惨劇・啄木鳥作戦編・突入
今後も本作を宜しくお願いします。残酷な描写がありますので閲覧は自己責任でお願い致します。
ダンジョン周辺・三国連合軍ダンジョン突入部隊(リステバルス王国軍)
ダンジョンに潜入しているメッサリーナとアグリッピーナから捕虜の救出を告げられたリキメロスは自信に満ちた表情でダンジョンへの突入を決断し、リステバルス王国軍からダンジョン突入部隊に参加する近衛騎士中隊の所に赴き訓示を行った。
「……これからダンジョンに突入するよ、さっさと穴蔵を制圧して高慢女どもを叩きのめして貰うよ、高慢女と蝙蝠女は生け捕りにして、残った下っ端達については君達の好きにして構わないよ」
リキメロスの訓示と激励を受けた近衛騎士達は歓声をあげる事でそれに応え、その様子を目にしたリキメロスは満足気に頷きながらジュエルロッドを掲げて簡易転位門作成の為の言霊を紡ぎ始めた。
「……魔石よ、我が魔力の言霊を礎に我が地と彼の地を結びし門を造りたまえ」
リキメロスの紡いだ言霊によって鮮やかに光り輝く六芒星の魔方陣が形成され、その光景を目にした近衛騎士達が感嘆の声をあげていると連絡要員の魔導士がラステンブルク伯国軍突入部隊とヴァイスブルク男爵領国軍突入部隊からの通信を受けその内容を報せる。
「ラステンブルク伯国軍突入部隊及びヴァイスブルク男爵領国軍突入部隊より通信です。転位門形成を確認、異状は認められず、との事です」
「……当然だよ、僕にとってはこれ位の事、児戯に過ぎないよ」
魔導士の報告を受けたリキメロスは涼し気な表情と言葉で応じ、その後に自信に満ちた笑みを浮かべながら整列した近衛騎士達に告げた。
「さあ、狩りの時間だよ、高慢女どもと彼女達に従う御調子者達を叩きのめして自分の身の程を骨身に染み込ませてあげよう」
「第一小隊及び第二小隊突入せよっ!第三小隊は私やリキメロス様と共に突入だっ!!」
リキメロスの激励の言葉に続いて近衛騎士中隊長が鋭くダンジョンへの突入を命じ、それを受けた2個小隊の近衛騎士達が次々に簡易転位門に向けて駆け込んで行った。
食堂
食堂に集合したアイリーンの侍女達とエメラーダの侍女達(ヒルデガントとレリーナ除く)は護衛のライナ、リーナ、アリーシャ、キュリアース、カティアナ、ジェリアナに護られながら押し寄せる不安と恐怖から逃れる様に他の皆へ出すための食事を作っていた。
「……ヒルデガントさんと、レリーナさん、随分遅いですね」
キュリアースは台所で動き回す侍女達の様子を見ながら未だ姿を現さないヒルデガントとレリーナの事を案じ、カティアナは頷いた後に廊下に続くドアに視線を向けながら口を開いた。
「……2人を呼んで来る」
「……ああ、そうだなたの」
カティアナの提案を受けたキュリアースが暫し思案した後にそれを受け入れ様とした刹那、メッサリーナとアグリッピーナによりゲートジュエルが嵌め込まれた髪飾りが仕込まれていた出入口近くのテーブルに淡い輝きを放つ六芒星の魔法陣が形成される。
「……これはっ!?」
キュリアースが突然の事態に驚愕の声をあげた瞬間淡く輝く魔法陣の周囲の虚空からいきなり数本の矢が飛び出し、飛び出して来た矢の内の1本が怪訝な表情を浮かべながら立ち尽くしていたリーナの喉元を貫いてしまう。
「……リーナッ!?」
「……リーナちゃんっ!?!?」
「……ッ……ッガァッ……ッアッ」
衝撃の光景を目の当たりにしてしまったライナとアリーシャのあげた悲痛な叫びが響く中、唖然とした表情のリーナは声をあげようとしたが喉元を無情に貫く矢によりその努力は実る事は無く、リーナはよろめきながらライナとアリーシャの所に歩み寄ろうとしたが数歩歩いた所で眼から光が喪われ身体が床に崩れ落ちてしまう。
