惨劇・啄木鳥作戦編・蟻地獄
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ミリアリア居室
突入部隊からの援軍要請を受けた三国連合軍が新たな部隊を突入準備を整えていた頃、ミリアリアの居室にて蠢動しながら鎮座していたコネクトゲートに新たな動きが生じた。
蠢動するコネクトゲートを覆う多数の突起物の一部から滑らかな光沢を放つ金属の棒の様な物が迫り出し、迫り出された物体が妖しい輝きを放ち始めた。
「……おい、この部屋鍵がかかっているぞっ!?」
「よし、鼠を見つけたぞっ!!ドアを蹴破り踏み込むぞっ!!」
コネクトゲートが迫り出した物体を妖しく瞬かせていると施錠されたドアの向こうから野太い声の会話が起こり、その後にドアが荒々しく何度も蹴られ始めた。
激しく蹴られ続けたドアはやがてけたたましい音と共に蹴り破られ、蹴り破られた出入り口から分隊程の規模のエルフの騎士達が室内に雪崩れ込んで来た。
「臆病者の隠れ鼠が!!もうかくれんぼは終わりだっ!!さっさっと出てこ……な、何だコイツはっ!?」
雪崩れ込んで来た騎士達を指揮していた騎士は部屋に籠っているであろう残党に向けて怒声を張上げかけたが、残党の代わりに部屋に鎮座していたコネクトゲートの姿に戸惑いの声をあげ、コネクトゲートはその声を尻目に迫り出していた物体を瞬かせた。
コネクトゲートの物体が瞬き小さな閃光が閃くと同時に部屋に雪崩れ込んでいたエルフの騎士達全員の姿が消失してしまい、騎士達を消し去ったコネクトゲートは何事も無かったかの様に蠢動しながら再び迫り出した物体を瞬かせ始めた。
ダンジョン・第3階層
ミリアリアの居室に突入してそこに鎮座していたコネクトゲートにより消失させられてしまった分隊規模のエルフの騎士達、彼等は突入した筈のミリアリアの居室から木々の生い茂る鬱蒼とした密林、毒に満ち満ちた階層、ダンジョンの第3階層へと強制的に転位させられてしまっていた。
「……っな、何だ一体!?ここは何処だっ!?」
指揮官のエルフの騎士は突然目の前に広がる密林に目を見開きながら驚愕の叫びをあげ、部下の騎士達も唐突な事態に狼狽え忙しなく左右に視線を向けているとブウウンッと言う聞き慣れぬ音が周囲から響き始めた。
「……そ、総員、狼狽えるなっ!円陣を組めっ!全周警戒!!」
周囲を満たす異音を耳にした指揮官の騎士は慌てて部下達に指示を送り、それを受けた騎士達は慌てて円陣を組もうと密林の中をもがく様に駆け出すのとほぼ同時に異音の正体が姿を現した。
出現した異音の正体、3メートル近い巨体に加えて猛毒と獰猛な性質を併せ持ち、更に大群で獲物を襲う災厄を具現化した様な巨大な雀蜂、グロスヴェスパ6体は駆け出していたエルフの騎士達に背後から襲いかかり、後方を進んでいた3名の騎士達が強靭な脚に掴まれ毒を滴らせている巨大な毒針を突き立てられてしまう。
「「ッギャアアアァァッ!!」」
毒針を突き立てられたエルフの騎士達は断末魔の絶叫をあげたが、体内に注入された大量の毒によりその顔色は瞬く間に紫色に変色してしまい。
グロスヴェスパは2体一組になって紫色に変色してしまった3名のエルフの騎士達を抱えて密林の奥へと飛び去って行った。
「……ぐ、グロスヴェスパ……だと?あ、あり得ん、あんな奴等ヴァイスブルクの森には棲息していない、こ、こんな……こんな馬鹿な事、あり得ん」
衝撃の光景を目の当たりにした指揮官達は愕然とした表情で呟きをもらすが、その呟きを嘲笑う様に羽音を響かせながら大量のグロスヴェスパが姿を現し、その姿を目にした指揮官の騎士は恐怖に顔を強張らせながら号令を発した。
「こ、攻撃!攻撃!!攻撃いぃぃぃっ!!!」
