惨劇・啄木鳥作戦編・擬態
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残酷な描写がありますので閲覧は自己責任でお願い致します。
マスタールーム
アイリーン達を捕縛した勢いマスタールームに乗り込みダンジョン制圧を宣言した三国連合軍司令官リキメロス、勝利に酔った彼はマスタールームに突入したリステバルス王国軍の近衛騎士達にアイリスを取り囲ませながら残敵掃討とダンジョン完全制圧の時を待っていた。
朗報を待ち始めて1時間程経過した後にリキメロスの下に残敵掃討部隊から残党掃討が完了した旨を伝える伝令が到着し、それを聞いたリキメロスが伝令を送り返して上機嫌で続報を待っていると、更に1時間程が経過した後にダンジョンコア捜索部隊と残党掃討完了後に掃討活動に加わった残敵掃討部隊からの伝令が到着した。
到着した伝令はマスタールーム階層の部屋の殆どを捜索しているものの未だダンジョンコアが発見出来ていない事を伝え、リキメロスは顔をしかめながら伝令達に向けて口を開いた。
「……早急に全ての部屋を捜索すると同時に捜索を終えた部屋も、もう一度徹底的に捜索する様伝えて貰おうか、ダンジョンコアはそれなりの大きさがあるから隠せる場所は限られている、ダンジョンの主だとか自称してる蝙蝠女がここにいるけどダンジョンコアこそがこのダンジョンの真の主だからね」
リキメロスの指示を受けた伝令達は敬礼した後に自隊に向けて出発し、リキメロスはそれを見送った後に眼鏡を手を添えて位置を直しながら呟きをもらした。
「……鼠狩りも終わったし、後はダンジョンコアさえ手に入れられればこの辛気臭い穴蔵から出られると言うのに、まだ暫く高慢女や蝙蝠女と一緒にいなければいけないなんてとんだ苦行だねえ」
リキメロスは忌々しげに呟きながら捕縛したアイリーン達と近衛騎士達に取り囲まられたアイリス達を睨み、アイリスはリキメロスの視線を平然と受け止めながら口を開いた。
「あらあら、随分短期なのねえ、そんなに短期でよく尻軽女の尻尾を追いかけ回せるわねえ」
「……何だと」
アイリスの侮蔑の言葉を受けたリキメロスは眼鏡の奥の緑眼に剣呑な光を宿しながら怒りの呟きをもらし、その様子を目にしたアイリスは極上の嘲笑いを浮かべながら言葉を続ける。
「だって尻軽女には砂糖に群がる蟻みたいに貴方の他にもわらわら集まってるんでしょ?そんな短気さんで大丈夫なのか心配になったのよ」
「……さっきから君が言っている尻軽女なんだが、まさか僕達の聖女プラチディアの事じゃ無いだろうね」
アイリスの言葉を聞いたリキメロスは緑眼に宿る剣呑な光を更に濃くさせながら問いかけ、隠しきれない怒りが垣間見えるその言葉に対してアイリスは嘲笑を浮かべたまま首を傾げながら言葉を返した。
「……既に婚約者がいる男性達に思わせ振りな対応をしてその気にさせた挙げ句に一番身分が高い皇子様と結婚して王妃となる、まさに尻軽女じゃない、貴方って凄いわねこんな尻軽女を臆面も無く聖女と呼べる輩は中々いないわよ」
「……哀れだねえ、精一杯虚勢を張ろうとした末の妄言なんだろうけど、君は絶対にやってはいけない事をしてしまった様だね、蝙蝠女」
アイリスの挑発の言葉を受けたリキメロスは怒りの余りかえって平坦になってしまった口調で言葉を返し、その言葉を受けても平然とした様子を崩さないアイリスを冷たい怒りの眼差しで見詰めながら言葉を続ける。
「よりにもよって僕達の聖女プラチディアを貶すなんてねえ、そんな破廉恥な姿をしている上に僕達の聖女プラチディアを貶して僕を怒らせる思慮の無さ、尻軽女には君の方がよっぽど相応しい様だね、蝙蝠女、愚女の典型である高慢女達に尻軽女の典型である君、まさに悪女の巣窟だねこのダンジョンは、仮初めとは言えこんなダンジョンの主を名乗っている君には相応の報いを受けて貰う必要があるね」
リキメロスはそう言うとアイリスを取り囲んでいる近衛騎士達に視線を向け、その視線を受けた近衛騎士達は頷いた後に野卑た視線をアイリスの魅惑的な肢体に向けた。
「……本来はダンジョンコアを獲得してこのダンジョンを完全制圧して黒幕の正体を喋って貰ってからの予定だったけど、君がお望みだから順番を変えさせて貰うよ、ダンジョンコアの隠し場所と黒幕の正体を喋りたくなるまでさっきの妄言に対する罰を受けて貰うよ」
