魔王のオルガン
今後も本作を宜しくお願い致します。
ダンジョン周辺・アイリス戦闘団
血気に逸る余り総司令官としての責務を放棄してダンジョンに突入し、その挙げ句に無惨に氷のオブジェと化したリキメロス達を各々の関係国に転位魔法で転位させたアイリスはリキメロス達が粉微塵に爆ぜ散ったのを魔力で感知した後に傍らに立つミリアリアに向けて頷きかけ、それを確認したミリアリアが頷き返していると、小さく伸びをしながら口を開く。
「……さてと、メッセンジャー達も仕事を果たしたし、此方も凄惨な惨劇始めましょう」
「……ああ、そうだな…………っ」
アイリスに声をかけられたミリアリアは相槌を打った後に頬を赤らめさせながらアイリスを見詰め、その反応を目にしたアイリスは嬉しそうに微笑みながら頷いてミリアリアにもたれかかり、ミリアリアが笹穂耳まで赤くなりながらアイリスを抱え上げると、アイリスは心地良さげに微笑んだ後に魔王に相応しい凄味のある笑みとなって傍らに控えていたクレッチマーに声をかける。
「……クレッチマー、これより、全戦闘団に所属する全てのワイトとボーンビショップに広域魔力支援を実施する、我が魔力を利用し、我がダンジョンを取り囲み、剰え土足で踏み込んだ愚か者共を吹き飛ばしなさい」
……我等ガ創造主タルアイリス様御自ラノ魔力支援、ソノ様ナ素晴ラシキ御力ヲ頂ケル等、望外ノ喜ビ、必ズヤ愚カ者ヲ吹キ飛バシテ見セマス、我等ノ働キ振リ、御覧下サリマセ、アイリス様……
アイリスの指示を受けたクレッチマーは歓喜の声音で返答し、アイリスは頷いた後にサララ戦闘団とカッツバッハ戦闘団に魔通信を送って命令を伝え、それを聞いたリュースとプリマーもクレッチマー同様歓喜の声をあげた。
サララ戦闘団とカッツバッハ戦闘団に指示を終えたアイリスは前もって出撃させ、円盤形態に変型させて8発のミステルを搭載させていたブラッディスケアクロウにリステバルス王国軍主力部隊の司令部付近への爆撃を命じ、その後にミリアリアの腕の中で両眼を閉ざして意識を研ぎ澄ませながら言霊を紡ぎ始めた。
「……原初の闇よ、我が根源よ、我に集いて力となれ、我が力となりて我が眷属達に遍く力を与え、我が眼前に立ち塞がりし者共を撃ち砕く一助となれ」
アイリスの紡ぐ言霊に誘われる様にアイリスを抱えるミリアリアの足下に巨大な五芒星の魔法陣が形成されて闇色の雷を爆ぜながら輝きを放ち、魔法陣によって大量の闇の魔力が結集濃縮された事を感じたアイリスは閉ざしていた両眼を開き、瑠璃色の瞳を煌めかせながら言霊を解き放った。
「……我が魔力よ我が眷属達に闇の祝福を与えよ!広域魔力支援!!!」
アイリスの解き放った言霊が虚空を舞うと同時に魔法陣が一際眩く輝いた後に闇色の雷となって爆ぜ、それと同時に攻撃態勢を整えて展開しているワイト達とボーンビショップ達に膨大な量の闇の魔力が奔流となって注がれ始める。
……オオッ素晴ラシキ、アイリス様御自ラノ御力、我等ニ偉大ナ闇の力ガ注ガレテイル、闇ノ眷属達ヨ、オソレ多クモ、アイリス様御自ラノ御力ニ報イル為ニモ愚カ者共ヲ塵芥ニナルマデ叩キ尽クスノダ!!……
クレッチマーが奔流となって注ぎ込むアイリスの膨大な魔力に歓喜の声をあげていると、リステバルス王国軍主力部隊の上空に到達した円盤形態のブラッディスケアクロウが搭載していた8発のミステルを投下し、投下されたミステルは使い魔達によって確認された陣営の情報を組み込んだ誘導魔法術式によって司令部周辺に次々に着弾し、組み込まれていた大規模爆裂魔法を発動させた。
炸裂したミステルによって生じた8本の火柱と爆発が司令部を呑み込み、詰めていた将兵達が周囲に展開していた近衛騎士や神殿騎士達ごと吹き飛ばされ、突如として生じた巨大な爆発に三国連合軍が混乱する様を使い魔達から齎された魔映像によって確認したアイリスは発生した魔法陣を維持しながら全戦闘団のワイトとボーンビショップ達に攻撃を命じた。
「……ミステルの攻撃は成功したわ、各員は速やかに攻撃開始、戦果を拡張しなさい」
……承知シマシタ、総員速ヤカニ攻撃ヲ開始セヨ、アイリス様ノ居所ニ踏ミ込ミシ愚カ者共ニソノ命ヲ持ッテ対価ヲ支払ワセルノダ……