指揮官の号令を受けたエルフの騎士達は弾かれた様に姿を現したグロスヴェスパの集団に向けて炎や氷、風の攻撃魔法を放つがグロスヴェスパは軽やかな動きで放たれた攻撃魔法を回避すると距離を取りつつ散開してエルフの騎士達を取り囲むとその場でホバリングしながら威嚇する様に巨大な顎をカチカチと鳴らし、その様子を目にしたエルフの騎士達は恐怖に顔を歪めながら必死になって自分達を取り囲むグロスヴェスパの大群に向けて攻撃魔法の放ち続けた。
グロスヴェスパは生い茂る木々を利用しながら放たれる攻撃魔法の多くを回避する上に、数少ない直撃弾が発生した場合は回復魔法(アイリスが製作したダンジョンの第2階層以下の階層のモンスターは通常の同種モンスターに比べて能力が高い上に回復魔法等によりダメージを回復してしまう)で受けたダメージを回復してしまい、通常ではあり得ない光景を目の当たりにしたエルフの騎士達は恐怖に顔を歪めたままグロスヴェスパを近付けぬ様に滅多矢鱈に攻撃魔法を放ち続けた。
攻撃魔法を乱射して魔力を急速に使い続けるエルフの騎士達と彼等を取り囲むグロスヴェスパの大群、その周辺では初めて第3階層に訪れた侵入者を殲滅する為にポイズンマンティスやポイズンモス、毒の牙や爪をもち毒液を吐く事も出来る大蜥蜴、毒蜥蜴等のモンスター達が続々と集結しつつあった。
第6階層
吹雪が吹き荒れ凍てつく一面の広大な氷原からなるダンジョン第6階層、この地には突入部隊からの援軍要請を受けて突入した9個小隊の増援部隊の内ラステンブルク伯国軍の1個猟兵小隊とリステバルス王国軍の1個近衛騎士小隊がコネクトゲートによって強制転位させられていた。
夏の真っ只中のヴァイスブルクの森から唐突に全てが凍てつく極寒の世界へと放り出されてしまった猟兵達と近衛騎士達は狼狽え混乱するが、吹き荒れる風雪と極寒は容赦無く彼等の体温をむしり取り、2人の小隊長は寒さに震えながら吹き荒れる風雪から身を守る為の雪壕の掘削を命じた。
猟兵達と近衛騎士達は急いで猟兵達が携行していた携帯用シャベルで雪壕の掘削を始めたが凍てつき氷の様になっていた雪は携帯シャベルを簡単に弾き返してしまい、その様子を目にした近衛騎士達は極寒に身体を震わせ炎の攻撃魔法を雪面に放ち炸裂させて掘削作業に協力した。
猟兵達と近衛騎士達は吹き荒れる風雪の中、体力と魔力を急速に消耗しながらもどうにか深さ3メートル程の雪壕を造りそこに潜り込んだが、完成する迄に体力を使い果たし倒れてしまった猟兵3名が吹き荒れる風雪の中無言で横たわり、残りの者達はその遺体を置き去りにして吹き荒れる風雪に追い立てられる様に雪壕に転がり込んだ。
雪壕に転がり込んだ猟兵達と近衛騎士達は身に付けていた僅かな可燃物に炎を点けて暖を取ろうとしたが、熾こす事が出来た火は吹き荒れる風雪に比べて余りに弱々しく暖を取れた者は2人の小隊長をはじめとした極少数の者にとどまり、残る大多数の者は悴む手足を擦り合わせる等していたが延々と続く寒さにより手足の指先の感覚を喪う者達が続出していた。
「……突入部隊や本隊とはまだ連絡が取れんのか?」
「……い、以前通信不能です、相手の魔力波を全く感じる事が出来ません」
「……自分も同じ状況です。洞窟等ならともかく、この様な開けた場所でその様な状況になるとは思えないのですが」
猟兵隊の小隊長が弱々しい火に当たりながら突入部隊や三国連合軍との通信を試みている魔導猟兵と魔導近衛騎士に声をかけると、魔導猟兵と魔導近衛騎士が途方に暮れた表情で返答し、それを聞いた猟兵隊小隊長が思わず呪詛の言葉を吐いていると近衛騎士小隊長が頭上で吹き荒れる風雪を忌々しげに見上げながら口を開く。
「……何がどうなっているのだ?我々は突入部隊の要請に従いダンジョンに突入した筈だぞ」
「……全くだ、突入して見ればこのくそ寒い場所に放り出されて突入部隊や本隊との連絡は途絶、しかもこの寒さによって凍死者まで生じている。一体全体何がどうなってやがるんだ」