リキメロスは野卑た視線に囲まれたアイリスを冷たい視線で見据えながらアイリスに対する辱しめの実施を宣言し、それを聞いたにも関わらず目立った動きを見せていないミリアリア達を一瞥した後に嘲笑と共に言葉を続ける。
「……ダンジョンの主を名乗っているのに誰も君を助けようとしないんだね、やっぱり君は彼女達が報告した通り仮初めの主みたいだねえ」
リキメロスは嘲笑と共にそう告げながら傍らで控えるメッサリーナとアグリッピーナを一瞥し、メッサリーナとアグリッピーナは丁寧な動作でリキメロスに向けて一礼した後に勝ち誇った表情でアイリスを見ながら口を開く。
「……どんな気分かしら、偽善者の仮初めダンジョンマスターさん、皆にちやほやされて良い気になってた様だけど、現実はこんな物よ」
「……考えてみれば哀れな女、黒幕に躍らされて道化を演じた末に誰にも助けて貰えられず最期を迎える……でも、文字通り自業自得の末路、同情の余地は、皆無」
メッサリーナとアグリッピーナはアイリスを見下しながら得意気に宣い、それを聞いていたリキメロス達が楽し気に嘲笑っているとアイリスが口を開いた。
「……それが貴方達の選択と言う事で良いのかしら?今、武器を捨てて地べたに這いずり許しを請えば、1人か2人位なら生かしてあげなくも無いんだけどそれで良いのね?後悔しないわね?」
アイリスはのんびりとした口調で問いかけながらリキメロス達を見回し、自分が置かれている状況から余りにかけ離れた口調と物言いを受けたリキメロス達が嘲笑でそれに応じると頷きながら言葉を続けた。
「……解ったわ、それじゃあ惨劇を始めましょうか」
アイリスがそう言っているとその傍らに魔画像が具現化され、リキメロス達は嘲笑を浮かべたままそれに視線を向けたが、その中に映っている人物を目にした瞬間、その余裕が一瞬にして霧散してしまう。
「……アイリス様、先程採掘作業を実施中の金堀衆より採掘された琥珀が転位されてまいりました、此方になりますわ」
「……どうやら、魔石(ませき・一定以上の深部の鉱脈より採掘される魔力を宿した宝石、通常に比べて遥かに高価)の鉱脈を探り当てた様ですね、とても見事な魔石ですわ」
魔画像の画面に映るアイリーンとエメラーダは美しい光沢を放つ見事な琥珀を手に微笑みながらアイリスに向けて語りかけ、呆気に取られてその映像を見ていたリキメロス達は慌てて自分達が捕縛している筈のアイリーンとエメラーダに視線を転じた。
リキメロス達が転じた視線の先には捕縛されたアイリーンとエメラーダとマリーカが瞳を閉ざしながら静かに佇んでおり、その姿を目にしたリキメロスは動揺を抑える為に眼鏡に指先を当てて位置を整えながら口を開いた。
「ば、馬鹿馬鹿しい、単なる幻影魔法にきま……んなっ!?」
リキメロスが呟いていると滑らかだったアイリーン達の皮膚が突然ミイラの様に干からびてカサカサになってしまい、衝撃的な光景を目の当たりにしたリキメロスが絶句しまっていると、干からびミイラの様になってしまったアイリーン達が閉ざしていた瞼をゆっくりと開いた。
開かれた瞼の下には曇った硝子玉の様な白濁しきった眼が存在しており、アイリーン達の周囲にいた近衛騎士達が思わず後退りしてしまっていると干からびカサカサになってしまった皮膚がボロボロと崩れ落ち始めた。
リキメロス達が異様な光景を呆然と見詰める中、アイリーン達の露になった眼窩から白濁した眼球が転がり落ち、床に落ちた干からびた皮膚と白濁した眼球、そしてアイリーン達の纏う衣装と装着させられた魔力封じの首輪が黒い焔に包まれ、その焔が消失するとアイリーン達の代わりに1体の死霊騎士と2体のボーンナイトが佇んでいた。
「……死霊騎士?……ボーンナイト?……あ、有り得ない、アンデッドが人に化けられる筈が無い、そ、それに魔力封じの首輪もしていた、あれは僕が自ら作った特製品だ、あ、あんな簡単に燃える代物なんかじゃ」
「……あら、何方かいらっしゃると思えば、リキメロスではありませんか、ああ、今はリステバルス王国魔導局長様でしたわね、その様な尊き御方に一介の娼奴隷風情が砕けた物言いをしてしまい、申し訳ありませんわ」
佇む死霊騎士とボーンナイトを目にしたリキメロスが呆然とした表情で呟いていると、魔画像に映るアイリーンがリキメロスに対して呼びかけながら殊更に典雅動作でカーテンシーを送り、その言葉を受けたリキメロスは怒りの表情を魔画像に向けたがアイリーン達の後ろに控えている2人の侍女、先程までリキメロス達を案内していた筈のヒルデガントとレリーナの姿を目にして驚愕の表情を浮かべながら口を開く。
