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啄木鳥作戦

ユニークアクセス49000を突破し節目となる50000アクセスまで後僅かとなりました。今後も本作を宜しくお願い致します。


大陸歴438年深緑の月十六日・ヴァイスブルク城・ロジナ候国軍ヴァイスブルク派遣軍司令部


リステバルス王国軍ヴァイスブルク派遣軍の到着に従い召集された作戦会議、その舞台であるロジナ候国軍ヴァイスブルク派遣軍司令部には騎士団長クラスの指揮官達が参集して開始の時を待ち受けており、ナルサスやリステバルス達と共に到着したスティリアが自分の席に着席すると司令官用の席に到着したナルサスが皆を見渡しながら口を開いた。

「皆、よく来てくれた。これより忌々しき旧ヴァイスブルク伯国ならびに旧リステバルス皇国の残党どもを一掃する為の軍議を開催する。始めにラステンブルク伯国ならびにリステバルス王国より来援してくれた頼もしき指揮官達に挨拶をして貰おう、先ずはラステンブルク伯国の者達から頼む」

ナルサスは作戦会議の開催を告げながら視線を到着したばかりのラステンブルク伯国軍の2人の猟兵団長に向け、2人の猟兵団長は頷いた後に立ち上がり口を開いた。

「ラステンブルク伯国軍第二猟兵団長ルビヤンスク・フォン・カナタであります。度重なる敗北の汚名必ずや返上して御覧に入れます」

「第三猟兵団長、クルルト・トーゴ、ラステンブルク猟兵部隊の真価必ずや披露致す所存であります」

2人の猟兵団長、カナタとトーゴは挨拶を終えると軽く一礼した後に着席し、ナルサスは頷いた後に視線を傍らに座るリキメロスに向けながら言葉を続けた。

「続いては遠路はるばる来援してくれた我等ロジナ候国の盟友、リステバルス王国の者達だ」

「……皆様はじめまして僕はリキメロス・ド・アルバニア、リステバルス王国軍ヴァイスブルク派遣軍の司令官です。我国の汚点である高慢女2人やそいつ等に協力している連中を纏めて叩きのめして身の程を分からせてやるつもりです」

「……リステバルス王国第三騎士団長、ジュリオ・ド・ミュラだ、宜しく頼む」

「……第二魔導士団長、スナイデル・ド・ジュノーです、宜しくお願いします」

リキメロスに続いて第三騎士団長のミュラと第二魔導士団長のジュノーが挨拶を行い、ナルサスはそれが終わるとテーブルに広げられたヴァイスブルクの森の地図の一点をを指し示しながら口を開いた。

「……それでは早速作戦会議を開始する。現在ヴァイスブルク伯国の残党どもとリステバルス皇国の残党どもは新規に発生したダンジョンを拠点として活動している。戦乱の元凶たるヴァイスブルク伯爵家最後の生き残りマリーカ・フォン・ヴァイスブルクやリステバルス戦役の元凶たるアイリーン・ド・リステバルスやエメラーダ・ド・トラジメーノ等の戦犯どもの存在も確認されている」

ナルサスは到着したばかりのラステンブルク伯国軍とリステバルス王国軍の関係者達に対して現在判明している敵の状況を伝え、リキメロス達が頷いたのを確認した後に更に言葉を続ける。

「更に残党どもに対して援助を行っている存在も確認されている。極めて薄い混血の蝙蝠の女獣人で、その蝙蝠女がダンジョンの主を名乗り残党どもの頭目を気取っているとの事だ」

「……混血の蝙蝠獣人程度の能力でダンジョンを改造した拠点を運営出来るとは思えません、その蝙蝠女とやらの背後にはそれなりの後ろ盾があると見るべきでしょうね」

ナルサスの更なる説明を受けたリキメロスは眼鏡の奥の緑眼を鋭く光らせながら呟き、ナルサスが頷く事でそれに同意した後に不快そうに顔を歪めながら言葉を続ける。

「……リキメロス殿が推察した様に我々も蝙蝠女は仮初めの主に過ぎず、後ろ盾がいる物と考えている、未だ確証が無い故に断定は出来ぬが我々はレーヴェ候国やクリストローゼ候国若しくは両国に連なる勢力がその後ろ盾だと考えている。現在我国の外交部が両国に対して厳重な抗議を行っているが両国は厚顔にも関与を完全否定しておる、それ故に残党どもを叩き潰すと同時に両国が関与している証拠を得る事が肝要である」

ナルサスは渋い表情で告げた後に出席者達を見渡し、出席者達(スティリアやリーリャは義務的に)が頷いたのを確認した後に表情を和らげながら更に言葉を続る。

「しかしながら我々には切り札が存在している。現在ヴァイスブルク男爵領国軍が連中の拠点に潜り込ませている間諜にはリステバルス王国より友好の証として送られた簡易転位門作成アイテムを持たせているだ」

ナルサスが自信に満ちた表情で告げた切り札の存在に出席者達の多くは感嘆の声をあげながらリキメロスに視線を向け、その視線を受けたリキメロスは得意気な笑みを浮かべて頷いた後に口を開いた。