近衛騎士小隊長の呟きを聞いた猟兵隊小隊長が相槌を打ちながら頭上で吹き荒れる風雪を見上げると、吹き荒れる風に衰える気配は見られぬものの降り頻る雪の量が先程に比べればかなり少なくなっており、それに気付いた猟兵隊小隊長は安堵の表情を浮かべながら言葉を続ける。
「……どうやら雪は治まりつつある様だな、これで風も止んでくれるとありがたいのだが」
「……雪が止んでくれただけでもありがたいな」
猟兵隊小隊長の呟きを聞き温暖なリステバルス南部出身の近衛騎士小隊長が感想をもらしていると、降り頻っていた雪は完全に止まり心做しか吹き荒れる風もその強さが和らいでいる様に感じられ2人の小隊長はその状況に幾分かの安堵を感じながら部下達の状況を確認し始めた。
雪壕に籠る者達の多くは寒さにより手足の指先の感覚を喪い、一部の者には軽度の凍傷の兆しすら見えている者があり、2人の小隊長は凍傷の兆しが見え始めている者を除いた部下達から分隊規模の偵察隊を4個隊(猟兵、近衛騎士各2個隊づつ)編成した。
猟兵隊の偵察隊と近衛騎士の偵察隊は雪壕から出ると幾分か和らいだとはいえ未だに吹き荒れる風の中を四方に進み、2人の小隊長は残りの者達と共に雪壕の中で出立した偵察隊の帰りを待つ事となった。
雪が止み風が心持ち弱くなったとは言え極寒の気温は偵察隊の帰りを待つ猟兵達と近衛騎士達を容赦無く蝕み、猟兵達と近衛騎士達は身体を小刻みに動かしたり交代で弱々しく燃える火に当たる等して寒さを堪えていた。
「……どこでも良いから寒さを凌げる所を見付けられれば良いのだが」
「……偵察隊からの伝令ですっ!!」
猟兵隊の小隊長が弱々しく燃える火に当たりながら呟いていると雪壕の縁から周囲の監視を行っていた猟兵が此方に向けて駆けて来る偵察隊の猟兵の姿を認めて声をあげ、猟兵隊小隊長が予想外に早い伝令の到着に妙な胸騒ぎを感じながら監視役の猟兵の所へ向かっていると監視役の猟兵から絶叫の様な続報がもたらされた。
「……で、伝令の後方より巨大な蜥蜴が複数出現!!蜥蜴が伝令を追っていますっ!!」
「くそったれっ!第3、第4分隊続けっ!戦友を救出するっ!」
「……第2分隊!援護の為出撃せよっ!残りの者は周囲の警戒を厳重にせよっ!」
監視役の猟兵からの絶叫の様な報告を受けた猟兵隊小隊長は悪態をつきながら雪壕に残る猟兵隊に出撃を命じ、猟兵隊は悴む手に各々の得物を携えながら援護の近衛騎士達と共に雪壕の外へと駆け出した。
猟兵隊小隊長と猟兵隊が雪壕の外に駆け出し、偵察隊の猟兵が駆けて来る方向に視線を向けると転げる様な勢いで此方に向けて駆けて来る2人の猟兵と、その後方で猟兵を追いかけてくる10体程の体躯の所々に氷の塊を貼り付けた巨大な蜥蜴、氷蜥蜴の姿が確認され、衝撃的な光景を目の当たりにした猟兵隊小隊長は愕然とした表情で思わず口を開いた。
「氷蜥蜴……だとっ!?しかもあれほど多数で、一体此処は何処だと言うのだっ!!」
猟兵小隊長が驚愕の叫びをあげていると、その叫びに呼び出された様に氷蜥蜴を2まわり程大きくした氷の塊を生やした巨大な蜥蜴、氷嵐蜥蜴が姿を現し咆哮を轟かせ、その姿を目にした猟兵隊小隊長が唖然としていると氷嵐蜥蜴が必死に遠ざかろうとしている猟兵達に向けて口からブリザードブレスを放つ。
放たれたブリザードブレスは2人の猟兵の内1人を直撃して猟兵を氷のオブジェにしてしまい、それを合図にした様に氷蜥蜴達が残る猟兵に向けて口から氷弾を放ち始めた。
氷蜥蜴が放った10発を超える氷弾は逃げ惑う猟兵の周囲に着弾して恐怖に顔を歪めた猟兵を氷の彫像にしてしまい、氷蜥蜴と氷嵐蜥蜴は勝鬨をあげる様に咆哮した後に唖然としてしまっている猟兵隊小隊長達に向けて前進を開始した。
「そ、総員迎撃準備!!雪壕の近衛騎士隊にも増援をようせ」
「……て、敵襲!敵襲!!敵襲!!!」
動き始めた氷蜥蜴と氷嵐蜥蜴の姿を目にした猟兵隊小隊長が慌てて迎撃を命じいると、後方の近衛騎士隊から悲鳴の様な声があがり、その声を聞いた猟兵隊が慌てて後方に視線を転じるとそこでは悲惨な光景が繰り広げられていた。
