ぎ倒し始めてしまう。

「……ミュ、ミュラ団長、こ、このままでは!!」

「……クソッタレッ!!……総員、陣営を放棄して直ちに総退却を実施する、各々は可能な限り部隊を纏めて直ちに退却を実施せよっ!ヴァイスブルク男爵領国軍の者は道案内を実施しろっ!!落語者は捨て置けっ!!」

惨状を目の当たりにした神殿騎士大隊長の切迫した声を受けたミュラは憤怒の表情で罵りながら総退却を命ずると金堀衆の猛攻を浴びる司令部を放棄し、混乱の只中にある陣営内を駆け周って部下の騎士達や魔導士、神殿騎士や近衛騎士の生き残りを掻き集め、1000名程の集団を編成して、無事な木柵を魔導や魔導騎士達の射撃で排除した後にヴァイスブルク男爵領国軍の残り少ない騎士達の案内の下、脱兎の如き勢いで脱出し、燃え盛る陣営を放棄して遁走を開始した。

ミュラ率いる脱出部隊の遁走を確認したユーティリアとクーリアは比較的統制の取れた行動を見せるミュラ率いる騎乗部隊への攻撃は魔法弾射撃程度に留め、後続する徒歩部隊へ残存するゴリアテを突入させて分断させた後に殲滅しつつ陣営を覆滅する方針に切り替え、それを確認したアイリスもその判断を支持し予備隊の一部投入を命じた後に自身を抱き抱えるミリアリアを見上げながら口を開いた。

「……後は残敵掃討と言った所ね、アイリーンの教えてくれた所だとミュラとか言う奴は女好きで伊達者だけど少なくとも騎兵部隊指揮官としては有能みたいだから下手にちょっかいかけて変な損害被っても詰まらないわ、増援としてこの地に派遣されて来た三国連合軍とやらに結構な損害を与えられたし変に欲張る事無くこの辺で良しとしておきましょう」

「……ああ、そうだな、突入してきたアイリーン様の仇敵の1人である総司令官や唾棄すべき裏切り者のポポフも屠り、加えてこの戦果だ、アイリスの言う通り、変に欲張る事無く残敵掃討に移行するべきだな」

アイリスの言葉を受けたミリアリアは微かに表情を緩めながら相槌の言葉を返し、アイリスは小さく頷いた後に各戦闘団に対して残敵掃討戦への移行を命じた。

その後各戦闘団は陣営の覆滅と残敵掃討戦へと移行して逃げ惑うリステバルス王国軍、ラステンブルク伯国軍、ヴァイスブルク男爵領国軍に対する残敵掃討戦を実施し、黒い森の中に無数の断末魔が響き渡り無数の骸が木々の合間に転がっていった。

逃げ惑い甚大な損害を被った三国連合軍は約2日後から救援部隊として出動した第九騎士団の設置した救護所や救援パトロール部隊と接触したが、纏まった部隊はミュラが率いる600名程度しか無く後の部隊は小隊や分隊程度の小規模で消耗しきった部隊に過ぎず、その総数はかなりの数の重軽傷を含めても3000名程度に過ぎず、残る約9000名を喪失すると言う潰滅的損害を被り、啄木鳥作戦は完全な失敗に終わった物と判断された。

一方三国同盟軍の損害はアンデッド部隊を中心とした700程度に過ぎず、獲得した大量の死体によってその損害は埋められるどころか大幅な戦力増強となり、大勝を得たアイリスは三国連合軍潰滅から一夜が明けた深緑の月十八日にダンジョンへと凱旋し、ミリアリアに抱えられながら出迎えアイリーンとマリーカや作戦参加者達に向けて台風(タイフーン)作戦の完了を宣言した。



標的甲と標的乙が相次いで潰滅し、三国連合軍が瓦解しつつある中、アイリス率いるアイリス戦闘団は三国連合軍主力部隊であるリステバルス王国軍主体の標的丙への攻勢を強め、サララ戦闘団から指揮下に復帰した地炎龍と硫黄龍に加えて第一金堀衆も参加させた総攻撃を実施した。

アイリスの発動した総攻撃は混乱しながらも何とか態勢を立て直そうとしていた標的丙に対して致命的とも言える一撃となり、標的丙の指揮官の1人ミュラはヴァイスブルク派遣軍司令部より齎された総退却に従い血路を開いて遁走していった。

アイリーンよりミュラの情報を得ていたアイリスは無理な追撃は控え陣営の覆滅と残敵掃討に注力して標的丙に潰滅的打撃を与え、この戦闘によって三国同盟軍の勝利は確定的となった。

啄木鳥作戦を粉砕し、三国連合軍に潰滅的打撃を与え撃砕する、反攻作戦台風(タイフーン)作戦は完全な成功を収め、ヴァイスブルク派遣軍に到着した援軍はヴァイスブルクの森にて潰滅し木々の合間に無数の骸を晒す事となった……

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