「……り、リーナちゃんっ!!」
「……ま、待てっ!!アリーシャッ!!!」
リーナが崩れ落ちると同時にアリーシャが悲痛な声をあげながらリーナの所に駆け寄り、その様子を目にしたライナは慌てて制止の声をあげたがその声を嘲笑う様に魔法陣から新たな矢が飛来した。
「……ッアァァッ!!」
「アリーシャアァァッ!!!」
飛来した矢の内数本が倒れたリーナの傍らに駆け寄っていたリーナの身体に深々と突き刺さり、苦悶の声をあげたアリーシャはライナがあげた悲痛な叫び声が食堂内に響き渡る中横たわるリーナの傍らに崩れ落ちた。
突然の事態に呆然と立ち尽くして横たわるリーナとアリーシャを見詰める一同、その衝撃が消える間も無く魔法陣から煌びやか軍装に身を包んだ狐人族の近衛騎士達が次々に飛び出して来た。
「……て、敵襲!!敵襲!!皆にげッガアァァッ!!」
「逃がすかっ!!総員速やかに制圧せよっ!!逆賊どもを抹殺してしまえっ!!」
飛び出して来た近衛騎士達の姿を目にしたキュリアースは慌てて警報を発し様としたが大柄な身体の近衛騎士小隊長がその身体を一太刀で斬り捨てながら大音声で突入して来た近衛騎士達に命じ、その命を受けた近衛騎士達は鯨波の声を張上げながら呆然と立ち尽くしている者達に襲いかかった。
カティアナとジェリアナは慌てて剣を抜いて応戦したが衆寡敵せず瞬く間に斬り捨てられてしまい、ライナも近衛騎士小隊長に片腕を斬り落とされた上に弩を持った近衛騎士に浴びせられた矢が針鼠の様に突き刺さった無惨な姿で倒れているリーナとアリーシャに折り重なる様に倒れてしまう。
惨状を目の当たりにした侍女達は絶望の表情で包丁やキッチンナイフを振り回したが近衛騎士達はその行動を嘲笑いながら次々に侍女達を斬り捨てていき、最後に嬲り殺しの滅多斬りにされたフランシスカの骸が血溜まりの中に崩れ落ちているとリキメロスが護衛の近衛騎士を従えて魔法陣から姿を現した。
「リキメロス様、この部屋の制圧を完了致しました。騎士と侍女が10名程おりまして抵抗して来ましたが、あの有り様です」
リキメロスを迎えた近衛騎士小隊長はそう言いながら無惨な姿で横たわるキュリアース達を示し、その光景を目にしたリキメロスは蔑みの視線で横たわるキュリアース達を見下ろしながら口を開いた。
「……無様だねえ、高慢女達に尻尾を振ったあげくにこの姿、自分達の愚かさを思い知っただろうね」
リキメロスが傲慢な口調でそう言い放っている間に突入して来た近衛騎士3個小隊が隊列を整え、それを確認したリキメロスは小さく頷いた後に口を開く。
「……それじゃあ行くよ、一応連絡役の魔導士と何名かここに残して置くよ、まあ、応援を呼ぶ必要なんて皆無だとは思うけど一応ね」
リキメロスの指示を受け連絡係として同行していた魔導士と近衛騎士4名が残置され、残る近衛騎士達はリキメロスに率いられて出入口から廊下へと飛び出して貴賓室に向けて前進を開始した。
多目的ルーム
リキメロス率いる狐人族の近衛騎士達が食堂に雪崩れ込んだ頃、カッツバッハ達が集結していた多目的ルームにもポポフ率いるヴァイスブルク男爵領国軍のエルフ騎士3個小隊による強襲を受けていた。
エルフの騎士達はメッサリーナとアグリッピーナによりゲートジュエルが仕込まれていた部屋の片隅に置かれたテーブルに作成された魔法陣から攻撃魔法を放ちながら雪崩れ込み、突入したエルフ騎士達は叩き込まれた火球の炸裂により数名が吹き飛ばされ混乱するカッツバッハ達に向けて白刃を閃かせて襲いかかった。