援護の為猟兵達と共に出撃した近衛騎士達と雪壕は身体の其処彼処に氷の塊を生やした2種類の飛龍、氷飛龍と氷嵐飛龍によって襲撃を受けており、近衛騎士達は上空から降り注ぐ氷弾とブリザードブレスの中を逃げ回っていたが直撃を受けた何名かの近衛騎士は既に恐怖に顔を歪めたまま氷の彫像と化して無惨な姿を晒していた。
「……何なんだ……ここは一体何なんだあぁぁぁっ!!!」
猟兵隊小隊長が立て続けに起こる理不尽とさえ言える程の事態の連続に絶叫していると、接近して来る氷蜥蜴と氷嵐蜥蜴の集団から放たれた氷弾とブリザードブレスが降り注いで絶叫していた猟兵隊小隊長を氷の彫像に変えてしまい、指揮官を喪い士気を喪失してしまった猟兵達は絶望と恐怖に絶叫しながら降り注ぐ氷弾とブリザードブレスの中を逃げ惑った。
猟兵達と近衛騎士達は降り注ぐ氷弾とブリザードブレスの中をひたすら逃げ惑い、第6階層を護る氷のモンスター達は逃げ惑う彼等に対して容赦無く攻撃を続けていた。
同じ頃、逃げ惑う彼等と同じ様に増援部隊としてダンジョンに突入した残る7個小隊もコネクトゲートにより強制的に転位させられたダンジョンの各階層にて凄惨な攻撃を受けていた。
第7階層に広がる地底湖に点在する島の1つに強制転位させられたヴァイスブルク男爵領国軍のエルフ騎士2個小隊は、状況の変化に狼狽えている間に大砲亀の十字砲火を浴びて隊列をズタズタにされた所に装甲蜥蜴とロックゴーレムの大群に襲われ骸となった無惨な姿を晒し、第8階層に強制転位させられた残る1個小隊のエルフ騎士達は大量の罠とミミックによって次々に屍となり横たわっていた。
ラステンブルク伯国軍の2個猟兵小隊は第11階層に強制転位させられ右往左往している間にグールとレイスの大群に襲撃されて半数以上を喪い、命からがらに城館に逃れた生存者達は大量のボーンウォーリアーとリビングメイルの出迎えを受けて恐怖と絶望に顔を青ざめさせ、リステバルス王国軍の近衛騎士小隊と魔導士小隊は第12階層に強制転位させられて装甲蠍やデモンバジリスクの間断無い襲撃を受け犠牲者を出しながら灼熱の陽射しが照り付ける砂漠を当て処無くさ迷い続ける事を強いられていた。
マスタールーム階層・食堂
援軍要請を受けて突入した三国連合軍の将兵が異形のダンジョンの其処彼処に強制転位させられ多大な損害を受けている頃、惨劇を引き起こす発端となる援軍要請を行った橋頭堡の1つである食堂では留守役の近衛騎士達とリキメロスの派遣した伝令がテーブルの1つを囲んでいた。
近衛騎士達は俯いたまま無言でテーブルを囲み、重苦しい沈黙が周囲を満たしていたが唐突に出入口の扉が開かれた事により沈黙が破られた。
「……伝令は居るかっ!?」
開かれた扉より室内に入室してきた近衛騎士の下士官はそう言いながら室内を見渡し、テーブルを囲んでいる一団の中に目的の人物を見付けると顔をしかめながら言葉を続けた。
「おいっ!貴様ここで一体何をしているのだっ!!貴様や他の伝令達の帰りが遅いのでリキメロス様はえらく御不興なんだぞっ!!!」
近衛騎士の下士官は伝令の背中に向けて怒鳴り散らしたが、怒鳴られた筈の伝令や伝令と共にテーブルを囲む近衛騎士達はその怒声に対して毛程の反応すら見せず沈黙したままテーブルを囲み続け、その様子を目にした近衛騎士の下士官は額に青筋を浮かべてテーブルに近付きながら更に怒声を放った。
「貴様等返事をせんかっ!一体何を考えとるんだっ!!その様な為体で栄えあるリステバルス王国軍の近衛騎士を名乗れるとおもっ……」
近衛騎士の下士官は怒りの形相でテーブルを囲む近衛騎士達を怒鳴りつけながらテーブルに到着したが、テーブルに並べられている物を目にした瞬間迸り出ていた怒声が喉の奥に引っ込んでしまう。