「……どう言う事だ、なぜお前達までそこにっ!?」
「……っな、何であんた達が映っていんのよっ!?」
リキメロスが驚きの声をあげたのに続いて魔画像を目にしたメッサリーナが狼狽えながら耳障りな金切り声をあげ、ヒルデガントとその声に一瞬顔を歪めた後に満面の嘲笑を浮かべて狼狽えるメッサリーナと驚愕の表情で固まるアグリッピーナを見めながら口を開いた。
「……見て分からないの?貴女達は騙されたのよ、ホントに苦行だったわエメラーダ様やアイリーン様が前もって根回しを行って下さっていたとは言え、大恩あるアイリス様の行動を咎め立て、その上御調子者のあんた達に尻尾振らなきゃならないなんて、でも、傑作だったよね、レリーナ、あいつ等が何の疑いも無くホイホイ私達の言葉を鵜呑みにしてた姿は」
「……うん、ちょっと吃驚だったよね、間諜として潜り込んでた割に随分単純だったね」
ヒルデガントとレリーナはメッサリーナとアグリッピーナの姿を嘲笑いながら言葉を交わし、聞いたメッサリーナとアグリッピーナが怒りに震えているとアイリスが指をパチンッと鳴らした。
アイリスが指を鳴らすとアイリスの後ろにいたミリアリア達が一瞬の内にボーンナイトに変化し、アイリスはそれを確認した後にゆっくりと立ち上がった。
「う、うご」
「……邪魔よ、どいて」
アイリスを取り囲んでいた近衛騎士達は慌てて制止の声をあげようとしたが、アイリスは冷たい声でそれを遮りつつ何時の間にか手にしていた大鎌を一閃させて周囲にいた近衛騎士達の首を刎ね飛ばし、刎ね飛ばされた頭部と鮮血を迸らせる胴体がアイリスの周辺に転がり血溜まりを造る。
「……あらあら、ちょっと殺り過ぎちゃったかしら?お掃除が大変ねえ」
「……こ、蝙蝠女、お、お前、な、何者だっ!?」
アイリスが無惨な姿で転がる近衛騎士達を一瞥した後にこの場の雰囲気と余りにも違い過ぎて空恐ろしく感じられるのんびりとした口調で呟き、その光景を目の当たりにしたリキメロスが後退りしながら発した詰問の叫びに対して不思議そうに首を傾げながら返答した。
「……最初に言わなかったかしら、あたしはアイリス、このダンジョンの主よ、スコルツニィー、惨劇を始めましょう、総攻撃を命じなさい」
……御意……
アイリスはリキメロスの詰問に返答した後に佇む、死霊騎士、スコルツニィーに総攻撃を命じ、スコルツニィーは恭しく一礼しながらそれに応じた。
大浴場・脱衣場
大浴場の脱衣場、そこには付近で行われたダンジョン突入部隊との戦闘によって命を落とした女戦士達と女エルフ達の死体が集積されて無造作に転がされ、その傍らでは猟兵分隊が死体の運搬作業を行っていた。
「……こんな良い身体してる連中ぶった斬ちまうなんて少し勿体ねえなあ」
「……ああ、ぶった斬っちまう前に楽しんどきゃ良かったよなあ」
女戦士の死体を床に転がした猟兵達が無造作に転がされた女エルフや女戦士達の死体を見ながらぼやいていると分隊長が部下達に傷付いた女戦士と女エルフを1人ずつ引き摺らせて脱衣場に入って来た。
「おい、お前達、鼠を捕まえて来たぞっ!!今部隊はダンジョンコアの捜索を行っているらしいからこの鼠どもにその場所を吐いて貰うとしようっ!!」
分隊長はそう言うと女戦士と女エルフの髪を掴んで無理矢理顔を上げさせ、猟兵達のあげた歓声に頷きながら最近猟兵団に入団したばかりの猟兵2名に向けて声をかける。
「お前達はここで見張りをやっていろ、暫くしたら交代を寄越すからそれまでしっかり頼むぞ」
分隊長の言葉を受けた2名は残念そうな表情になりながらも頷き、分隊長はそれを確認した後に残る8名の猟兵達に女戦士と女エルフを引き摺らせて大浴場へと移動した。
大浴場に移動した猟兵達は傷付いた女戦士と女エルフを床に転がし、転がされた女戦士と女戦士が怯えた眼で恐々と猟兵達を見上げていると分隊長が野卑た笑みと共に口を開いた。
「……さて、それでは拷問を始めさせて貰うぞ、ダンジョンコアが何処に隠されているのか、吐いて貰うぞ、先ずは武器を隠し持っていないか隅々まで調べてやるぞ」
分隊長がそう告げると他の猟兵達も野卑た笑みを浮かべ、その内の何人かが女戦士と女エルフの所に行き始めた瞬間……
バシンッ!!