カッツバッハやミランダ、サララは混乱しながらも奮戦して10名程のエルフ騎士を斬り捨てつつ混乱する状況を立て直そうとするがエルフ騎士達は損害に怯む個となく嵩に懸かって襲いかかり次々に死傷者が続出、カッツバッハとサララはその状況に歯噛みしながら多目的ルームの放棄を命じた。
生き残った者達はカッツバッハに率いられて廊下に逃れ出たが最悪な事に牢屋に突入した後にポポフ達との合流を目指して前進していたラステンブルク伯国軍の猟兵達と鉢合わせしてしまい、猟兵達は狼狽えるカッツバッハ達に向けて雄叫びをあげて襲いかかった。
出会い頭の遭遇戦によって数名が瞬く間に斬り捨てられて無惨な姿で横たわり、ミランダはどうにか血路を切り開くと生き残った者達を率いて退却したが逃げ遅れた者達は猟兵達によって嬲り殺しに斬り捨てられてしまい、深傷を負ってしまったカッツバッハとサララにメイスによって腕を砕かれたフィリアスとラーナディアが捕らわれの身となってポポフの前に引き摺り出されていた。
「これは、これはカッツバッハ第五騎士団長殿ではありませんか、御元気そうな様子で何よりですな」
「……ポポフ、きさグアッ!?」
「罪人風情が意気がるなっ!!身の程を知るんだなっ!!」
這いつくばらされた状態でポポフの蔑みの言葉を受けたカッツバッハは呪詛の呟きをもらしかけたがその様子に激高したエルフの騎士に傷口が刻まれた脚を踏みつけられて悲痛な呻き声をあげさせられてしまい、その光景を目にしたポポフは愉悦に目を細めながら言葉を続ける。
「口の聞き方には気を付けた方が良いぞカッツバッハ殿、最早貴殿は騎士団長でも何でも無いただの罪人だ、罪人には罪人に相応しい待遇に遭って貰う必要があるな」
ポポフは愉悦の表情で呟き、その後に這いつくばらされたカッツバッハ達を足蹴にしているエルフ騎士達に声をかける。
「……この罪人どもに己の罪と身の程を骨の髄まで教え込んでやれ」
「承知しました」
ポポフの言葉を受けた騎士は喜色を浮かべながら返答し、ポポフはその答えに満足気に頷いた後に会議用のテーブル等が集積されている物置のドアを指差して言葉を続けた。
「あの部屋でたっぷりと可愛がってやれ、それが済んだらこの部屋で連絡係と待機していろ」
「了解しました」
ポポフの指示を受けた騎士は頷きながらそれに応じそれを確認したポポフは這いつくばるカッツバッハ達を蔑みの表情で一瞥した後にマスタルームに向かうべく多目的ルームを後にした。
後に残された1個分隊相当の騎士達は同僚の死体を丁重に一纏めにした後に女エルフと狐人族の女達の死体を雑な扱いで一纏めに放り捨て、カッツバッハ達が唇を噛み締めながら傍若無人に振る舞うエルフの騎士達を見詰めているとポポフから指示を受けた騎士がカッツバッハの傍らに移動して嘲笑を浮かべて見下ろしつつ口を開いた。
「さて、それじゃあお前達への教育の時間だな、直ぐに壊れるんじゃねえぞ、お前等に殺された戦友達の御礼、存分にしてやるからな」
騎士はそう告げると多目的ルームに残る騎士達の内連絡係と護衛2名の計3名を残して残る8名でカッツバッハ達を物置に運び、騎士はカッツバッハ達が物置に連行されたのを確認した後に多目的ルームに残る3名に声をかけた。
「それじゃあ、暫く待っていろよ、その内ドアが叩かれまくるだろうが無視して構わん、お前達にも後から御裾分けしてやるから楽しみに待っていろよ」
