迎撃準備
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大陸歴438年深緑の月十七日・マスタールーム
アイリスの意を受けたリリアーナより新たなる敵部隊、三国連合軍の接近と対策競技の為の三国会議召集要請を告げられたマリーカとアイリーンは即座にそれを受け入れて随員達と共にマスタールームへ急行し、一同を迎え入れたアイリスは直ぐ様三国会議の開始を告げた。
三国会議出席者(ヴァイスブルク伯国亡命政権・マリーカ、アナスタシア、カッツバッハ、リステバルス皇国亡命政権・アイリーン、クラリス、サララ、エメラーダ、イレーナ、魔王側・アイリス、ミリアリア、リリアーナ)はダンジョン周辺の地図が広げられたテーブルを囲み、三国会議の開始を告げたアイリスはリリアーナに視線を向けながら口を開いた。
「……リリアーナ、現在の概況を報告して頂戴」
「……承知致しました」
アイリスの視線と言葉を受けたリリアーナがそれに応じた後に立ち上がると広げられた地図上にダンジョン目指して突き進む赤い矢印が印され、それを目にした一同に緊張が生じる中リリアーナが口を開く。
「つい先程此方に向けて前進する敵性部隊を発見致しました。兵力は約1万2000、ヴァイスブルク男爵領国軍とラステンブルク伯国軍も確認されていますが主力部隊は此方になります」
リリアーナがそう説明を行うと一同の前に前進を続けるリステバルス王国軍の姿が映し出された魔画像が具現化され、それを目にした瞬間、リステバルス皇国亡命政権側の出席者達の間から呻き声ににた声があがった。
「……そろそろリステバルスの売国奴達の軍勢が来る頃合いだろうとは思っておりましたが、こうして実際に目にすると改めて憤りを感じてしまいますわね」
前進するリステバルス王国軍の姿を目にしたアイリーンは怒りを抑える為に殊更に平淡な口調で呟きをもらし、クラリスは厳しい表情で頷いた後に口を開いた。
「……それにしても遠く離れたこの地までこれ程の規模の軍勢を派遣して来るとは驚きを通り越して呆れてしまいます。近衛騎士まで含まれていますよ」
クラリスはそう言いながら進撃する煌びやかな軍装の近衛騎士の一団を渋い表情で見据え、リリアーナは頷く事でその意見に同意した後に言葉を続ける。
「……そして、敵の司令官なのですが、恐らくはコイツだと思われます」
「「……ッ!?」」
リリアーナが殊更に平静な口調でそう言うと同時に騎乗して颯爽と進むリキメロスが映し出された魔画像が具現化してそれを目にしたエメラーダとイレーナは思わず声にならない声をあげてしまい、その様子を目にしたアイリスは視線をエメラーダの方に向けながら口を開いた。
「……どうやら訳有りな知り合い見たいね、どう考えても愉快な思い出じゃ無いのを承知してるし、申し訳無いのだけど敵の指揮官の情報を知るのは重要だから聞かせて貰えるかしら」
「……御懸念は無用で御座いますわアイリス様、アイリス様より御受けした数々の御配慮と御恩を顧みますれば、私の恥を晒す程度の事、如何程の物でも御座いませんわ」
アイリスの問いかけを受けたエメラーダは毅然とした微笑と共に返答した後に傍らのイレーナに頷きかけ、イレーナは小さく頷く事で応じた後に顔をしかめながら口を開いた。
「この軍勢を率いているのはリキメロス・ド・アルバニアです。代々我国の魔導局長を務めてアルバニア伯爵家の子息でエメラーダ様の同期生でありました。そして……リチャードや他の有力諸侯の子息どもと共にエメラーダ様に行われた謂れ無き断罪に加わっておりました」
「……こんな状況でも無い限り会いたい輩じゃ無さそうね、現状でも出来る事なら遠慮したいわね」
イレーナからリキメロスに関する説明を受けたアイリスはそう呟くと呆れた様な表情で得意気に進むリキメロスを見据え、その様子を目にしたエメラーダが小さく頷いた後に口を開いた。
「……代々魔力に秀でた者を輩出して来た伯爵家の中でも有数の魔力と魔力操作力を持った方で将来を嘱望されておりましたが、リチャードや他の皆と同じ様に聖女のごとき女性とやらに御執心となり、既に婚約者が在る身にも関わらず婚約を一方的に破棄して私への断罪に加わりました。リステバルス戦役が終息した後はリステバルス王国の魔導局長に就任したそうですが私やアイリーン様の存在を知りこの地に馳せ参じたのでしょう」
「……能力はそれなりにあるみたいね、まあ、どれだけ能力があっても行動理念や思想がアレだから宝の持ち腐れみたいだけど」
エメラーダの追加説明を受けたアイリスは盛大な溜め息を吐いた後に生ゴミを見る様な目でリキメロスを見据えながら呟き、その後に視線を鋭くさせてリキメロスの背中に背負われたジュエルロッドを見据えつつ言葉を続ける。
「……まあ、残念でアレな輩でもあのロッドは上手く操れるでしょうから完全に持ち腐れてるとも言えないわね」
「……あれは、ジュエルロッド……だとしたらあの2人に!?」