「……ナルサス様の御話にあった転位門作成アイテムとは我国の秘宝であるゲートジュエルです。作成アイテムの宝石と起動アイテムのジュエルロッドで形成され、起動アイテムに魔力を注入して起動させると人が移動可能な簡易転位門を3日間だけ展開させる事が出来ます。一度展開させてしまうと再起動には数年かかってしまいますが展開中は何度でも使用可能です。移動出来る物資は軽弩砲程度が限界ですが残り滓の様な敗残兵の集団程度なら容易く蹴散らしてしまえますよ」

(……我国の外交部はリステバルス王国の首脳部を能力は高いが本質的には暗愚で操り易い連中だと評していたが正にその通りだな、これ程貴重で危険なアイテムを軽々に譲渡してしまうのだからな)

リキメロスの自信に満ちた説明を聞いたスティリアが元から大して高くないリキメロスを含むリステバルス王国首脳部に対する評価を更に低下させていると、ナルサスが出席者達に向けて美しい宝石が埋め込まれた杖、ジュエルロッドを示し、それを目にした出席者達の多くが表情を明るくさせるのを確認して頷きながら口を開く。

「……我々はダンジョンを大軍で封鎖して残党どもの逃げ道を完全に遮断した後に間諜が所持しているゲートジュエルを利用して残党どもの本拠地を直撃する。操り人形の蝙蝠女と本戦役の元凶たるマリーカ、リステバルス戦役最大の戦犯アイリーンに関しては出来るだけ生きたまま捕縛し、残る者については皆殺しにしてしまっても構わん、それと、現在残党どもの本拠地には先の戦闘の結果虜囚の憂き目に遭ってしまったラステンブルク猟兵部隊の中隊長2名が収監されている。彼等の救出も重要な任務となるので心して欲しい」

ナルサスはそう言いながら地図に記されているダンジョンの位置を指示棒の先で何度も叩くと捕虜の存在を報されたラステンブルク伯国軍の指揮官達の表情が厳しくなり、それを見て取ったリキメロスは発言を求めた後に立ち上がって口を開いた。

「……ナルサス様、此度の残党狩り作戦に関してですが、我々リステバルス王国ヴァイスブルク派遣軍にお任せ頂けませんでしょうか?」

「……フム、ありがたい話ではあるが、構わぬのかリキメロス殿?」

リキメロスの宣言を受けたナルサスは思案顔になりながらリキメロスの意思を再確認し、リキメロスは大きく頷いた後に言葉を続けた。

「……今回の事態には我がリステバルス王国の汚点とも言うべき高慢女達も大きく関わっているのです、この様な汚点は我国自身の手で雪がなければなりません、僕は魔法具の扱いにもなれているのでゲートジュエルの起動も楽に行える筈です。我軍の威容を高慢女や蝙蝠女達に見せ付けて恐れ慄かせ、完膚なきまでに叩き潰して自分達の身の程を理解させてやりますよ」

「……ウムッ!リキメロス殿よくぞ言ってくれた、その意気や大いに宜しい今回の作戦はリキメロス殿率いるリステバルス王国軍に行って貰おうと思うがどうであろう?」

(……我軍は損害が続出しており、これ以上掃討戦で徒に損害を重ねるのは避けたい、故に作戦の主体を同盟国軍に委ねる必要があったのだが自発的にその役目を買って出てくるとはな)

リキメロスとナルサスのやり取りを聞いていたスティリアはリキメロスの安請け合いに内心で顔をしかめながらリーリャに視線を向け、それに気付いたリーリャが何時もののほほんとした風を装いつつ微かに肩を竦めているとカナタとトーゴが勢い良く立ち上がり相次いで口を開いた。

「……ナルサス様、我々ラステンブルク猟兵部隊にも参加を御許し下さいっ!!これまでの恥辱に満ちた敗戦の汚辱、払拭する機会を御与え下さいっ!!」

「……遠路より来たりしリステバルス王国の勇士達の果敢なる意思に我等ラステンブルク猟兵部隊が加われば穴蔵に篭った残党どもごとき鎧袖一触に蹴散らして御覧に入れますっ!!」

カナタとトーゴは熱に浮かされた様な口調でナルサスに参戦を懇願し、更にそれを聞いていたアロイスも熱に浮かされた様に立ち上がり口を開く。

「リキメロス様やラステンブルクの皆様方の熱き思いを聞き、我々ヴァイスブルク男爵領国も大いに感じ入る部分がありますっ!ナルサス様、我軍未だ態勢完備には今少し時が必要ではありますが第一騎士団ならば即刻参戦が可能でありますっ!第一騎士団の一部の参加を熱望、懇願致しますっ!どうか参戦の許可をっ!!」

ナルサスは熱に浮かされた様にヴァイスブルク男爵領国軍の参戦を熱望し、ラステンブルク伯国軍とヴァイスブルク男爵領国軍の相次ぐ参戦表明を受けたナルサスは力強く頷きながら口を開いた。