指揮官の騎士の言葉を受けた3名は野卑た笑みと共に頷き、指揮官の騎士はそれを確認した後に物置に入り後ろ手にドアを閉めながら室内の様子を確認した。
室内では回復魔法で最低限の治療を受けたカッツバッハ達が魔力封じの首輪を嵌められた上に軍装まで剥ぎ取られたあられもない姿で転がされており、指揮官の騎士は嗜虐の笑みを浮かべながらカッツバッハ達に向けて宣言した。
「……さあて、今からお楽しみの御時間だ、ドアには鍵をして出られない様になっているが、必死になって叩きまくれば外の連中が出してくれるかもしれない、外の連中が出してくれるか、俺達が飽きるまでお楽しみは続く、早く止めて欲しければ精々無様に泣き喚きながらドアを叩きまくるんだな」
嗜虐に口角を吊り上げた指揮官の騎士が楽し気に告げると他の騎士達は野卑た笑みを浮かべながら下着姿のカッツバッハ達をなめ回す様に見詰め、カッツバッハ達が屈辱に顔を歪めながら歯噛みしていると指揮官の騎士の背後で澄んだ金属音が生じた。
ガチャリッ
生じた金属音は室内に妙に大きく響き渡り、それを聞いた指揮官の騎士は嗜虐の笑みを浮かべたまま口を開く。
「鍵が閉まった様だな、さあお楽しみはこれからだぜ、無様に泣き喚くがいいぜ、よしお前た……ん?」
嗜虐の笑みを浮かべたまま目の前で同じ様な笑みを浮かべている騎士達に命令していた指揮官はその途中で奇妙な違和感を感じ戸惑いの声をあげ、その声を聞いて振り向いた騎士達を見て感じた違和感の正体に気付いた。
「……おい、一体誰が今鍵をかけたんだ?」
「「……?」」
指揮官の騎士の戸惑いの問いかけを受けた騎士達は質問の意図が分からず首を傾げ、その反応を目にした指揮官の騎士は背筋に悪寒が走るのを感じながら言葉を続ける。
「……今、俺の目の前には俺とここに一緒に入った奴が全員いる、アバズレどもには不可能だし、外には3名残っているが鍵等持っていないから外から鍵をかける事は不可能だ、俺はお前達を見ながら喋っていたが誰も動いていない筈だ……ならば、一体誰がこの部屋の鍵をかけたんだ?」
指揮官の騎士の言葉を受けて互いを見合う他の騎士達の表情には戸惑いの中に微量ではあったが恐怖が存在しており、そんな彼等の鼓膜が澄んだ音色の声に揺さぶられた。
「……答えは極々シンプルだ、自動的に施錠されただけだよ」
その声を受けた騎士達が慌てて声のした方に視線を向けると、そこには必要最低限の回復魔法しか施されなかった筈のカッツバッハ達が五体満足な状態で佇んで騎士達を見詰めており、その姿を目にした指揮官の騎士は慌てて身構えるとカッツバッハを睨みつけながら口を開いた。
「貴様、魔力封じをしているのにどうやって回復したっ!!」
「……知りたければ私を斬ってみたらどうだ、それとも丸腰でこんな姿の私が恐ろしくて動けないか?」
指揮官の騎士の怒声を受けたカッツバッハは嘲笑と共に下着姿の肢体を誇示し、その言葉を受けた指揮官の騎士は激高しながら呆気に取られた表情を浮かべている騎士達に向けて怒号を迸らせた。
「貴様等何をボサッとしているコイツ等を叩き斬れっ!!」
指揮官の騎士の怒号を受けた騎士達は弾かれた様に己の獲物を構えてカッツバッハ達に襲いかかり、指揮官の騎士はもう1人の騎士と共にカッツバッハに駆け寄り引き締まった腹部に長剣の切尖を深々と突き刺した。
「どんな手品を使ったのか知らんが腸をズタズタにされてもそんな減らず口を叩けるか?ああっ!!」