アイリスが呟きながらジュエルロッドを見据えているとジュエルロッドの存在に気付いたアイリーンが何かを察した様な表情を浮かべながら声をあげ、それを聞いたアイリスは視線をアイリーンに向けると不敵な笑みを浮かべつつ口を開いた。
「……どうやらリステバルス皇国所縁の品みたいね、どんな物なのかはある程度推測出来て、対策も施してあるから大丈夫よ」
「……成程、以前私に渡してくれたアレが対策と言う訳か」
アイリスのアイリーンへの言葉を聞いていたミリアリアは以前アイリスから渡され現在居室にて保管している使役獣のカプセルの事を思い浮かべて得心の呟きをもらし、アイリスは頷く事でミリアリアの呟きに応じた後に進撃するリステバルス王国軍の様子を見詰めながら言葉を続ける。
「……リステバルスの連中、少し動きが鈍いわね」
「……リステバルスからヴァイスブルクに到着するまで約半月程はかかります、この様子をみるとヴァイスブルクに到着して余り休養を取らぬ内に出撃した様ですね……魔力には秀でている様ですが、指揮官としては些か御粗末な様ですね」
アイリスの呟きを聞いたサララは侮蔑の籠った視線でリキメロスを見ながらヴァイスブルク男爵領国軍やラステンブルク伯国軍に比べて幾分動きの鈍いリステバルス王国軍の様子に関する推測を述べ、それを聞いたアイリスは頷いた後に不敵な笑みを浮かべたまま言葉を続けた。
「……このままのペースで進撃するなら明日の正午前後、可能性は低いけど夜間も進撃を続けた場合は明日の早朝頃にはダンジョン周辺に到着するわ、無理な進撃を続けて疲弊してる所を襲っても良いけど、遠路はるばる御越し頂いた挙げ句にそれじゃあ少し可哀想ね、相手がどんな手で攻撃して来るのか大体の見当はついているから、せめてその手を実行させてあげましょう」
アイリスがそう言いながら小さく指を鳴らすとそれに呼応する様に1体の死霊騎士が姿を現して一同に向けて深く一礼し、一同が若干顔を引きつらせながら一礼を返しているとアイリスが誇らし気に胸を張りながら言葉を続けた。
「……死霊騎士、スコルツニィーよ、この子を隊長に死霊連隊や親衛隊から選抜したボーンナイト、ボーンウォーリアで編成された特務部隊、ブランデンブルグ中隊で連中の仕掛けに対抗する事になるわ、貴女達にも協力して貰う事になるから宜しく頼むわね」
……スコルツニィーデアリマス、皆様、宜シクオ願イ致シマス……
アイリスの紹介を受けた死霊騎士、スコルツニィーは静かな口調で一同に挨拶しながらもう一度深く一礼し、一同は若干顔を引きつらせながら一礼を返した。
「……どう考えても普通の迎撃作戦じゃなさそうね……アイリス様とミリアリアなんだし」
「……私も同じ意見ですわ、何しろアイリス様とミリアリア様なのです、生半可な迎撃になるとは到底思えませんわ」
「……この地にて庇護して頂いてから日の浅い私にも分かりますわ、アイリス様とミリアリア様が行うであろう迎撃が並大抵の物では無いであろう事が」
(……何故だ、た、確かにアイリスが私の為に行動してくれているのは紛れも無い事実だ、あ、アイリスの行動が私に起因している事に関しては認めよう、だが、何故アイリスの行動に私が一括りにされているんだ?私だって相当ドン引いてるんだぞ……解せぬ、全くもって解せぬ)
マリーカ、アイリーン、エメラーダはアイリス指導の下行われるであろう迎撃戦とそれによって引き起こされるであろう惨劇に思いを馳せて達観と諦念が入り交じった表情で呟きをもらし、それを聞いたミリアリアは自分がアイリスの行動と一括りにされてしまっている事に関して釈然としない物を感じて胸中で抗議の声をあげていた。
その後ダンジョンではアイリス指導の下接近して来る三国連合軍迎撃の手筈が整えられ、一方の三国連合軍は夜間も数時間の仮眠を取ったのみで更に進撃を続けて翌日早朝にダンジョン周辺へと到着した。
ダンジョンを確認したリキメロスは直ぐ様全軍にダンジョンの封鎖を命令し、封鎖態勢が完了次第速やかにダンジョン攻略作戦、啄木鳥作戦を実行する事を伝えその命を受けたポポフはダンジョン内に潜伏しているヴァイスブルク男爵領国軍の間諜、メッサリーナとアグリッピーナにその旨を伝えた。
大陸歴438年深緑の月十八日、ダンジョン攻略作戦啄木鳥作戦が開始された。そしてそれは、断末魔と血飛沫に満ち満ちた新たなる凄惨な惨劇の幕開け……
ダンジョンに向けて接近中の敵軍、三国連合軍の存在を確認したアイリスは盟友ヴァイスブルク伯国亡命政権及びリステバルス皇国亡命政権の首脳部と共に対策を競技、その際に確認した接近中の三国連合軍指揮官リキメロスの為人と手にするジュエルロッドを確認したアイリスは三国連合軍が行ってくるであろう作戦に対抗する為死霊騎士スコルツニィー率いる選抜特務部隊ブランデンブルグ中隊を編成して三国連合軍の接近に備えた。
迫り来る三国連合軍に対する迎撃態勢が整えられたダンジョンは静かに三国連合軍の接近を待ち受け、一方の三国連合軍はその事に欠片も気付かぬまま強行軍で前進を続けてダンジョンに到着、指揮官リキメロスは直ぐ様ダンジョン封鎖とそれが終了した後のダンジョン攻略作戦、啄木鳥作戦の実行を命じた……