「ラステンブルク伯国軍ならびにヴァイスブルク男爵領国軍からの参戦要望、その意気や大いに宜しく尊い物であるっ!その熱望に応え今回のダンジョン制圧作戦にはリステバルス王国軍、ラステンブルク伯国軍、ヴァイスブルク男爵領国軍の三国連合軍により実施する物とするっ!我等の強固で揺るぎない意志を残党どもに示し、旺盛なる戦意のままに叩き潰してこれまでの敗戦の汚辱を払拭してしまうのだっ!」

ナルサスはリステバルス王国軍、ラステンブルク伯国軍、ヴァイスブルク男爵領国軍が合同した三国連合軍によるダンジョン制圧作戦の発動を高らかに宣言し、それを聞いた出席者達の多くが力強く頷いているとリキメロスが眼鏡に指先で軽く押した後に口を開く。

「……ナルサス様、此度のダンジョン制圧作戦についてですが、作戦名を啄木鳥としたいのですが宜しいでしょうか?」

「啄木鳥、か……大軍を展開させて残党どもを動揺させ、慌てふためいている連中をゲートジュエルを利用した強襲で一網打尽にする、正に言い得て妙であるな、宜しい本作戦は啄木鳥作戦と呼称する物としよう」

リキメロスから作戦名の提案を受けたナルサスは上機嫌でそれを受け入れダンジョン制圧作戦の作戦名を啄木鳥作戦と呼称する旨を伝え、それを聞いたリキメロスは爽やかな笑みを浮かべて頷いた後に言葉を続けた。

「ナルサス様、ありがとうございます。それでは早速出撃してダンジョンを封鎖します」

リキメロスが自軍が到着したばかりにも関わらず出撃を宣言するとカナタとトーゴも大きく頷いてそれに同意し、短兵急な宣言を受けたスティリアはリキメロス達を見ながら口を開いた。

「……リキメロス殿、カナタ殿、トーゴ殿、貴軍は本日ヴァイスブルクに到着したばかりだ、本日は休養にあて明日以降万全な状態で出撃すべきでは無いのか?」

「御懸念は無用ですぞスティリア様、我が猟兵部隊は精強揃いであります。多少の行軍等疲労の内に入りませんぞ」

「その通りです。勝利に酔い増上しておる残党どもに冷水を浴びせてやる為にもここは即座に出撃して一気呵成にダンジョンを叩き潰す事が肝要と愚考致します」

スティリアの懸念の言葉を受けたカナタとトーゴは気負いがありありと浮かんだ表情でそれを退ける発言を行い、それに続いてリキメロスが爽やかな笑みをスティリアに向けながら言葉を続ける。

「流石はスティリア様ですね、将兵の疲労にも気を配って下さるなんて……僕達の聖女にも迫る優しさですよ、あの気位しか取り柄の無い高慢女達や彼女達に協力している愚か者達にも見習って欲しい位です、まあ、高慢女達にそんな能力は皆無でしょうけどね」

(……聖女、か、既に婚約者がいた筈のコイツ等の間を上手く立ち回り王妃にまでなった様な輩に迫ると評されても全く嬉しくは無いな……まあ、我国の今までの行動を鑑みれば妥当な評価とは言えるがな)

リキメロスの称賛の言葉を受けたスティリアはその言葉の中で比較対象として出てきたプラチディアの尊称に対して内心で顔をしかめながら頷き、その様子を見ていたナルサスは改めて皆を見渡しながら口を開いた。

「……それではこれより直ちにダンジョン制圧作戦、啄木鳥作戦を発動する。三国連合軍は直ちに出撃してダンジョンを制圧して残党どもを叩き潰し本戦役にケリをつけるのだっ!!」

ナルサスの宣言を受けた出席者達は大きく頷いた後に出撃するリキメロス達に向けて激励の拍手を行い、スティリアやリーリャも内心で溜め息をつきながら義務的にそれに加わった。

その後、リステバルス王国軍ヴァイスブルク派遣軍とラステンブルク伯国軍ヴァイスブルク派遣軍にヴァイスブルク男爵領国軍第一騎士団長ポポフが指揮する2個中隊が加わった約1万2千名からなるダンジョン制圧部隊はナルサス達に見送りの下出撃し、目標であるダンジョンに向けて粛々と前進を開始した。



ヴァイスブルクに到着したリステバルス王国軍ヴァイスブルク派遣軍、その指揮官リキメロスを加えて開催された軍議の結果ダンジョン制圧作戦、啄木鳥作戦が発動された。

大軍でダンジョンを封鎖しつつ間諜が持つ簡易転位門作成アイテムを利用してマスタールーム階層を直撃する、作戦の成果に絶対の自信を持つロジナ候国軍はリキメロスを司令官とするダンジョン制圧部隊、三国連合軍を出撃させ、三国連合軍は必勝の念に滾るリキメロス指揮の下粛々とダンジョンに向けて進み始めた。


その先に地獄が待ち受けているとも知らずに……


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