指揮官の騎士は2本の長剣が突き刺されカッツバッハに怒声を浴びせながら突き刺した長剣でカッツバッハの腹部を捏ね回したが、カッツバッハは苦しむ所か満面に笑みを浮かべながら指揮官の騎士ともう一人の騎士の長剣の柄を握る手を鷲掴みにした。
「「……っな!?」」
「……遠慮するな、もっとやってくれて構わないぞ」
指揮官の騎士達がカッツバッハの予想外の返答と行動に言葉を喪っているとカッツバッハは満面の笑みを浮かべたまま2人に向けて歩み寄り、その結果として腹部に突き刺されていた長剣の切尖がカッツバッハの背中の皮膚を突き破って姿を現してしまう。
「……お、お前は一体、な、何者だ」
「……見て分からないのか?私は旧ヴァイスブルク伯国軍第五騎士団長エリーゼ・カッツバッハだよ……今の所はね」
「「……ッギャアアアッ!!」」
有り得ない光景を目の当たりにした指揮官の騎士が恐怖に顔を歪めながら発した問いかけを受けたカッツバッハが満面の笑みを浮かべて返答しているとけたたましい絶叫が響き渡り、指揮官の騎士が慌ててその方向に視線を向けると肩口をザックリと斬り裂かれたサララが満面の笑みを浮かべて手首を有り得ない角度に曲げられしまっていまい絶叫をあげながらもがく2人の騎士の手首を鷲掴みしている光景が目に飛び込んで来た。
サララの傍らでは滅多斬りにされたフィリアスが満面の笑みを浮かべて顔色が土気色になりもがく2人の騎士の首を鷲掴みにして締め上げ、その傍らでは長剣を突き立てられたラーナディアがもがく2人の騎士の顔面を鷲掴みにして万力の様に握り締めており、凄惨な情景を目の当たりにした指揮官の騎士達は慌てて手を離そうとしたがその手をカッツバッハによってガッシリと鷲掴みにされてしまい全く動かす事が出来なかった。
「……ッヒッ……は、放せっ!!放せっ!!さっさと放せっ!!」
「何を言っているのだ、お前は確かこう言っていたでは無いか、お楽しみはこれからだ、とな」
指揮官の騎士が青ざめた顔で叫びながらもがいているとカッツバッハはにこやかな顔でそう告げながら眼を閉じた後にゆっくりと瞼を開き、瞼が開くと同時に指揮官の騎士達は恐怖の余り大きく眼を見開いた。
開かれたカッツバッハの目には瞳の代わりにポッカリと開いた暗い眼窩があるのみであり、指揮官の騎士達が暗い眼窩に見据えられ言葉を喪っているとカッツバッハの身体が瞬く間に腐敗し崩れ落ちて行き、やがてライトアーマーを纏った骸骨、ボーンナイトが姿を現した。
「ぼ、ボーンナイト……だと、そ、そんな馬鹿な、あ、アンデッドが化けられる筈が無い、そ、それにか、回復魔法もかけたんだぞ、な、何故、ダメージを受けないのだ」
……簡単ナ話ダ、予メ耐性魔法ヲ施シテ回復魔法ノ威力ヲ相殺シ、カケラレタ回復魔法ノ威力ニ合ワセタ闇魔法ヲカケル事ニヨリ回復サレタ様ニ見セカタノダ、オ前達ガ仕掛ケタ玩具ナド無意味ダッタカラナ……
ボーンナイトが楽し気な口調で返答していると魔力封じの首輪が黒い焔に包まれ燃え尽き、指揮官の騎士が愕然とした表情でそれを見詰めているとサララやフィリアス、ラーナディアの身体が次々に腐敗して崩れ落ちてボーンナイトが姿を現して行った。
フィリアスに擬態していたボーンナイトが騎士達の首を鷲掴みにしている腕に更に力を込めるとゴキッと言う鈍い音と共に騎士の首がへし折れてしまい、ボーンナイトが骸になってしまった騎士達を放り捨てるのを目の当たりにした指揮官の騎士が真っ青な顔で震えているとカッツバッハに擬態していたボーンナイトが唐突に手を放して指揮官の騎士達を解き放った。
「……た、た、助けてくれえぇぇっ!!」