「……何だ今の音はっ!?」
分隊長は突然背後から響いた大きな音に戸惑いの表情になりながら声をあげ、他の猟兵達も戸惑いの表情を浮かべていると背後に視線を向けた猟兵が腰を抜かして尻餅をつきながら叫び声をあげる。
「……ひ、ひぃぃっ!!」
猟兵の叫び声には恐怖の色が色濃く滲み、その声を聞いた分隊長達が慌てて背後に視線を転じると脱衣場への出入口の磨り硝子の引戸に見張りをしている筈の猟兵2名が血塗れになって押し付けられていた。
血塗れの猟兵がもがく度に磨りガラスに血痕がのたくり廻り、分隊長達が唖然としてその光景を見詰めていると磨り硝子に無数の掌が押し当てられ激しい勢いで叩かれ始めた。
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッ!!
磨り硝子に押しあてられた無数の掌は狂った様な勢いで磨り硝子を乱打し、その光景を目の当たりにした猟兵達が恐怖に顔をひきつらせながら思わず後退りしているとその背後から地の底から聞こえて来る様な低く冷たい抑揚に乏しい声がかけられて来た。
……ドウシタ、拷問ヲ始メルノデハ無カッタノカ?……
明らかに普通ではないその言葉を受けた猟兵達が一瞬身体を強張らせた後に恐る恐る背後に視線を向けると立ち上がった女戦士と女エルフが青白い顔と虚ろな眼で猟兵達を見据えており、猟兵達がその異様な雰囲気に絶句してしまっていると女戦士が自分の顔に手を伸ばしながら口を開いた。
……武器ヲ隠シ持ッテイナイカ調ベルノダロウ?隅々ヲ心行クマデ調ベテ構ワナイゾ……
女戦士はそう言うと自分の顔の皮膚を鷲掴みにして剥ぎ取り始め、衝撃的な光景を目の当たりにした猟兵達が驚愕と恐怖に立ち竦んでいると女エルフが上着に手をかけながら口を開く。
……私モ調べテ貰オウカ、武器ヲ隠シ持ッテイナイカドウカ、身体ノ隅々ヲナ……
女エルフがそう言いながら自身の上着を引きちぎると、露にされた胸元はポッカリと穴が開いて肋骨が剥き出しになっており、その異様な姿を目にした猟兵達が激しく乱打されていた引戸が独りでに開かれてしまう。
引戸が開かれると押し当てられていた血塗れの猟兵達が支えを失い顔面から大浴場の床に崩れ落ち、その後方には身体の其処彼処に痛々しい傷跡が刻み込まれた女戦士や女エルフの死体が佇んで白濁し濁りきった眼で恐怖に竦み上がる猟兵達を見詰めていた。
……オ前達ハ運ガ良イ、先程、総攻撃ガ命ジラレタ、余リ苦シマズニ死ヌ事ガ出来ルゾ……
恐怖と驚愕に竦み上がる猟兵達に向けて顔の皮膚を剥ぎ取った女戦士が告げると同時に女戦士達と女エルフ達はボーンナイトやボーンウォーリアーの姿となって猟兵達に襲いかかり、武器を手放し丸腰状態の猟兵達があげた身の毛がよだつ様な絶叫が大浴場内に木霊した。
同じ頃、突入部隊との戦闘により命を喪い放置されていた死体や捕らわれていた捕虜達がボーンナイトやボーンウォーリアーに変化してダンジョンコアを捜索していた突入部隊に襲いかかり、不意をつかれた突入部隊は混乱状態に陥り次々とアンデッド達の振るう得物の錆となっていった。
ダンジョン制圧を宣言して完全制圧目指してダンジョンコアタ捜索に勤しむダンジョン制圧部隊、囚われの身となってその様子を眺めていたアイリスが遂に動き始めた。
動き始めたアイリスは急転した状況に戸惑うリキメロス達に対して彼等の今までの勝利が仮初めに過ぎない事を伝え、擬態を脱ぎ捨てた異形の軍勢が仮初めの勝利に酔いしれる突入部隊に対する総攻撃を開始した……