アイリスの攻撃命令を受けたクレッチマーは虚空に五芒星の魔法陣を形成しながら厳かに攻撃開始を命じた後に形成した魔法陣から無數の炎弾を発射し始め、周辺に展開したワイトやボーンビショップ達も次々に虚空に魔法陣を描いて夥しい量の炎弾、氷弾、雷弾、風弾を止め処無く発射し始めた。
発射された夥しい量の魔法弾は、独特の風切音を響かせながら展開する三国連合軍の其処彼処に降り注ぎ、降り注ぐ無數の魔法弾が炸裂して三国連合軍を大混乱に陥れてしまう。
三国連合軍は突然のミステルの炸裂と雨霰となって降り注ぐ魔法弾によって大きな損害を被り泡を食いながらも防御魔法を発動させて降り注ぐ魔法弾を防ぎ始めたが、アイリスによって膨大な量の魔力を供給されているワイト隊とボーンビショップ隊は矢継ぎ早に魔法弾の射撃を続け、三国連合軍の魔導兵達は間断無く降り注ぎ続ける魔法弾の前に圧倒されてしまい、徒に魔力を消耗し続けてしまう。
魔力の大量消費に耐えかね強度が低下した防御魔結界が砕け、そこから降り注ぐ無数の魔法弾の炸裂により新たな損害が発生して新たな混乱を生起させ、特に魔導兵の数が少ないラステンブルク伯国軍猟兵部隊の損害が続出してしまい、大きな混乱状態を生じさせてしまう。
「……予想外に戦果が高そうね、煙幕位にはなるかと思ったけど、この様子だったらこのまま暫く敵を叩かせて出血を強いてから総攻撃に移行させて大丈夫そうね」
「……あ、ああ、そうだな」
使い魔達が送ってくるワイト隊とボーンビショップ隊の魔法攻撃の戦果を確認したアイリスは魔力の供給源である魔法陣を維持しながらミリアリアに声をかけ、ミリアリアは止め処無く夥しい量の魔法弾を発射し続けるワイト隊とボーンビショップ隊の様子に若干引き気味になりながらも相槌を打ち、リリアーナ達も同じ様な表情で喜々として大量の魔法弾を発射し続けるワイト隊とボーンビショップ隊を見詰めていた。
各戦闘団に所属するワイト隊とボーンビショップ隊はその後もアイリスから供給される大量の闇の魔力を利用して夥しい量の魔法弾を発射し続け、放たれた無数の魔法弾を夜の帳を独特の風切音で切り裂きながら雨霰となって降り注ぎ続けた。
三国連合軍の魔導兵達は狼狽えながらも各所で防御魔法を展開させて降り注ぐ魔法弾を防ごうとしていたがアイリスの膨大な魔力供給を利用して降り注ぐ無數の魔法弾により、魔導兵達の魔力は急速に消耗して行き、消耗に耐え切れず崩壊した防御魔法の防壁は各所で突破され三国連合軍の将兵が吹き飛ばされていった。
降り注ぐ、無數の魔法弾によって引き起こされた複数の爆発に覆われた三国連合軍の陣地、その上空では梟に義対したアイリスの使い魔達が悠然と旋回しながら選果確認と弾着観測を行い、ワイト隊とボーンビショップ隊は送られてくる射撃諸元を基に更なる魔法弾射撃の痛撃を三国連合軍に叩き込み続けていた。
広域魔力支援と使い魔の弾着観測を利用した広域精密集中魔法射撃、この戦法は後にアイリスの軍勢により多用される戦法となり、その攻撃を浴びた敵軍の将兵達はその猛威に恐怖し多大な損害を被る事となり、この戦法は何時しかその独特の風切音から恐怖の念を籠めてこう呼ばれる事となった。
……魔王のオルガン、と……
リステバルス王国とヴァイスブルク男爵領国に氷のオブジェと化したリキメロス達を送り届けて宣戦布告を終えたアイリスはそのままダンジョンを包囲する三国連合軍への総攻撃に移行し、3個戦闘団に配置されたワイト隊とボーンビショップ隊に対して支援魔法、広域魔力支援を実施し、アイリスから膨大な魔力を供給されたワイト達とボーンビショップ達は喜々として供給される膨大な魔力を利用して夥しい量の魔法弾を三国連合軍に向けて叩き込んだ。
降り注ぐ無数の魔法弾とその直前に行われたミステルの攻撃は三国連合軍に対して完全な奇襲となり、降り注ぐ無数の魔法弾は混乱状態の三国連合軍を吹き飛ばしていく。
独特の風切音を響かせながら降り注ぎ立ち塞がる愚か者達は薙ぎ払い、吹き飛ばして行く無数の魔法弾の雨霰、鳴り響く風切音は相対する者達を恐怖の只中に誘う魔王のオルガンの音色……