解き放たれた指揮官の騎士達は絶叫しながらドアの所にかけより開けようとしたが施錠されたドアが開かれる筈も無く、2人は必死になってドアを叩きながら多目的ルームにいる同僚達に助けを求めた。
「……おおい、開けろっ!開けろっ!!開けるんだっ!!!ば、化け物!化け物!!化け物だあぁぁぁっ!!!」
「……何だ、何だあ?もうギブアップかあ?騎士団長様ってなあだらしねえなあ、オイ、まだまだ始まったばかりじゃねえかよ」
指揮官の騎士が半狂乱になってドアを叩きながら絶叫するとドアの向こうからは同僚達の信じられない返答がもたらされ、指揮官の騎士達が思わず呆然として立ち尽くしていると2人を解き放ったボーンナイトが楽し気な口調で声をかけてきた。
……特殊防音魔法ニヨリ、ノックノ音ハ聞コエテモ声ハ聞コエナイ様ニナッテイルゾ、コノ部屋ハ外カラナラ簡単ニ開ケル事ガ出来ルノニ残念ダナ……
ボーンナイトの言葉を受けた指揮官の騎士達が青ざめた顔で絶句してしまっているとサララに擬態していたボーンナイトが手首をへし折った2人の騎士を解き放ち、苦痛と恐怖に顔を歪めた騎士達が指揮官の騎士達の所に合流するとカッツバッハに擬態していたボーンナイトが青ざめて言葉を喪った彼等を見ながら言葉を続ける。
……サア、外ノ連中ニ助ケヲ求メルノダ、アノ様ニドアヲ叩イテナ……
カッツバッハに擬態していたボーンナイトがそう言うと2人の騎士の顔面を鷲掴みにしているラーナディアに擬態していたボーンナイトが近くの壁を騎士達の後頭部で叩き始め、ゴツンッ、ゴツンッ、ゴツンッと言う鈍い音と騎士達の絶叫が青ざめた指揮官の騎士達の鼓膜を鷲掴みにして揺さぶり始めた。
「……た、助け」
……確カオ前ハコウ言ッテイタナ、今カラオ楽シミノ御時間ダ、ドアニハ鍵ヲシテ出ラレナイ様ニナッテイルガ、必死ニナッテ叩キマクレバ外ノ連中ガ出シテクレルカモシレナイ、外ノ連中ガ出シテクレルカ、俺達ガ飽キルマデオ楽シミハ続ク、早ク止メテ欲シケレバ精々無様ニ泣キ喚キナガラドアヲ叩マクルンダナ、ト……
助けを懇願する指揮官の騎士の言葉を受けたカッツバッハに擬態していたボーンナイトは先程指揮官の騎士がカッツバッハ達に向けて言い放った言葉をそっくりそのまま返す事で応じ、指揮官の騎士達は青ざめた顔で泣き叫びながら手首をへし折られた騎士達は無事な手で、そして指揮官の騎士達は両手でドアを乱打して外の同僚達に向けて助けを求め始めた。
必死になってドアを叩き続ける彼等の鼓膜にはラーナディアに擬態していたボーンナイトが2人の騎士の後頭部で壁を叩き続けるゴツンッ、ゴツンッ、ゴツンッと言う規則正しい音と音が続くにしたがって弱々しくなっていく騎士達の叫び声が流れ込み続け、指揮官の騎士達はその音に急かされる様に泣き喚きながら半狂乱になってドアを乱打し続けていた。
指揮の騎士達が必死に乱打する音は多目的ルームに残る同僚達の耳に届いていたが泣き喚く助けを求める声は特殊防音魔法によって完全に遮られており、同僚達はドアの向こうで繰り広げられているであろう痴態に野卑た笑みを浮かべながら時を過ごしていた。
三国連合軍司令官リキメロスにより開設されたマスタールームへの簡易転位門、ダンジョン突入部隊は開設された簡易転位門を利用してマスタールーム階層に突入し、狼狽える女エルフと狐人族の女達を蹴散らして橋頭堡の確保に成功する。
橋頭堡を確保した突入部隊は勝利に沸き立ちながら連絡係と護衛をその地に残してマスタールーム目指して進撃を始める。仮初めの成功の裏に隠されている惨劇と陥穽が早くも獲物を捕らえた事に気付かぬまま……