テーブルの上には近衛騎士の軍装を装着した状態で膝から下が切断された足がテーブルを囲む人数分並べられており、衝撃的な光景を目の当たりにした近衛騎士の下士官が目を見開きながら立ち尽くしていると伝令の近衛騎士が口を開いた。
「……軍曹殿……自分は立つ事が出来ません、自分の足は……もうありません」
「……ヒイッ!?」
伝令の近衛騎士は俯いたままそう言うと膝から下が切断されて太股だけになった自分の両足を近衛騎士の下士官に示し、それを目にした近衛騎士の下士官が悲鳴をあげながら後退るとゆっくりと頭をあげて上体を動かさないまま顔だけを真後ろの近衛騎士の下士官にけた。
絶対に有り得ない角度で近衛騎士の下士官に顔を向けた近衛騎士の両目は刳り貫かれ、眼球の代わりにポッカリと開いた暗い眼窩が近衛騎士の下士官を見詰め、衝撃的な光景にこれ以上無い程目を見開き戦いている近衛騎士の下士官に対して空恐ろしい程に抑揚が乏しく平坦な口調で言葉を続けた。
「……後、目も見えません、軍曹殿、自分の目は一体、何処にあるのですか?」
「……な、何だこれは……い、一体誰がこんな」
「「……私達ですよ」」
両目と両足を喪い有り得ない角度に首をねじ曲げた伝令の近衛騎士の言葉を聞いた近衛騎士の下士官が震える声で呟いていると、それに応じる様に誰もいない筈の背後から声があがり、それを聞いた近衛騎士の下士官はガタガタと震えながら背後に視線を向けた。
「……ヒィィィッ!!」
近衛騎士の下士官の背後には無惨に斬り捨てられ放り捨てられていた筈の侍女達が身体の其処彼処に斬り傷を刻まれたり、弩の矢が突き立てられた痛々しい姿で佇み、近衛騎士の下士官がその姿に恐怖の叫びをあげながら腰を抜かして尻餅をついてしまっていると侍女達はポッカリと開いた暗い眼窩で近衛騎士の下士官を見下ろしながら楽し気な口調で言葉を続けた。
「……この方も目を刳り貫き、足を切断しますか?」
「……流石にそれも飽きて来たわ、今度は両手と両足を切ってテーブルに並べましょう、この方、確かそんな鈍物で人が斬れるかとか言ってらしたから、切れるかどうか御自身で確かめて貰いましょう」
「「そうですね、それがいいですね」」
侍女達は今夜の食事のメニューを決めるかの様な軽いやり取りで近衛騎士の下士官の末路を決め、腰を抜かしたままガタガタと震えている近衛騎士の下士官に向けて手にした肉切り包丁やキッチンナイフを掲げて見せた後に腰を抜かしたまま逃げ様としてジタバタともがく近衛騎士の下士官を凄まじい力でつかみキッチンに向けて引き摺り始めた。
近衛騎士の下士官は泣き喚きながら許しを請うが侍女達は楽し気に会話を交わしながら泣き喚く近衛騎士の下士官をキッチンに引き摺っていき、テーブルを囲む近衛騎士達は眼球を刳り貫かれてポッカリと開いた暗い眼窩で キッチンに引き摺られていく近衛騎士の下士官を見送っていた。
同じ頃、残る2つの橋頭堡、多目的ルームと牢屋にも帰りの遅い伝令を詰問する為にリキメロスが派遣した新たな伝令が到着しており、到着した伝令達は食堂を訪れた近衛騎士の下士官と同じ様な憂き目に遭っていた。
それから暫しの時が経過した後に3つの橋頭堡から突入部隊が所属不明の敵部隊との遭遇と新たな増援を求める連絡がもたらされ、それを受けた三国連合軍は新たに6個小隊をダンジョンに向けて突入させた。
突入部隊からの要請を受けてダンジョンに突入した増援部隊、彼等はコネクトゲートの案内によってアイリスの造り上げた異形のダンジョンの其処彼処に強制転位され、その地にて凄惨な迎撃を受ける事になった。
増援部隊は異形のダンジョンによって甚大な損害を受け、アンデッド達によって制圧された3つの橋頭堡からは三国連合軍に向けて更なる増援要請が送られた。
更なる増援要請を受けた三国連合軍はそれに疑いを抱く事無く更なる増援部隊をダンジョンに突入させ、異形のダンジョンは蟻地獄の様に突入してくる三国連合軍の将兵を飲み込んだ……